日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話in福島工業高等専門学校2023報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)
世話役 西郷正雄
報告書取り纏め 本田 一明
福島工業高等専門学校前景(2024年1月11日撮影)

短い対話時間であったが密度の濃い内容で学生、シニアともに満足の対話会
対話会は鈴木先生の授業の一コマで約1時間半。短い時間の中で、どのように組み立てるかが難しいところ。昨年は基調講演を行わずに対話を始めたが、今回は20分と短い時間ながら、始めに基調講演を行い対話の背景知識としての共有を試みた。 基調講演の時間相当、対話時間が短くなったが事後アンケートからは講演は好評で満足頂けた結果であった。
参加学生は1年生の時から集中講義として原子力に関するセミナーを受講し各地の原子力発電所等に見学にも行っており、原子力に関する知識を有している。短い対話時間であったが密度の濃い内容で学生、シニアとも満足の行く対話会であった。

1.講演と対話会の概要

(1) 日時:

2024年1月11日(木) 10:30~12:20

(2) 場所:

福島工業高等専門学校 機械システム工学科棟2階多目的演習室

(3) 参加者:

教員: 3名 
鈴木茂和教授、赤尾尚洋教授、山口直也助教
学生: 学生:10名 (機械システム工学科)
(当初13名参加予定のところ、体調不良で3名欠席)
SNWシニア: 6名 
三谷信次、星野知彦、西郷正雄(以上SNW連絡会)、 工藤昭雄、涌沢光春、本田一明(以上SNW東北)

(4) 開会の挨拶:

(鈴木先生)
先生から参加学生に向けて、「本日は原子力学会シニアネットワークとの対話会です。 この業界で長年経験と実績を積んでこられたシニアの方々と原子力に関する話題について対話を行って欲しい」旨の挨拶があった。
(SNW 世話役 西郷正雄)
本日参加のシニアの紹介及び対話会の進め方について説明した。

(5) 基調講演

講演者名:西郷 正雄
講演題目:「カーボンニュートラルとエネルギー安定供給について」
講演概要:気候の温暖化について人類とエネルギーのかかわりから始まり、2050年カーボンニュートラルの実現に向けてのCO2排出量削減と吸収およびカーボンリサイクルについて紹介。 また、エネルギー安定供給とエネルギー基本計画、S+3E、及びエネルギーミックスについて化石燃料、再エネ、原子力それぞれの弱み(課題)とそれらについての対策などについて簡潔に解説。2050年には皆さんが温暖化を抑制することを願いつつ、良き環境づくりのために真剣に考えて欲しいと締めくくった。

2.対話会の詳細

対話テーマは事前に先生と相談して3テーマとし、そのうちの1つである「カーボンニュートラルとエネルギー安定供給について」を基調講演テーマとして選定した。班分けを事前に決めていたところ当日体調不良で3名が欠席し、人数に偏り(3名、2名、5名)が出たが、各テーマについての希望を聞いて振り分けていることから班人数の調整は行わなかった。

(1)第1班(報告者:三谷 信次)

1)参加者
学生:3名(機械システム工学科4年、男子1名、女子1名)
シニア:三谷信次、工藤昭雄
2)対話テーマ
「革新炉について」
3)事前資料配布
革新炉という名称と各人の受け取りがこれまでまちまちであるため、最新の2023年12月3日発行の「総合エネ調革新炉WG」資料を添付したが、学生が事前学習するには膨大過ぎると考え、これらを解説する資料として、2本の動画を添付した。
•資料1 GXにおける次世代革新炉に関する動向(事務局提出資料)(PDF形式:3,863KB)
•資料2 次世代革新炉の今後の検討課題(事務局提出資料)(PDF形式:2,335KB)
政府が新増設提案 次世代原発とは~安全性やコストは?専門家と徹底検証~【Bizスクエア】 (youtube.com)
高市・岸田氏ゲキ推しの小型モジュール式原子炉(SMR)について解説する (youtube.com)
4)主な対話内容
学生の班分けが冬休明けで対話2日前であったせいか、革新炉について十分な準備が出来ていない様子で始めから対等な対話は臨めなかった。革新炉の話を初めからすれば、対話時間(1時間弱内)では終わりそうもないため、学生3人に持参のPCで該当画面を向け事前資料の要点を見せ最初の10分で概略を説明し、「あとは動画等を見て自分で学習して下さい」となった。
学生達の年齢の進み具合に合わせ、現在の原子炉(革新軽水炉)、明日の原子炉(SMR、高温ガス等)、明後日の原子炉(高速炉)、その先の炉(核融合炉)の実現時期と自分の年齢を重ね合わせ理解を促した。
また、先日のダボス会議で、2050年(学生達は父親の年代に達している!)の全世界の原発の数を現状の3倍にするという話。
後の時間は各人の希望進路等について対話した。
Aさん(女子)は、学校行事で再処理施設見学会に参加した経験からNUMOに就職し「高レベル放射性廃棄物処分事業の国民理解の仕事」に従事したいとのこと。頑張って下さいとなった。
B君は写真フィルムメーカーにインターンで参加したが、そこで従来のフィルム技術を覆す最新技術を目の当たりし、是非その方面に行ってみたいとのこと。
C君は、原子炉の材料等についてもっと勉強、研究したいとのこと。
最近の話題として生成AIのことに話しを向けたが、自分達は機械系であり、AI方面に行く人は少ないようだとの話。機械系に留まらずほとんど全ての業務に将来AIはついてまわるので、専門外と敬遠しないで、積極的に取り組むよう助言した。
小中高で最近実施され始めた「しらべ学習」のような単元は高専ではあるのかと訊ねたら、最近機械系と電気系の共同で「共通テーマで各人対話、発表した例がある」とのこと。

