日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

社会科を元気にする会との対話会報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)世話役 山崎智英


「社会科を元気にする会 冬季学習会 冬季学習会~エネルギー環境教育~」のプログラムとして対話を実施
「社会科を元気にする会 冬季学習会~エネルギー環境教育~」のプログラムとして鹿児島県の中学校社会科教員、社会科教員を目指す大学生とシニアの対話を実施した。社会科を元気にする会との対話会は、2017年11月以来、6年ぶりの対話会であった。対話は、テーマを設けず教員の質問をシニアが回答するという形で実施した。

1.講演と対話会の概要

(1)日時

2023年12月29日(金)14:00~19:30(反省会等を含む)

(2)場所

TKPガーデンシティ鹿児島 屋久島会場

(3)参加者

鹿児島県の中学校社会科教員(社会科教員を目指す大学生3名を含む※)14名
※鹿児島国際大学1名、第一工科大学2名(学生の学部名、学年は不明)
アドバイザー
長崎大学教育学部学部長 藤本登教授、第一工科大学共通教育センター 倉本賢一准教授、NUMO広報部 実松由紀(/dd> (dd>・参加シニア:4グループ
参加シニア:3グループ
坪谷隆夫、松永一郎、若杉和彦、米丸賢一、山崎智英

(4)基調講演Ⅰ概要

テーマ
GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~
講師
松永一郎
講演概要
GX実現に向けた基本方針策定までの経緯、目指す方向、実現するための施策・方法を概説した。

(5)基調講演Ⅱ概要

テーマ
鹿児島県の電力
講師
米丸賢一
講演概要
鹿児島県の電源別発電設備の概要、川内原子力発電所の概要、電源別発電コスト、エネルギー政策の基本方針、再処理工場の現状について説明を行った。

2.対話会の詳細

(1)開会あいさつ:山下信久(世話役)

世話役の山崎から、11月17日の針山さんの基調講演を受けて、本日12月1日の対話会を迎えました。基調講演の不明点、事前回答の不明点や意見などをベースに対話しましょう。シニアはみんなしゃべりたがりですので、皆さんは負けないように発言してください。社会科を元気にする会を立ち上げて9年、来年の8月で10年になります。会員数はバラバラで、来る人もいれば去る人もいます。皆さん、年越しの中、遠くから鹿児島に来ていただき有難うございます。今回は、数年ぶりとなりますがSNWの協力を頂き、基調講演、そのあと対話となります。 素朴な疑問から社会情勢に関すること、学校の授業レベルのこと等、色々なことが話し合えたらと思っています。 本日はよろしくお願いします。

(2)グループ対話の概要

1)グループA
参加者
3名
シニア:若杉和彦
対話内容

鹿児島市立中学校の先生他計3名と以下のようなテーマについてざっくばらんに対話した。参加者は基調講演を聞いて、日本のエネルギーや原子力に関する課題や問題点を一定のレベルまで理解したと思われるが、さらに積極的に質問した。

  1. ・食料自給率より少ない日本のエネルギー自給率が抱える問題に対して、どのような対策があるのか。また他の国との比較はどうか。
  2. ・原子力に対して国民の感情は必ずしも良くない。原因は何なのか。これから原子力施設がもっと必要になるので、どうすれば良いのだろうか。
  3. ・周りの環境には大昔から自然放射線が存在する。多くの人にこの事実を理解してもらうにはどうすれば良いか。
  4. ・原子力発電所では安全規制に対応するため、膨大なコストをかけて対応している。これらは発電コストにどのように反映されているのか。
2)グループB
参加者
4名
シニア:松永一郎
対話内容

先生方4名と松永の5名が参加した。先生方は奄美大島、枕崎市、鹿屋市、鹿児島市から参加された中学校の社会科担当の先生方だった。
総合的な科目でエネルギー・原子力についてどのような姿勢で臨んだらよいのか、また取り組みを進めるうえでの課題に関する以下の発言があった。

  1. ・原子力発電比率は現状の6%を2030年に20~22%までにすることになっているが実現は可能か。
  2. ・原子力発電所の新設はどこにするのか。
  3. ・九州と関西は原発の再稼働が進んでおり、電気代がよそより安い。そのため、台湾からの半導体工場の移設などが九州地区に集中している。
  4. ・原子力発電の再稼働が進むとなぜ電気代が安く済むのか。
  5. ・原子力発電所の寿命はどこまでのばせるのか。
  6. ・第6次エネルギー基本計画の2030年の電源構成は九州地区の現状とほぼ似通ったものである。
  7. ・日本の2050CNは本当に実現できるものなのか。
  8. ・2050CNを実現するために再エネを大幅に増やすようだが、それは可能なのか。
  9. ・2050CNを生徒たちに説明するには世界の実情も併せて説明したほうが良いのだろうか。
  10. ・鹿児島県は離島の数が全国1であり、台風も多くて九州電力の負担は大きいと思われるが、値上げもしないで頑張っている。
  11. ・九州は原子力の再稼働が進んでいるうえに、太陽光発電の発電量も多く、電力抑制が頻繁に行われている。全国大の連携線の増強があれば、電力抑制量も少なくなる。
以上様々な問題点が話し合われたが、九州地区はエネルギー的に恵まれた環境下にあり、この事実を中心にしてエネルギー環境教育を進めていけば、良い結果がでるとの感触が得られた。
電力は国の基盤を担う公益事業である。大衆運動によってその料金が左右されるものでもないし、また左右されるべきものでもない。電力自由化以前は総括原価方式で国会の承認を以て決められていた。現在も送配電については同様であるが、正に国の在り方を問う問題である。
最後に、エネルギーの本質について話をし、始まったCOP28などエネルギーを考えることは世界を考えることとして視野を広げるよう話をした。
3)グループC
参加者
3名
シニア:坪谷隆夫
対話内容

