日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話
in富山高専 2021報告

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)・大野崇
富山高専 本郷キャンパス風景

昨年度(2020年度)に続き2回目のオンラインでの対話会が開催された。学生は、本科で電気、機械、物質化学を学び進学したエコデザイン専攻科の30名が参加した。エネルギーを取り巻くカーボンニュートラル、再生可能エネルギー、原子力等について何が問題なのかについて議論した。学生はよく勉強し知識もあり、問題意識も高い。対話前は、原子力なくしても再エネで対応可能の考えが多く見られたが対話後は、再エネは万能なエネルギーはないこと、原子力はやはり必要であることを理解したようでエネルギーミックスの重要性を認識してもらえた。また、社会経験を積んだシニアとの対話は授業では得られない新鮮な話として価値があると受け入れてもらったことは、我々の活動もそれなりの価値があることを認識できて今後の励みとなった。

1.講演と対話会の概要

1)工学系専攻科の学生とエネルギーのあるべき姿について議論した
昨年度に引き続き2回目の富山高等専門学校(富山高専)との対話会が本郷キャンパスで開催された。高田先生のエコデザイン工学専攻科(大学3年相当)授業の一環として実施させていただいたもので、30名の学生が参加した。学校側は対面授業環境に戻っていたが、コロナ禍の影響でシニアはオンライン(Microsoft Meats)で参加した。授業ではエネルギー・原子力を学んでおり、対話は話題性を持ったものとして欲しいということで、エネルギーを取り巻く課題としてカーボンニュートラル、再生可能エネルギー、原子力を中心に対話を行った。学生は事前Q&Aで内容を勉強した上で臨んでおり積極的な姿勢が感じ取られ対話は深堀した内容となった。事後アンケートからも学生は対話会を好意的にとらえ、授業では得られない新鮮なものを感じていたようである。
原子力発電について学生(30名)の事前意見集約によると、肯定的(現状維持、現状より増加)が40%、否定的(順次廃炉、他電源への切り替え)が60%であったが、アンケート結果では、肯定的(必要、削減撤退すべきでない)が87%、否定的(削減撤退)が10%、わからないが3%と大きく変化した。
対話前は、原子力なくしても再エネで対応可能の考えが多く見られたが、最後のグループ発表を見ると再エネは万能なエネルギーはないこと、原子力はやはり必要であることを理解したようでエネルギー政策の重要性を認識し、我々の活動もそれなりの価値があることを示すもので励ましとなった。
2)日 時
5月17日(月):講演資料(FINL)を送信
6月10日(木):学生からの事前質問入手
6月19日(土):シニア回答を送信
7月 8日(木):13:00~16:15:対話会開催
3)場 所
富山高専 専攻科棟 講義室1、2
主催者:富山高専 電気制御システム工学科 高田英治教授
4)参加者
富山高専;高田教授
学生:30名(エコデザイン専攻科)(本科学科 電気13名、機械8名、物質化学9名)
シニア:10名:松永一郎、早瀬佑一、小野章昌、大野 崇、坪谷隆夫、早野睦彦、若杉和彦、齋藤伸三、櫻井三紀夫、石井正則
5)講演
講演者名:大野 崇
講演題目:エネルギーを取り巻く課題-カーボンニュートラル、再生可能エネルギーと原子力-
講演概要:先生とも相談の上、いまのエネルギーを取り巻く話題テーマとしてカーボンニュートラルを取り上げ、実現のためのイノベーション、再生可能エネルギ-は万能か(ドイツの失敗例)、原子力の安全性向上について総括的な説明がなされた。なお、講演資料は事前に配布され、学生の事前質問を受けることで深堀した対話が成立した。

2.対話会の詳細

(1) グループ1(松永)

