日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話
in長崎大学2021報告概要

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW) 古藤健司/補佐:金氏 顯
長崎大学 文教キャンパス

本年度(2021年度)も昨年に続き、コロナ禍のため、基調講演・対話会をWEB会議方式(ZOOM)にて開催した。参加学生は大学院工学研究科総合工学専攻博士前期(修士)課程の15名の院生であり、特別講義「環境・エネルギー・資源特論」の一環として4コマを担当させていただいた。対話会への導入として、基調講演1では原子力発電の基本事項について、講演2では現在検討されているエネルギー政策についての解説・問題点を講義し、学生のエネルギー全般に対する興味を喚起することにした。基調講演において得られた知識・情報は一般的な原子力・エネルギー問題への疑問には十分に答えられていると思われたが、学生諸君からは更に機微な質問を受けることができ、シニアとの議論の場:対話会が有意義な形で成功裏に終了した。

1.対話会の概要

1)「環境・エネルギー・資源特論」を受講する電気・機械・情報・社会環境系の修士学生15名と対話した。
昨年に引き続き長崎大学大学院工学研究科総合工学専攻博士前期(修士)課程の特別講義「環境・エネルギー・資源特論」(1単位8コマ)の一環として後半4コマを担当させていただき、SNW対話会を実施させていただいた。
コロナ禍の状況にあり、基調講演・対話会は学生側もシニア側もZOOMによる完全なオンラインリモートにて実施した。特論受講生は院生1・2年生が20名以上であったが、対話参加者は留学生を含む15名であった。
基調講演を2コマ:日を変えて2回に分けて実施した。対話会への導入として、講演1(対話会の1か月前)では原子力発電の基礎知識と諸問題とその対応、講演2(対話会当日)では世界及び我が国を巡るエネルギー事情と今後の政策について論じた。
講演資料は事前に参加シニアと大学側担当者(事務:大久保氏)へ送り参加学生へ配信していただいた。
次に、当初の参加予定者16名であったので、4つの対話のテーマを提案し、対話グループを4グループに分けてもらい、各グループがテーマを選択することを大学側にお願いした。一方、参加シニア9名を旧所属や専門を考慮して4グループに担当を分けた。
各グループの質問をシニア側の各グループが受け、回答書を準備し(対話会の1週間前までに)学生側に送付した。
当日は基調講演2の後の2コマの内の約2時間を各グループでの学生-シニアの対話会を実施し、その後の30分を学生の各グループの「まとめとプレゼンの準備」にあてた。
最後に学生各グループの発表とシニアの講評で締め括った。
基調講演において得られた知識・情報は一般的な原子力・エネルギー問題への疑問には十分に答えられていると思われたが、学生諸君からは更に機微な質問を受けることができ、シニアとの議論の場:対話会が有意義な形で成功裏に終了した。
2)日 時
8月24日(火):3限目(12:50~14:20)基調講演1開催(リモート)
9月24日(金):3限目(12:50~14:20)基調講演2開催(リモート)
同 上    4~5限目(14:30~17:40)リモート対話会を開催
3)大学の授業科目
長崎大学大学院工学研究科総合工学専攻
授業科目:環境・エネルギー・資源特論
科目責任者:山下敬彦 教授
4)参加者
長崎大学総合生産科学域事務部西地区事務課大学院係(工学研究科)事務職員
大久保様、森様
院生15名(総合工学専攻博士前期(修士)課程)
2年生:8名(機械系5名、電気系1名、情報系1名、社会環境系1名)
1年生:7名(機械系2名、電気系2名、情報系1名、社会環境系2名)
シニア9名:金氏 顯、石川博久、松永一郎、松永健一、中村 威、大野 崇、梶村順二、古藤健司、野村眞一
6)基調講演
講演者:古藤健司
講演題目(1):原子力発電について~固有安全性、核燃料サイクル、高レベル棄物処理処分~
講演者:金氏 顯
講演題目(2):世界及び我が国のエネルギーの現状と将来~2050年カーボンニュートラルと原子力の役割~
講演概要:科目責任者の山下教授とも相談し、基調講演の題目と内容を吟味した。講演1として、原子力発電についての正しい知識:基本的な事柄を知ってもらい、講演2では、現在検討されている「第6次エネルギー基本計画」を中心とする話題性のあるトピックスに焦点を当て、エネルギー全般に対する興味を喚起することにした。両講演を通じて、日本のエネルギー政策に占める「原子力」の位置付けが浮かび上がるよう考慮した。

