日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話
in長崎大学2022報告概要

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW) 古藤健司/補佐:金氏 顯
長崎大学 文教キャンパス

本年度は、まだまだコロナ禍中ではあったが感染予防対策を十分に施し、基調講演および対話会を対面にて開催した。参加学生は大学院工学研究科総合工学専攻博士前期(修士)課程の13名の院生であり、特別講義「環境・エネルギー・資源特論」の一環として3コマを担当させて頂いた。対話会への導入として、基調講演(1)では原子力発電の基本事項(1/2コマ)、講演(2)では現在検討されているエネルギー政策(1/2コマ)についての解説・問題点を講義し、学生のエネルギー全般に対する興味を喚起することとした。基調講演において得られた知識・情報は一般的な原子力・エネルギー問題への疑問には十分に答えられていると思われたが、学生諸君からは更に機微な質問も受けることができた。本年度は成績評価を行うこともあって、受講生の昨年に増した意欲的な取り組みが感じられ、シニアとの有意義な議論の場として対話会は成功裏に終了した。

1.対話会の概要

1)「環境・エネルギー・資源特論」を受講する電気・機械・情報・化学・社会環境系の修士学生13名と対話した。
昨年に引き続き長崎大学大学院工学研究科総合工学専攻博士前期(修士)課程の特別講義「環境・エネルギー・資源特論」(1単位8コマ)の一環として3コマを担当し、SNW対話会を実施した(昨年までは4コマ)。
コロナ禍中の状況ではあったが感染予防対策を十分に施し、基調講演および対話会は学生とシニアとの通常の対面形式にて実施した。
対話会への導入としての基調講演は本年度から1コマ(90分)となったので、講演(1)(2)各40分を目途に講演(1)では原子力発電についての基礎知識と技術的諸問題とその対応について、講演(2)では我が国を巡るエネルギー事情と今後の政策について論じた。科目責任者の教務委員長:相楽教授との意見交換を事前に行い、偏りのない内容に留意することを申し合わせた。
受講生は13名(内3名はオンライン受講)であった。参加シニア4名はオンラインにて聴講した。講演資料は事前に参加シニアと大学側事務担当者(江頭真美氏)へ送り参加学生へ配信してもらった。
参加予定者は13名であったので、3グループに分けて対話会を実施することとした。各グループの対話テーマは基本的に学生諸君の提案を最優先することとしたが、予め①原子力発電のシステムの安全安心、②原子力環境システムの安全安心、③エネルギー環境経済の安全安心、をシニアからの提案とした。
基調講演終了後に参加学生諸君とグループ分けと対話会テーマの提案・決定を話し合うことを事前にアナウンスをしておいた。話し合いにおいては、修士2年生3名がグループリーダー(まとめ役)となり、グループメンバーを募り、対話テーマを決定することとした。結果として、シニア提案のテーマが採用され、各テーマについて参加シニア各2名が担当することとした。
基調講演終了後10日以内に各グループのリーダーは事前質問(1件以上/名)を取りまとめ、グループ担当シニア(ファシリテータ支援)にメールにて提出することとし、担当シニアはその回答書を対話会1週間前までにグループリーダーにWordファイルにて送付した。
回答は1問について1枚以内とし、他情報のコピペは極力避け、自分の言葉で書くこととした。また、学生は回答書に十分目を通していることを前提として対話を進めていくこと、回答の内容を「どう思うか?どう考えるか?」など、関連事項の逆質問などによって対話の進展・展開を図り、対話時間を有効に使うことに留意することを申し合わせておいた。
対話会は相楽教授の開会の挨拶・集合写真撮影の後に3グループに分かれて実施した(約2時間)。その後に30分間を学生の各グループの「まとめとプレゼンの準備」にあて、後に各グループの発表(5分/G)・質疑応答・意見交換(5分/G)を行った。
最後に講評(SNW路次)で締め括った。
2)場 所
〒852-8521長崎市文京区1-14  長崎大学工学部1号館2F5番講義室(講義・対話会)
3)日 時
8月19日(金):3限(12:50~14:20)基調講演
8月19日(金):4~5限(14:30~17:40)対話会
4)大学の授業科目
長崎大学大学院工学研究科総合工学専攻 
授業科目:環境・エネルギー・資源特論 
科目責任者:相楽隆正 教授(教務委員長)
5)参加者
長崎大学総合生産科学域事務部西地区事務課大学院係(工学研究科)事務職員(江頭真美 氏)
院生13名(総合工学専攻博士前期(修士)課程)
2年生: 3名(社会環境系2名、機械系1名)
1年生:10名(社会環境系3名、化学物質系1名、電気電子系1名、情報系1名)
シニア6名:金氏 顯、田中治邦、山崎智英、武田精悦、古藤健司、路次安憲 
6)基調講演:8月19日(金) 3限(12:50~14:20)
講演(1):古藤健司(12:50~13:30)
「原子力発電について ~固有安全性、核燃料サイクル、高レベル廃棄物処理処分~」
講演(2):金氏 顯(13:30~14:10)
「日本のエネルギーの現状と将来 ~2050年カーボンニュートラルと原子力~」
講演概要:SNW対話会への導入としての基調講演(1)(2)の内容は、講演(1)では原子力発電について正しく理解してもらうための基礎知識と技術的諸問題についての対応について、講演(2)では現在検討されている「第6次エネルギー基本計画」を中心とする話題性のあるトピックスに焦点を当て、エネルギー全般に対する興味・問題意識の喚起を期待している。両講演を通じて、日本のエネルギー政策に占める「原子力」の位置付けが浮かび上がるように考慮した。
7)開会の挨拶(相楽隆正教授)

