日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話in福島高専 2022 概要報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)              
世話役:西郷 正雄
報告書取り纏め:岸 昭正
福島工業高等専門学校キャンパス(2023年2月16日撮影)

まえがき

学生の参加者数は少なかったが、シニアと対面で充実した対話を実施することができた。
福島高専とは今回で8回目の対話会。新型コロナウイルスの影響で昨年は対面で予定していながら急遽WEB 方式で行ったが、今回はコロナ騒動も一時的に静まった感があったことから対面で実施することができた。参加学生は機械システム工学専攻の4年生11名と少なかったが、学生は原子力についても学んでおり、女川原子力発電所や幌延の高レベル放射性廃棄物地層処分実験施設を見学した人もおり、大変充実した対話会となった。この対話会は高専の授業の一環として90分の時間の制限があったため基調講演は省略し、3グループに分かれて約60分間それぞれ各グループに与えられたテーマについて対話を行った後、各グループの代表が対話の成果について発表した。各グループとも対話は大変充実しており、参加した学生の対話に対する積極的な姿勢は大変頼もしく感じられた。

1. 対話会の概要

基調講演なしで実施した対話会

対話会の大学側世話役は鈴木茂和先生だったが、当日先生は重要な仕事で出張しており不在の為、代わって同じ機械システム工学科教授の赤尾尚洋先生が対応された。 また、昨年度と違って対話会の時間が全体で90分と短かったため、今回は敢えて基調講演なしの対話を行った。
参加者は機械システム工学科の学生11名と少なかったが3グループに分かれ、テーマは(1)「日本のエネルギー問題と原子力発電所再稼働について」、(2)「放射性廃棄物の処理処分について」、(3)「アルプス処理水(トリチウムを含む)の海洋放出について」とし、各グループ内でシニアと学生が対話した。各テーマとも国内で賛否両論ありながらどうしても解決すべき問題なので、シニアからイントロとして各テーマのポイントについて簡単な解説をした後、学生の意見・質問を引き出しながら対話を行った。学生の発言は貴重で注目されたが、皆さん熱心に対話に参加してくれて充実した時間を過ごすことができた。

(1) 日時

基調講演  :なし
事前質疑応答 :なし
対 話 会  :令和5年2月16日(木)10:30~12:00 (対面)

(2) 場所

福島工業高等専門学校(いわき市平上荒川字長尾30)  
機械システム工学科棟2階多目的演習室

(3) 参加者

大学側世話役の先生:機械システム工学科 赤尾尚洋教授
参加学科4年生 機械システム工学科4年生 11名(男性8名、女性3名)
参加シニア:6名
シニアネットワーク連絡会:西郷正雄、三谷信次、武田精悦
シニアネットワーク東北:阿部勝憲、本田一明、岸 昭正

(4)開会挨拶

福島工業高等専門学校 赤尾尚洋教授
赤尾先生から学生に向けて、本日のシニアとの対話会の目的についてお話しされた。
学生は女川原子力発電所の見学なども含めて原子力の勉強をしてきているが、本日の対話の中で原子力発電についてしっかり対話してもらいたいという趣旨の挨拶があった。
SNW世話役 西郷正雄
本日参加のシニアの紹介と対話会の進め方について説明した。

(5)基調講演

なし

(6)事前質疑応答

なし

2.対話会の詳細

(1)第1グループ(報告者:三谷 信次)

