日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話
in静岡大学2021報告概要(前期)

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)・若杉和彦
静岡大学静岡キャンパスと富士山

参加学生の専門性に配慮して、講演では放射線利用をやや詳しく解説し、講演後 の対話では再エネ推進に対する課題や将来のエネルギーミックス等を中心に質 疑応答した。対話会前に講演資料を学生に配信し、学生は質問や意見をシニアに 提出した。この準備により深堀した効果的な対話が出来た。今回は学校側の希望 により対面方式の対話としたが、マスク着用・三密回避等コロナ対策に万全を期 した。

1.講演と対話会の概要

1)理学部修士1年生とエネルギ政策のあるべき姿について議論した。
2011年以来長らく途絶えていた静岡大学における対話会を2021年7月5日(月)に開催した。参加学生は理学部大矢恭久准教授の「放射線利用分析特論」を受講する修士1年生 6名。大学側の希望に沿い対面方式としたが、コロナ対策に必要な措置を講じて万全を期した。
対話会に先立ち、講演資料「放射線利用・放射能分析と原子力発電・エネルギーミックス」を学生に配信し、学生は資料内容を勉強し、質問や意見をシニアに提出した。講演は質問項目に対する回答も織り込んで行なった。対話会では学生の質問や意見を中心に意見交換を行い、深堀した効果的な交流を行うことができた。
事後アンケートには、学生のほぼ全員が講演と対話会を共に”とても満足”、対話会の必要性を”非常にある”、”友達や後輩に対話会への参加を勧めたい”と回答した。日本のエネルギー政策に関しては、大多数が原子力発電の必要性を理解しているが、1名が”どうすればいいかよく分からない”と答えた。
理系の学生は、理工学の知識だけでなく政治や経済を含む社会科学にも関心を持つべきである旨シニアから助言した。この対話会が次世代を担う学生のリテラシー形成に役立つことを願っている。
2)日 時
5月27日(木):講演資料(齋藤伸三作成)を学生に送信
6月21日(月):学生からシニアへ質問又は感想の返信
7月5日(月)12:45~16:00:静岡大学にて対話会開催
3)場 所
静岡大学理学部A棟2F大会議室(静岡市駿河区大谷836
主催者:静岡大学 学術院理学領域 大矢恭久准教授
4)参加者
静岡大学:大矢恭久准教授
学生:6名(「放射線利用分析特論」を受講する理学部修士1年生、うち1名は女性)
シニア:4名:齋藤伸三、坪谷隆夫、湯佐泰久、若杉和彦
5)講演
講演者名:齋藤伸三
講演題目:放射線利用・放射能分析と原子力発電・エネルギーミックス
講演概要:学生の専門性に配慮し、教員とも相談の上、講演内容を放射線や原子力発電利用の現状並びにエネルギーミックスのあり方に絞った。特に後半では、日本が今抱えているエネルギー問題を、経済性・安定供給・環境への適合・省エネ・技術開発の諸観点から総合的に解説した。なお、講演資料を事前に配布し、学生の質問を講演に反映させた。

2. 対話会の詳細

(1) グループ1(湯佐)