「本日は、日本原子力学会・シニアネットワーク連絡会の経験ある皆様に長崎まで多数来て頂き、ディスカッション型講義としての対話会が行われるという、学生にとっては、環境・エネルギー・資源に関して深く考える絶好の機会をご用意頂きまして誠にありがとうございます。

今日は3つのポイントがあると思います。まず、第一に、不断の努力が続いている廃炉作業。これには、工学系大学院出身者の積極的な寄与が期待されています。人が入れないところでのロボットの作業、核化学反応に基づく解析など、分野を問わず人材が求められていることは勿論、強い技術革新が起こる現場でもあることに注目したい。決してnegativeな仕事の場でないし、全国の工学系大学院生が将来を担う人材として期待されているのです。第二に、これからのエネルギー問題に関し、政策上、また政治的に色々な観点があります。新しい報道に接することも多いと思いますが、工学を大学院で学ぶ皆さんには、科学に基づく客観的な理解を基礎とすることが大切です。今日は是非、不明な点は遠慮なく、シニアの皆さんにぶつけてみましょう。第三に、積極的なグループディスカッションの貴重な場が用意されます。分からないことは聞き返す、見解が異なれば恐れず反論をしてみる、妥協による安易な同意はしないなど、今日は積極的に大学院生として、対話と洞察を通じて自分を磨いてほしいと思います。

それでは、日本原子力学会・シニアネットワーク連絡会の皆様、どうぞよろしくお願い致します。

2.対話会

1)グループA(報告者:田中治邦)

(1)参加者
学生:総合工学専攻 2年 機械系1名(リーダー)
          1年 機械系1名、化学物質系1名、情報系2名 
        (情報系1名は8/19の基調講演を聴講し対話会への事前質問も提出したが、9/13の対話会は渡航先から帰国できず、後日レポートを提出した)
シニア:金氏 顯、田中治邦 
(2)対話のテーマ:「エネルギー環境経済の安全安心」
(3)学生からの事前質問およびシニアからの逆質問
発電方法ごとに将来のコスト・安定供給・環境面での改善見通しは?
グレタトゥーンベリのような学生の運動の効果はあるか?
再エネ倍増の必要コスト、効率性はどうか?
CO2を原料として代替化学製品の開発は可能か?
太陽光パネル設置は自然破壊、将来の廃棄品の問題を起こさないか?
カーボンオフセットは排出を許容、真に排出量を減らす策はあるか?

これらに対しシニアで分担して回答書を送付すると共に、以下の通り、シニアから質問および課題を出し(事前連絡)、対話会当日に議論した。

安くなる筈の再エネ拡大により電気料金が上昇する原因は何か?
充実した学生時代を送れたと記憶に残る取組みとはどの様なものか?
再エネ、火力、原子力のエネルギー収支比を調べてみること!
身の回りのC/N化学製品や代替プラスチックを5つ以上挙げよ!
太陽光パネルの後処理に関する環境省の規制・対応で充分と思うか?
C/Nを実現できると思うか?
現在のエネルギー危機にどう対処したら良いか?
現在のエネルギー危機にどう対処したら良いか?
(4)主な対話内容

基調講演をしっかり聴き、様々な発電方式の得失を良く理解した上での対話であった。特に太陽光発電の土地効率の悪さやパネル廃棄に伴う問題発生を懸念し、太陽光事業者を信頼していない様子が伺えた。排出権売買のカーボンオフセットを最終解とせず真にCO2排出をゼロとすべきだが、実際にはC/Nの達成は難しいとの認識を持っていた。学生全員が幾度も発言してくれた。

2)グループB(報告者:武田精悦)

(1)参加者
学生:総合工学専攻 2年 社会環境系1名(リーダー)
           1年 社会環境系1名、電気電子系1名、情報系1名
シニア:山崎智英、武田精悦
(2)対話のテーマ:「原子力環境システムの安全安心」
(3)学生からの事前質問およびシニアから回答

Q1 地層処分ではどのような場所をえらぶのか?