2.対話会

(1)グループA(報告者:石川博久)

1)参加者
学生:総合工学専攻 2年 機械2名、1年 機械・電気各1名
シニア:金氏 顯(ファシリテータ)、石川博久
2) 主な対話内容
グループAのテーマ:2050年カーボンニュートラルへ向けた我が国と各国のエネルギー政策とその展望を考える(高レベル放射性廃棄物処分を含む)
学生からの下記事前質問に対してシニアからの事前の回答は学生が事前に読んでおり改めて説明は行わなかった。
◎カーボンニュートラル(CN)関係
  1. ①現在のカーボンニュートラル賛同国だけでどのくらい環境に影響を及ぼすか
  2. ②温室効果ガスを吸収するための植林の効果について
  3. ③再生可能エネルギーが主力電源となるための電力は確保できるか
  4. ④原子力発電の社会的信頼はどのように回復していくか
  5. ⑤各国のエネルギー政策について最も進んでいる国および有用な政策について
  6. ⑥今までの脱炭素化の実績について
◎高レベル放射性廃棄物地層処分関係
  1. ⑦高レベル放射性廃棄物が環境や住民の生活にどのような影響を及ぼすか
  2. ⑧地層処分でどのような土地が選ばれるか
  3. 選定する上で重要な要素は何か
  4. ⑨地層処分についての安全性や今後考えられる危険性、その対策について
シニアから学生へ問いかけを事前に送っていたのでこれらに関して次の様に双方向対話を行うことができ、非常に効果的で良い対話会になった。
  1. ①発展途上国がCNに熱心に取り組む方策について意見交換し、CNに取り組むメリットを提示するとともに、学生からは技術支援、資金援助、人材育成、国家インフラの形成支援などで促進することがあげられた。
  2. ②CO2削減目標の2030年46%については、全員が達成困難との意見であった。また、数値の根拠も明確でなく再エネ増加の困難さが全員で認識された。
  3. ③日本の最新技術を海外に供与することでCO2を削減することの有効性は共有できた。その削減分は日本の削減にカウントされるのであればメリットがある。
  4. ④原子力の信頼回復については、学生から正確な情報の発信、賛成と反対する人の間での議論の公開、SNSの活用、国際機関からの提言などがあげられた。
  5. ⑤地層処分について一部の学生は地上保管が良いのではないかとの意見がでたが、地上保管は災害やテロの脅威などで長期的には安心できないのではないかと説明し納得した。また、風評被害についても意見交換し議論した。
  6. ⑥仮に自分の故郷が文献調査に応募するとした場合、多くの学生が応募については賛成し、交付金をもらうことも妥当だと思うとの意見であった。
3)グループAの学生からの事前質問に対するシニアの回答
グループA回答書(PDF)を添付する。

(2)グループB(報告者:松永健一)

