日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話 in 東北大学2022概要報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)
世話役:阿部 勝憲
報告書取り纏め:本田 一明
東北大学大学院工学研究科 量子エネルギー工学科専攻
対話会経験のある大学院生が世話役で、「ウクライナ危機とエネルギー問題」について対面で率直な意見交換ができた

東北大学との対話会は、一昨年は新型コロナウイルスの影響で取り止め、昨年はオンラインで実施しており、今年は3年振りに対面での開催となった。対話会経験のある大学院生幹事が参加者募集、シニアへの事前質問、プログラム案作成など責任もって対応してくれた。 参加者は10人(当初11人。当日は1名欠席)で、質問に対する回答資料と講演資料を一週間前に大学側に届けたのは有効であった。 
対話後のアンケートでも、最近の話題である「ウクライナ危機とエネルギー問題」、「GX実行会議」及び「地層処分」についての基調講演は、「とても満足」(7人)、「ある程度満足」(3人)と、参加者全員に満足頂けた。 また、革新炉開発、再稼働・運転延長、バックエンド・廃炉の3つの個別テーマ及び原子力の将来(地層処分問題を中心に)の共通テーマに関する対話についても、参加者全員から「とても満足」(10人)して頂けた。
「原子力分野はやることが多く、就職について意欲的に考えさせられた」などの報告もあり、参加学生、シニア双方ともに有益な対話会であったと思料する。

1.講演と対話会の概要

 

(1)日時

令和 4 年 12 月 8 日(木) 13:00 ~ 17.50

(2)場所

東北大学青葉山キャンパス 量子本館 1F学生研修室

(3)参加者

教員:東北大学 工学研究科 量子エネルギー工学専攻 
遊佐訓孝教授 、高橋宏幸助教
学生:10 名 ( 当初11名。当日1名欠席)
量子エネルギー工学専攻 (博士2年1名、博士1年1名、
修士2年5名、修士1年3名、学部3年1名)(当日修士2年1名欠席)
シニア: 3グループ、6 名 坪谷隆夫、三谷信次、大野崇(以上原子力学会シニアネットワーク連絡会)、
阿部勝憲、中谷力雄、本田一明(以上SNW東北)

(4)開会の挨拶(遊佐専攻長)

以下の趣旨のご挨拶があった。 
オンラインでの授業制限も撤廃され、ようやく対面での講義ができるようになったものの、この期間において大学で知識を身につける価値が落ちたと感ずる。というのはネットで検索すれば必要な知識が得られるということがバレてしまったから。
しかし、当然ネットでは得ることのできない知識があり、これが得られる対面での授業というものがより大事である。 シニアとの対話もそうであり、本日は良い機会であるので宜しくお願いします。

(5)基調講演

講演者名:坪谷 隆夫
講演題目:「ウクライナ危機と原子力」~激変した日本のエネルギー環境と原子力~ 
講演概要:最近の課題である、「ウクライナ危機とエネルギー問題」、「GX実行会議」及び「地層処分」についての講演を行った。ウクライナ危機とエネルギー問題、及びGX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議については、原子力小委員会およびGX実行会議から公開されている情報をもとに最新の検討状況を紹介した。また、地層処分問題については、最終処分に関わる技術、制度整備の状況とともに処分地選定の状況など地層処分技術の社会への定着に向けた国内外の動向を紹介した。 講演の後、会場からフランスで処分地選定が順調な理由などの質問があった。 参加者には国内外の最新の状況と原子力の役割を確認して対話会のベースの情報となるとともに、進路選択の参考にもなったものと考えられる。

2.対話会の詳細

(1)グループ1(報告者:三谷信次)