グループ対話は、先生方3名に、報告者及びアドバイザーとして長崎大学教育学部・藤本登教授が参加した。グループ対話では、先生たちより総合学習にどのような課題設定がなじむのかグループ対話で模索する、以下のような発言が出された。

  1. ・フランスはなぜ原子力発電比率が高いのか
  2. ・再エネ、原子力など産業技術の利用における危険とリスク(輸入に頼るリスクを含め)のとらえ方
  3. ・日本における革新軽水炉と小型炉の導入問題(都市周辺に小型炉を配置する実現可能性があるか)
  4. ・省エネの実現性(アマゾンで書籍を購入するのは省エネに逆行)
  5. ・原発の電気を供給しない電力会社の電気を購入した場合の電気代がどうなるか
グループ対話後の各グループ発表でも、エネルギー・原子力問題は、社会科と理科のクロスカリキュラムで取り上げられる課題が多くあるとの指摘があり、対話会の成果が早くも出ていると評価できた。
4)グループD
参加者
4名(学生2名含む)
シニア:米丸賢一、山崎智英
対話内容

1人の学生が、薩摩川内市出身であったため、川内原子力に関する質問等が多かった。主なものは以下のとおり。

  1. ・川内原子力発電所は最近、20年間の延長運転が認可されたが、運転期間の40年の意味はあるのか。
  2. ・定期検査をきっちりとやれば延長運転ができるという仕組みにならないのか。
  3. ・川内原子力発電所は、なぜ1番初めに再稼働できたのか。
  4. ・薩摩川内市周辺の中学校の社会科教師が研究授業するために、子供たちに原子力発電の賛成・反対・理由のアンケートを取ったら賛成が多い。発電所から離れれば離れるほど不安に思う子供が多い。
  5. ・福島第一原子力発電所事故後の原子力で働く人の人材育成は大丈夫なのか。
  6. ・社会科を元気にする会のメンバーは、科学技術者を育てたいというのがミッション。

3.閉会挨拶:山下信久(世話役)

今年最後の社会科を元気にする会の冬季学習会を12月29日に設定したにも関わらず多くの方に参加いただき有難うございます。SNWの方々には、基調講演、グループ対話活動の中で夫々のグループが夫々の視点で質問をして丁寧に回答いただき有難うございました。
社会科を元気にする会は、エネルギー環境教育を1つの素材として多面的・多角的にどんな切り口で物事を捉えて、子供たちに何を伝えたいのかを考えさせて、どんな大人になってもらうためにという視点でエネルギー環境教育を行っています。
元気にする会のメンバーは、原子力の在り方についても議論をおこなっており、島国日本において安定的に電気を共有して経済が発達する中で必要不可欠な原子力発電の大切さを勉強しています。また、HLWの処理処分についても勉強している状況です。
小学校の教科書は来年度、中学校の教科書は令和7年度に変わります。少しずつ電源構成、エネルギーミックス、地層処分という言葉が教科書に掲載されていますが、そのスピードは非常にスローです。私たちが発信できることは授業の中で取り入れてゆ本日は勉強会に参加いただき有難うございます。くこととします。
本日は勉強会に参加いただき有難うございます。

4.反省会及び今後の対応について打合せ

対話会終了後、社会科を元気にする会の核となるメンバーとシニアと対話会の反省事項、今後について打合せを行った。

  1. ・基調講演の内容はもっと詳しく、少し時間をかけて聞きたかった。
  2. ・本日の対話の内容をどう授業に役に立てるか。
  3. エネルギー環境教育は社会科だけの問題だけではなく、理科のとのクロスカリキュラムで取り上げられる必要がある。
  4. ・もう少し講演と対話の時間が必要。
  5. ・対話会では時間が足りなかったため、講演の内容や先生方が日頃疑問に思っていることについて質問を受けた。
  6. ・次回開催するのであれば、年末ではなく可能であれば夏の開催をお願いした。

5.学生アンケートの概要

(1)参加学生について

アンケート回答者は13名。(1名私用で早退)

(2)対話会について

基調講演は、「とても満足」(92.3%)、「ある程度満足」(7.7%)であり、回答者全員に満足頂けた。
対話の満足度は、「とても満足」(100%)であった。
今後聞きたいテーマは、今後の核燃料サイクル、高レベル放射性廃棄物の地層処分の今後についてなどが挙げられた。

(3)意識調査について

放射線・放射能については、「一定のレベルまでは恐れる必要はない」(100%)であった。
原子力については、「再稼働を進めるべき」(53.8%)、「新増設、リプレースを進めるべき」(38.5%)、「2030年度目標を達成すべき」(7.7%)であった。
再エネについては、「利用拡大を進めるべき」(61.5%)、「利用は抑制的にすべき」(38.5%)であった。

アンケート結果の詳細は、別添資料を参照ください。

5.別添資料リスト

基調講演資料:GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~
基調講演資料:鹿児島県の電力
アンケート結果詳細
(報告書作成:山崎智英 2024年1月15日)