日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話 in 北九州高専 2022概要報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)世話役 金氏顯
《北九州工業高等専門学校》
北九州高専では2012年から毎年開催し10回目。この3年間全国的に新型コロナ禍の為にWEB開催が多い中にあっても学校方針として毎回対面で開催し、本来の対話会の効果を維持。
高専内位置付けは専攻科の選択科目『物理学特論Ⅱ:原子力、エネルギーについて』として、原子力文化財団や原子力産業協会など派遣講師によるエネルギー、放射線、地層処分、宮内教授による原子力の基礎と安全性、最終回としてSNW基調講演と対話会を実施した。
参加学生は専攻科1年生20名で、6年間工学を基礎からみっちり学び、北九州は日本の重工業発祥の地であるなどにより、大学3年生に比べモノづくり、新技術、製造業を指向する意識は強く、4月からの来年度には就職活動に入る心構えが出来つつあると感じられた。

1.講演と対話会の概要

(1)日時

基調講演&対話会:令和5年1月8(日)10:50~16:30

(2)対面開催場所

北九州工業高等専門学校、北九州市小倉南区

(3)参加者

高専・生産デザイン工学科:宮内真人教授、牧野伸一教授 、坪田雅功准教授
参加学生:専攻科1年生20名(大学3年に相当)⇒3グループ
参加シニア(6名):金氏 顯、田辺博三、野村茂雄、山崎智英、笠浩之、路次安憲

(4)基調講演

基調講演『大規模インンフラ施設“ 新幹線”と“原子力発電所”~「長期運用」からの比較・分析~』、講演者:路次安憲
(概要)前半は、新幹線と原子力発電所の長期運用対応における類似点・相違点を比較・分析。後半は、重要なインフラに係る技術革新、人材育成、新幹線や革新軽水炉など新増設の必要性や更に政府による火力も含めた日本の誇るインフラ技術海外展開支援も言及。 最後に台湾新幹線工事の記録動画「海を渡った新幹線」を紹介(金氏)

(5)グループ対話のテーマ、学生、シニア

  1. ■1班:テーマ:原子力発電の現状と未来、学生:7名、SNW:FT 金氏 顯 、記録 笠 浩之
  2. ■2班:テーマ:原子力と私たちの生活、学生:7名、SNW:FT:路次安憲、記録 野村茂雄
  3. ■3班:テーマ:放射性廃棄物と使用済み燃料の処理方法とその導入について、学生:6名、SNW:FT山崎智英、記録 田辺博三

2.対話会の詳細

(1)開会挨拶(SNW九州会長:金氏 顯)

私達は日本原子力学会に2006年に設立したシニア連絡会(SNW)の会員です。私達は原子力プラントメーカーや電力会社、原子力関係研究機関などで技術者として働き、その知識経験を生かして退職後も次世代を担う皆さんたち若者に原子力を始めエネルギー問題に関する理解活動をボランティアとして毎年全国約20校の大学や高専で「対話会」として行っています。北九州高専には2013年に初めて開催して以来、宮内先生と私のコンビで開催しており、宮内先生には私たちのこの活動を歓迎していただき、大変ありがたく思っています。
今日の基調講演は新幹線と原子力発電所というあらゆる工学の粋を集めた日本の誇る総合工学集大成インフラの類似点をお話します、これまでにないユニークな話を鉄道マニアでもある路次さんにお願いしていますので、お楽しみください
そのあとに3つのグループに分かれて対話会を行います。皆さんからは沢山の質問をいただきました。みな大変良い質問ばかりでしたので、活発な対話を期待しています。私たちシニアはついついしゃべりすぎます。皆さんは負けないようにドシドシ発言してください。「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」です、よろしくお願いします。

