日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

長岡技科大学生対話会2022概要報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)世話役 早瀬佑一
長岡技術科学大学全景

まえがき

対話会は、コロナ禍の影響で、2020、2021年の2年間中断されていたが、システム安全工学の大塚雄市教授から鈴木達也教授にバトンタッチするとともに、3年ぶりに再開した。
鈴木教授の強いご指導により、教授の講座(核燃料サイクル)に登録している学生を中心とする、放射性廃棄物最終処分を軸とした対話会となった。シニア側も、廃棄物の専門家の参加でこれに応えた。
基調講演「高レベル放射性廃棄物の処分はどうすべきか、どうするのがよいか」はシニア田辺博三氏が担当したが、海外からの留学生が参加することから、英語ヴァージョンも用意する異色の対話会であった。
大学でコロナ感染者が発生し開催が危ぶまれたが、鈴木教授のご尽力により、開催に漕ぎ着けられたことは、感謝したい。

1.対話会概要

(1)日時

2022年12月2日(金) 8:50~12:20(対面)

(2)場所

長岡技術科学大学・原子力安全・システム安全棟、新潟県長岡 市上富岡町1603-1

(3)参加者

教員:鈴木達也教授(大学院工学研究科修士課程 原子力システム安全工学専攻(副専攻長)安全技術講座)
学生(18名):機械工学、電気電子情報工学、物質生物工学、原子力総合工学M1。内留学生4名(中国、ヨルダン)
SNWシニア(9名)
SNW東北:本田一明、高橋實、馬場礎
SNW東京:田辺博三、坪谷隆夫、岡本弘信、武田精悦、大野崇、早瀬佑一

(4)基調講演概要

テーマ:「高レベル放射性廃棄物の処分はどうすべきか、どうするのがよいか」(英語、田辺博三)
概要:高レベル放射性廃棄物については多くの課題があり、様々な検討が進められている。主要な課題である安全性と、安全性以外の課題に分けて紹介。
1. 地層処分の主たる技術的課題は地質調査、処分場設計・建設・操業・閉鎖、操業中安全性、閉鎖後長期安全性であること、NUMOの「包括的技術報告書」で詳細に検討しまとめられている。また、参考情報として、放射性廃棄物の発生、陸地処分における放射性廃棄物の分類と処分方法(IAEA)、陸地処分の安全戦略は閉じ込めと隔離、などについて説明。
2.その他の課題では、国、NUMOが実施している全国対話活動や文献調査活動などは除き、サイト選定、多重安全機能、処分場閉鎖後の制度的管理、可逆性・回収可能性、分離・変換技術の導入と処分への効果、規制制度、不確実性、廃棄物管理のための廃棄物の比較指標、廃棄物最小化の原則、処分資金確保、処分オプション、諸外国の状況について簡潔に紹介。
最後に、日頃、学生の皆さんが関心を持つ課題について、まず関連情報を収集すること、読んで内容を理解すること、出来れば同僚と意見交換すること、そして自身の意見を述べられるようになり真の知識となることを期待したい。

(5)対話会概要

対話方式:4班(各班学生4~5人、シニア2~3名)、学生がファシリテーターを務めた。
対話テーマ:「高レベル放射性廃棄物の処分はどうすべきか、どうするのがよいか」
各班対話テーマ:鈴木教授が示した下記2テーマから、学生が選択した。
(1)直接処分、再処理処分、再処理+分離・変換処分方法のどれが良いか
(2)地層処分後の管理はどうすべきか
参加学生は、鈴木教授講座「核燃料サイクル工学」登録学生(25名)であり、放射性 廃棄物の基礎知識は十分、問題意識も高い。対話テーマ(1または2)はその場で決めた。シニア側も、各班に1名ずつ廃棄物分野の専門家を配置し、深堀した対話が出来た。
鈴木先生は、学生に再処理、地層処分を単に技術の問題だけでなく、社会的影響も 含めて幅広く考える場として対話会を活用したい意向であった。
参加は、登録学生の自身の判断に任せた。最終的に18名が参加し、参加率が高く安堵した。
留学生との対話は英語が主。日本語は使えない。他の学生とシニアによる通訳で、会話には苦労した。

2.対話会

(1)開会挨拶(鈴木達也教授)

