日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話
in東京都市大学2022概要報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)世話役 早野睦彦
東京都市大学世田谷キャンパス 3号館(五島記念館)

東京都市大学は2005年7月に最初に対話会を開催した大学であり、今や日本で原子力の名を冠する唯一の学科のある大学となっている。最初数年間は対話会を継続していたが次第に縁遠くなった。しかし、羽倉尚人准教授はSNW設立時の学生側協力者の一人であり、羽倉尚人准教授を頼ってしばらく途絶えていた都市大とのSNW対話会を再開することとした。

1. 講演と対話会の概要

(1)日時

基調講演:令和4年11月7日(月) 16:00~18:00(録画 都市大ZOOM)
対話会:令和4年11月26日(土) 13:00~16:30(対面)

(2)場所

対話会:東京都市大学 世田谷キャンパス 1号館3F13J教室

(3)参加者

教員:
羽倉尚人 原子力安全工学科准教授、佐藤勇 原子力安全工学科教授
参加学生:3大学12名
都市大 原子力安全工学科 学部2年1名 学部3年1名 計2名
共同原子力専攻 修士1年2名 計2名
東工大 原子核工学コース 修士1年4名 修士2年3名 計7名
早稲田 化学生命科学 学部3年 計1名
参加シニア:4グループ、8名
秋津裕、石井正則、石川博久、大野崇、金氏顯、田辺博三、早瀬佑一、早野睦彦
(金氏顯氏は都合によりWEB参加)

(4)基調講演

テーマ
ウクライナ情勢とエネルギー危機、これを受けて原子力の役割
講師
金氏 顯
講演概要
最近のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、いかにエネルギー安全保障の確保が重要であるかを説いた。とりわけ我が国のエネルギーの安定かつ安価な供給には、 既存原子力の再稼動が最も速効性があり、再生可能エネルギーは産業競争力確保の為の発電コスト、中国リスクなどから30 %程度が限界であることなどを説明した。また、環境保護から火力発電は目下社会では否定的に捉えられがちであるが、再エネ導入に伴う需給バランス確保に不可欠であり、今後CCUS など脱炭素化に尽力しなければならない。結局、エネルギー安全保障のためには原子力、再エネ、火力、それぞれの長所・短所を補完しあう「調和電源ミックス」が持続可能なベストミックスである。とりわけ原子力は 安全性の確保・向上を大前提として、 60 年超運転制度化、革新的大型軽水炉の新増設、核燃料サイクルの早期実現、高レベル廃棄物地層処分の文献調査自治体拡大に、関係者は全力を挙げて取り組むことが肝要である。

(5)対話会概要

学生から基調講演を受けての事前質問をベースに4グループに分かれて対話を行った。学生はいずれも原子力のコースで学んでいるので基礎知識を有しており、最近のエネルギー問題に関心を持っている。
関心のあるテーマは、原子力に対する国民理解、福島事故の伝承、再稼働、エネルギー基本計画、カーボンニュートラルの可能性、我が国の原子力技術の現状や革新炉など多岐にわたっている。
対話時間は2時間半と十分にあったので事前回答の確認、逆質問への学生からの回答、また双方向のフリーディスカッションに十分な時間が取れたものと思われる。各グループで2テーマに分けて討論した。学生の率直・ストレートな意見、疑問、質問に応えることで、シニアもよい勉強の機会になった。

2. 対話会の詳細

(1)開会挨拶

東京都市大学原子力安全工学科 羽倉尚人准教授

東京都市大学は、原子力学会シニアネットワーク連絡会が発足する前の2005年にエネルギー問題に発言する会と行った第1回対話会の開催地である。その後、首都圏の他大学と連携して対話会を継続していたが途絶えてしまっていたので今回再開することにした。本学は原子力安全工学科があって原子力の基礎知識を持った学生がいるし、連携する東工大、早稲田の学生も加わって活発な対話になることを期待したい。大学教育では限りがあるが、我が国の原子力界で活躍されたシニアの皆様のお話を聞き、また対話をする機会は学生たちにとって視野を広げる大変良い機会だと思う。

