日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

SNW対話
in 富山高等専門学校2026年度(第3回)報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)  世話役: 大西祥作  
報告書作成 令和8年8月10日
《富山高等専門学校本郷キャンパス玄関》
   
 「電力システム論Ⅰ」の授業の一部として5年ぶりに学生とシニアの対話会を実施
複数の高専との対話会開催についてお世話になった高田先生にお願いし、「電力システム論Ⅰ」 の授業担当である百生先生と相談頂き、授業時間の2コマを用いて対話会を実施した。 基調講演は、「電力システム論Ⅰ」の授業内容を踏まえた「原子力発電」というテーマで60分実施 した後、6グループに分かれてシニアと対話を実施した。尚、対話テーマは基調講演資料等を参考に学 生が自主的に設定したものを取り上げた。グループ内での対話を約1.5時間実施した後にその結果を 対話テーマが似通った他のグループに紹介し、グループ間同士の意見交換を実施した。 

1.講演と対話会の概要

(1)日時

基調講演・対話会:令和8年6月9日(火) 9:00~12:10

(2)場所と対話方式

富山高等専門学校 オープンラボ 1F講義室 対面実施

(3)参加者

高専世話役:高田英治 電気制御システム工学科 教授
       百生登  電気制御システム工学科 教授
参加学生 :電気制御システム工学科 5年生 39名(6グループ構成)
参加シニア:6名(佐藤俊文、後藤廣、鈴木成光、本田一明、松永健一、大西祥作(世話役))

(4)基調講演

テーマ:原子力発電(電力システム論Ⅰ第4章原子力発電)
講師:佐藤俊文(佐藤俊技術士事務所所長)
講演概要:初めに原子力発電の概要を説明した後に原子力発電の原理や原子炉の理論、更には発電用としては最 も一般的な軽水炉(BWR&PWR)の説明があった。最後に富山県における原子力発電所の防災について の説明があった。尚、基本的なことを丁寧に、非常に分かり易く説明されていた。

2.対話会の概要

(1)第1グループ報告

1)参加者
学生:7名(電気制御システム工学科5年生) 
シニア:本田 一明(報告書)  
2)対話テーマ:
原子力発電の社会的住民理解を得るため、現在求められるものは何か? 
3)主な対話内容 
先ず始めに簡単な自己紹介とともにエネルギーあるいは原子力についての感想・意見を話しても らい、次に再生可能エネルギー、火力、原子力の各電源の長所と課題について確認・共有してから テーマについて意見交換した。 
原子力に否定的な意見を持っている学生はおらず、脱炭素に向けた安定電源として長期的観点から活用すべしとの考えが殆どであった。 中には福島から避難してきた知人は原子力に危険を感じており、共感するところもあることから板挟みという学生もいた。 
電源については、発電量の安定性、燃料の調達、環境(生態系)影響、発電コストの面からいろいろな意見出され、エネルギーミックスの重要性について共通認識とした。 皆さん各電源の特徴を良く理解しており感心した。 
この認識に立ち、対話テーマである「原子力発電の社会的住民理解を得るために求められるもの」について、原子力の安全性(リスク)、必要性、将来性等の面から意見交換した。 住民を対象とした見学会や講演会の実施、説明の仕方に更なる工夫(不安に寄り添った説明や避難訓練の案内、クイズ仕立て、ジオラマなどを使用するなど)をする、 メ リットを見える形(例えば交付金)で示す、子供のころからのエネルギー教育が大事、など種々の提案が出された。   
必要性は説明し易いが、安全性の説明は技術的な知識が乏しい人達には難しいのではないかとの話になり、日本の安全についての考えと、欧米のリスクについての考えの違いについて意見交換。最後は住民理解を得るために共通して必要なものは「信頼」ということになった。 
廃炉ロボコンに出場する方、北陸電力に就職が決まった方も複数おり、ご参加の皆さんがこれまで以上にエネルギーに関心を持って自分事として考え、益々ご活躍されることを期待したい。 

