日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

SNW対話
in松江工業高等専門学校2022年度 概要報告書 

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)世話役 松永健一
《松江工業高等専門学校正門》
「原子力」などの授業の一環として学生とシニアの初めての対話会を開催
対話会は宇部高専の「原子力」や「送配電工学」などの授業の一環。今回は第1回を対面にて開催。多くの課題から「原子力発電の再稼働と電気料金」と「再生可能エネルギーおよびエネルギー自給に関する政策」をテーマに選択した電気情報工学科5年の学生11名が参加。従来よりも基礎情報を重視した基調講演の授業的議論を行った後に対話会を実施した。参加者には、事前の基調講演講師からの逆質問に対する回答や学生質問へのシニア意見の事前検討などに負担のかかる内容であったが、自ら選択した関心の高いテーマでもあり、自ら考えて解決策を検討する良い経験になったことが伺えた。

1.講演と対話会の概要

(1)日時

基調講演:令和4年10月12日(水) 14:50~16:20 (対面、遠隔)
対話会: 令和4年11月14日(月) 9:00~12:00 (対面)

(2)場所と対面方式

松江工業高等専門学校 対面(但し、基調講演は講演者:対面、他参加シニア:遠隔)

(3)参加者

大学側世話役の先生
箕田充志:電気情報工学科教授
参加学生
電気情報工学科5年、基調講演:9名、対話会:11名、2グループ
参加シニア:2グループ、4名
金氏 顯、後藤 廣、大野 崇、松永健一

(4)基調講演

テーマ
エネルギー危機と原子力の役割
講師
金氏 顯(対面)     ※他シニア(遠隔)
講演概要
第1章「エネルギーとはなにか?」では身の回りのいろいろなエネルギー、エネルギーの単位、エネルギーの種類、発電の種類、色々な発電の仕組みを中国電力の発電設備により紹介した。 次に第2章「S+3Eについて学ぶ」では、 S:原子力の安全性、E1:エネルギー自給率、E2:経済性(発電コスト)、E3:環境(ライフサイクルCO2発生)について重要な点を話した。 最後に第3章「世界と日本のエネルギー消費」ではエネルギー利用の変遷と文明の発達、世界と日本のエネルギー消費の推移と将来、更に核燃料サイクル、高レベル廃棄物地層処分について学んだ。 資料の中には「Qコーナー」を設け、予め学生から頂いた質問には青色でQ&Aを書き、講師から学生に聞きたいことは黄色でQを書いた。学生への質問は16問あり、数日後にその回答をA、B各グループから入手し、7月29日に「基礎講演―2」の終了後に学生の回答に対し講評した。よく調べておりほぼすべて正しい回答であった。

2.対話会の詳細

(1)開会あいさつ

後藤 廣

冒頭に、業務経験などシニアの自己紹介と対話会開会の挨拶があった。他の参加シニアも自己紹介を行った。

金氏 顯(基調講演)

私達は原子力プラントメーカーや電力会社、原子力関係研究機関などで技術者として働き、その知識経験を生かして退職後も次世代を担う皆さんたち若者に原子力を始めエネルギー問題に関する理解活動をボランティアとして毎年全国約20校の大学や高専で「対話会」として行っています。私の地元の北九州高専の宮内先生から、箕田先生を紹介していただき、事前にご相談して、初めて開催することになりました。原子力発電所が立地されている県での開催は非常に重要と考えていますので、受け入れていただき感謝しています。 1か月前の10月12日に私がエネルギー危機や再エネ、火力、原子力の役割などについて基調講演を行いました。その後皆さんから色々質問をいただき、回答をお送りし、今日対面で対話会を開催する運びになりました。その間、皆さんは色々と勉強され、エネルギー危機やその対策について関心が広がり、沢山の疑問や意見があると思います。今日は2時間余りですが、真剣な質疑応答、意見交換を行いましょう。私たちシニアはついついしゃべりすぎます。皆さんは負けないようにドシドシ発言してください。「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」です、よろしくお願いします。