1)参加者
学生:6名。
シニア:早瀬佑一、松永一郎(ファシリテータ)
2)主な対話内容
学生からの下記質問事項に対してシニアから説明
  1. ①原子力発電サイトを津波の来ない場所に建てられないか
  2. ②カーボンニュートラルに必要な原発数
  3. ③大気中メタン濃度の上昇割合が近年停滞している理由
  4. ④福島第1原発処理水の海洋放出の妥当性
  5. ⑤想定外の事故が起こった際の対策
  6. ⑥原子力発電の安全対策と火力発電等の安全対策数の違い
上記および基調講演に関する学生からの追加質問
  1. ①CCUS付き火力とあるが、CO2を貯める場所はあるのか←現状ではない。世界的に見ても原油の採掘跡等に限られている。現実的には火力発電に付けるのは非常に困難
  2. ②地震、津波に関して歴史上のことをどれだけ調べているのか←貞観地震や東南海地震については調べている。歴史がなくても、様々な予測計算で最大震度を予測する。
  3. ③新規制基準で「設計基準が強化され、外的事象に対する考慮を拡大」とあるが、事故前はどうだったのか←旧規制基準では事故は規制対象となっておらず、電力事業者の自主規制として対策をおこなっていた。
シニアから「志賀原発を見学したことが有るか」と質問。電気専攻の2名が見学したことが有り、高田先生からの事前質問に「原子力の増設・建て替えで発電量を増やすべきである」に丸を付けていた。重ねて原発と六ケ所の見学を推奨しておいた。

(2) グループ2 (大野)

1)参加者
学生:6名
シニア:小野章昌、大野 崇(ファシリテータ)
2)主な対話内容
学生からの下記質問事項に対してシニアから説明
  1. ①小型炉を増やした場合事故発生頻度が増えるが安全基準や品質管理で強化されているか➡事故はゼロにはできないが減らすことはできる。このための対策は従来炉も小型炉も同じ。
  2. ②産業部門のカーボンニュートラルで材料の非化石燃料化とは何か➡化学産業ではプラスティック材料を人工光合成技術により作る新技術に取組んでいる
  3. ③原子力発電に対する賛否の世論動向はどうなっているか➡懐疑的意見が50%を占める。推進が10%。即撤廃和割合は減ってきている。これからの発電方法はどうあるべきか➡エネルギーは安定供給が第一。停電させるような方法は不可。世界では石炭火力を必要とする国が多いことも考える必要がある。
  4. ④事故後の原発は再び使えるか➡事故を起こした福島第一発電所や隣接の福島第二発電所は無理であるが、リプレース(建て替え)や敷地拡張による新設による使用が現実的。
  5. ⑤原発は今後発展していくと思うか➡人類が手にした良質なエネルギーで発展していく。太陽光・風力はカーボンフリーであるがエネルギー密度、不安定電源という点で劣る。
学生からの下記追加質問事項に対してシニアから説明
  1. ①2050年度の電源構成割合についてシニア両人はどうあるべきと考えるか➡エネルギーミックスの観点から、火力:原子力:再生=1:1:1(大野)、安定供給の観点から、原子力50%、再エネ30~40%、火力20%(小野)
その他
用語の理解等、講義や課外授業でエネルギー・原子力の知識は一定レベル習得していると感じられたが、エネルギーに関する最新の動きはマスコミ情報の域を出ず、事前質問から化石燃料・原子力否定、再エネ傾斜の傾向が見られた。我々の話は初めて聞くという新鮮さをもって受け止められ、対話会は積極的な発言と質問により目的を達することができた。グループ発表からも我々の話を正確に理解していた。この対話会が人生の一コマになってもらえることを期待する。

(3)グループ3 (坪谷)

1) 参加者
学生:6名
シニア:早野睦彦、坪谷隆夫(ファシリテータ)
2)主な対話内容
グループ対話は、80分が充てられた。アイスブレーキングの後、30分を基調講演について聞いておきたいこと、25分を配属された6名の学生から事前にもらった聞きたいことについてシニアが分担した回答を実施した。脱炭素政策について話題が集中したが、電気自動車と脱炭素の課題について、これまでは燃費(いわゆるtank to wheel)が問われることが多い自動車の評価から今後は折角の電気自動車も、その電気を作る際にどのくらい炭酸ガスが発生させているのか問われる(いわゆるwell to wheel)時代になるなどを紹介し学生に課題を提供した。最後に学生の聞きたいことの中から原子力発電所のテロ対策について学生の考えをフリーに発言をしてもらった。
学生のグループ発表を聞いて、対話時には大変物静かであったがグループ対話が参加学生のエネルギーや原子力発電について大変前向きな問題意識を持つ機会となったようであり、大変喜ばしい限りであった。