(2)グループ対話の概要

学生からは各班ともテーマに沿った約20の事前質問あり、シニアから丁寧な回答と逆質問を冬休み前に学生に送付。当日は更なる質問、逆質問、また来年卒業後の進路(就職、大学院進学)について助言など、双方向対話を行った。学生たちは原子力の重要性、2050年カーボンニュートラル達成困難、地層処分立地必要性など、素直な意見が多かった。
学生発表は各班とも全員が一人ずつ、しかも的を得た発表を行った。
以下、各グループ対話の概要である。
■第1班グループ対話の報告
1)テーマ:「原子力発電の現状と未来」
2)参加者
学生:専攻科1年7人
シニア:金氏 顯、笠 浩之
3)主な対話内容
学生から事前に質問、問題提起がなされ、それぞれに事前に回答した。以下は質問の概要。
  1. ① 福島の現状について:発電所、町、住民等の福島事故後の様子。現在どのような影響、取組みが行われているか。
  2. ② 原子力ゼロの場合の電力供給、電力需給逼迫の要因:福島の事故後、全部の原子力発電を休止した時の電力の供給方法。日本が電力不足になっている理由。電力の主な使途。原子力以外の他のエネルギーで代用できない理由。
  3. ③ 原子力発電の安全性について:原子力発電を安全に使用するために必要なこと。放射線を抑える手段は今後できるのか。
  4. ④ 今後の原子力発電所について:エネルギー供給に必要な原子力発電所の数。新しい原子力発電の立地点はどこか。
  5. ⑤ ウラン資源について:日本はウランを国内で賄えないのか、ウラン以外の原子力は見込めないのか。
  6. ⑥ 高レベル廃棄物地層処分について:どんどん溜まっていくゴミを今後はどう処理していくのか。
  7. ⑦ ウクライナ戦争の影響について:ロシア、ウクライナの戦争は資源の輸入などに影響あるのか。
  8. ⑧ カーボンニュートラルについて:脱炭素の達成による経済効果はあるのか。パリ協定の目標はいつ頃達成できるのか。:達成するためにどのような取り組みをすれば良いか。
シニアから事前に次のような逆質問もし、学生夫々に意見を聞いて活発な双方向対話を行った。
  1. ① 福島の状況について関心のあることとその理由。
  2. ② 自然エネルギー等で電力需要は賄えると言う人達に、原子力ゼロのリスクをどう説明するか。
  3. ③ 1F事故の直接原因は津波による全電源の喪失だが、同じ規模の地震、津波を受けた他のプラント(2F、女川、原電東海第二等)は安全に停止することができた。その違いは何か。
  4. ④ 高レベル放射性廃棄物処分場として、現在北海道の2町村で文献調査が行われている。北九州市や皆さんの故郷の自治体が文献調査を申請しようとしたら、皆さんはどうするか。(賛成? 反対? 専門家と相談して勉強?)
  5. ⑤ 日本の電気代が高騰している別の大きな要因2つは何か。
  6. ⑥ 脱炭素化は、電気代、EV車、水素還元の製鉄等の値段が上昇する等、マイナスの経済効果が目立つが、プラスの経済効果があると思うか。あるとすればどんなことか。
最後に、来年にはどんな進路(大学院、企業など)を考えているか、またどのような技術者になるのが夢か、などを話してもらって終了した。
■第2班グループ対話 記録
1)テーマ:「原子力と私たちの生活」
2)参加者:
学生:6名
専攻分野は、情報・IT系3名、化学系2名、機械:1名。今後の進路として、大学院進学希望が2名、就職希望が3名、検討中が1名。エネルギー・原子力分野へ進む学生はいなかった。
シニア:路次安憲、野村茂雄
3)主な対話内容
次の3テーマを中心に対話を進めた。
  1. ① 原発の安全性・社会的観点。・テロ対策:原発の周りに住むことは危険とするイメージを持つ学生がほとんど。3.11後の新規制基準の内容を理解することで、こうした思いが少しでも改善されたことを期待したい。またウクライナ原発のロシヤからの攻撃が報道され、テロ対策について我が国の原発は大丈夫かと不安視する意見が多くあったが、施設の頑健性、航空機衝突対策を求める新規制対応などで認識が変わったようだ。ミサイルによる攻撃についても議論があった。
  2. ② 東日本大震災・東電福島事故後の革新技術:新規制基準が求める過酷事故時の安全対策、次世代型原子炉の安全機能として(コアキャッチャー設備など)の知見を取得、また米仏など海外の最新状況も含め技術的状況を理解。今後の新増設へ期待している意向が示された。皆さん、核融合実用化は、相当先になるとの意見。東南海トラフ地震への漠然とした不安は、新規制基準の地震津波対策を学ぶことで大きく軽減されたようだ。
  3. ③ 経済・環境:電気料金の高騰が、ここ九州地区では九電の原発4基の再稼働により緩和されている実態、全国的には原発再稼働に数年かかるような状況など、身近な出来事としてとらえていた。
4)まとめ
東電福島事故から12年が経過しようとしているが、依然として原子力発電は危険とする意識が根底にある。今回の対話で正確な知識が取得でき、少しでも原子力エネルギー賛成に、自ら意見表明する立場になることを期待したい。
■第3班グループ対話概要
1)テーマ:「放射性廃棄物と使用済み燃料の処理方法とその導入について」
2)参加者
学生:専攻科1年生6名(化学専攻3名、知能ロボット専攻2名、機械専攻1名)
シニア:山崎智英、田辺博三
3)主な対話内容
対話では、学生が提出した事前質問の回答を説明しながら学生の更問等についてシニアとの対話を行った。結果として事前質問は各学生の疑問や聞きたいことを反映したものであり、真剣に聞き、理解しようとする姿勢で良かったと思う。以下に主な対話概要を示す。
  • 核燃料サイクルの取り組みの違い:高速炉燃料サイクルを目指していたが、核拡散の懸念、ウラン資源の裕度等の政策的、資源的な要因により各国の取り組みの違いが出ている。
  • 使用済燃料貯蔵対策:電力各社はリラッキング、乾式キャスク貯蔵等の対策を行っている。
  • 最終処分の候補地の状況:さまざまな努力をしているが文献調査が2か所に留まってることは大きな課題。
  • 核燃料サイクル事業の費用:核燃料サイクルのコスト分析結果を紹介。経済性は発電コストとして評価すべき。
  • クリアランスレベルの廃棄物量:原子炉の廃止措置によって発生する廃棄物の種類と量を説明。
  • 地層処分の安全性:廃棄物自体が安全になるということではなく、地層処分=安全と考えている。
  • 高レベル廃棄物地層処分場は人間が安全に管理できるのか:管理の目的(隔離)は深い資源のない安定な地層中に処分する地層処分で保証。
  • ガラス固化体の安定性:ガラスの中でも安定なホウケイ酸ガラスを母体としている。
  • 宇宙処分のリスク:操業時のリスク(ロケット搬入・打ち上げ)等の評価が必要。
  • ALPS処理水からのトリチウム分離:トリチウム水と普通の水は化学的性質が同じであるため、合理的な分離は困難。
  • CO2排出量削減は刻下の急務なのか。原発の必要性は:2050年目標を満たすため、原発を含むカーボンフリーな電源を組み合わせる。
  • 地層処分への地震影響および処分深度:原子力規制員会は、避けるべき断層運動を考慮事項として規定している。深さは有利な点と不利な点があり、それらのバランスをとる必要がある。
4)講評(笠 浩之)

