日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの講演・対話
in北海道教育大学函館校2021報告概要

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)・松永一郎
北海道教育大学函館校キャンパス,

講演会と対話会は、北海道教育大学函館校の公開講座「環境と放射線」を受講している国際地域学科の学部1年生から4年生を対象に行われた。 講演会と対話会は別々の日に、それぞれWEB方式で実施した。講演には60名余りの学生の参加があった。その中の23名が対話会に参加した。 講演/対話のテーマは菅政権の新政策に焦点を当て「日本のエネルギーの現状と課題―2050カーボンニュートラルに向けて」とした。第6次エネルギー基本計画にまで踏み込んだ難しいテーマだったが、学生の理解は十分に深まった。

1.講演会の概要

1)教職および公務員等を志望する学生63名が参加
講演は国際地域学科の1年生から4年生、63名を対象にWEB方式でおこなわれた。受講は自宅にいて、個人のPCを使用している。
国際地域学科は文系の「国際協同、地域政策」と理系の「地域環境科学」ならびに教育系の「地域教育」に分かれている。
講演は公開講座「環境と放射線」の一環として行われ、単位取得対象になっているので学生は皆真剣である。受講後にレポートを中村教授宛に提出しなければならない。
演題は「日本のエネルギーの現状と課題-2050カーボンニュートラルに向けて」とした。
講演会後にアンケートを実施した。講演に対してほとんどの学生が「満足」と回答し、聞きたいことも「十分に聞けた」と回答している。
2)日 時
7月13日(火):講演資料(金氏 顯氏作成)を学生に送信
7月14日(水)13:00~14:15 :講演会(金氏 顯氏)
3)場 所 
北海道教育大学函館校 ZOOM MEETINGを使用
主催者:北海道教育大学函館校 国際地域学科 中村秀夫教授
4)参加者
北海道教育大学函館校:中村秀夫教授
学生:63名(「環境と放射線」を受講する学部1~4年生)
シニア:7名:大野崇、岡本弘信、金氏顯、工藤昭雄、古藤健司、船橋俊博、松永一郎
5)講演
講演者名:金氏 顯
講演題目:日本のエネルギーの現状と課題―2050カーボンニュートラルに向けて
講演概要:学生は理系、文系が半々であり、原子力には詳しくないが、1週間前に原産協の講演を聞いていた。そのため中村教授とも相談の上、地球温暖化問題に直接関係し、政府が今検討中の「第6次エネルギー基本政策」にまで踏み込んだ内容とした。その中で原子力エネルギーについて学生に考えてもらうことにした。
6)アンケート結果の概要
参加者の内、エネルギーや原子力への関心があるものは約50%であった。講演の満足度は「とても満足」が57%、「ある程度満足」が43%であった。また、「聞きたいことが聞けた」と答えたものは92%であり、講演が学生の期待に沿っていたことが伺える。
別添のアンケート結果(PDF)を参照してください。

2. 対話会の概要

 
1)理系の地域環境グループ所属の学部学生を中心に23名が参加
中村教授の地域環境グループ所属の1年生から4年生19名と文系所属の4名、合計23名が参加した。そのうち10名は昨年度のWEB対話会に参加している。
対話会は4グループに分け、対話のテーマは講演と同じ「日本のエネルギーの現状と課題-2050カーボンニュートラルに向けて」とした。
対話会に先立ち、学生は「対話会で聞きたいこと、話したいこと」をシニアに提出した。提出された質問には本質を突いたものが数多く見られた。 提出するにあたり、学生は録画された講演の内容を繰り返して勉強している様子がうかがえる。
シニア(各グループ2名)は学生からの質問に対して回答書を準備、回答書は中村教授を通じて対話会の前に学生に配信された。対話会では学生の質問や意見を中心に意見交換を行い、深堀した効果的な交流を行うことができた。
事後アンケートでは、学生の70%が“とても満足”30%が“ある程度満足”と答えている。“聞きたいことが聞けたか”との質問には22名が“十分に聞けた”と答えており、1名が“あまり聞けなかった”と答えている。
学生の内、半数が初等中等の教員志望者であり、難しいテーマではあったがエネルギー・環境問題が自分たち自身の問題であり、如何にして次世代の児童生徒や同世代の人々に“分かりやすく伝えていくか”という熱意が感じられる対話であった。
2)日時
7月14日(水):講演会
7月21日(水):学生からシニアへの質問
7月26日(月):シニアから学生への回答
7月28日(水)14:50~17:30:ZOOMによるWEB対話会を開催
3)場所
北海道教育大学函館校 ZOOM MEETING SYSTEM
主催者:北海道教育大学函館校 国際地域学科 中村秀夫教授
4)参加者
北海道教育大学函館校:中村秀夫教授
学生
所属別:23名(地域環境科学グループ19名、文系4名)
学年別:1年(7名)、2年(1名)、3年(8名)、4年(7名)
性別:男性(13名)女性(10名)
シニア:8名:大野崇、岡本弘信、金氏顯、工藤昭雄、針山日出夫、船橋俊博、松永一郎、古藤健司
オブザーバ:西田哲明