(4)グループ4 (若杉)

1) 参加者
学生:6名
シニア:齋藤伸三、若杉和彦(ファシリテータ)
2)主な対話内容
学生からの下記質問事項に対してシニアから説明
  1. ①原発の安全性を国民や地域の方にわかりやすくアピールする工夫はされているか。
  2. ②小型炉は経済性が理由で実用化されていなと納得していいか。
  3. ③日本がこれから導入していく再エネはどのようなものが良いのか。
  4. ④原発の安全対策としてミサイル攻撃も考慮すべきと思うが、どのようなものがあるか
  5. ⑤今後の日本でどの再エネ発電が一番実用的だと思うか。
  6. ⑥100年後の発電方法は今に比べてどうなっていると思うか。
世間で期待されている再エネの可能性について学生の意見を聞いた。再エネがCNに効果的であることは理解するものの、問題点が多いことも認識したようであった。
後の学生の発表ではグループ4は、“シニアが取り組んできたものを引き継いで時代の要請に応えたバランスの良い発電が必要”と締めくくった。

(5) グループ5 (櫻井)

1) 参加者
学生:6名
シニア:石井正則、櫻井三紀夫(ファシリテータ)
2) 主な対話内容
学生からの下記意見に対してシニアから説明
意見1:原子力は現状維持 <―>質問:将来エネルギーに携わらない人はどういう行動を取ればよいか?
意見2:原子力を増加<->質問:小型炉の出力規模は? 意見3:原子力は寿命で廃止<->質問:SMRの実現性は?過去の大地震で大津波の予測はできたのでは?
意見4:他の電源の増加に応じて原子力を廃止<->質問:なぜ津波高さを10mとしたか?原子力がどうなるのが理想と考えるか
各自の意見と質問を対応させてみると、原子力に肯定的な人は将来に向けた動向に関心があり、原子力に否定的な人は過去の事例を問題視する傾向にあるように見受けられ、それは当然のことであり、かつ、一般の人も同様であろうと考えられる。
提起された追加質問に対しシニアから説明
  1. ①再稼働しているのはPWRばかりだが、BWRは何か差があるのか?
  2. ②放射性廃棄物の処分場の問題は進展するのか?
  3. ③気候サミットの目標は実現可能か?
  4. ④将来のエネルギーについて再生可能エネルギー中心でやっていけるのか?
  5. 水素の可能性はどうか?
  6. 小型炉の実績はどの程度あるのか?
  7. 小型炉を多数並べて大規模発電所にするのは、大型炉と比べて安全性が高いのか?
その他
対話の中で、最近のエネルギー分野で使われている略号が多数飛び交ったが、学生達はエネルギー分野を専門としているわけではないので、略号が通じなかったものがいくつかあると感じられる。例えば、CCUSは、Cu(銅)とS(イオウ)にCO2を吸収させる、と受け取られたことが分かった。このような点は、シニア側でさらに意識を高めて注意して行かなければならないことだと感じる。

3.参加シニアの感想

報告書本文を参照ください

4.学生アンケートの集計結果

報告書本文を参照ください

5.学生アンケート結果のまとめと感想

アンケートは学生のバックグラウンドを知った上で今回の対話会による意識変化の程度を知るために実施している。
バックグラウンドとしては高田先生が日ごろ指導されていることもあってか世の中一般の学生よりもエネルギー問題や原子力問題について知識があり、問題意識も高いようである。また、エネルギー問題に限らず年金問題、少子化問題など日本が抱える課題についての問題意識も持っていて真面目な学生が多いと思われる。
その上で、アンケート全体からの感想を総括すると再生可能エネルギー、原子力についてある程度の知識はあったもののやはりメディアによる影響が大きいようである。基調講演、対話を通じてより認識を深めることができたとの意見があり、また原子力に係って社会経験を積んだシニアの意見は価値があると受け入れてもらったことで、我々の活動もそれなりの価値があることを認識できて今後の励みになった。

6.別添資料リスト

(報告書作成:令和3年7月)