(2)第2グループ報告

1)参加者
学生:電気制御システム工学科 5年生 6名
シニア:鈴木 成光(報告者)
2)対話テーマ:
福島事故、安全対策、廃炉(遠隔技術含む)
3)主な対話内容
シニアの自己紹介に続き、各学生から自己紹介と併せて、選定したテーマに関して具体的に議論したい事項などについて説明をしてもらい、その上で対話を進めた。
① 先ずは福島第一原発事故の要因についてシニアから説明した。タービン建屋の扉がシャッター形式だったため、想定外に高い津波に見舞われて開口してしまったこと、非常用ディーゼル発電機が地下に設置してあったため、建屋の中に流入した海水に浸かってしまい動かなくなってしまったことにより、炉心冷却が出来なくなり大事故に繋がった大きな要因である事を聞いて、学生達は認識を新たにした様子だった。想定外の津波が到来するリスクを想定して、建屋の扉を水密扉にしておけば事故に繋がらなかっただろうこと、それでも建屋の中に海水が流れ込んでしまうリスクを想定して、非常用発電機を地下ではなく、高い所に設置しておけば電源供給が出来て事故を防ぐ事が出来たのではないかという議論になり、新規制基準としてアクシデントマネジメントが重要事項であることを理解してもらった。
② このような流れに従い、安全設備の多種、多様化、独立性、万が一水素が発生した場合の水素吸収設備や、建屋内圧力を下げるために建屋内空気を放出する際の放射性物質を吸収するフィルターベント設備など、福島第一事故を踏まえた安全対策の強化を理解してもらった。そのほか、特重施設や革新型軽水炉SRZ1200の安全対策などについても理解してもらい、原発の安全性が非常に高くなっていることを学生達は認識し、今後原発を増やして行くべきとの考えが示された。
③ 福島第一のように事故を起こした原発の廃炉と、通常の原発の廃炉の違いについて議論した。三菱重工のSGR、VHR、CIRなどの実績を踏まえると、通常原発の廃炉に関わる技術には大きな課題はなく、廃棄物の処分やリサイクルなどに対する取り組みが重要であると認識してもらった。
④ 昨年公表されたエネルギー基本計画において、2040年度における電源目標として、再エネ4割~5割、原子力2割、火力3割となっていることに関し、再エネ、特に太陽光発電の課題について議論した。太陽光パネルはエネルギー密度が小さいため、原発の一般的な規模である100万KWの太陽光パネルの設置には山手線内の広大な面積が必要なこと、設備利用率も10数%と小さいので、電源規模を確保するためには、約8倍くらいの太陽光パネルが必要であることを認識し、平地が少ない日本列島としては太陽光発電に適用できる敷地面積が厳しいということになった。このような議論を踏まえて、安全性が高まった原子力の必要性が強く認識され、将来的には2割以上に拡大すべきとの意見になった。
4)所感
2グループ内の対話の後、4グループと対話した際に、2グループのメンバーから、福島第一事故の要因としてシャッター扉や非常用ディーゼル発電機の設置高さの問題や、太陽光パネルの課題を踏まえた原子力拡大の必要性などの発言があり、学生達に印象強く残った事項が理解された。2グループ内の対話では学生達の発言が少なかったが、彼らにとって有意義な対話になったんだなあと、思われた。

(3)第3グループ報告

1)参加者
学生:電気制御システム工学科 5年生 7名 
シニア:佐藤俊文(報告者) 
2)対話テーマ:
学生が決めたテーマ「地層処分の将来性と宇宙処分の現実性」
3)主な対話内容 
 a)グループ3内対話
シニア、学生の自己紹介の後、まずは、学生にテーマ選定理由を質問したところ、「高レベル放射性廃棄物の処理が問題であれば、宇宙処分を検討できないか」という疑問に基づくものであった。 議論の前に、地層処分に関係する情報、ロケットや宇宙に関する情報を含む補足資料を説明した。 グループ内で出た質問、意見や感想の主なものは次のとおり。 
フィンランドやスウェーデンで高レベル放射性廃棄物の処分場の建設が進んでいることが良く分かった。また、日本で処分場の選定が進んでいないことも知ることができた。 
使用済燃料の貯蔵が満杯に近くなっており、再処理によるMOX燃料の製造や、廃棄物処理の進捗が必要なことが良く分かった。なぜ、六ケ所の再処理工場は稼働できないのか? 
ロケットで高レベル放射性廃棄物を宇宙に処分するためには、打ち上げコストが非常に高く、放射線の遮蔽や、どこに処分するかなど、経済的にも技術的にも難しいことが良く分かった。 
高レベル放射性廃棄物の半減期が非常に長いことが良く分かった。廃棄物をうまく処分でき、あるいは、再利用できる技術開発が確立されるまで、地層処分という形で安全に保管処分するという考え方は理解できた。 
b)グループ3、グループ6間討議
グループ3から「地層処分の将来性と宇宙処分の現実性」、グループ6から「原子力発電における人材不足の問題」について討議した内容を発表した。 
グループ6から高レベル放射性廃棄物の宇宙処分の安全性について質問があり、衛星が回る低軌道で は安全性確保が難しく、元々、コスト面でも合わないとの議論があった。 
4)所感
今回の対話では、学生がグループ毎に選定したテーマについて議論を進めるということで、シニアが関連資料を準備することができた点が良かった。 学生の意見や質問の発言が積極的であり、幅広い意見交換ができた点がとても有意義だったと感じる。

