学生とシニアの対話
in 松江工業高等専門学校2026年度(第5回) 報告書
日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW) 世話役 : 松永健一
報告書作成令和8年7月12日
《松江工業高等専門学校正門》
- 授業の一環として学生とシニアの5回目の対話会を対面で開催
- 対話会は松江高専の「送配電工学」授業の一環。基調講演と対話会を電気情報工学科5年29名の参加により開催。基調講演は、松江高専における講演の画像を宇部高専でも利用することにより2校共通で行った。対話会の前に「学生質問に対するシニア回答」を学生に送付した後に、当日に基調講演、対話会と学生発表を行った。対話テーマは「世界のエネルギー問題と原子力の役割」「電気料金の仕組みと原子力の役割」「データセンターなどの将来の電力需要と再エネ主力電源化の課題」「将来の電力需要に影響する新型原子炉の国内外の動向と役割」「自由討論:上記グループのテーマ以外に討論・質問したいトピック」である。
1.講演と対話会の概要
(1)日時
- 基調講演・対話会:令和8年5月26日(火) 8:50~14:40
(2)場所と対面方式
- 松江工業高等専門学校 対面
(3)参加者
- 高専側世話役の先生
箕田充志:電気情報工学科教授
- 参加学生
電気情報工学科5年、基調講演・対話会:5グループ、29名
- 参加シニア:10名 針山日出夫、大西祥作、鈴木成光、古藤健司、山崎智英、後藤 廣、
田中治邦、幸 浩子、早坂房次、松永健一(世話役)
(4)基調講演
- テーマ1
- 世界のエネルギー危機と日本の対応
- 講師:針山日出夫
- テーマ2
- 電気料金の仕組みを知ろう
- 講師:山崎智英
- 講演概要:
- 基調講演はテーマ1とテーマ2からなる。テーマ1では、ホルムズ海峡封鎖によるエネルギー、経済への影響について考え、最近の世界主要国のエネルギー政策を俯瞰しつつ、我が国の「エネルギー安全保障」の在り方について原子力の役割に焦点をあてた説明があった。テーマ2では、学生は「電気料金(再エネ促進賦課金、燃料費賦課金を含む)」を事前調査し自分事として講演に参加した。電気料金の仕組み、電力各社の電気料金単価と電源構成の説明があり、電気代を理解し身近に感じられるものとなった。なお、テーマ1の講演は録画して宇部高専対話会でも利用された。
2.対話会の詳細
(1)学生質問とシニア回答の概要
- 学生からの質問に対するシニアの回答は、対話会の開催前に学生に送付された。
(2)グループ対話の概要
- ①Aグループ(報告者:早坂房次)
- 1)テーマ:世界のエネルギー問題と原子力の役割
- 2)参加者
- 学 生:5年生6名
- シニア:針山日出夫、早坂房次
- 3)主な対話内容
- シニアの自己紹介、学生からの自己紹介(出身地、専門での課題、将来進路、趣味、本日議論したいこと・関心事)の後、学生からの事前質問を踏まえた本日の議論のポイントに話題を絞って対話を進めた。シニアからは、事前質問を踏まえた補足説明資料(約10件)を席上配付し適宜説明した。対話での主なテーマと学生側の問題認識は以下の通り。(順不同)
-
❐ エネルギー問題全般と新エネルギーの将来性
- 中東情勢悪化によるエネルギー供給リスクの顕在化 → 不安定な状況の中でエネルギー供給をどのように行うのか → 別の供給案を考える? 別のエネルギーを使う?(原子力、再エネ、その他新しいエネルギー)。原子力のメリット(安定した電力供給。CO2を排出しない)とデメリット(放射性廃棄物の処理、事故のリスク)→デメリットをどのようにカバーするか。
- 既存の化石エネルギーは世界レベルで見て埋蔵量、採掘量が限界点に到達しつつあると考える。エネルギーの選択肢を増やす観点で可能性として核融合発電やメタンハイドレート等の実用可能性はどうか。(エンジニアは選択肢を増やす試みが大切であると!)
