学生とシニアの対話 in 北海道大学2022概要報告書

1.講演と対話会の概要
(1)日時
- 令和 4 年 12 月 14 日(水) 13:00 ~ 16.30
(2)場所
- 北海道大学工学部 A4-63会議室北海道大学工学部 A4-63会議室
(3)参加者
- 教員
北海道大学 工学研究科 応用量子科学部門 量子エネルギー工学 澤和弘教授 、河口宗道准教授 - 学生:8 名
エネルギー環境システム専攻 (修士2年4名、修士1年3名)
機械知能工学科(学部4年1名) - シニア: 2グループ、4 名
齋藤伸三、早野睦彦、船橋俊博、大野崇
(4)開会の挨拶(北海道大学 澤先生、SNW 齋藤伸三)
- 澤先生より以下の趣旨のご挨拶があった。
- オンラインでの授業制限も撤廃され、ようやく対面での講義ができるようになったものの、陽性者が再び出て危ぶまれたが何とか開催できた。
- 原子力回帰の動きを受け、原子力政策や次期革新炉についてこれからの日本の原子力について大いに議論をしてもらいたい。
- SNW齋藤伸三氏より以下の挨拶がなされた。
- 2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故は極めて残念な事故であり、その影響は未だに続き、原子力発電は新増設、リプレースはタブーとされてきた。しかし、本年8月に岸田首相は、カーボンニュートラルの達成及びエネルギー需給の逼迫から現状を打開すべく原子力利用の推進政策を進めることを明言した。我々は、これを歓迎し、原子力再構築をすべきと考えている。学生の皆さんも原子力を学んでいる。本日は、原子力の問題、皆さんの将来等、ざっくばらんに話し合いたい。よろしくお願いします。
(5)基調講演
- 講演者名:斎藤 伸三
- 講演題目:「最近のエネルギー情勢と原子力発電の役割」
- 講演概要:「GX実行会議」における岸田首相の原子力利用の推進政策への 転換方針を受け、政府の新たな原子力の取り組み、次世代革新炉等の最近の動向について基調講演がなされた。まず、「脱炭素社会へ動きとエネルギー需給情勢」について、世界の 動き、ロシアのウクライナ侵攻の影響、日本・主要国の動き等の講演がなされ、次に、我が国の原子力発電の危機的状況と政府が取り組もうとしている政策の説明がなされた。また、世界的な次世代革新炉開発の機運を受けた我が国の取り組み内容について講演がなされた。最後に、原子力復活が見えてきた中、原子力の将来は若い皆様に託されていると結ばれた。
2.対話会の詳細
(1)グループ1(報告者:大野崇)
- 1)参加者
- 学生:4名(エネルギー環境システム専攻(修士1年1名、修士2年2名)、 機械知能工学科(学部4年1名))
- シニア:斎藤伸三、大野崇
- 2) 主な対話内容
- 司会役は学生が担当し、参加者全員の自己紹介からはじめた。
- 「原子力政策と次期革新炉開発」を中心に学生に議論をさせたいという澤先生の意向に従い、齋藤伸三氏の基調講演に対しあらかじめ学生から出された質問を中心に議論がなされた。
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① 2050年までのカーボンニュートラル達成は実際に可能なのか。
→ CO2回収技術などの技術的イノベーションが鍵、生活水準を下げてまで実施することはない、目指すことに意義がある。 -
➁ 科学的根拠が無いのに運転期間がなぜ40年とされているのか。
→ 目標年数が必要との政治的判断でアメリカの最初の基準を採用したものである。アメリカは20年ごとの延長が可能である。 - ③ 新規制基準適合審査に時間がかかっているのに新設は可能か
→ 現在の敷地内への建て替え(リプレース)は可能である。審査に慣れてきたので新設であっても時間はかからないのでは。新規制基準は、機能要求であるので、新設であっても変える必要はない。 - ④ 国民が原子力を受け入れるか
→ 世論調査は容認が非容認を上回った、岸田首相が原子力回帰方針を明言した。 - ⑤ ウランも枯渇する。それまでに高速炉は間に合うか
→ 海水からの採取が可能、ウランの国際争奪となればプルトニウムサイクルが必要となり高速炉へのニーズが高まるのではないか。
(2)グループ2報告(報告者 船橋俊博)
- 1)参加者
- 学生:4名(エネルギー環境システム専攻:修士1年2名、修士2年2名)
- シニア:早野睦彦、船橋俊博
- 2) 主な対話内容
- 基調講演「最近のエネルギー情勢と 原子力発電の役割」に対し事前に学生から提示された以下の項目について議論がなされた。
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① 洋上原子力プラントを日本で検討すべきか
→主要の電源としては大型化には困難が多いが、小型ならば離島などで 地産地消に使えるのではないか。 -
② 次世代革新炉の実現について
→ 革新軽水炉は、現状の軽水炉の延長線上にあり最も早く実現できる選択肢。他の炉型は種類によって、実験炉→原型炉→実証炉→商用炉の段階のハードルが存在し実装には時間がかかる。 -
③ 核分裂炉と核融合炉の位置づけ
→ 核分裂炉で使用するウランの可採年数に限りがある。高速炉の実現に向けての研究も必要である。その先の核融合炉も研究開発を進めていくのが良いと考える。 -
④ 原子力の政策による不安定さ
→ 中国・ロシアなどの権威主義的国家では意思決定が早く、その点での不安定さはない。民主主義国は、国民に分かり易いビジョンを掲げて、メリットとデメリットを定量的に評価し合理的判断をすることが望ましい。
3.講評(齋藤伸三)
2グループに分かれ、学生さん4人、シニア2人で率直な対話が出来たと思います。話しあわれたテーマは、それぞれ4~5つでいずれもこれから原子力を進める上で本質的な課題であったと思います。2050CNは本当に達成出来るのか、ロシア、中国のような権威主義国家と違い民主主義国家である日本で原子力政策は安定的に進められるのか、洋上原子力プラントは日本では有効か、核融合炉の位置付け等々、今後も皆さんにフォローして頂き、率直に意見を発信して貰いたい課題です。その中で、両グループで共通の課題として、次世代革新炉は何時稼働するのかと言うテーマがありました。基調講演で、最初の革新炉は順調にいって2030年代半ば過ぎと話しましたが、現実に新しい原子力発電所を作るには、設計の詳細化のみならず、地元の了解の取り付け及び設置許可取得にそれぞれ数年は要します。その後、建設、試運転となりますので、数年後にスタートしても講演で述べた時期になる訳です。もう一点付け加えたいことは、絶対に、福島原子力発電所のような事故を起こしてはならず、講演でも述べたように原子力の事業に携わる者は、トップから現場従事者まで、安全を第一とし、常に緊張感を持って責任を果して貰いたいことです。