日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会
 

SNW対話
in 宇部工業高等専門学校2022年度 概要報告書 

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)世話役 松永健一
報告書作成令和4年9月15日
《宇部工業高等専門学校正門》
問題(課題)解決型学習方式の授業の一環として学生とシニアの対話を実施

対話会は宇部高専のPBL[Problem-based Learning、問題(課題)解決型学習]方式の授業(7月21日~8月10日)の一環。過去2回はコロナ禍のため遠隔にて開催したが、今回初めて対面にて開催。また、今回から高専はPBL方式授業に方針転換。多くの課題から「環境問題・エネルギー問題について何ができるか考え、実行しよう」のテーマを選択した学生10名が参加。学生自らが問題を発見し、問題解決する過程の中で知識や経験を得ていくという授業の目的と、参加者の半数が若手(2年生)であることを考慮して、従来よりも基礎情報の発信を重視した基礎講演2回(エネルギー編、環境編)の授業的講義を行った後に、基調講演と対話会を実施した。参加者には、事前の調査や検討に負担のかかる内容であったが、自ら選択した関心の高いテーマでもあり、自ら考えて実行する良い経験になったことが伺えた。

1.講演と対話会の概要

(1)日時

基礎講演―1:令和4年7月22日(金)10:30~12:00(対面)
基礎講演―2:令和4年7月29日(金)10:30~12:00(遠隔)
基調講演&対話会:令和4年8月3日(水)10:30~16:10(講演:遠隔、対話会:対面)

(2)場所

対面(但し、基礎講演-2と基調講演は遠隔、遠隔は宇部高専採用ZOOM)

(3)参加者

大学側世話役の先生
江原史朗:制御情報工学科教授、伊藤直樹:制御情報工学科准教授
参加学生
機械工学科3名、制御情報工学科3名、物質工学科1名、経営情報学科3名(学年内訳:2年5名、3年1名、4年4名、男女内訳:女性2名、男性8名)、合計10名
参加シニア:2グループ、4名
金氏 顯、針山日出夫、大西祥作(明石高専嘱託教授)、松永健一

(4)基礎講演―1

テーマ
エネルギーを身近なところから考える~消費と供給、S+3E、低い自給率、有限な資源~
講師
金氏 顯
講演概要
第1章「エネルギーとはなにか?」では身の回りのいろいろなエネルギー、エネルギーの単位、エネルギーの種類、発電の種類、色々な発電の仕組みを中国電力の発電設備により紹介した。次に第2章「S+3Eについて学ぶ」では、 S:原子力の安全性、E1:エネルギー自給率、E2:経済性(発電コスト)、E3:環境(ライフサイクルCO2発生)について重要な点を話した。最後に第3章「世界と日本のエネルギー消費」ではエネルギー利用の変遷と文明の発達、世界と日本のエネルギー消費の推移と将来、更に核燃料サイクル、高レベル廃棄物地層処分について学んだ。資料の中には「Qコーナー」を設け、予め学生から頂いた質問には青色でQ&Aを書き、講師から学生に聞きたいことは黄色でQを書いた。学生への質問は16問あり、数日後にその回答をA、B各グループから入手し、7月29日に「基礎講演―2」の終了後に学生の回答に対し講評した。よく調べておりほぼすべて正しい回答であった。

(5)基礎講演―2

テーマ
考えよう地球環境問題
講師
大西祥作
講演概要
地球規模の問題である環境問題について基礎的な知識を提供することを目的として以下の内容について講義を遠隔で実施した。第1章から第9章の内容は「地球環境問題とは?」「地球温暖化は本当か?」「地球のエネルギー収支は?」「地球温暖化対策は?」「オゾンホールが広がる!」「酸性雨とPM2.5の被害」「希少生物を保護しよう!」「ゴミ問題を考える」及び「その他の環境問題」(別添資料参照)。
尚、これからの多難な社会を生き抜いて行くためには、課題解決力のような従来教科書で勉強していても身につかないようなスキルとともに、課題解決のベースとなる知識も必要であり世の中の多種多様な情報の中から正しくかつ有用な情報を選び抜くスキルも身に着けてほしいことを強調した。また、講義の後、演習として環境問題の理解度を深め且つ自分事としてとらえるため、課題を実施してもらった。さらに対話につなげるために本講演を踏まえたアンケートを実施した。