(2)グループ対話の概要

今回は第1回を対面にて開催。多くの課題から「原子力発電の再稼働と電気料金」と「再生可能エネルギーおよびエネルギー自給に関する政策」をテーマに選択した電気情報工学科5年の学生11名が参加。
「原子力」や「送配電工学」などの授業の一環。第一回目の開催ということもあり、9月18日に箕田先生と参加シニア4名の出席で事前のリモート打合せを行い、授業と重複しない基調講演の内容について議論した。追加もしくは強化した内容は、➀直流送電(海底送電、海洋風力→陸地直流送電、英国など海外例を含む)、送電網強化(50~60Hz変換、直交変換)、北海道ブラックアウトの原因、電力広域的運営推進機関の送電網強化計画など、②電気料金、➂電力不足、予備率、変動再エネの出力調整、④CCUS、大崎クールジェン国プロなど。
従来よりも基礎情報を重視した基調講演の授業的議論を行った後に対話会を実施した。参加者には、事前の基調講演講師からの逆質問に対する回答や学生質問へのシニア意見の事前検討等、学生自身に考えさせる情報を発信。
その上で行ったグループ対話は、基礎講演内容の確認、逆質問への学生からの回答、その内容を踏まえつつ参加学生の関心事や疑問点を中心に意見交換と議論を行った。
学生のグループ毎の発表は、学生自身の意見を主体とした要領の良い発表であった。
以下、各グループ対話の概要である。
1)グループA  (報告者:後藤 廣)
テーマ
原子力発電の再稼働と電気料金
参加者
学生:電気情報工学科5年生 6名(就職5名、進学1名)
シニア:金氏 顕(ファシリテーター)、後藤 廣
主な対話内容
自己紹介の後、学生からの事前質問に対する回答書に記したシニアからの逆質問を中心に、意見交換を行った。ファシリテーターはシニア(金氏)が担当し、各課題に対して学生全員に発言を促し、双方向の対話を行うことができた。
学生からの事前質問と逆質問を要約すると以下の通り。
  1. ➀ 原子力規制委員会の審査の過程と内容。←再稼働が遅れている現状の改善策。
  2. ➁ 2030年までに原子力発電17基を再稼働できるのか。←西日本が東日本に比べて再稼働が進んでる理由と対策。
  3. ➂ 原子力発電設備の運転期間が40年の理由。←審査による長期停止期間の扱い方。
  4. ④ 日本の原発の新増設の可能性。←我が国が新増設を今手掛けなかったら。
  5. ➄ 将来必要な電力量。←日本国内の電力網の整備。隣国との国際送電網の是非。
  6. ⑥ 電力自由化の意味。←電力自由化のメリットとディメリット
  7. ⑦ 電力料金の見通し。島根2号が再稼働した場合の中国電力の電気料金。←電気料金の高騰が経済に与える影響と政府の動き。
上記の問題提起について学生とシニア間で以下のような対話が行われた。
  1. ➀ 審査の内容と方法を最適化すると共に、審査体制と工程の管理を強化すべき。
  2. ➁ 原子力発電の比率を増やしていくには、地域住民、自治体と連携する必要がある。地域住民が原子力について学ぶ機会を設け、事故対策内容等を具体的に伝える。
  3. ➂ ドイツのロシアへの依存度が高いのは、ドイツの脱原発、脱火力政策による。
  4. ④ 原子力が再稼働すれば、電気料金は安くなる。島根2号再稼働後は、中国電力での発電量の約10%を原子力が占め、一戸当たりの電気料金は数百円減る。
  5. ➄ ロシア、中国など国体の異なる国との国際送電網は慎重に考える必要がある。
  6. ⑥ 電力自由化については、脱炭素など電力事業を取り巻く環境は変化しているので、旧体制(9電力体制、垂直一貫体制、総括原価方式)に戻るのではなく、電力逼迫や電力料金高騰などを改善するため、現実を見据えた実効性のある、制度整備を行う必要がある。
  7. ⑦ 電気は自由市場に向いていない商品と指摘している学者がいる。規制緩和が全ての問題を解決するわけではなく、いつも正しい政策とは限らない。
  8. ⑧ 再エネの増設は、電力安定供給、電力コスト、自然条件、社会制約をよく考えなければならない。
  9. ➈ 電源構成は、再エネ、原子力、火力のバランスをうまくとらなければない。
学生による対話の纏めでは、シニアからの逆質問に回答する形で、「安全審査の有り方」、「原子力安全とリスク」、「市民とのコミュニケーション」、「電力自由化」、「電源構成」について対話内容の発表があった。
2)グループB  (報告者:松永 健一)
テーマ
再生可能エネルギーおよびエネルギー自給に関する政策
参加者
学生:電気情報工学科5年生 5名(就職5名)
シニア:大野 崇(ファシリテーター)、松永 健一
主な対話内容
自己紹介の後、学生からの「対話会へ向けての質問事項」(下記)を中心に、意見交換を行った。対話の進め方は、学生質問者ごとに質問を思いついた背景を聞く、シニア意見(回答)を聞いて思ったことを学生が意見を言い、議論するという手順。
(再生可能エネルギー)
  1. ① 再エネを拡大するにはどうすれば良いか。実際に割合は高くなっているのか。
  2. ② 日本で、地熱などのエネルギーはどこで利用されているか。
  3. ③ 日本は、どこでバイオマス発電を行っているか。
  4. ④ 技術の発展により、再エネ発電で安定した電力供給が可能になった場合、原子力や火力の依存度は下がるべきだと思うか。
(エネルギー自給政策と電力融通)
  1. ⑤ 国際情勢により、エネルギー資源の確保が今後難しくなった場合、日本国内でエネルギーの自給はどの程度可能か。
  2. ⑥ 最新のニュースで関東近辺では電力逼迫が問題となっているが、西日本ではそういったニュースは聞かない。電力の融通はできないのか。
  3. ⑦ 2030年に火力発電割合の目標が41%で、2050年にカーボンニュートラルが実現できるのか。
  4. ⑧ 政権が変わるごとにパリ協定を脱退したり復帰したりして良いのか。
学生発表:代表者が次のとおりまとめた。
再エネを拡大する必要があるが、環境問題や発電効率のことも考えなければならないため、数を増やせばいいわけではない。
目標を達成するためには、地域や自治体と連携する必要がある。
再エネを増やして火力を減らすのではなく、現時点では火力も必要である。CO2を減らすだけでなく、うまく活用したり地中深くに埋めたりするCCUSやCCS技術が開発されている。