(2)対話会の進め方、シニアの自己紹介、グループ対話の概要

SNW世話役 早野睦彦

参加シニア8名の自己紹介の後、対話会の時間割と各グループの学生代表(対話後の発表)、ファシリテータの役割などについて説明した。

スケジュール
13:00~13:05 開会挨拶(羽倉准教授)、SNWシニア自己紹介
13:05~13:10 グループ配置
13:10~14:20 対話実施(テーマ1)
14:20~14:30 休憩
14:30~15:40 対話実施(テーマ2)
15:40~15:55 グループ対話纏め資料作成(PPT)
15:55~16:15 グループ報告
16:15~16:20 講評(石井正則)
16:20~16:25 閉会挨拶(大野崇)
16:25~16:30 記念撮影
1) Aグループ
テーマ
国民理解・情報開示
参加者
学生:東工大 原子核工学コースM2 各2名
都市大 原子力専攻M1 1名、原子力安全工学科B2 1名
シニア:田辺博三(ファシリテータ)、早野睦彦
対話内容
事前質問の趣旨とシニアの回答についての議論

主要テーマの沿った事前質問が「国民に理解されるような十分な情報開示がなされているのか」との主旨であったので、どうしてそのように思ったのか問題意識について話し合った。理由は情報開示が不十分なため国民理解が進まないと思ったようである。そこで地層処分事業を中心に情報提供環境と理解活動について議論した。

情報提供環境について

原子力に係わる情報は官公庁や企業から提供されているが、官公庁の情報はなかなか欲しいところまで行き着かないこともあって馴染みにくい。一方、メディア情報は興味を持ちやすく書かれているかもしれないが、ネガティブな情報だったりバイアスが掛った伝え方になっている。NUMOなどメディアなどとの勉強会は行っているようであるが、ある意味メディアも商売であるから問題点に着目して記事を書く傾向にあり、良い面より悪い面に着目するのは仕方ないことでもある。そもそも原子力を知る上でもっと初等教育段階から情報に触れるきっかけが欲しい。渋谷にあった東京電力の電力館などは小さい時に面白いと思ったのに、このような施設は原子力立地県が地元理解のために設けていて、肝心の電力大消費地に無いのは残念である。