1)参加者
学生:総合工学専攻 2年 機械・電気各1名、1年 電気1名(全て男性)
シニア:松永一郎(ファシリテータ)、中村 威、松永健一
2) 主な対話内容
グループBのテーマ:2050年カーボンニュートラルへ向けた我が国と各国のエネルギー政策とその展望を考える(脱炭素化に向けた「電源構成」“ベストミックス”など)
学生からの下記事前質問に対してシニアから説明
  1. ①日本では2050年CN達成に向けて、再エネや水素など多くの技術開発が進んでいますが、最もその達成に向けて大きな切り札となる技術は何か。
  2. ②世界では120以上の国と地域が2050年CNに賛同していますが、今後世界的に取り組む上での問題点とは何か。
  3. ③グリーン成長戦略における電気自動車の完全移行は国内自動車メーカーやガソリンスタンドの経営などの観点からも本当に実現するのか、また実現のために政府が執り行うべきことはなにか。
  4. ④需給バランスの保つようにしか、発電しないのではなく、優れた蓄電池 を開発することで電力不足は解消されないのか。
上記および基調講演に関する学生との主な対話
  1. ①「切り札」の意味、それを考える観点や優先度などを議論した後に、国際機関が2050年CNへの貢献が大きいとする技術(エネ効率向上、再エネ、CCS、燃料転換、原子力の順)等を情報交換して、再エネに頼るだけの将来リスクや再エネを増やすだけでは非現実的であることを認識した。
  2. ②2050年CNの賛同国が少ない理由、発展途上国や後進国が抱える問題、炭素税や二国間クレジット活用の問題を意見交換した。関連用語を知らない学生もいて、新たな認識が生まれたものと思われる。
  3. ③EV、FCVの早期導入を目指す欧米の方針の裏には、日米欧の競争力の戦いがあることを認識した。水素エンジン車も選択肢とするトヨタの「敵は(日本が競争優位にある)内燃機関ではない」「EV一辺倒の潮流に対し水素エンジン車への選択肢を広げることは日本の雇用を守るため」に注目して意見交換した。
  4. ④電力の安定供給のための予備力の必要性、再エネのリスク、電力貯蔵技術の参考例(大容量蓄電池システム、世界最大の米国蓄電池開発研究、九電豊前発電所の実証試験、次々世代電池、EVの電池)について説明し、国内での技術模索の状況や蓄電池を開発・利用する上での単純ではない課題を認識した。
3)グループBの学生からの事前質問に対するシニアの回答
グループB回答書(PDF)を添付する。

(3)グループC(報告者:梶村順二)

1)参加者
学生:総合工学専攻 2年 情報・社会環境各1名、1年 情報・機械各1名
シニア:大野 崇(ファシリテータ)、梶村順二
2) 主な対話内容
グループCのテーマ:原子力発電のリスク“安全安心”を考える(原子力発電の再稼働への安全対策と今後の課題などを含む)
学生からの事前質問を中心に以下について深堀対話を行った。学生の積極発言により活発な対話が形成された。
  1. ①1F事故は何故起こりその安全対策は
    学生事前Q:どういう津波対策がとられたのか。再稼働できた原発とできない原発に違いはあるのか。事故は防げたのか。チェルとの違いは。
  2. ②住民の信頼を得るにはどうしたらよいか
    学生事前Q:どうやって地元住民の理解を得たら良いか。諸外国でも反原発運動はあるのか。
  3. ③今後の再稼働、新設の見通しは
    学生事前Q:今後の原発再稼働、新設はあるのか。再稼働するための条件は。原発がなくても電力は賄えているが。
  4. ④正直原発は危ないと思うか(Free Discussion)
上記に関する学生との主な対話
  1. ①女川は事故を免れ1Fは事故に至った。敷地高さの相違ということであるが、1Fも高い津波を想定して設計していれば事故は防げたのではないか。 →地震学会、識者、規制も含め、誰もこれだけの津波が起こるとは思っていなかった。起こらないものにコストは掛けられないのでそこに事故が忍び寄った。1F事故後は、事故は起こることを前提に安全対策をとるという考えに立ち、津波に対しても防潮堤、浸水扉の対策の多様化を図った。
  2. ②地元の理解が再稼働条件となったということであるが、川内や玄海など地元の理解を得て再稼働した原発と柏崎などなかなか地元の理解が得られない原発では何が違うのか。 →九州・四国などでは原発は自分たちの電気を作っているというMy Plantという意識があり、また、地元雇用や地元経済に恩恵を得ていることもあり協力的である。福島・新潟は原発の電気は首都圏に送られているのでなんで東京のために自分たちが負担するのかという意識がある。雇用や経済で地元は恩恵を受けているが県全体としての理解がなかなか得られていないというのが実情である。
  3. ③今後さらなる再稼働や新設はあると思うか。再稼働にはお金がかかるのではないか。 →ヨーロッパは電力網により相互電力融通が確立、米国はエネルギー資源が豊富であるがこういう状況に日本はない。第6次エネルギー基本計画は、主力電源を再エネに頼ろうとしているが、コスト、不安定電源の面で無理がある。準国産で安定的な原子力は欠かせない。早く国民の理解を得て再稼働、新設を急がないとカーボンニュートラルは達成できない。 →二度と事故を起こさないための安全対策費に~2千億円/プラントぐらいかかっているが減価償却が済んでいるので電気料金は高いものとならない。新設は、最初から安全対策を考慮して建設するので高いものとならない。
  4. ④正直原子力に不安を感じますか。(シニアQ) →長崎という関係から放射能というイメージが付きまとう。しかし、今日の話もそうであるが、エネルギーという点で原子力の必要性は理解する。(学生全員)
3)グループCの学生からの事前質問に対するシニアの回答
グループC回答書(PDF)を添付する。