(6)基調講演

テーマ
日本のエネルギーの現状と課題:カーボンニュートラルとエネルギー危機~激動の世界地図の中で日本の針路を考える~
講師
針山日出夫
講演概要
ロシアのウクライナ侵略により国際秩序が破壊された結果、今や世界は同時多発的なエネルギー危機・食糧危機に包まれている。ウクライナ侵攻は長期化の様相を呈しておりエネルギー資源確保の不確定性と経済混乱は一層混迷を深めそうで予断を許さない状況といえる。一昨年辺りから世界主要国・EUのエネルギー選択の論点は脱炭素社会の実現を目指して非化石電源、即ちゼロエミッション電源を如何に早く・安く・確実に社会に実装するかに焦点が当たっていた。一方で、脱炭素をめぐって多様な対立軸が顕在化してきたのも事実である。この様な状況下で、欧州発世界エネルギー危機が顕在化して欧米主要国は「脱炭素政策」と「エネルギーの自立政策(エネルギーの脱ロシア依存)」の両立に苦悩している。今回の講演では、日本と世界のエネルギー事情を概観したうえで、脱炭素に向けた主要国のエネルギー環境政策と現下のエネルギー危機の渦中でのエネルギーの自立化政策に焦点を当てる。纏めとして日本としての教訓・選択の論点を概説する。

2.対話会の詳細

(1)開会あいさつ

金氏 顯

私たちは日本原子力学会の中のシニアで構成する団体で「シニアネットワーク」(通称:SNW)と言います。会員は約300人、現役時代にはメーカー、電力会社、大学、研究所などで原子力発電など原子力に関する仕事に携わっていたOBです。SNWは2006年に設立し、主要な活動は次の時代を担う学生さんたちとの対話を通じてエネルギーのこと、原子力のことを正しく理解していただく為に講演と対話をボランティア活動として行っています。毎年、全国の20数か所の大学、高専で開催しており、江原先生と2019年度の北九州高専での対話会でご一緒したのが縁で、宇部高専とは2020年以来、今年で3回目です。過去2回は新型コロナ禍の為オンライン開催でしたが、今回初めて対面での開催、大変楽しみにしてます。約2時間ですが、シニアはついついしゃべりすぎるので出来るだけ学生さんに沢山しゃべっていただきたい。色々質問や意見を求めますので、恥ずかしがらず、間違っても良いから、考え、意見をどしどし言ってください。ジイチャンと可愛い孫が喋るくらいの気軽な気持ちで、楽しく2時間を過ごしましょう。