原子力の利活用を進めるうえで、放射性廃棄物について様々な課題、問題が提起 される。学生諸君は、大学の講義や対話会基調講演(事前に配布済)から多くを学んでいるが、今日の対話会において、学生同士の対話もさることながら、シニア専門家の知識、考え、経験のアドバイスを得ながら、日頃から考えている自分の意見、考え、疑問を深めてもらいたい。
対話会のテーマは「高レベル放射性廃棄物の処分はどうすべきか、どうするのがよ いか」としたが、各班での対話は、さらに突っ込んで、下記2テーマから、学生諸君が選択してほしい。廃棄物以外の課題、疑問にも、シニアは的確に応じてくれるので、積極的にぶつかってほしい。
(1)再処理せずそのまま廃棄体として処分するほうが良いか、使用済燃料は再処理してガラス固化体にして処分するほうが良いか、あるいは再処理だけでなく分離・変換まで実施した方が良いか。この三つの方法から一つを選び、廃棄物管理・経済性・市民の受容性等の観点から理由を説明してください。
(2)高レベル放射性廃棄物は地層処分される。地層処分は、そもそも管理しなくても良い処分方法ではあるが、近年管理を求める意見がある。管理をするとして、いつまで管理すべきで、どのように管理をすべきか。

(2)第1班

1)対話参加者
学生:量子・原子力統合工学分野M1男子4名(うち1名は中国人留学生)、電気電子情報工学分野M1男子1名
シニア:(SNW)田辺博三、早瀬佑一
(SNW東北)馬場礎
2)主な対話内容
鈴木先生から提示された二つのテーマのうち、A使用済核燃料の直接処分、B再処理してガラス固化体処分、C再処理して更に分離・変換してガラス固化体処分の3つの方法について、「廃棄物管理」、「経済性」、「市民の受容性」の観点から1つを選択することとし、学生同士の議論、シニアとの対話を行った。
学生の処分方法の選択は以下の通り。
・「廃棄物管理」の観点からは、4人がCを支持
・「経済性」の観点からは   4人がA、1人がBを支持
・「市民の受容性」からは   3人がC、2人がBを支持
・総合評価は         3人がC、2人がBとなった。
学生の判断は深い学習の結果としての判断とまで行かず、直感的、感覚的な面もあったと思われる。
総合評価は市民の受容性が支配的であり、「市民の受容性」が高いのはCであることから、分離・変換技術の実現性がポイントとなると整理された。
市民に受け入れられるかどうかは処分とその後の管理の安全性が重要であると認識された。

(3)第2班

1)対話参加者
学生:5名(大学院工学研究科 機械工学分野M1 1名、 大学院工学研究科電気電子情報工学分野M1 2名、大学院工学研究科 量子・原子力統合工学分野M1 2名)
シニア:岡本弘信、本田一明
2)主な対話内容
テーマ:鈴木先生から提示された2つのディスカッションテーマのうち、「(2)高レベル放射性廃棄物は地層処分される。地層処分はそもそも管理しなくてもよい処分方法ではあるが、近年管理を求める意見がある。管理をするとして、いつまで管理をすべきで、どのように管理をすべきか。」を選択。
対話に先立って、シニア、学生諸君の簡単な自己紹介を行った。2名は留学生でそのうち1名はヨルダン出身の女性、もう1名は中国出身であった。
ファシリテータは学生が務め、先ずはテーマの趣旨を確認することから始めた。
主な対話項目は以下のとおりであり、シニアからの随所に経験を交えた解説に対し深堀する追加質問、話題を広げる質問が出るなど話題豊富な内容となった。
① 現状認識
地層処分を行う対象高レベル廃棄物(日本は再処理したガラス固化体、海外 は使用済み燃料を直接処分)、生活環境から隔離するための人工バリア(ガラス固化体、キャニスター、オーバーパック、ベントナイト)と天然バリア(地下300m以深の岩盤)で長期間にわたり人間の生活環境から隔離、地層処分場のイメージ(地下施設の規模6~10km2、ガラス固化体4万本)、処分場の安全確保の考え方(火山、活断層、隆起・浸食)と科学的特性マップ作製に考慮された要素(加えて鉱山資源)、海外の地層処分計画の取組み状況、北海道2町村での文献調査など
② ディスカッション
R&R(可逆性・回収可能性)、処分場閉鎖後の制度管理、核変換と分離技術、 人間の生活環境からの隔離年数に関連してガラス固化体製造時からの放射能の減衰(Cs、Sr等の核分裂生成物、Cm、Am等のアクチニド核種)、被ばく評価結果(国際基準である年間300μSvに対して2μSv)、地層環境変化のモニタリングなど
・これらの対話の結果を上手く纏め、グループ発表して頂いた。シニアの体験談を交えた高レベル廃棄物に関する話を通じ、埋設処分を更に身近なものと感じ、より自分事として考えて頂き良い機会になったものと感ずる。