1)参加者
学生:4名。機械システム工学4年 全員男性
シニア:本田一明、三谷信次
2)主な対話内容
テーマ:「日本のエネルギー問題と原子力発電所再稼働について」
司会役は学生が担当するのが通例なのではあるが、今回は時間の制約からシニアの グループリーダーが対話の先導をし参加者全員の自己紹介からはじめた。 対話テーマに関する資料はグループリーダーが作成したレジメを先生から配布して頂き、以下のテーマを参考にして話題に従い適宜黒板を使ってやり取りを行った。 対話の進め方(以下のテーマのレジメを参考にしたまでですべてを議論したわけではない)
日本のエネルギーについての現状は
  1. 1. 最近のエネルギーについての話題は? (新聞、テレビ等での報道例)
  2. 2. そこでの問題(課題)を考えてみよう。
  3. ・どのような問題があるでしょうか。 原因(理由)はどこにあるでしょうか。
  4. 3. エネルギーの問題を考えるときに大切なことは何でしょうか?
  5. ・エネルギー安全保障とは
  6. 4. 日本のエネルギーの政策の基本方針はどうなっているか?
  7. ・エネルギー基本計画について
  8. 5. 各種電源の特徴は?
  9. ・再生可能エネルギー、火力、原子力それぞれの電源の特徴
  10. ・エネルギーミックス
  11. 6. 原子力の活用
  12. ・安全性はどうか
  13. ・安全と安心、リスクとベネフィット
一問一答式の対話ではなく、学生とシニアが上記テーマのレジメを斜めに見ながらざっくばらんな対話を行うことで短い時間内に双方が納得出来るやり取りが実現出来た。
主なやりとりの内容を以下に示す。
  1. 1. 太陽光は最近増えてきて自然破壊が進み(福島県では)限界のようだ。
  2. 2. 東京では知事が住宅に太陽光パネルを義務づけるようであるがこれも限界がある。
  3. 3. 太陽光は昼間作りすぎて電気を捨てている。これを現在は火力で制御している。
  4. 4. 今後火力が使えなくなると原子力の出番だが、福島の2Fは廃炉と決めてしまった。
    そこでシニアからの提案→2Fの廃炉に代わって将来そこにSMRを導入し太陽光発電の 出力制御する案は如何か?
  5. 5. 原子力は沢山の協力会社が参画して、原発の利益が多くの協力業者に分配される。
    太陽光や風力は出資者に利益の多くが分配されて地元はあまり潤わない。
    一部出資者に多額の利益が集中し経済格差が顕著になっている。
  6. 6. 原発稼働地域電気料金安い(九州、関西等)が、稼働していない地域(関東)は高い。
    国民の理解がまだまだ不足。エネルギー意識の向上必要。
  7. 7. 原子力は、コワイという国民感情強い。特に女性に説得必要。正しく怖がるということか。

(2)グループ2(報告者:武田 精悦)

1) 参加者
学生:3名。 機械システム工学4年 全員女性(内1名はマレーシアからの留学生)
シニア:武田精悦 、岸 昭正
2)主な対話内容
テーマ:「放射性廃棄物の処理処分について」
最初に、シニア、学生諸君が簡単な自己紹介を行った。
本グループのテーマは高レベル放射性廃棄物の地層処分であり、初めにシニアから廃棄物と地層 処分の概要について説明した。
学生の原子力や地層処分に対する意識は非常に高く、学生3名とも北海道にある幌延深地層研究センターの施設を見学したことがあるとのことだった。
学生がまとめた結論は次の通り
  1. 1. 地層処分は安全にできると思う。基本シナリオだけではなく事故時のシナリオでも安全が確保されている
  2. 2. 地層処分について知っている人は国内全体をみてもまだ少数派。もっと多くの人に知ってもらわないといけない
  3. 3. 一部の海外の国ではかなり進んでいるが、日本ではまだ不十分。広く国民に地層処分の問題を知ってもらうためには、信頼、情報公開、教育などが大事。日本でもこれらに力を入れ国、地域レベルで理解を得ていく必要がある。
学生からでた主な意見は次のとおり
  1. 1. 事故がおこった場合でも安全は確保されるのか
  2. →基本シナリオの他に変動シナリオなど4つのシナリオが想定されている。いずれのシナリオも安全をクリアしている(シニアの返答)
  3. 2. 地層処分は安全にできるし、そのため将来世代の安全についても問題ないと思う。また小さい時からの教育が大事
  4. 3. 原子力はほかのエネルギーに比べて少ない燃料ですむ。地層処分も安全にできると思うから、まずはできるとことからやっていくのがよい
  5. 4. より安全な原子炉を開発すべき
  6. 5. 日本では原子力はできるが、技術力を考えるとマレーシアでは難しいと思う(マレーシア留学生の発言)
  7. 6. 知識の差による部分がある。知識のある人は原子力に賛成だが、ない人は反対する
  8. 7. 多少強引でも安全ならやってみよう。そうじゃないと進まないのではないか
  9. 8. 海外ではどのようにしているのか
  10. →地層処分ではフィンランドが一番進んでいる。信頼、対話、情報公開、教育などがポイントのように思う

(3)グループ3(報告者:阿部勝憲)