(2)第2班(報告者:涌沢 光春)

1)参加者
学生: 学生2名(機械システム工学科4年、2名)
シニア: 西郷正雄、涌沢光春
2)対話テーマ
「カーボンニュートラルとエネルギーの安定供給について」
3)主な対話内容
学生の対話参加者は当初4名の予定であったが、2名が都合により欠席となり学生2名の参加となった。参加学生2名の出身地は福島県いわき市と広野町であった。
対話は基調講演と当日配布資料について質問を受ける形から入り、CO2 などの温暖化ガスが地球に温暖化をもたらすメカニズムを話し合い、そのために温暖化ガスを削減することの必要性について意見交換した。
COP21の温暖化ガス削減のパリ協定により、我が国の温暖化ガス削減プロセス2030年46%削減(2013年比)や2050年カーボンニュートラル達成について、その実現性について議論した。
実現のための重要な手段である再生可能エネルギーと原子力について長所短所を議論し、再生化能エネルギーについては需給不一致での九電などでの出力抑制の問題、原子力については規制委員会の審査が合格しても、安全協定に基づく地元同意を得る必要があることなどを議論し再稼働の難しさなどを議論した。学生からは原子力について肯定的な発言があった。
原子力の熱利用として、高温ガス炉を使っての水の熱分解による水素製造やカーボンリサイクルとしてCO2を利用したメタネーションについても議論した。

1時間の短時間で学生2人の対話だったが、基調講演や当日の配布資料などで地球温暖化への対処や日本の温暖化ガス削減の国際公約の難しさを、再エネや原子力の持つ長所短所を知ることで理解できたと思われる。又最後の学生発表で対話の成果を自分の研究に活かしていきたいとの発表があり有意義な対話ができたものと思われる。
最後に「2050年は君たち学生やその子供たちの時代です。」としてエールを二人の学生に送り終了とした。

(3)第3班(報告者:本田 一明)

1)参加者
学生5名(全員機械システム工学科4年生。女性1名)
シニア:星野知彦、本田一明
2)対話テーマ
「通常炉の廃炉について」
3)主な対話内容
参加学生は1年生の時から集中講義として原子力に関するセミナーを受講し、川内原子力発電所など各地の原子力施設に見学にも行っており、原子力に関する知識を有している。
本年度の講義において廃炉を学ぶ予定であることからこの対話テーマに関心を持って選定したとのことであり、出身地等の自己紹介(5人中4人が福島県、1人が山梨県)の後、対話を始める前に背景知識として資料に基づいて星野シニアから廃止措置についての概要説明を行った。
質問としては、以下が出された。
  1. ①福島第一原子力発電所の廃炉と通常炉の廃止措置の違いについて
  2. ②廃止措置プラントの維持・管理費用について
  3. ③廃止措置のプロセスの中で一番費用を要する部分は?
  4. ④排気筒の解体はどの段階で行うことになるのか?
  5. ⑤発生する解体廃棄物の処分場を決めるにあたって大切なことは何か
  6. etc.
これらの質問に対し、使用済み燃料の搬出から解体撤去に至る廃止措置全般について、東海発電所の廃止措置に携わった星野シニアの経験からの事例紹介も交えて納得性のある説明と対話を心掛けた。
始めは言葉少なであったが対話が進むうちに徐々に打ち解け、後半は比較的双方向の対話が為されたように感ずる。 解体廃棄物の処分に関連して、放射性廃棄物の最終処分場決定に当たっては地元理解とそのための社会との信頼醸成の大切さに話が及んだ。
今回の対話が参加者の今後の原子力及びエネルギーに関する一層の理解の機会になれば幸いである。