対話会で学生の皆さんに理解してもらった内容のおさらいをし、最後にお願いを述べた。

  • (1-1)電気料金の上昇は、原子力が10基しか動いていないため、不足分を補う火力の燃料費の高騰、需給のひっ迫が主原因であること。原子力の必要性。
  • (1-2)北九州地区に仮に高レベル廃棄物処分施設を作るとなった場合の賛否について、「大都市ほど率先してそういう施設を受け入れ模範を示すべき」という意見に大変感動した。
  • (2-1)同様に地震や津波に遭いながら、1Fのような事故を免れた発電所があるのは、ハリケーンや竜巻を重視した米国と地震や津波を重視した日本の設計思想の違いも一つの要因。
  • (3-1)使用済燃料貯蔵施設として、従来のプールでの水冷却(湿式貯蔵)から、安全性に優れたキャスクでの空冷(乾式貯蔵)が今後は主流になる。
  • (3-2)原子力を再開しなければならない理由は、日本には資源がなく、化石燃料のほとんどを海外に頼らざるを得ない。CO2を大量に排出しながらCNを達成するのは無理。原子力の必要性は大きい。原子力、火力、再エネを含めたバランスの取れた電源ミックスが大切。
5)講評とは別に、笠浩之シニアより「震災直後の福島と支援活動」について、以下のような話をした。

九電社員時代、3.11後に福島に電力支援チームが結成され、九電からも30名ずつ1,2週間交代で延べ730人が9カ月にわたり支援活動した。自身も山崎智英シニアも3回参加した。
放射線計測のため個別訪問したお宅で次のような声を聴き、2度とこんなことを起こしてはならないと心に誓った。(なお、この話には全員が心を打たれた。)
“(九州電力の腕章を見て)暑い中、わざわざ九州から来てくれて、ありがとう”、“福島を滅茶苦茶にしやがって。何ということをしてくれたんだ!”、“(お婆さんが夫の位牌をもって)私たちは何にも悪いことしてないのに何でこんな目に合わねばならんのか?!”