1)参加者
学生:3名(量子エネルギー工学専攻:学部3年1名、修士2年1名、 博士2年1名)
シニア:阿部勝憲、三谷信次
2) 主な対話内容
第1回テーマ:「革新炉開発」 司会役は学生が担当し、参加者全員の自己紹介からはじめた。 第1回テーマに関する学生からの事前質問に対し回答資料を送って有り、それらの内容を参考としつつ、対話に入った。
主なやりとりを以下に示す。
  1. ①革新炉(SMR,高速炉,高温ガス炉,核融合路)が最近話題に上がっているが開発状況、実用化はいつごろか?
    →現在政府の言っている革新炉とは主として革新型軽水炉のことを指しており、標記革新炉は次世代炉として実用化を含めた開発計画はこれから議論される。
  2. ②標記革新炉のうちどの炉型の開発が進んでいるか?
    →高温ガス炉で10年前にJAEAの大洗にHTTRと言う実験炉の形で完成しており、950℃の世界最高温度を記録している。
  3. ③核融合炉の実用化はいつ頃と考えられるか?
    →国際プロジェクトのITERが進んでおり日本もJAEAがJT-60SAで参加しているが実用化にはほど遠い。今世紀末か来世紀になるかも。しかし各国で我が国も含めベンチャー企業が活躍してきており、もし何かイノベーションでも起きれば話は変わってくる。
第2回テーマ:「原子力についての国民の理解」
第1回テーマの場合と同じく、事前質問への回答を参考としつつ、学生が本テーマで感じていることを中心に対話を進めた。
主なやりとりを以下に示す。
  1. ①国民の理解を深めるためには何が必要か?
    →原子力の仕事に関係する全ての人達が、謙虚な態度で国民から信頼を得られなければ国民の理解は得られない。これを一般論としてではなく君達自身が自分事と捉える必要あり。
  2. ②原発反対日本多い。行政はどう考えているか?
    →世論調査では反対意見は全体の15%程度であり、後の大半(70%くらい)は原子力に一抹の不安を感じている層で賛成に躊躇していた。最近のエネルギー危機で再稼働に賛成する層が増えてきている(50%くらい)。自分事と捉える人達が増えてきたのかも。
  3. ③日本の原子力産業は外国人を採用しないのか?     →昔は優秀な外国人を採用していた企業があったかも知れないが、現在は安全保障の観点からかなり厳しいのではないか。

(2)グループ2報告(報告者 大野 崇)

1)参加者
学生:3名(量子エネルギー工学専攻:修士1年 1名、修士2年2名)
シニア:大野崇、本田一明
2) 主な対話内容
東北大学との対話会は古い。2006年に初回を実施し、コロナ禍で2020、2021年と2年間中断されていたが、今年再開され15回目を迎える。この度量子エネルギー工学の専攻長になられた遊佐教授には初回からお世話になっている。
大学院量子工学科専攻の学生が幹事となり対話会が開催され、飛田研、橋爪・伊藤・江原・程妍、青木研、新堀・千田研、遊佐研から10名の学生が参加した。グループ2は本田氏と大野が担当し、3名の学生と再稼働・運転延長、原子力の将来について広く意見を取り交わした。
主な議論は、GX会議での原子力への回帰の動き、規制と再稼働遅れ、電力自由化に伴う火力、原子力投資への投資環境の悪化、リスク&ベネフィットが科学技術のベースであるが原子力へゼロリスクを求めることの背景、エネルギー政策このバランスについて実施した。
学生さんには、総じて礼儀正しさと理解の深さ、レベルの高さを感じた。今後とも東北電力との対話会は継続していきたい。
 

(3)グループ3(報告者:中谷力雄)