3.講評(工藤 昭雄)

皆さんお疲れさまでした。短い対話時間でしたが工夫して中身の濃い対話会ではなかったかと思います。以前参加させて頂いた時の対話会では福島第一原子力発電所事故の影響を受けて放射線と放射能の話が多かったのですが、今回はエネルギー安全保障、革新炉、廃止措置といった原子力発電の問題・課題に関するテーマとなり充実した対話となりました。 これは先生方のご指導の賜物ではないかと思う次第です。
また、最近では生成AIが広く使われる社会環境になってきました。 私たち身近なことで疑問に思ったことはAIを使って調べることが容易になってきています。学生の皆さんは既に活用していることと思いますが、エネルギーについても質問し理解を深めて頂きたいと思います。 本日は有難うございました。

4.閉会挨拶(赤尾先生)

「短い時間ではありましたが中身の濃い対話会であったと思います。直接会って人から話を訊くということは大切であり、今回もいろいろ得るところがあったことでしょう。 シニアからの情熱の籠ったバトンを受け取ったと思ってこれからも学んでゆきましょう。」との趣旨の挨拶があった。

5.学生アンケート結果の概要(星野 知彦)

アンケートはGoogleフォームを用いて実施した。アンケートのリンク先のQRコードを記載した用紙を対話会の終了時に配布すると、10名の参加者が5分ほどでアンケートに回答してくれた。

対話会に参加した学生は全て高専4年生で、8名が機械システム専攻と回答した(2名無回答)。

基調講演(カーボンニュートラルとエネルギー安定供給について)については、報告書本編に記載の通り、対話会の時間が全体で1時間半と短く、そのうち基調講演には20分しか割くことができなかったが、参加者10名全員が「とても満足」で事前にききたいと思っていたことを「十分聞くことができた」と回答していることから、有益な結果であった。
対話については、3つのグループがそれぞれのテーマで実施したが、9名が「とても満足」(1名は無回答)、また10名全員が事前に対話したいと思っていたことを「十分対話出来た」「ある程度対話が出来た」と回答していることから、対話会についても有意義であったことが窺えた。
放射線・放射能に関する質問に対しては、有効性については全員が理解していると回答した。危険性についても概ね理解されているものの、2名が「放射線、放射能は量(レベル)に関係なく怖い」と回答していることから、さらなる理解活動が必要と考える。
電源に関する質問のうち原子力発電に関しては、10人全員が再稼働推進、2030年目標達成、新増設・リプレース推進など原子力発電の「必要性を認識」している。一方、再エネ発電についても8名が「利用拡大を進めるべき」答えており、全体的にはバランスのよい電源構成を志向しているとみられる。
一方、カーボンニュートラルとエネルギーに関する質問については、10名全員が関心や興味を持っているものの、カーボンニュートラルの実現性や将来の電源の在り方については回答が分かれた。また、「分からない」の回答も一定の割合が見られた。本テーマについては国内外、産官学ともまだ議論の途にあり現時点で将来を見通すことは難しいことから、学生には今後も関心、興味を持って取り組んでいただきたい(「再エネの技術」について講演テーマとして要望あり。)。
高レベル廃棄物最終処分に関する質問についても10名全員が関心・興味を「大いにある」「少しある」と答えた。「自分の住む地域や周辺で処分場の計画ができたらどうするか」の質問に対しては、半数の5名が「分からない」と回答していること、また、関心や興味のある項目として回答した9名全員が地層処分の「技術」と答えていることから、今後、地層処分の技術を丁寧に説明、対話することで技術系の学生の理解を深めていくことができるのではないかと考える(「具体的処分方法」について講演テーマとして要望あり)。
「学生とシニアの対話」の必要性については、10名全員が「非常にある」「ややある」と回答しており、また、10名全員が「機会があれば友達や後輩に対話会への参加を勧めたいと思う」回答していることから、今後も学生の期待に応えるべくSNWとして活動を継続していくことが望まれる。

アンケート詳細については別添資料を参照。

6.別添資料リスト

講演資料: 「カーボンニュートラルとエネルギー安定供給について」
アンケート集計結果 
(報告書作成:本田一明 2024年 1月22日)