日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

福岡市民とのお話会
2022年度概要報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)世話役 金氏顯
《対話会場》
政府は昨年末のGX実行会議で原子力再稼動加速、運転期間延長、新増設の検討などと共に地層処分文献調査地域の拡大を、原子力政策とする方針を打ち出した。しかし、高レベル廃棄物地層処分立地は北海道2町村以外の他地域からの文献調査申請はいまだなされず、全国約10か所という目標に程遠い。そこで九州でも一般市民の関心を喚起すべく、福岡市で高レベル廃棄物地層処分にテーマを絞って開催した。
市民との対話会は2018年19年の北九州に続き3回目だが、テーマを放射性廃棄物最終処分に絞っての開催は初めて。従って参加市民の募集には困難が予想された。
そこで、九州のエネルギーを考える会(会長:金氏)から、昨年11月にNUMO学習支援事業を活用して幌延深地層研究センター見学会に参加した石原進様や歴史観光事業で幅広い人脈を持つ井上政典様の協力を得て20名の参加を得た。参加市民は各業界でのオピニオンリーダー的な方々であった。

1.対話会概要

(1)テーマ

高レベル放射性廃棄物地層処分について考えよう~市民と専門家の対話会イン福岡

(2)日時

令和5年1月21日(土)14:00~17:45

(3)場所

電気ビル共創館

(4)協力

九州のエネルギーを考える会(九州エネ会)

(5)参加者

参加市民:20人⇒5グループ
参加シニア(10名)、なおファシリテータは原子力全般専門家が務める。
原子力全般専門家:針山日出夫、岡本弘信、古藤健司、山崎智英、金氏 顯
地層処分専門家:坪谷隆夫、湯佐泰久、出光一哉、野村茂雄、富森卓(NUMO)

(6)プログラム

14:00~14:20 開会挨拶(金氏)、地層処分の情勢(坪谷)
14:20~15:20 講演:高レベル放射性廃棄物地層処分について、講師:九大出光一哉教授
15:00~17:00 5グループに分かれて話し合い

2.開会挨拶と講演

(1)開会挨拶(金氏 顯)

今日は土曜日にも拘らず多くの市民の皆様にお集まりいただき、有難うございます。原子力発電は福島第一事故前は電力需要の約30%を供給し、事故後の現在は約6%ですが、九州は既に電力の約40%を供給、おかげで電気料金は東京などに比べ約30%も安く、原子力の恩恵を最も受けています
一方、原子力稼働に伴って発生する高レベル放射性廃棄物の最終処分場立地の為の文献調査は全国約10か所から徐々に絞り込んでいく方針ですが、マスコミなどで核のごみ、反対派からは迷惑施設と言われ、北海道の2町村以外からの応募がないのが実態です。
今日はこの問題の情勢、放射線被ばくや高レベル放射性廃棄物地層処分について約1時間講演の後約2時間グループ対話をしていただきます。どんな質問でもご意見でも出していただき、この問題をどうしたらよいか活発な対話を期待しています。よろしくお願いします。

(2)最終処分を巡る情勢(SNW会長坪谷隆夫)

最終処分に係るこれまでの日本と世界の主な経緯、GX実行会議(2022年12月22日)の概要と岸田総理の最終処分に関する発言、翌日の第7回最終処分関係閣僚会議後の松野官房長官緒記者会見発言を紹介。(詳細は別添資料参照)

(3)基調講演

「高レベル放射性廃棄物最終処分を考えよう」、講師:出光一哉九州大学教授
前半は放射線に関する霧箱(映像)、放射線計測器による放射能測定、粘土による止水実験、ウランガラス、ガラスや粘土のアナロジーなど大変好評。後半に最終処分の仕組み、科学的特性マップ、3段階の調査、世界の動向など。(詳細は別添資料参照)

3.各グループの対話概要と専門家の所感

(1)Aグループ(金氏、湯佐)

概要
  1. ①学校教育でエネルギー学習のなかに高レベル放射性廃棄物最終処分も教えるべき。
  2. ②高レベ放射性廃棄物の問題は原発利活用の恩恵に浴してきた国民一人一人の問題である、エネルギー安全保障上の重要課題であることの説明。
専門家の所感
金氏:高レベル放射性廃棄物最終処分立地という国家的な大課題に対して、我々の活動はあまりにも小さな草の根活動である。しかし「百里の道も一歩から」、九州から文献調査応募の自治体を!という高い目標を目指し、来年度もSNW/エネルギー会と九州エネ会の活動を皆様と相談しながら継続していきたい。
湯佐:もっと、文献調査に手をあげる地方自治体が増えるべきで、そのための方策について話題が集中した。一つの原発サイトに一つの処分場をとか、都道府県ごとに、電力会社ごとに、少なくとも一か所は手を挙げていくべきで、そのように政府も推奨すべき、との意見は説得力があると感じた。