まとめ:原子力理解促進のための情報提供とは
  1. ① 原子力、エネルギー問題について初等教育段階から教える必要がある。
  2. ② メディアにバイアスが掛っていることを承知の上それを見抜く力量が問われる。
  3. ③ 地道だが今回の対話会のような議論を通じて相互理解を形成する。
都市大、東工大の学生4名と活発な意見交換ができ、対話会の目的は果たせたと思う。今後も関心のあるテーマについて自ら学び、自分の意見を形成できる自立化に期待したい。
2)Bグループ
テーマ
再稼働・エネルギー基本計画
参加者
学生:東京都市大・共同原子力専攻M1、東工大・原子核工学M1、
早稲田大・先進理工学部生命科学科B3、計3名
シニア:石井正則(ファシリテータ)、早瀬佑一
対話内容
再稼働
  1. ① 今のところ再稼働はPWRのみ、BWRがゼロの理由は事故を起こしたのがBWRであったため、規制当局、国民、地元が厳しい見方をし一部メディアの偏った報道がある。
  2. ② 柏崎刈羽6、7は合格しているが、事故を起こした東電のプラントであるため、地元了解に時間がかかっている。またセキュリティ対策不備もある。
  3. ③ PもBも安全対策や新規制基準に差はない。
バックエンド
  1. ① 廃棄物処分が決まっていないのに再稼働してよいのか疑問があった。バックエンドも含め先を見据えた一貫したシナリオが理想であるが、足元の供給力確保には再稼働が必要であると説明した。また廃棄物問題を後世代に先送りすべきでないので、現世代が全力で取り組むことが大切であると話した。
  2. ② 数万年に及ぶ処分事業管理に疑問があったので、そもそも廃棄物の減量、短寿命化に核種変換が有効であり、実用化に向けた取組が大切であることを話した。
2050年電源構成
  1. ① 2050年、再エネ50~60%(参考値)の達成は困難である。2050年の電力需要は大幅に増加すると想定し、3E達成には、再エネ偏重ではなく、原子力、ゼロエミ火力も有効活用すべきであることを話した。
  2. ② 2050年CNの地球規模の実現は困難であり、中国、インド、ロシア等の大量排出国が2050年CNを先送りしていることを話した。
  3. ③ 2100年1.5℃以下を目指すならば、2100年までの超長期エネルギー供給について議論すべきであり、電源は、核分裂原子力、再エネ、ゼロエミ火力が中核であろう。核融合の実用化は22世紀になってしまう旨説明した。
東電福島原子力事故の教訓
東電福島原子力事故についてお詫び・反省・懺悔し、全否定(技術放棄)するのではなく、失敗を教訓として、二度と同じ事故を起こさない高い安全技術を開発することが大切であること。また科学技術の進歩には失敗が肥やしになることを話した。
まとめ
対話がスムーズに進んだ要因は、学生がきちんした原子力基礎知識を有していること、さらに、最近のエネルギー問題(再稼働、エネ基)について大きな関心を持っていることであった。学生の率直・ストレートな意見、疑問、質問に応えることで、シニアもよい勉強の機会になった。
3)Cグループ
テーマ
海外情報・原子力の位置づけ
参加者
学生:東工大 原子核工学コース M1、M2 各1名
シニア:石川博久(ファシリテータ)、金氏 顯
対話内容
学生は仏、米、露、中、韓のメーカーが海外で活躍している姿を知っていて、日本は何故できないのか、悔しい思いを持っている様子。これまでの多くの案件での逸注の個別の理由を説明。一言で言えば、中、露、仏、韓は原子力メーカーが国営なので政府が全面的に受注を支援するのに対し、日本政府は民間原子炉メーカーへの支援は限定的。ただし、ODAの道は可能性大、ベトナムがODA方式だったがベトナム政府の政策変更で白紙になったのは残念である。
今はまず国内で新増設に取り組んで人材、サプライチェーン回復が先決、輸出はそのあと。ただし米国などのSMR建設参画は日本メーカーも積極的取組むべきと話して学生たちは納得した。
国内のPWRとBWRの棲み分けに関連し、世界の軽水炉の3./4はPWRである理由を逆質問したところ学生からは制御棒挿入など技術的な理由を答えたので、今や技術的にも経済的にも優劣はない、露、中、仏は原子力潜水艦や空母がPWRなので人材、技術基盤があると説明し、納得。また、英国はガス炉を自国設計・建設したが30年以上途絶えたので、今は仏や中からPWRを輸入、また日立のBWRも受注寸前まで。また東電が一時独PWR導入を検討したことも言及。日本は10年以上新設途絶えているが、岸田総理の明言により今着手すれば国産原子力技術力回復可能、さもなくば将来韓国等から輸入する羽目になると強調、二人とも納得した。
高レベル廃棄物地層処分立地が未定の現状に問題意識は彼らも十分に持っており、解決策につき意見交換した。
2030年再エネ目標や2050年カーボンニュートラル達成の可能性についても意見交換。学生二人とも再エネ大幅拡大は困難、一方、原子力も仏のように50~70%にするのも難しい等々、深堀の意見交換した。
東工大修士50人の卒業後の進路は30%が原子力関係、70%は原子力以外。参加した修士2年生は原子力系(廃棄物処理装置メーカー)、修士1年生は原子力系博士課程進学を目指すとのこと。なお、二人とも東京都市大原子力安全工学科を卒業後に東工大大学院に進学とのことであった。
まとめ
東工大原子力専攻M2二人の日頃の原子力に関する疑問、質問、意見に応え、彼らの原子力に対する思いや期待、意見も多く聞き出し意見交換でき、濃密な双方向対話ができた。
4)Dグループ
テーマ
福島伝承・再稼働
参加者
学生:東工大 原子核工学コース M1 2名
シニア:大野崇(モデレータ)、秋津裕
対話内容
トイレ無きマンション議論の是非、再稼働・リプレースと福島事故の風化問題、CNの達成可能性、就職時に具備すべき再稼働・新規制基準についての知識・経験、負荷追従運転、原子力テロ、について広く話し合った。
処分場問題は情報開示が不十分なため国民理解が進まないと思ったようで、地層処分事業を中心に情報提供環境と理解活動について議論した。
事故の風化問題は、双葉町に、東日本大震災・原子力災害伝承館があるがこれを活用して原子力災害を風化させずに市民が記憶にとどめるためのソフトパワーが必要である。しかし、やはり初等教育の中に事故の一文を入れるのが効果的である。
CN問題は、原子力が不可欠であるが、問題は、CNが、環境=Green=Clean=正義、といった観念的な問題にすり替えられてしまい、本来エネルギー選択は「可不可」で考えるべきところ、「善悪」のように対立してしまうことが日本の思考停止につながっているのではないか。
就職準備については、学習や研究スタイルさえ獲得しておけば対応することができる。追究や発見、検証、新たな価値観の創出を通じて社会貢献することがやりがいにつながると考える。まず、卒業と伝えた。
負荷追従運転については、原子力はこれまでべースロード運転をしてきた理由と、対応可能である設計となっていることを伝えた。
最後に、原子力テロを研究している学生がいて、ウクライナ侵攻が起き、原子力への新たな脅威として「原子力テロ」が注目されている。いわゆる汚い爆弾と意図的航空機衝突である。新規制では、これらに対して、核物質防護対策(障壁、侵入監視)、航空機衝突対策を要求している(ここで、衝突実験の動画を視聴)。その他、外部からの武力攻撃は国の防衛レベルで対応している。火山は?隕石は?と人間の対応の範疇を超えた脅威を設定しすぎると、我々の活動はできなくなってしまう。もちろん、常識を外れた発想を怠らないことは工学としては大切だが、事業継続を可能にするリスク評価は確率論で考えるのが妥当であること等を広く議論した。
報告者所感
学生の皆様が思いのほかよく意見を述べてくださいました。原発や地層処分研究所への見学経験もあり、機会を活用なさり積極的に勉強されている前向きさに感銘を受けた。