(2)グループ対話の概要

過去2回はコロナ禍のため遠隔にて開催したが、今回初めて対面にて開催。今回から高専はPBL方式授業の一環とすることに方針転換。多くの課題テーマから「環境問題・エネルギー問題について何ができるか考え、実行しよう」を選択した学生10名が参加。
自ら問題を発見し、問題解決する過程の中で知識や経験を得ていくというPBL方式の目的と、参加学生の半数が若手(2年生)であることを考慮して、従来よりも「基礎を重視した/長めのプロセス」で対応。基礎講演2回(エネルギー編、環境編)により、学生自身に考えさせる情報を発信。
最初に(6/13の週)、予備知識のない時点での「学生のテーマ選択の理由や初期質問」を先生に聞いていただき、基礎講演―1の実施日(7/22)まで約1か月。その「学生の初期質問」に基づき、基礎情報を提供する基礎講演(2回)の内容を参加シニア4名で遠隔協議を行い決定。基礎講演は、1週間の間隔を置いて2回(90分/回)行った。
基礎講演―1(エネルギー編)時は学生の質問に、予見を与えないように注意しながら丁寧に説明。逆質問を行い、それに対する学生回答は次回までの宿題とし次回更に追加説明。基礎講演―2(エネルギー編)も同様。基調講演は、逆にシニアの主張を明確にして、学生自身が設定した課題・解決策との比較評価ができるよう段階的な進め方を工夫した。
その上で行ったグループ対話は、基礎講演内容の確認、逆質問への学生からの回答、その内容を踏まえつつメンバー学生の関心事や疑問点を核に意見交換と議論を行った。エネルギー・環境に対して、未利用エネルギーの利用見通し、脱炭素の実現性、電気自動車の是非、世界人口増大からエネルギー需要増の悪循環、原子力発電と身近な節電の脱炭素効果、原子力リスクに対する日本の海外との認識差、資源の大国依存の是非、CO2排出大国の現状、再エネ主電源化のリスクなどの疑問が出され議論した。基礎講演で事前の情報提供がなされたためか、双方向のフリーディスカッションに十分な時間が取れたものと思われる。
学生のグループ毎の発表は、学生自身の意見を主体とした要領の良い発表であった。
以下、各グループ対話の概要である。
1)グループA
テーマ
環境問題・エネルギー問題について何ができるか考え、実行しよう
参加者
学生:5名、機械工学科:2年2名、制御情報工学科:2年1名、4年2名
シニア:金氏 顕、大西 祥作
対話内容
グループ対話は基礎講演―1&2及び基調講演の内容を踏まえつつメンバー学生の関心事や疑問点を核に以下の通り意見交換&議論を実施した。
  1. ➀ 基礎講演―1(エネルギーを考える)からでた疑問点等
  2. ・メタンハイドレート等未利用エネルギーの利用見通しについてシニアから説明
  3. ・地層処分における施設規模についてシニアから説明
  4. ・脱炭素の実現性について全学生の意見を基に先進国である日本の出来ること等について議論、また電気自動車の是非についても議論
  5. ・化石燃料の生成過程についてシニアから説明
  1. ➁ 基礎講演―2(地球環境問題)からでた問題提起や解決策
  2. ・地球温暖化が最優先課題との認識の確認
  3. ・その為には原子力発電等推進によるCO2を出さないことが必要であるとともに節電等身近なことでも出来ることをする
  4. ・3Eトリレンマの観点から発展途上国の人口問題対策が必要との認識を深めた。また、同様に経済規模の拡大によるエネルギー需要の増大という悪循環についても議論
  5. ➂ 原子力の信頼性回復・社会的受容性向上策について議論
  6. ・シニアから、原子力の安全・安心に影響する事項として「放射線の人体への影響」及び「原子力規制委員会の安全目標」について説明
  7. ・対応策として以下のような多様な意見・案について議論/原子力のすばらしさをみんなに知ってもらう。対話会と同様な集まりを学校全体で実施する。発電所に見学に行く。
  8. ④ 発表&質疑応答
  9. ・対話内容の主要点を発表した。
  10. ・未利用エネルギーであるメタンハイドレートの実用化可能性について質疑あり
2)グループB
テーマ
環境問題・エネルギー問題について何ができるか考え、実行しよう
参加者
学生:5名、機械工学科:2年1名、物資工学科:3年1名、経営情報学科:2年1名、4年2名
シニア:針山日出夫、松永健一
対話内容
学生間でほとんど接点がないとのことで、シニアがまず学生の出身地、趣味及び進路希望を聞いた。出身は高専の近隣(宇部市、岩国市)が多く、趣味は多彩(アニメ、ゲーム、海外ドラマ、お菓子づくり、釣り)であり、進路は就職か未定が多かった。その後、4年生が対話を進行した。
原子力発電は危険なものだと思っていたけれど、講演や対話で変わったという学生が多かったせいか、原子力の安全とリスクについて議論が深まり、発表においてもこれが主体であった。もし原子力発電所が家の近くにできたらどう思うか。一般人はいやだと思う人が大多数。問題点は、安全性が知られていないこと、安全の基準が明確でないこと。しかし、安全の基準は人により違う。安全の基準の違いはどこにあるかを議論。まず、安全とは何か。日本人は「平和であること」など、フワッとしているけれども、ドイツ人や韓国人なら「国境を侵略されないこと」と具体的。日本は島国で国境がないからなのか。日本人は具体的に現実で考えることができていない。では、安全の基準について具体例に考えてみる。年間80万人の学生が自転車通学して、20人が死んでいる例でいえば、死人が出るから安全でないのか。だから自転車通学を止めるべきなのか。いや、自転車通学の安全性は許容できるのでは、が最終意見。「多くの人が安全性を理解していない。原子力発電所の安全性をみんなに知ってもらう必要がある」と纏めた。
環境・カーボンニュートラル(CN)については、エネルギー資源を他国に頼り過ぎており、CO2排出大国が足を引っ張っている現状ではCNの達成は難しい。CNよりも先に解決すべき課題があるのでは、という意見も。再エネ(太陽光、風力)は思っていたよりも不安定で、国土にも限界があることが分かった。再エネの主電源化には中国リスクという国益流出もある。原子力の方が現実的という意見があった。

(3)講評

大西祥作

エネルギー問題全般及び環境問題全般にかかわる講演である基礎講演―1,基礎講演―2並びに日本のエネルギーの現状と課題を説明した基調講演内容を踏まえたグループ発表であった。Aグループは利用されていないエネルギーに関する議論や原子力発電の社会的受容性にかかる話題等エネルギーに関する多様な視点からの議論及び発表であった。またBグループは原子力発電について安全・安心の切り口からの議論及び発表であった。

両グループで実施してもらった議論は非常に大切な視点での議論であり、この対話会に問題意識を持って参加してくれた学生達であるからこそ出来たことであると思う。まずは、このような議論を広く実施することが日本のエネルギー問題を考え、解決する上で大切であるため、対話会メンバーが友達や家庭等周りに知識や議論を広めることをお願いした。

(4)閉会の挨拶

針山日出夫

今回の対話会は大変意欲的な試みであったものの、江原先生と松永対話幹事の密接な連絡相談と入念な準備が功を奏し立派なエベントになったことに感謝申し上げます。計画・準備も大変であったが、この2週間に亙る意欲的プログラムに自主的に参加した学生諸君の姿勢に敬意を表します。

エネルギー/地球温暖化という壮大で複雑系のテーマにたいする学生の理解力・問題抽出力・質問力を注視しながら参加しましたが、学生諸君の認識や問題意識は相当なものであり、核心を突く質問が散見され世代を超えた対話は十分に機能したものと感じました。

学生の皆さんが輝かしい将来を獲得されることを切に祈念申し上げます。


3.参加の先生とシニアの感想

報告書を参照ください

4.学生アンケート結果の概要(基礎講演の前後、基調講演・対話会の後)

報告書を参照ください

5.別添資料リスト

(報告書作成:2022年9月15日)