(3)講評

金氏 顯

基調講演の内容や学生への逆質問を踏まえたグループ発表であった。Aグループは審査の内容、どこまでリスクをとるのか、電力自由化の料金電力への影響、再エネと原子力・火力のバランス、社会的受容性にかかる話題等、原子力発電の再稼働と電気料金に関する多様な視点からの議論及び発表であり、Bグループは再生可能エネルギーおよびエネルギー自給について、環境問題、発電効率、地域との連携、過渡期における火力の必要性及びCO2の利用技術の切り口からの議論及び発表であった。

両グループの議論は非常に大切な視点であり、事前によく考えた上で、この対話会に問題意識を持って参加してくれた成果である。まずは、このような議論を広く行うことが日本のエネルギー問題を考え、解決する上で大切でり、参加学生が周囲の友達やご家族に知識や議論を広めていただくようお願いしたい。

(4)閉会の挨拶

大野 崇

本日はお疲れでした。対話幹事を務めます大野と申します。縁があり、箕田先生に対話会の開催をお願いにまいり初めて皆様におめにかかった次第です。

我々は、フランクな対話を通してエネルギー、原子力、放射線、最近は廃物処理について、これまで培った経験知識を若い方々にお伝えしたいという目的で、毎年20校程度の学校にお伺いしこうした対話会を実施してきております。

ご様子を見ると、学生諸君も仲間と一緒に集まって一つのテーマについて意見を述べあい纏めるという機会は初めてではないかと見受けられ、最後のまとめでは自然に皆が寄り集まって話し合っていました。このチークワークの経験が社会に出て少しでも役立てばと思っております。

中国電力をはじめいろいろな会社に就職されるということですが、どこでも若い君たちに期待するところ大です。頑張ってください。

今日は、皆さんとあえてよかったです。ありがとうございました。

3.参加の先生とシニアの感想

報告書を参照ください

4.学生アンケート結果の概要(基礎講演の前後、対話会の後)

報告書を参照ください

5.別添資料リスト

(報告書作成:2022年12月5日)