(3)講評

石井正則

各グループの発表には共通事項があることを勘案し、取り上げたテーマを軸に講評させていただく。

1)国や関係機関は情報を開示しているにもかかわらず、国民の理解が進まない問題について
一般社会の方々が原子力情報に接するのはマスコミを介してだろう。マスコミは原子力に対し反原子力の姿勢を示すことが多く、これを打破するには受け手が知識を深める(メディアリテラシーを高める)ことが求めらる。出来ることから地道に進めることが肝要と思う。次代を担う子供達など若年層に対しては、とりわけ正しい知識を持ってもらうことが重要だ。小中高の先生を目指す教育系学生との対話会や、先生方が参加している放射線教育フォーラムのような活動に期待している。
2)エネルギー基本計画の規範
今回のエネルギー基本計画の柱は、地球規模の温暖化回避による持続的な地球環境の維持システムの確立である。これは単に2030年エネルギーミックス、2050年CN(CO2排出量実質ゼロ)といったスポット的な目標だけでなく、21世紀を通した世界の課題であることに留意する必要があろう。また、ロシア・ウクライナ紛争ではLNG供給不足が問題となった。エネルギー政策ではエネルギーの安全保障を重要な柱とすべきことにも留意が必要である。
3)2050年CN実現のための原子力技術の維持、向上
2050年CNは原子力なくして達成不可能である。このためには再稼働に加え大型革新軽水炉の建設はすぐにでも着手すべき事項である。日本のコスト競争力が低下しているのではないかとの指摘があった。確かにコスト競争力で中国や韓国の後塵を拝している。新規建設が停滞、技術力が劣化し工期が長期化している原子力先進国、米仏を反面教師とすべきだ。
4)再稼働、大型革新軽水炉の新規建設、小型革新炉への取組みに関して
2050年という時点で見た場合、日本ではCN達成のためには再稼働に加え、大型革新軽水炉の新規建設が必要である。このためには人材の育成による技術の継承と高度化が不可欠と考える。一方、世界をみると小型革新炉も一定の役割があろう。この分野では日本は開発者のパートナーとして期待されている。原子力産業の幅と深みを広める役割が期待される。日本でも21世紀後半の次々世代原子力での役割も期待されよう。夢をもってチャレンジしてほしい。

(4)閉会挨拶

 
大野崇

皆様お疲れさました。対話幹事をつとめます大野です。

羽倉先生とSNWは昔からつながりがあり久しくさせていただいておりますが東京都市大との対話会は久しぶりとなります。今回は閃源会の学生さんとの対話会とのことで、都市大はじめ早稲田大、東工大の皆さんが参加され対話を行いました。

毎年約20の大学と対話会を行っておりますが、今回は皆さん全員が原子力を専攻されている点が異なっております。いうなれば先輩と後輩の関係となるわけで、自然と、和気あいあいとした関係が形成されフランクな雰囲気のもと対話が行われました。

薄日が差し込んできたとはいえ、日本の原子力はどうなるのだろう、未来はあるのだろうかというのが皆さんの本音ではないかと思います。こんな状態のなか、我々OBにとっても次の世代を担う皆様と本音ベースの対話ができたことをうれしく思います。

シニアは恵まれていたとお思いでしょうが、結構、原子力を取りまく世間の目は厳しかったです。原子力船「むつ」も就役につくことなく廃船となり、「もんじゅ」はこともあろうに運営組織の体質が問題視され廃止されました。

核エネルギーは人類の英知が生み出した第3のエネルギーです。人類のため国のためになり廃止はあり得ません。10年のブランクがありましたが再び皆にチャンスが訪れようとしています。次世代炉、バックエンド、核融合が皆を待っています。大丈夫です。頑張ってください。今日はどうもありがとうございました。

3. 参加シニアの感想

報告書を参照ください。

4. 学生アンケート結果の概要

報告書を参照ください。

5. 別添資料リスト

(報告書作成:早野睦彦 2022年12月3日)