1) 参加者
学生:理学部修士課程1年生、「放射線利用分析特論」受講生3名。
シニア:斎藤 伸三、湯佐 泰久(ファシリテータ)
2)主な対話内容
まず初めに簡単な自己紹介を行った。学生は無機化学専攻2名と生化学1名で、2名が就職希望で1名が進学希望との事である。(なお、出身は2名が静岡県内(静岡市と県中部)で、1名は県外(兵庫県)である。)
少人数の対面のせいか、フランクな雰囲気で時間通り、意思疎通ができた。
まず、基調講演の内容についての追加質問がないかと尋ねたが、良く分かった、まったくないとの事であった。
事前で得た放射線利用や再生可能エネルギーについての質問についても、基調講演でのパワーポイントによる詳しい説明で、良く分かったとのことであった。
学生から「太陽光発電パネルの設置により山崩れが起こっている」と問題提起があり、皆で議論した。地理条件の劣悪さを無視した営利目的で安全対策軽視のケースも増えているので、住民も積極的に監視活動するとともに、各市町村も条例を制定し規制すべきであるとの意見でまとまった。
脱炭素政策としては再生可能エネルギーを過剰に依存しすぎているのでは、との意見がでて討論した。やはり原発は必要であるが、社会に受け入れてもらうことが困難である。そのためには、正しい知識の教育が必要であり、まずは、理系の皆さんが真剣に考え、発信して欲しいとのシニアの意見があった。
学生3名とも理系の大学院生でもあり、原子力については必須のエネルギーであるとの認識で、如何にこれを一般国民に広めるかを議論した。義務教育でしっかり教える、教員も正しい知識を持つべきである、マスコミには文系が多いので注意が必要である等々の意見が出された。
学生は、エネルギー、原子力問題について大いに関心を持っている事が分かった。3名ともに理学系の大学院生で、正しい知識を持とうとする姿勢がうかがえた。そのため、再生可能エネルギーの現状・原発の必要性・今後の課題などについて具体的に意見交換できた。
(シニアとして)、これからのエネルギー確保は次世代に大きく影響を及ぼす極めて重要な課題であるので、今後も真剣に考えて欲しいと感じた。

(2)グループ2 (若杉)

1)参加者
学生:出身学科・・・「放射線利用分析特論」を受講する修士1年3名(物理コース1名、化学コース2名)(うち女性1名)
シニア:坪谷隆夫、若杉和彦(ファシリテータ)
2)主な対話内容
学生からの下記事前質問に対してシニアから説明
  1. ① 現在の廃炉後の状況、特に放射性廃棄物はどのように処理していくのか。
  2. ② 今後の原発の伸びが予想される理由として、中国やインド等経済成長が著しい地域人口増加に伴う電力需要増加が背景にあると考えてよいのか。
  3. ③ 各国の太陽光導入量について、中国が突出して多いが、この背景には何があるのか。
  4. ④ 放射線を利用した害虫駆除で蚊の根絶も行われているのか。また、放射線でウィルスも殺滅できるのか。
上記および基調講演に関する学生との主な対話
  1. ① 政府の脱炭素政策カーボンニュートラルとそれを実現させるための困難な課題について意見交換した。このような社会意思決定が難しい課題では政権に科学顧問を置いている米国や英国の例を挙げ、科学的な根拠に基づく政治の強いリーダーシップが必要であることに触れた。
  2. ② 原発事故の影響を受けて現在社会が抱えている問題、特に一般の理解を得るための方策について意見交換した。明解な答えはないが、放射線教育等時間をかけても取り組む必要がある。
  3. ③ エネルギーミックスが安定的電力供給に必要な理由を説明した。学生は再エネの問題点や限界も理解したようであった。社会のエネルギー問題に関しては、理工学に関わる知識とともに政治や経済を含む社会科学にも関心を持つ必要がある旨話した。

3.参加シニアの感想

報告書本文を参照下さい

4.学生アンケートの集計結果

報告書本文を参照下さい

5. 学生アンケート結果のまとめと感想

1) まとめと感想
対話会参加者(回答者)は6名で、全員が理学部大学院修士1年であった。
今回は対面であった。順調に時間通り、意思疎通ができた。
日本のエネルギー自給率についてほとんどが「だいたい知っている」とした。
講演・対話ともに、ほとんどが「満足し、聞きたいことも聞け、新しい知見が得られた」とした。特に、「対面なので質問しやすく、分かり易く説明して頂いた」との意見があった。
6人中5名が「対話の必要性がある」とし、全員が友達などに「参加を勧めたい」とした。
放射線・放射能について、全員が「一定のレベルまでは恐れる必要はないと以前から知っていた」と答えた。これは全員が「放射能利用分析特論」の受講生であったからと考える。
また、6人中5名が、「原発の必要性の認識は強い、または、変わらない」としていた。これらの知識・認識の高さが、初歩的な議論ではなく、放射線利用や、再生可能エネルギーの現状・原発の必要性・今後の課題などについて具体的に意見交換できた理由と考える。

6.別添資料リスト

(報告書作成:2021年11月3日)