3.参加の先生の感想(シニアの感想は省略:別添報告書参照)

【宮内真人先生】

令和4年度対話会で,10回目となりました.また,来年度はカリキュラム変更が重なり実施できなくなりましたが,令和6年度は新カリキュラムのもと,新たな再開を迎えることになりました.世話役の金氏先生を始めとして,諸先生方には常に学生と真摯に向き合っていただき,学生はどれほどの恩恵を受けていることだろうかと思っています。

今回の特別講演も学生の感想では,新幹線と原子力発電所?と思ったようだがその比較に大変興味深かった様子がうかがえました.また,福島原子力発電所事故から11年が過ぎた今も,現場で直接関わった,笠先生の話にはテレビ等で知っているはずなのに,大きな衝撃を受けたなどの感想も多く,自然災害の恐ろしさと原子力発電所の事故が引き起こす恐ろしさを改めて感じ取ったようでした。

次回11回目からも,学生の記憶に強く残る対話会を実施できたらと思う所存です。

【牧野伸一先生】

私にとっては運営側として3回目の参加でした。今回も、知らなかった話が多く、シニアの皆様の実際の体験に基いたお話をお聴きすることができて、とても貴重な経験をさせていただきました。

印象に残ったこととしては、東日本大震災の前に、福島第一原子力発電所の津波に対する脆弱性が指摘されていたが、それに対しての動きが遅く、結果的に事故を防げなかったという話をお聴きしました。「適切に対応していれば、女川原子力発電所が避難所として使われたように、福島第一原子力発電所も安全を保持できたと思う。」と、非常に残念そうにシニアの方がお話しされていたのが鮮明に記憶されています。

長らく情報化社会と言われている時代が続いていますが、情報共有が不十分であったことは、他の場面でも教訓として生かされるべきことと思いました。情報は共有して、多くの人の頭で考えることが、何事にも大切であると再認識できました。今回の対話会も、世代間の情報共有の面でも、とても重要で有意義な機会になったと思います。

このような機会を持てたこと、学生の教育にご参画いただけたことを、とてもうれしく思います。どうもありがとうございました。

【坪田雅功先生】

昨年度に引き続き2回目の参加となりましたが、前回同様に大変興味深い内容をお聴きすることができました。

午前中の路次先生による基調講演は,身近にある新幹線との比較がとても分かりやすく,学生も興味を持ってお話を聞いていた印象です。新幹線はJR各社が点検まで含めて実施し、原子炉に関しては外部の監査機関が点検をする。仕組みは異なりますが、安全まで含めて管理を徹底出来ていれば福島のような事故は減らせるということを再認識致しました。台湾へは訪れたことが無いのですが、新幹線の敷設には膨大な作業工程を広大な範囲で把握しなければならない困難さが伝わってきました。完成した新幹線による走行試験時の映像を見ていると,10年近く前に上海でマグレブに乗って300 km/hを超えた感動を思い出しました。

午後からのグループ対談では、学生の質問に真摯に向き合って議論して頂き,多くの疑問が解決されていたことを発表によって感じました。今後のエネルギーや二酸化炭素の問題を考える上で、コストや資源、安全性とリスクといった観点まで含めて考えられる技術者・科学者になれるように今後とも指導していきたいです。

4.学生アンケート結果の概要(アンケート回収:19/20)

(1)講演の内容は18人が満足。身近な新幹線と原子力発電を比較し、原子力のことを非常によく理解でき面白かったという感想が多く、このテーマを基調講演にした狙いが当たった。不満の一人は休日開催でなく授業時間にオンランでやって欲しかったという理由。
(2)対話の内容も18人が満足。実際に原子力関係の仕事をした人達のお話は貴重、疑問に対し納得いくまで答えていただいた、終始和やかな雰囲気だった、など。不満の一人は時間が長かったという理由。
(3)放射能、放射線に対しては全員が一定レベルまで恐れる必要はない、社会や生活に役立っていると回答。出前授業の効果と思われる。
(4)原子力に対しては、必要性を認識するので低減すべきでないという意見が13人。再エネ、火力、原子力各1/3が理想との意見も。分からないが1名。削減や撤退はゼロ。5人が無回答。原子力の必要性は分かるが、放射線被ばくリスクを考えると使いたくない、という意見も。

5.別添資料リスト

(報告書作成:山崎智英 2023年 1月 8日 )