1) 参加者
学生:4名。機械システム工学科4年 全員男性
シニア:西郷正雄、阿部勝憲
2)主な対話内容
テーマ:「アルプス処理水(トリチウムを含む)の海洋放出について」
自己紹介してから発表係を決めた。4人とも福島県出身であり、女川発電所見学の経験者であった。
対話会で話し合いたいことを尋ねると、トリチウムの放出量、漁業への影響、風評被害対策、外国での風評、など地元の問題として関心が強いことを感じた。
はじめにシニアから、政府と東京電力の動画をぜひ見てほしいこと、また政府方針が経産省HPで概要版と詳細版にまとめられているので参考にしてほしいことを伝えた。
対話の進め方として、前半に処理水放出の技術的な点に関して、後半で風評被害に関して話し合うこととし、その際に知識を確認するだけでなく意見を出し合おうと提案した。
主なやり取りは以下の通り
  1. 1. アルプス処理水について
  2. ・地下水や雨水で生ずる汚染水とトリチウム以外を除いた処理水を区別すること。国内外での反対理由に混同がある。
  3. 2. 海洋放出について
  4. ・国内、アジア、世界の原子力施設の放出データ、BWRとPWRの放出量など確認。
  5. ・韓国の反対報道があるが韓国原子力学会は冷静に判断している。
  6. ・IAEAは国際的な科学的判断として妥当と結論し監視にも参加する。
  7. ・放出前後の海域モニタリングを発電所近傍、沿岸20km圏内と圏外で実施し、さらに魚介類の安全監視も行う。
  8. 3. トリチウムについて
  9. ・トリチウムは天然にも存在し、水で1Bq/ℓはトリチウム原子で約5億に相当。
  10. ・放出による体への影響は内部被ばくと外部被ばくがあり無視できるレベル。
  11. 4. 風評被害について学生諸君の提案
  12. ・政府HPや新聞とテレビの広報は余り伝わってないので、有名人によるCMや外国人旅行者などに外国語のCMも。
  13. ・新聞やテレビを見ない若者世代にはSNSで有力なユーチューバやインフルエンサーが有効。
  14. ・都会の消費者に伝えるのに有名レストランで魚をさばくなどのインパクトを。
まとめとして、発電所見学で原子力について知見があり、処理水放出という地元の問題で関心が高かったことから、積極的な意見交換となり双方に有益な対話会になった。シニアから、今回の対話会で理解を深めたことを活かして、必要な場合に他の人にも説明してほしいこと、これからも風評被害を減らすことを考えていってほしいこと伝えた。

3.講評(武田精悦)

各グループの報告を聞いて今回は大変充実した対話会となったと感じている。対話では第2グループの学生さんたちと話し合ったが、自分が用意した高レベル廃棄物処分の内容は簡単すぎたと反省している。学生さんは幌延の実験施設を見学された方もおり、大変意識が高かった。非常に頼もしく感じた。問題は技術だけではなく、社会問題であることが需要で、幅広い見方が大切である。色々な情報を基に各自が柔らかい頭でしっかり考えることを学んでもらいたいと講評された。

4.閉会あいさつ

時間的制約があり特に行わなかった。

5.参加シニアの感想

全体報告書を参照下さい。

6.学生アンケートの集計結果(本田一明)

(1)参加学生(11名)全員から回答を頂いた。
(2)アンケート結果の概要は、次の通り
講演」(註)及び「対話」の内容は、「とても満足」10名、「ある程度満足」1名と、全員に満足して頂けた。また、「事前に聞きたいことが聞けたか」 については、「十分に聞くことができた」10名、「ある程度聞くことができた」1名と全員が聞くことができたとの回答であり、これは高い満足度に寄与しているものと考えられる。
  (註)今回、基調講演は行っていないが、各グループとも対話前に資料に基づきテーマにする概要説明等を行っており、アンケートではこれを講演として捉えている。
学生とシニアの対話」の必要性については、「非常にある」(11名)と全員から評価頂いた。 同様に「友達や後輩の対話会参加」についても「勧めたいと思う」(11名)と全員から評価頂いた。
原子力発電の必要性については、「必要性を強く認識した」が8名、「必要性は分かっていたので、認識はあまり変わらず」が4名(註:複数回答あり)であり、全員が必要性を認識していた。「原子力発電を止め、再生可能エネルギーを最大限使えばよい」との方が1名いたが、重複回答であり、原子力の必要性は認識している。
2050年カーボンニュートラル(脱炭素)に対しては、「政策」は「必要であり、実現可能である」(6名)、「必要であるが、実現するとは思えない」(4名)と政策の必要性を認めている。
全体を通しての感想では、「エネルギー問題に関して、とても有意義な時間を過ごすことができました。今回の対話で深めた知識をこれからの生活に生かして行きたいです。」、「有意義な対談で、是非このような会を増やすべきだと感じた。私たちも、今度は自ら発信できるような存在になりたいと思いました。」など、好評であった。
また、「今日の対話会を通して処理水への偏見や考えなどのマイナスイメージを無くすことが出来ました。」、「エネルギー問題の解決には人々の理解が必要であり、表面上だけでなく原因を知る事が大切だと感じた。太陽光で得た余剰エネルギーを上手に活用できるようにしていきたい。」など、今回の対話会を契機に更にエネルギーについて考えて頂ける感想を頂いたことは幸いである。
(3)アンケート結果の詳細は、別添資料(PDF版)を参照下さい。

7.別添資料リスト

(報告書作成:岸 昭正 2023年 2月 23日 )