(4)第4グループ4報告

1)参加者
学生:電気制御システム工学科 5年生 6名
シニア:後藤 廣(報告者)
2)対話テーマ:
原子力発電の安全対策と今後の必要性について
3)主な対話内容
 a)グループ4内対話
初めに対話テーマの選択理由など学生へ発言を促したが特に無かったので、原子力発電の安全対策と必要性について、補足資料を説明しながら、意見交換を行った。主な内容は次の通り。 
深層防護とアクシデントマネジメント。福島事故時、電力会社が自主的に設けていたシビアアクシデント対応設備が何故有効に働かなったのか。
新規制基準の基本的な考え方と旧規制基準との比較。
レジリエンスを考慮した安全評価(なぜ失敗するのか⇔なぜ成功するのか)。
世界の一次エネルギー消費量は、今世紀中に2~3倍以上になると予測されている。原子力、再エネ、 火力等あらゆるエネルギー供給手段のベストミックスを図っていかねばならない。
世界は原子力活用の方向。COP28(2023年12月)では、2050年までに、2020年比で原子力発電容量を3倍にする宣言が、また、昨年、米国でも2050年までに原子力発電容量を4倍にする大統領令が公表された。
b)グループ2、グループ4間討議
各グループ代表の学生2名が対話の内容を発表した。
原子力発電は、総事業期間が長く、環境アセスから建設、運転、廃止まで約100年、また、高レベル放射性廃棄物処分、核融合炉開発など、他の電源に比べて長期的な視点の施策が必要であることが討議された。 
4)所感
学生からの発言が少なかった。対話テーマについて、学生が質問や意見などを、予め、準備し、それに沿ってシニアに問いかけるような進め方をとる等と共に、シニアはファシリテーターとしての進行テクニックの改善を要する。

(5)第5グループ報告

1)参加者
学生:電気制御工学科5年生6名
シニア:大西祥作(報告者)
2)対話テーマ
原子力発電再稼動が進みにくい理由は 
3)主な対話内容
シニア、学生の自己紹介の後、対話テーマについて連関図法及びなぜなぜ分析法を用い対話を実施した。対話は学生主体で実施し、シニアは情報提供を主に実施した。
具体的には、まず個々の学生で再稼動が進まない理由を考えたものを付箋に書いて、学生全員で連関図を作成した。さらに連関図を見ながら因子ごとになぜなぜ分析を実施し再稼動が進まない原因の深堀と対応策について議論を実施した。
最終的に以下のような多様な視点からの要因が抽出された。
 ・身近に原発が無く関心がない
 ・一般人の知識が間違っている
 ・規制基準の問題 
 ・再稼動は採算があわない 
 ・再稼動審査に時間が掛かる、また耐用年数の問題(認められている稼動期間が短い)がある 
 ・技術者(規制、事業者、メーカ)が足りない 
 ・高レベル廃棄物の処理問題 
対話の後半では「原子力発電の社会的住民理解を得るため、現在求められているものはなにか?」をテーマとしたグループ1と情報交換並びに意見交換を実施した。 
4)所感 
学生は連関図法及びなぜなぜ分析法についてすでに知識がありテーマに対する議論がスムーズに進んだ。知識不足の所は否めないが、説明すると理解が速く結果、様々な視点での議論が出来た。

(6)第6グループ報告

1)参加者
学生:電気制御システム工学科5年生6名(タイからの留学生2名)
シニア:松永健一(報告者)
2)対話テーマ
原子力発電における人材不足の問題
3)主な対話内容
学生とシニアの自己紹介(出身、勉強内容、会社経験)を行った。
今回は学生からの事前質問がなかったので、始める前に、対話に「期待」するものを確認した。学生は生成AIの時代に仕事をしていかなければならない。生成AIに対抗するためには、情報の真偽を嗅ぎ分け、確かな情報を調査・分析して問題点を発見し、課題を設定して自ら解決策を提案できる能力が問われる。この対話会は、その能力の訓練の場であり、学校以外に開かれた「自分の意見の検証」の場でもあるので有効活用しよう、また、PDCAのように「進め方」にも留意して対話してみよう、とシニアは提案した。異論はなかった。さらに、人材不足、それも原子力発電の人材不足になぜ「関心」があるのかを問いかけた。
「人材不足」に関する国の委員会の情報などを学生のパソコンに共有して議論を始めた。その情報などから学生が質問と意見を述べ、全員で議論した。なぜ原子力なのかを探るために、原子力政策の最近の動きと、その前提となる「第7次エネルギー基本計画」の弱点を考えた。電力需要量(データセンターDCなどの需要など)の曖昧さ、電力供給策(変動再エネを主力電源として最大限導入すると統合コストが急増、昼夜一定のDC需要に変動再エネで対応する難しさ、洋上風力にある産業競争力の中国リスクなど)の曖昧さなど。
後半20分は学生だけで議論して、グループ3(対話テーマ:地層処分の将来性と宇宙処分の実現性)との討議の考えをまとめ、グループ間討議を行った。
4)所感
今回の特徴は、事前の学生からの質問がなかったことと、発表と意見交換を一部の学生間で行ったことであろう。これには難しさがある。大雑把な「対話テーマ」の名称だけからシニアが対話情報を準備して、予備知識のない学生達と対話しなければならないのだから。だが、新たな経験もできた。データで準備したためか、当日の情報共有は円滑だったし、学生達のグループ間討議ではシニア提供の画像データとパソコンを有効に活用して意思疎通が円滑だった。また、討議を少人数で行ったせいか、全く違うテーマのグループ間だったのが逆に良かったのか、意外と活発だった。一方のグループ3の学生達は、シニア提供の紙資料を活用して発表していた。データや紙資料が無かったら、こうはならなかったと思う。
今後は、いろんな対話方法の良し悪しを吟味して、より有効で時間効率の良い対話会を目指したい。