3.対話会

(1)グループ1 (大野)

1)参加者
学生:5名(4年3名、3年2名、)、志望・・・中等理科2名、高校化学、文系教員、公務員
シニア:岡本弘信、大野崇(ファシリテータ)
2)主な対話内容
学生からの下記事前質問に対してシニアから説明
  1. ①カーボンニュートラルに関連し、今後の火力発電(特に石炭火力)の行末。原子力発電は新設されるのか。
  2. ②世界で約90%を占める軽水炉と軽水炉以外の炉の違いとメリット・デメリットを知りたい。PWRとBWR のメリット・デメリットをもう少し詳しく知りたい。次世代の原子炉の状況について知りたい。
  3. ③原子炉は今の状況のままほとんど使われないままか。カーボンニュートラルは何故環境に良いのか。
  4. ④広島・長崎原爆投下、福島第一原発の事故、地震国の懸念材料を有する日本で国民の理解を得る具体的な方策や案を聞きたい。現時点では対策が見通せていないカーボンニュートラルを目指すより単純に炭素排出量の減少を考えた方がより現実的ではないか。瑞浪、幌延見学での疑問は、ようやく文献調査入った段階、また青森県六ケ所の中間貯蔵施設の利用期限が迫る状況を鑑み、期限内に最終処分場の計画・建設に着手できるか。
  5. ⑤アンモニア混焼発電の可能性とコスト・安全性は。2020年操業開始予定の再処理工場で使用済み燃料はどの程度の期間で再処理可能かまたコストを知りたい。
  6. ⑥今後再生可能エネルギー発電だけとなるのか。
上記に関する学生との主な対話(学生発表)
  1. ①カーボンニュートラルの技術革新、国民理解、再処理の現状を中心にシニアの話を聞いた。今後、教師となり子供たちにエネルギーの話を伝える上で、やはり正しい知識を知ることの必要性を感じた。対話時間がなくなりもう少し対話がしたかった。
3)G1学生の質問に対するシニアの回答
報告書(PDF)のP16~P30を参照してください。
 

(2)グループ2 (金氏)

1)参加者
学生:国際地域学科:7名(4年:2名、3年:1名、2年:1名、1年:3名)/dd>
シニア:工藤昭雄、金氏 顯(ファシリテータ)
2) 主な対話内容
前半は、学生からの16件の事前質問(下記には一人1件のみ記載)に対してシニアから概要説明。学生はほぼ理解し、若干の更Qと意見交換。
  1. ①2050年のCNに向けて、原子力の新増設が必須である理由については理解できたが、なぜ政府が第6次エネルギー基本計画に取り込まないのか。
  2. ②第6次エネ基の電源構成の「再エネ」の項目の想定をどれくらい満たすことができそうなのでしょうか?
  3. ③世界中でESG投資が拡大しており、実際に企業が行っている環境を考えた取り組みにはどのようなものがあるのか教えてください。
  4. ④国が原子力発電所の増設をいざ実行しようと考えたとき、「国民の理解」を優先するのか、それとも「人財やサプライチェーンの回復」を先に行うのだろうか。
  5. ⑤地震や津波が多く、国土は広くはないので逃げ場も少ない。原子力発電所はどのように対策したら多くの人が安心できると思うか。
  6. ⑥日本を含む125ヶ国と1地域がカーボンニュートラルを実現しようとしているが、日本のカーボンニュートラル計画の進行は早い方なのか遅い方なのか。
  7. ⑦シニアネットワークの方々は、2050年CN達成は可能であると思いますか?もし、不可能であるのならば、CNとSafetyの面のどちらを優先すべきだと思いますか?
後半にはシニアからのいくつかの質問(【逆Q】として)に学生7人が回答。
  1. ① 原発の新増設・リプレースを第6次エネ基に明記してもらうにはどうしたらよいか?⇒メディアやSNSの活用など。⇒台湾の原発ゼロ法廃止を国民投票にかけて勝利した若者主体、SNSで資金集め、賛同票集めの活動し勝利した話をシニアから紹介したが、学生は大変感銘を受けた様子。
  2. ②CNの問題認識を改めるためには、どうしていくことが必要か?⇒今後関連情報を良くフォローしていきたい、温暖化のことをもっと勉強したい、など
  3. ③貴方の故郷の自治体が高レベル放射性廃棄物地層処分の文献調査の申請をしようとしたら、貴方は賛成か、反対か?⇒ほぼ全員が必要性と安全性を概略理解し、地元にも貢献できるとの理由で賛成意見、ただし風評被害は心配だ。
3)G2学生の質問に対するシニアの回答
報告書(PDF)のP31~P39を参照してください。