(2)Bグループ(針山、富森(NUMO))

概要
  1. ①最終処分を進める今が好機であり攻めの姿勢で行動すべきでは。
  2. ②高レベ放射性廃棄物の問題は原発利活用の恩恵に浴してきた国民一人一人の問題である、エネルギー安全保障上の重要課題であることの説明。
  3. ③安全神話の吹聴は逆効果、欧米も参考にしてリスクリテラシーの醸成が課題。
  4. ④NUMOの活動に敬意を表する。ご苦労があっても挫けずにやってほしい。
  5. ⑤最終処分のバリアー「放射線への恐怖・万年単位の安全管理・まずは原発止めよ!の思考停止レトリック」。これらのバリアーを取り除く強力で持続的な支援が必要。
  6. ⑥メデイアの影響力は絶大なので、メデイアとの協調活動が効果的。NHKの責任大。
  7. ⑦政府トップは自治体と協調し、「我が町に処分地を!」といえる環境整備が必要。
専門家の所感
針山:今回は以下の如き得難き報酬を貰ったと感じる。
  1. ①市民の皆さんと「原子力の普遍的価値や地層処分の重要性」を共有した事
  2. ②日本が理性と見識で導かれる一流国であるために我々シニアもまだまだ出来ることがある事を教えて頂きエネルギーを与えて頂いた事
富森:今回の会合は「今すでに存在している高レベル放射性廃棄物の処分を実現するためには」というテーマが明確に示され、参加された方々は皆この問題に対し、真剣なまなざしで議論されているという雰囲気が部屋中に満ちていました。各テーブルの報告内容も、処分場の実現に向けた前向きな発言をお聞きすることができ、私どもの日頃の説明会では得難い、実りの多い会合でした。九州エリアでも是非この調査にご協力いただける地点が現れるよう、NUMOの理解活動に対する皆さまのご支援をお願い致します。
金氏:高レベル放射性廃棄物最終処分立地という国家的な大課題に対して、我々の活動はあまりにも小さな草の根活動である。しかし「百里の道も一歩から」、九州から文献調査応募の自治体を!という高い目標を目指し、来年度もSNW/エネルギー会と九州エネ会の活動を皆様と相談しながら継続していきたい。

(3)Cグループ(岡本、野村)

  1. ①地層処分場の候補地として国有地や無人島を選べないか。複数の処分場もありうる。
  2. ②原発の再稼働が地層処分計画を促すことになるで、規制委員会が力を発揮してほしい。
  3. ③日本の地層技術、鉱山技術は誇れるものであり、黒4ダムや鉄道トンネルの実績から、地下の処分場建設はできるものと、幌延見学時にもそう実感した。
  4. ④地域振興策の提案を行って発信していくことが、地層処分場の実現に向かっていく。近代的な街づくりや新しい技術の産業化など、関係者は夢のある振興策も語るのが重要。
  5. ⑤多くの地域や自治体が文献調査にまず参画して地域振興策の作成に取り組んでほしい。
  6. ⑥国、県、当該自治体、隣接自治体との関係では、住民の思いを大きくするのが第一。
  7. ⑦反対する人をどうするか。プロの目でデベートに強い人で対応すること。何をやっても反対する人がいるが、地元振興が進むと変わるはず。
専門家の所感
岡本:地質調査を徹底して堅固な地層処分システムを目指して、技術開発者は存分に力を発揮してもらい、地層処分場の実現を目指すことが、原子力関係者の責務であると改めて思った福岡での対話会でした。
野村:最終処分場応募への力強い支援者であり、こうした市民の代表格のメンバーは、今後も大切にお付き合いすべきと思いました。今がチャンスであり、関係者はしっかり対応しろ、との激励を頂いた。

(4)Dグループ(古藤、出光)