1)参加者
学生:4名(量子エネルギー工学専攻:修士1年 2名、修士2年 1名、博士1年1名)
シニア:坪谷隆夫、中谷力雄
2) 主な対話内容
第1回テーマ:「バックエンド・廃炉」
司会役は学生が担当し、参加者全員の自己紹介からはじめた。
第1回テーマに関する学生からの事前質問に対し回答資料を送って有り、それらの内容を参考としつつ、対話に入った。
主なやりとりを以下に示す。
  1. ①北海道・寿都町の文献調査の状況はどうなのか
    →一時ほど、マスコミは取り上げていないが淡々と進められている。地元で行われている「対話の場」の様子は、ユーチューブで視聴できる。
  2. ②(中国からの留学生から)地層処分で中国の状況はどうか
    →中国では既にゴビ砂漠の北山(ペイシャン)を最終処分地の候補として決めており、研究も積極的に進められている。
  3. ③海外のバックエンド関係の情報はどうやって入手できるのか
    →原環センター(原子力環境整備促進・資金管理センター(RWMC))が海外の公式発表情報を取りまとめている。アクセスして確認して欲しい。
シニア側から補足説明をしつつ、バックエンドの諸課題について共通認識が持てた。
第2回テーマ:「原子力の将来」
第1回テーマの場合と同じく、事前質問への回答を参考としつつ、学生が本テーマで感じていることを中心に対話を進めた。
主なやりとりを以下に示す。
  1. ①政権が替わって、原子力廃止の政権が誕生したらどうなるか
    →ドイツの例を見るに、原子力廃止を掲げる政党が政権に入る可能性はゼロではないが、その場合でも、国民の安定生活を保障するエネルギー対応策(原子力利用を含め)をきちんと決めておくことが大事と考える。
  2. ②今後、原子力発電の比率はどうなるか
    →国は、第6次エネルギー基本計画で2030年の原子力比率を20%~22%にするとしている。現在行われているGX実行会議や経産省が取りまとめる予定の行動指針などを受け、原子力発電の状況は変わってくるものと考える。
対話を通して、学生側からは「まだやる事がたくさんあると感じた」との感想が出され、シニア側からは、原子力の将来に対して関心を持ち続け、関係者との信頼確保に努め、原子力の発展に大きく寄与してほしい旨、伝えた。

3.講評(三谷信次)

 
三谷シニアから、対話グループからの報告に対し個々のグループ毎にコメントが為された。 各グループでは対話テーマは異なるものの、総じて同じようなことを議論したという印象を持ちました。 このようなテーマに関して自分事として考える契機となれば幸いです、と締めくくった。

4.閉会挨拶(大野崇)

 
皆様、長い時間お疲れさまでした。
コロナ禍で昨年、一昨年と2年連続開催できませんでしたが、東北大学とは皆さんが小学生であった2006年から、対話会を開催してきており、今回で15回目となります。初めにご挨拶をいただいた専攻長の遊佐先生にはずっとお世話いただき、学生さんとの貴重な対話の機会をいただき心より感謝申し上げます。
今年に入り、ロシアによるウクライナ侵攻を契機にエネルギーを取り巻く環境が激変しました。わが国も、エネルギー輸入価格の上昇による火力依存体質が電気料金の高騰を招きました。また、異常気象と相次ぐ火力からのフェードアウトにより電力逼迫を招きました。政府はようやくGX会議を立上げ原子力回帰政策に踏み切りました。
こんな変動の中での対話会です。テーマに、革新炉、再稼働・運転延長、バックエンド・廃炉を選んで対話を行いました。
我々も、若い皆様と忌憚のないざっくばらんな意見交換が貴重な機会を得ることができました。
原子力の人材が減る中、皆さんは貴重な存在で、次世代を担う中心人物です。おおいに期待いたします。
本日は、どうもありがとうございました。

5.参加シニアの感想

別添報告書を参照下さい。

6.学生アンケートの集計結果(中谷力雄)

参加学生全員10名の回答
基調講演は、最近の話題である「ウクライナ危機とエネルギー問題」、「GX実行会議」及び「地層処分」についてであり、「とても満足」(7名)、「ある程度満足」(3名)と、参加者全員に満足頂けた。
また、対話については、「とても満足」(10名)で、全員に十分満足頂けた。
対話会全体について、「貴重なお話を聞くことができ、大変参考になりました。本当にありがとうございました。」「テーマについてのみならず、気軽に原子力一般について対話していただきました。ありがとうございました、進路の参考にもなりました。」など、好評であった。
アンケート詳細については別添資料を参照下さい。

7.別添資料リスト

講演資料:「ウクライナ危機と原子力」~激変した日本のエネルギー環境と原子力~
アンケート集計結果
(報告書作成:本田一明 2022年 12月28日)