-
❐ 脱炭素の取組みの展望と再生可能エネルギーの可能性・将来展望
- エネルギー問題と環境問題を最近になってさらに聞くようになったが、地球全体の規模の課題であるから両方達成しようと動くのは二兎追うものは一兎も得ずになりそうでどちらかに絞るべきと感じている。
- 脱炭素を目指す上で、ベースロード電源の原発と現状供給が不安定な再エネを上手く組み合わせられるのか。
- 世界ではエネルギー需要の増加や地球温暖化が問題となっている。火力発電は多くのCO2を排出するため、環境への影響が大きい。その中で原子力発電はCO2排出が少なく、安定して大量の電力を供給できる重要な発電方法である。しかし、事故や放射性廃棄物の問題もあるため、安全対策を徹底する必要がある。
- 再エネだけで世界の電力需要を賄える可能性はどれほど現実的か。
- 再エネが世界的に増えているが、原子力発電はこれからも必要なのか。
- 2050年にカーボンニュートラルが達成されたとして、気候の安定は担保されているのか。また、2050年まで保たれているのか。
-
❐ その他高レベルレベル廃棄物処置についての議論
- ②Bグループ(報告者:山崎智英)
- 1)テーマ:電気料金の仕組みと原子力の役割
- 2)参加者
- 学 生:5年生6名
- シニア:後藤 廣、山崎智英
- 3)主な対話内容
- 自己紹介の後、学生からの事前質問に対する回答を中心に意見交換を行った。
- 原子力を再稼働すべきかについて検討を行い、原子力を再稼働するだけでなく再エネも活用して脱炭素を進めるべき。また、北海道電力泊発電所3号機再稼働により電気料金を11%値下げしていると発表していることから原子力発電が電気料金を抑えることに役立っていることを認識した。
- 変動再エネの発電コストは低くとも総発電電力量に占める割合が5割以上になると電力システムに生じる追加コストが大きくなることや、原子力は総事業期間(各種調査・環境アセス、建設、運転、廃止・除却)が他の電源に比べて長いため長期的な政策が必要になることについて意見交換を行った。
- ③Cグループ(報告者:松永健一)
- 1)テーマ:データセンターなどの将来の電力需要と再エネ主力電源化の課題
- 2)参加者
- 学 生:5年生6名
- シニア:鈴木成光、松永健一
- 3)主な対話内容
- データセンターなどによる今後の電力需要の増大について、参加学生が電気情報工学科所属という背景もあり、日頃からAIを利用している、AIの研究をしている学生もいたためか、日本の将来を考えた場合AIの使用量の拡大は必然であり、データセンターなどの施設の増加と電力需要の拡大の見通しは理解出来るとの意見であった。
- 次にデータセンターへの電力供給としての再エネ電源による対応の可否について議論した。太陽光発電や風力発電は自然変動電源のため、安定的な電力供給が必要なデータセンターにとっては、バックアップ電源が必要であり、蓄電池の位置付けなども議論した。Naイオン電池の開発研究をしている学生もいて注目が集まった。太陽光発電や風力発電の設備利用率が非常に小さい事、非常に大きな設置面積が必要である事、バックアップ電源を要する事や電力系統システムの整備が必要な事による統合コストが大幅に高くなるなど、再エネを主力電源にするには色々とある課題を議論した。
- 最後に、原子力発電の位置付けを議論した。福島第一原発の事故により国民の原発に対する不安が根付いているが、事故の原因と新規制基準の導入により安全性が大幅に高くなった事を説明した結果、学生は安心感を高めたようだ。昨年政府が出した第7次エネルギー基本計画において2040年の原子力の割合を2割としている目標を、更に拡大して行くべきという意見を全員が述べた。その上で原子力の拡大を進める為には、国民の理解を得る活動が必要であり、学校教育でも原子力を理解してもらう取り組みが必要との意見があった。
- ④Dグループ(報告者:古藤健司)
- 1)テーマ:将来の電力需要に影響する新型原子炉の国内外の動向と役割
- 2)参加者
- 学 生:5年生5名
- シニア:田中治邦、古藤健司
- 3)主な対話内容
- 学生からの事前質問に対するシニア回答集が対話会当日に配布されたが、学生が対話会に臨む前に確認していないことが分かった。このため、事前質問に対する回答は対話会後にも目を通すこととして、新型原子炉の概要説明、並びにファシリテータが予め準備した話題:2050カーボンニュートラルの目標について(4項目)、原子力利用について(2項目)、日本の周辺リスクについて(2項目)学生の意見を聴き、シニアの見解を述べた。
- 脱炭素化への国際的な取り組みは、各国の国情で異なるので、目標達成は困難であろうとの意見で一致した。石炭火力発電の継続問題など、CO2排出大国:中国・アメリカ・インドなどの努力に依存することなどに議論は帰着した。
- 原子力利用の安全安心は、原発事故などで死亡するリスクを確率論的な評価値をもって理解すべきであるとの認識を持ってもらえた。人の寿命を100年とし社会的リスクによる死亡率は高々その1/100と仮定して、原子力由来の死亡率を0.1%とした試算を発表した。
- ⑤Eグループ(報告者:大西祥作)
- 1)テーマ:自由討論:上記グループのテーマ以外に討論・質問したいトピック(みゆカフェ方式による自由討論)
- 2)参加者
- 学 生:5年生6名
- シニア:幸 浩子、大西祥作
- 3)主な対話内容
- シニア、学生の自己紹介の後、みゆカフェ方式(少人数版)※により対話を実施した。学生が興味を持っているテーマを自由に出してもらいたかったが、結果的には事前質問内容を踏まえ用意したテーマから以下を選定した。
- ① 日本と海外のエネルギー政策の違い(日本らしいエネルギー政策)
- ② 省エネルギーはどのくらい意味があるか(個人の努力VS社会全体の変化)
- ③ 電気をつくれなくなったらどうなるか(長期間停電したら、社会や人の価値観はどう変わる?)
- ④ 原子力発電の必要性と安全性から原子力発電を増加すべきか
- ⑤ 安定か安全の二択、どちらを選ぶ?