3.学生アンケート結果の概要

(1)参加学生について
参加学生(39名)の内、97%が回答。
進路は1/3が就職、2/3が進学の予定。(他高専と逆の傾向)
(2)対話会について
基調講演の満足度は「とても満足」、「ある程度満足」を合わせて100%。やや不満、不満は0%であった。 基調講演以外で聞きたいものとして「次世代革新炉である小型モジュール炉について」や「最新の原子炉の性能と安全性」等が挙げられた。(5名から回答あり)
対話会の満足度は「とても満足」、「ある程度満足」を合わせて100%。今回の講演や対話会で「新しい知見が得られた」が92%、「マスコミ情報と講演や対話の情報に違いがあった」及び「自分の将来の参考となった」がそれぞれ21%、26%となった。尚、否定的な意見(新しい知見なし)は無かった。
対話会の必要性は「非常にある」、「ややある」を合わせて100%であった。また、友達や後輩へ対話会への参加を薦めるかどうかについては、26名(68%)が「薦めたい」と回答し「どちらともいえない」が29%、「薦めたいとは思わない」が3%あった。対話会の満足度や必要性の割合に比べて「薦めたい」の割合が少し少ない。
(3)意識調査について
放射線、放射能については、「一定のレベルまでは恐れる必要はない」が89%であった。一方「怖い」が10%あり。
原子力発電については、「必要性を認識しており再稼働を進めるべき」が58%、「新設、リプレースを進めるべき」が18%あり、「2030年目標を達成すべき」は16%であった。尚、「分からない」が8%あった。
再エネ発電については、「環境にやさしく拡大すべき」が63%、「天候に左右されるや自然環境破壊につながるので利用を抑制すべき」がそれぞれ18%、13%となった。ここでも「分からない」が5%あり。
カーボンニュートラルとエネルギーについては、「地球温暖化や脱炭素社会の実現に関心」は「大いにある」と「少しある」を合わせて92%の回答であった。尚、3名(8%)が、あまり関心がないとの回答であった。 「興味や関心があるのはどの項目でしょうか?」については幅広く関心を示したが「温暖化メカニズム」、「温暖化の影響と対策」、「エネルギー資源の確保」、「脱炭素化実現のためのコスト」、「原子力発電や再生可能エネルギーの役割」が比較的多かった。 「日本の2050年脱炭素化社会の実現可能性」については、「実現するとは思えない」が58%、「相当いい所まで到達する」及び「わからない」とも21%となった。 「脱炭素に向けた電源の在り方」については、「原子力発電と化石燃料発電を最小とし、再エネ中心が望ましい」と「化石燃料発電を最小とし原子力発電と再エネ発電の組み合わせが望ましい」がそれぞれ26%、32%、「原子力発電、再エネ発電、化石燃料発電をほぼ均等に組み合わせることが望ましい」が24%となり3案が拮抗している。尚、「わからない」が18%あった。
高レベル廃棄物の最終処分については、「関心がある」と「少しある」を合わせて76%の回答であった。「近くに処分場の計画が起きたらどうするか」については39%が「反対しない」、16%が「反対する」、45%が「わからない」であった。「地層処分について興味や関心がある項目」については技術が79%、「制度」が39%、処分地の選定が37%であった。
(4)アンケート結果の全体的傾向
基調講演や対話会については、友達や後輩へ対話会への参加を薦めるかどうかについて、「どちらともいえない」が29%あったが直接の質問には100%肯定的な回答があり全体としては、満足度が高かった。「脱炭素に向けた電源の在り方」について、多様な考え方を示した。 また、「高レベル廃棄物の最終処分について」は関心度合いが他の対話会と同様8割程度であった。

別添資料リスト