(3) グループ3 (針山)

1)参加者
学生:5名(4年1名、3年2名、1年2名、全員が国際地域学科、内女性2名)
シニア:船橋俊博、針山日出夫(ファシリテータ)
2)話内容
学生からの下記質問に対してシニアから説明
  1. ①原発の新設が途絶えている状況で原発技術の継承や必要な人材確保を進めるための有効な方策はあるのか。
  2. ②原子力に関しては不安を助長する報道が多く、科学的事実が国民に十分伝わっていないと感じる。この状況を解決する打ち手はあるのか。
  3. ③事故時の運転員の安全性は確保されているのか。
  4. ④水力発電所は貴重な電源資源であるが増設計画の実情は。
  5. ⑤太陽光パネルの中国依存はいったい何が問題なのか。
  6. ⑥原発を無人島に設置するような考え方は現実的か。
  7. ⑦日本が参考にするべきエネルギー政策を展開している国は何処か。
  8. ⑧メタンハイドレートの実用化は期待できるか。
  9. ⑨寒冷地における電気自動車の課題や普及の目途の見通しについて。
上記以外に、「原子力の利活用について日本では長年にわたり意見の対立がみられるが何故この対立を乗り越えることが出来ないのか」等について意見交換をした。又、エネルギー安全保障の意義とその考え方についても意見交換した。
3)G3学生の質問に対するシニアの回答
報告書(PDF)のP40~P48を参照してください。

(4) グループ4 (松永)

1)参加者
学生:6名(4年1名、3年3名、1年2名)(内女性4名)、志望・・・中等理科教員3名、文系教員、公務員、未定各1名
シニア:古藤健司、松永一郎(ファシリテータ)
2) 主な対話内容
学生からの下記事前質問(順不同、質問の一部を統合)に対してシニアから説明し、追加質問や学生一人一人の考えを聞いた。
  1. ①地球温暖化の原因は二酸化炭素なのか。そうではないとの話もあるが、そうだとして対策を取ることによるメリットとデメリットは何か?
  2. ②地球温暖化対策上、原子力発電はメリットがある。原子力反対・賛成の意見を述べる前に世間はこの事実知るべきだ。それを解決するために学生のなすべきことは何か?
  3. ③2050CNの達成のために、2030年の再生可能エネルギーの割合を17%から40%にするのに、現在どのような取り組みが行われているか?太陽光パネルは日本製でなく中国製が使われているのはなぜか?
  4. ④福島原発事故がなかったら、原子力発電は発電の主軸になっていたか?将来、3E+Sが実現できた時、世界又は日本の経済への影響は何か?仮に国の(エネルギー・環境)方針が変わったとして、学生ができることは何か?
  5. ⑤原子力発電の世代交代はどう進むのか?原発の建設期間は何年か?フルMOXのメリットは?
  6. ⑥原子力安全について・・地震対策、廃棄物処理対策、福島第1原発の処理水 の海洋生物への影響、米国の原子力に対する世論は?
上記および基調講演に関する学生との主な対話および学生の考え
  1. ①地球温暖化は近年「気候変動」と言われている。CO2削減は国際的合意ではあるが、日本の国情を考えずに無理をしてまでそれに付き合えば3E+Sのバランスを崩し、エネルギー安全保障と日本経済に悪影響を及ぼす。
  2. ②菅政権は2050CNでエネルギー・環境政策の大転換を図ろうとしている。学生の皆さんの将来に大きくかかわることであり、自分自身の問題として捉えてほしい。
  3. ③(学生意見) このような話は基調講演と対話会で初めて知った。自分なりによく理解し、自分より若い人に伝えていきたい。講演/質疑応答資料は役に立つ。
3)G4学生の質問に対するシニアの回答
報告書(PDF)のP49~P66を参照してください。

4. 学生アンケート結果のまとめと感想

1) まとめと感想
対話会に参加した学生は19名が理系であり、4名が教育系であった。
そのうち、教員志望が50%を占めていた。
全員がエネルギー問題や原子力への関心を持っており、講演会出席者の50%という数値と対照的であった。
対話会へは70%が「とても満足」30%が「ある程度満足」と答えている。
「聞きたいことが聞けたか」との質問には95%が「十分聞けた」と回答
とても満足した理由として「学生間の意見交換やシニアの多様な考え方に触れることができたから」との答えが返ってきている。
ある程度満足したと答えたものの中から「意見交換、結果のまとめ等の時間が短かった」との意見があった。予め対話の時間配分を考えておく必要があろう。
2)アンケート結果の詳細
アンケート結果(PDF)を参照してください。

5.別添資料リスト

(報告書作成:2021年8月16日)