概要
  1. ①幌延深地層研究センター見学会に参加された市民の方からの報告と感想:想像以上に立派な施設であったとのことと参加者の懇親が大いに盛り上がったとのことであった。
  2. ②出光教授の講演・実演内容についての質疑とそれに対する追加の説明、特に放射能と放射線の人体への影響が話題。例えば、「富士山の天然水」や「阿蘇の天然水」など、岩盤地層を長い年月をかけて流れてきた伏流水を飲料水としていること、福岡にはラジウム・ラドン温泉がある、医療の現場では(昔は)RIトレーサーやX線の取扱いが往々にして乱暴であったりもしたが、放射線障害で問題となった事例は特に聞かない、歯科医師の方の貴重なお話が聞けた。
  3. ③一般産業廃棄物処理ではリサイクルが盛んに行われるが、原子力廃棄物処理ではどうなのか?また、原子炉の耐用年数はどのように決まるのか、最近の話題として「小型炉」のメリット・ディメリットは?など、原子力全般の話題にも及んだ。
  4. ④高レベル放射性廃棄物地層処分立地の問題においては、一般の人々の放射能・放射線の人体への影響への知識・理解がまだまだ足りないところにあるのではないか?「安全だ!と言われても安心できる知識がない!が現状?」がグループ対話の暗黙の認識と思われた。
専門家の所感
古藤:参加された方々は原子力発電推進に理解ある市民の皆さんでありましたので、地層処分推進を盛り上げる決起集会の様相を感じました。本来のミッ ションは、地層処分への理解が乏しい市民の方々へ「安全」で「安心」できる最終処分法であることを一人でも多く認識してもらうことですので、難しいことですが、原子力発電・地層処分に対して斜に構えている一般の方々との対話にも精進しなければと感じました。その人達との目線の合った対話を心がけること、まだまだ勉強です。
出光:参加されている方の意識が高く、手応えのある対話会であった。

(5)Eグループ(山崎、坪谷)

概要
  1. ①高レベル放射性廃棄物は六ケ所村で処分することができないのか。また、幌延深地層研究センターで処分のための地下施設を理解活動にもっと有効に利用すべきである。
  2. ②地層処分のプロセスで首長の同意が必要であるが、首長の同意は、個人が攻撃される可能性があるため、決定は国が行うべきである。
  3. ③原子力が怖いという人たちは、知識不足であり勉強していただきたい。このためには事業者もしっかり情報を発信する必要がある。
専門家の所感
山崎:今回の対話会は、学生との対話会と違い、論点が明快であり、また参加者の方も問題点を理解していた。地層処分のプロセスも首長ではなく国が行うべきとの意見もあり、非常に頼もしく感じた対話会でした。
坪谷:「高レベル放射性廃棄物はいたずらに怖がるものでないことがわかった」、この一言は、グループ対話の成果を物語ると思いました。SNWの多くの対話会の参加者が学生中心であることと比べて、処分地選定プロセス、廃棄物中の放射能低減など多岐にわたる疑問や質問が出ました。参加の皆さんが日常的に活動をされている方々であることが、多様で活発な意見交換が出来る背景にあるように思います

4.各グループ発表、市民代表者の感想

各グループの二人のシニアからそれぞれ対話の概要を発表した。
市民を代表して、Bグループの石原進様(元JR九州会長)より、原子力再稼働の重要性と新増設の必要性、その為には最終処分の立地が必須であることは論を待たない、昨年幌延深地層研究センターを見学し技術的に可能であり迷惑施設ではなく地域の発展に貢献するものと確信し、今日のグループ対話は活発な議論で効果的だった等、力強く語っていただいた。

5.参加市民の事後アンケート集計結果の概要

20人全員から回答を頂いた。自由記述のみを下記に紹介する。
<本日の対話会全体について>
専門家の方からの教えや質問への回答など、自分だけでは得ることのできない知識や考え方を得ることができた。
普段、女性同士でこのような会話をすることがほとんどないので、今日はいろいろな話を聞くことができ良かった。
自分の知らないこと(日本国の政治背景、国民性など)、問題であることを身近に感じた。
問題点と解決策が見えたが、時間がかかることも理解できた。
技術的には何も心配していないのであとはどう周知するのかが問題
<本日の会に参加した感想など>
放射性廃棄物の処分方法について、今まで怖がっていたほどではないことが分かった。
誰かが行動しないと、解決できないことが分かった。
電気代が上がって庶民の関心が高まっている今こそ、技術者がもっと主張すべきである。
地域発展を強く願う気持ちを知る機会となった。
地層処分の正当性・安全性については、メディアも含めた国民への教育が必要だ。
<本日の対話会の企画などの改善点について>
時間配分などがよかった。意外と時間が足らなかった。
学生など若い方にも参加してほしい。
次回は、反対派の人達にも入ってもらい、どんな議論になるか体感してみたい。
<その他の自由記述>
原子力発電は必要、放射性廃棄物についても国民全体が自分事のように考えた方がよい。
国が決定権を持つことにより、知事、自治体の長が個人的に攻められる状態をなくす。
次世代が、ごみを宝物に変える技術を生み出すことになるかもしれない。
高レベル放射性廃棄物の名前をプラス思考になるような名前に変えるべき。

6.別添資料

詳細報告書
最終処分を巡る情勢(SNW坪谷隆夫会長)
基調講演「高レベル放射性廃棄物最終処分を考えよう」(九州大学出光一哉教授)
事後アンケート結果集計