(4)グループD(報告者:野村眞一)

1)参加者
学生:総合工学専攻 2年 機械2名 1年 社会環境2名(留学生2名(中国))
シニア:古藤健司(ファシリテータ)、野村眞一
2) 主な対話内容
グループDのテーマ:次世代の夢のエネルギーシステム開発の現状と展望を考える(宇宙太陽光発システム、水素製造高温ガス炉や小型モジュール炉等の夢の原子炉システム)
学生からの事前質問①~④に対するシニア回答を基に対話を行った。
  1. ①近年、ますます多くの自然災害が原子炉のような新しいエネルギーシステムの発展と応用に影響を与えますか?
  2. ②水素エネルギーシステムの大型サプライチェーン建設プロジェクトにおいて、水素コストを低減する方法は?
       輸送の本格化と大型水素発電システムの実用化はどうやって行いますか?
  3. ③次世代原子炉システムとして注目されている小型モジュール炉ですが、大型の方が発電能力も高く良さそうなに感じるのですが小型にするメリットは何でしょうか?
  4. ④宇宙太陽光発電は、どのようにして宇宙で生み出した電気を地上に送るのですか?
前述の事前質問および基調講演に関する学生との主な対話の概要は次の通り:
  1. ①安定した社会活動を維持していくためには、「3E+S 経済効率、安定供給、 環境保全」の下、想定外を含めた自然災害の発生時に対処できる“安全基準”を満たす構造・システム設計が求められ、これを実行するための意見を討議した。
  2. ②水素の利用を議論するにあたり、その主な供給源となっている化石燃料(天然ガス)由来の水素製造に関し、その経済性に着目した議論をなった。
    これに続いて化石燃料を原料としない製造手法として製造過程でCO2を発生させない“水の電気分解”や、高温ガス炉を利用した水素製造の開発状況を紹介した。また、これに関連する水素の輸送システムを議論した。
  3. ③大型炉に内在するリスクに対し、小型モジュール炉(SMR)とすることで期待されるメリット/デメリットに関し、事前質問に対する回答書も参照して議論を行い、理解が得られたと考える。
  4. ④事前質問に対し、宇宙空間に太陽電池とマイクロ波送電アンテナを配置し、太陽これを利用して地球上のアンテナへ送電する基本システムを説明し、これに関連して運用のイメージの意見を出しあった。
  5. 3)グループDの学生からの事前質問に対するシニアの回答
    グループD回答書(PDF)を添付する。

3.学生アンケートの集計結果(梶村順二)

1)まとめと感想(古藤健司)
対話会に参加した院生は(中国)留学生3名を含む15名でした。M1の留学生(Dグループ)は来日して日が浅くまたコロナ禍によるリモート教育指導の下にあるためか、口頭による対話力は不十分でした(文章によるコミュニケーションは可能なのでしょう)。2名1組で対話に臨んでいたこともあり、アンケート回答は14名となったのではないかと察します。これらを勘案すると、総括的な評価がうかがえる「アンケート(1)講演の内容(2)対話の内容」について、「とても満足」がそれぞれ11と12で「ある程度満足」が3と2であることは、(シニアへの忖度も多少はありましょうが)本対話会に参加した学生諸君にはほぼ100%満足して貰えたのではないでしょうか。
2)アンケート結果の詳細
対話会のアンケート結果の詳細を添付する。

4.別添資料リスト