A1 火山や活断層がないなどの要件を満たす場所。

Q2 地層処分の社会的合意形成はなぜ難しいのか?

A2 原子力に対する先入観による。信頼関係の構築が重要。

Q3 (福島において)汚染水を希釈しても多く放出すると汚染してしまうのではないか?

A3 ALPSで安全を確保する。

Q4 専門家から見た原子力発電の今後は?

A4 前進する。

(4)主な対話内容

他の要件として地滑り対策の問題がとりあげられた。関連で新型炉の廃棄物、廃棄物の量、さらには候補地に対する交付金などが議題となった。

原子力に追い風が吹いてきているので地層処分の問題を知らない人にもっとPRすべき、特に若手にはHPやツイッターなどでもっと広報を積極的に進めていくべき、などの意見が出された。フィンランドなどとの比較の中で、事業者―地域間での信頼関係の構築の重要性が指摘された。

水はALPSで処理した後十分希釈し安全を確保した後に、海洋に放出することを再確認した。また中国や韓国の反対は論理的ではなく感情的なのではないかとの指摘があった。

世界の人口が増加しそれに伴いエネルギー資源が枯渇する可能性がないか、またカーボンニュートラルへの対応、それに関連し再エネ、水素、蓄電池などが話題となった。再エネ、原子力を含むエネルギーミックスの重要性が改めて認識された。

3)グループC(報告者:路次安憲)

(1)参加者
学生:総合工学専攻 2年 社会環境系1名(リーダー)
           1年 社会環境系2名、情報系1名(留学生)
シニア:古藤健司、路次安憲
(2)対話のテーマ:「原子力発電システムの安全安心」
(3)学生の状況把握

まずはフランクな雰囲気づくりの一環として、各学生が今後取り組みたいと考えている事項(進路希望等)を話してもらった。社会環境系の3名はいずれも「建設コンサルタント系会社」への就職を希望。うち2年生は既に就職先が決定している。業務としては、公的機関(国、地方自治体)が土木建設業務を発注するにあたっての計画書・設計資料等の作成が中心。情報系の1名は情報を取扱うH/Wに興味を持っているとのことであった。

(4)主な対話内容

事前作業として学生からシニアへの質問が出されシニアが回答済みなので、まずは、シニア回答に対する学生からの要確認事項、追加質問等からスタートし、順次対話領域を広げる方式とした。主な対話内容と結論めいた事項は以下のとおり。

「福島第一原発事故の際に故吉田所長が炉心に海水注入を行ったこと」に関する議論の発展形態として、非常用電源の話に及び、シニアから福島第一の中でも5、6号機については1台の非常用電源が高所に設置されていて水没しなかったために、原子炉は正常に冷態停止できたことを説明した。さらに、20億年前のオクロ天然原子炉の話や自然放射線レベルは地域によって大きく異なり、福島よりも避難先(福岡でも関西でも)の方が高い場合もあったことから、物事の是非は、感情に流されずに科学的に考えることが重要であるとの認識で一致した。
ウクライナ情勢を踏まえて、テロや戦争の脅威からの原子力発電所の防護について議論し、「特定重大事故等対処設備」の役割についても確認した。。
「原子炉はいつまで働けるのか」との質問に関連して、炉内に挿入した「監視試験片」により劣化状況を定期的に監視していること、米国では80年運転が認められていること等から、少なくとも80年は大丈夫であることも議論した。
冷却手段として、水は物理的にも化学的にも理想的で、軽水炉には「自己制御性」が備わっていること(鉄道車輪が円筒ではなく円錐形をしていることでカーブをスムーズに曲がることができることとのアナロジーで説明)、また、ヘリウムガスも冷却手段として注目を浴びていることなどを議論した。さらに、超臨界圧火力発電の効率の良さやCCS(二酸化炭素回収・貯留)火力の有用性から、さらに技術開発を続けて火力も捨て去るべきではない(やはりベストミックスが一番)との議論に発展した。。
学生たちからは、「原子力に関して無知であるが故に先入観で危険だと思い込んでいたが、仕組みを知ることで安全性に関する理解が深まった」との話があった。

3.学生アンケートの集計結果(山崎智英)

1)まとめと感想 省略

2)アンケート結果の詳細

対話会のアンケート結果の詳細資料を添付する。

4.別添資料リスト