(4)第3班

1)対話参加者
学生4名、全員大学院工学研究科M1 (電気電子情報工学分野2、物質生物工学分野1、量子・原子力統合工学分野1)
シニア:武田精悦、高橋實
2)主な対話内容
先生は、2つのテーマを示されたが、両方とも内容が入り組んでおり、2つのテーマ全体を対象に対話が進められた。主な意見は以下の通り。
人間が管理しなくても済むように地下に埋めるのは理解できるが、将来の新しい知見に対応できるように、回収可能とすべきである。
ロケットで太陽に打ち込む等がコスト的にリーズナブルになったら、少なくてもそれ以降に発生したHLWは宇宙に打ち上げるのが良い。(シニアから、地球圏内の廃棄物を地球圏外に排出することについて異論があることが紹介された。)
学生の質問に答え、シニアから、各国のHLW処分の動向、技術的安全性、日本のHLW量や貯蔵状況について説明した。
シニアの説明を聞き、技術的には、安全性は、理解できるとの発言があった。ただ、地元の住民からの同意は簡単では無いと思うとの発言があり、自分の地元に誘致の話が来たら、どう判断するか分からないとのこと。
シニアから、NUMOの活動、寿都町、神恵内村の状況を説明した。
学生より処分地の議論を進めるためには、以下のような議論を進めるべきとの意見。
メリット(金=地域振興策=地元雇用等)を分かりやすく説明する。
若い人へのインフルエンサーとの対談を若い人が聞きやすい形で広める。聞いた人の何%かは理解を示すだろう。今の学生は、テレビは持っていない人が多いし、新聞は取っていない。外の情報は、スマホとパソコンである。
次世代への教育をしっかりやるべき。
第3班の4人に関しては、福島事故は10年以上前の出来事であり、廃棄物処分を考える上で、トラウマにはなっていないとの発言があった。(確認しなかったが、福島出身の人はいなかったか?)
以上、安全性については、地震、断層、地下水等、きちんと解析評価しているとの印象を持った人が多いと思うが、そういった学生も地元への誘致はためらうとの意見は重い。

(5)第4班

1)対話参加者
学生4名、機械工学分野1名、電気電子情報工学分野2名、原子力統合工学分野1名
シニア:坪谷隆也、大野崇
2)主な対話内容
ディスカッション2テーマのうち、「高レベル放射性廃棄物は地層処分される。地層処分はそもそも管理しなくてもよい処分方法であるが、近年管理を求める意見がある。管理をするとして、いつまで管理をすべきか、どのように管理をすべきか。」が選定され、学生間で議論する形で進められた。シニアは適宜情報提供と、アドバイスを行った。
議論は、「地層処分について管理(control)の期間」をどう考えるのかを中心になさ れ、「管理をするとしてその程度の期間を考えればよいか、その後は何を心配してモニタリングすればよいか、その期間は」を中心に議論が展開された。結果、孫の世代までの安全保障期間として取り出し期間は100年、その後も150年までは、埋設廃棄物の地下水、地層、地上への影響を考慮したモニタリングが必要であることを議論の結論としてまとめ報告がなされた。
議論の途中、鈴木先生から、工学の目的は社会に受け入れられる技術を目指すことにあり、埋設技術だけでなく、住民を含めた社会的安全も考慮することが求められるというアドバイスがなされた。

3.講評、閉会挨拶

対話に出来る限りの時間をとったため、講評、閉会挨拶は割愛した。

4.参加シニアの感想

・報告書参照


5.アンケート結果(参加学生全員18名の回答)

基調講演は、留学生4人に配慮し英語で行われた。遅刻して基調講演に間に合わなかった3人を除いて、「とても満足」(11人)、「ある程度満足」(4人)であり、参加者全員に満足頂けた。
また、対話テーマは、鈴木先生から提示された高レベル放射性廃棄物の処分について深堀した難しいものであったが、学生の積極的な参加があり、「とても満足」(12人)、「ある程度満足」(6人)で、全員に満足頂けた。
「学生とシニアの対話」の必要性については、「非常にある」(12人)、「ややある」(4人)と全員(1名は回答なし)から評価頂いた。
原子力発電について、「必要性を強く認識した」が7名、「必要性は分かっていたので、認識はあまり変わらず」が12名(註:複数回答あり)であり、ほぼ全員が必要性を認識していた。
2050年カーボンニュートラル(脱炭素)について、関心や興味が「大いにある」(11人)、「少しはある」(7人)と全員が関心を示すものの、友人同士で温暖化や脱炭素社会について「あまり話さない」(8人)、「ほとんど話さない」(5人)との回答であり、話題にする機会は少ないようである。しかし、「大いに話す」(5人)方もおり、カーボンニュートラルも若者の中に浸透しつつあるようだ。
対話会全体について、「貴重講演の内容やディスカッションが非常に有意義で、自分の知見を深める貴重な機会であった。折角なら一日を通した対話会になればいいなと思いました」など、全般的に好評であった。
とはいうものの、1名から、事前に聴きたかったことが「あまり聞けなかった」との回答があった。ファシリテータを学生が努めたが、シニアからも参加者全員への目配りが望まれる。
アンケートで、原子力発電、カーボンニュートラル等、今回の対話会テーマに直接関係のない項目について、参加学生の率直な意見、見方が示されたのは、貴重な成果であった。
アンケート詳細については別添資料参照。

6.別添資料リスト

(報告書作成:早瀬佑一2023年1月4日)