- 各テーマに対し全学生が意見や疑問点を出しあい、主に文字を通じた議論により知識の習得や多様な考え方に触れることが出来た。各テーマに対する意見の例(番号は上記テーマに対応する)
- ① 太陽光や風力の採用にはデメリットが大きい。
- ② 個人と社会全体、どちらも大切である。
- ③ 国民みんなが納得する意見はないと思う。
- ④ 電気は現代人には無くてはならないものである。
- ⑤ 技術的安全>安心と技術的安全<安心の2論あり。
- 最後に、①から④について簡潔に分かりやすい説明が発表という形であった。※手法の説明は別資料に譲る。
- 4)所感
- 今回の対話では、全ての学生が複数のテーマについて意見を書き込みながら考えを深めることができた。一方で、事前質問に対する回答一覧が当日配布であったため、テーマに関する知識や論点を十分に整理しないまま対話を始めた学生も見受けられた。私自身、学生が事前に回答を読み、自分なりの考えを持って参加しているものと思い込んでいた点は反省している。
- 今後は、対話の前に回答資料の読み合わせやミニレクチャーを行うなど、参加者がテーマについて一定の知識を共有した上で対話に入る工夫が必要であると考える。
3.学生アンケート結果の概要
(1)参加学生について
- 参加学生(29名)の内、90%が回答。
- 進路は2/3が就職、1/3が進学の予定。
(2)対話会について
- 基調講演1の満足度は「とても満足」、「ある程度満足」を合わせて92%。やや不満、不満が8%あり。内容が難しかったが多かった。基調講演2も基調講演1と同様な割合並びに内容であった。基調講演以外で聞きたいものとして「発電方式に新たなものは追加されるのか」や「核融合発電の技術的問題」が挙げられた。(3名から回答あり)
- 対話会の満足度は「とても満足」、「ある程度満足」を合わせて85%。今回の講演や対話会で「新しい知見が得られた」が91%、「マスコミ情報と講演や対話の情報に違いがあった」及び「自分の将来の参考となった」がそれぞれ15%、23%となった。尚、否定的な意見(新しい知見なし)も1名(4%)あり。
- 対話会の必要性は「非常にある」、「ややある」を合わせて88%であった。また、友達や後輩へ対話会への参加を薦めるかどうかについては、16名(62%)が「薦めたい」と回答し「どちらともいえない」、「薦めたいとは思わない」が35%、4%あった。対話会の満足度や必要性の割合と少し齟齬がある。これは昨年も同じ傾向であった。
(3)意識調査について
- 放射線、放射能については、「一定のレベルまでは恐れる必要はない」が92%であった。一方「怖い」が8%あり。(昨年も同様な割合があり)
- 原子力発電については、「必要性を認識しており再稼働を進めるべき」が65%、「新設、リプレースを進めるべき」が27%あり、「2030年目標を達成すべき」は0%であった。昨年に比して再稼働肯定派、新設&りプレース肯定派が増加している。尚、2030年目標達成については、昨年は32%の支持があったが、今年は0%である。
- 再エネ発電については、「環境にやさしく拡大すべき」が65%、「天候に左右されるや自然環境破壊につながるので利用を抑制すべき」がそれぞれ23%、4%となった。
- カーボンニュートラルとエネルギーについては、「地球温暖化や脱炭素社会の実現に関心」は「大いにある」と「少しある」を合わせて96%の回答であった。尚、1名(3%)が、あまり関心がないとの回答であった。
「興味や関心があるのはどの項目でしょうか?」については幅広く関心を示したが「温暖化メカニズム」、「温暖化の影響と対策」、「エネルギー資源の確保」が比較的多かった。
「日本の2050年脱炭素化社会の実現可能性」については、「実現するとは思えない」が58%、「相当いい所まで到達する」及び「わからない」がそれぞれ15%,27%となった。
「脱炭素に向けた電源の在り方」については、「原子力発電と化石燃料発電を最小とし、再エネ中心が望ましい」と「化石燃料発電を最小とし原子力発電と再エネ発電の組み合わせが望ましい」がそれぞれ31%、38%、「原子力発電、再エネ発電、化石燃料発電をほぼ均等に組み合わせることが望ましい」が19%となった。
- 高レベル廃棄物の最終処分については、「関心がある」と「少しある」を合わせて61%の回答であった。「近くに処分場の計画が起きたらどうするか」については27%が「反対しない」、31%が「反対する」、42%が「わからない」であった。「地層処分について興味や関心がある項目」については技術が85%、「制度」が23%、処分地の選定が15%であった。
(4)アンケート結果の全体的傾向
- 一部昨年の傾向と異なる部分があったが、概ね昨年と同様な傾向を示した。
4.別添資料リスト
- 基調講演 テーマ1:「世界のエネルギー危機と日本の対応」 講師:針山日出夫
- 基調講演 テーマ2:「電気料金の仕組みを知ろう」 講師:山崎智英
- 学生アンケート結果詳細
(報告書作成:2026年7月12日)