日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話
in 弘前大学2026年度(第1回)報告書 

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW) 世話役: 本田一明
報告書作成 令和8年7月14日
弘前大学文京キャンパス(同校HPから引用)
   
弘前大学で初めての学生とシニアとの対話を実施

弘前大学との対話会は今回が初めて。世話役の長南先生のご尽力で開催の運びとなった。先生のゼミの生徒に加えて、地元でエネルギー教育活動を行っている市民グループからの参加もあり、幅広い話題で行われた。 短時間ながら再エネ、原子力、火力の各電源の特徴と課題から廃炉、原子力防災など幅広い話題で双方向の充実した対話となった。教員志望の学生が多いなかでエネルギーに対する問題意識が高く、教科書はじめ教育の現場に生かしていこうとする姿勢が印象的で、シニアにとっても有用な対話会であった。


1.講演と対話会の概要

(1)日時

(基調講演) 2026年7月1日(水)  14:20 – 15:50 (対面)
(対話)    2026年7月8日(水)  14:20 – 15:50 (対面)

(2)場所

弘前大学 文京キャンパス 教育学部棟3階 共通実験室(2)

(3)参加者

大学側先生:長南幸安 教授(教育学部長)
学生:14名(学部2年2名、3年生6名、4年生5人、大学院1年生1名)
市民:6名(「紫陽花の会 なとわ」(弘前市でエネルギー教育活動を行っている市民グループ))
参加シニア (7月1日基調講演:1名)本田一明
      (7月8日対話:8名)
         SNW連絡会: 石隈和雄、田中治邦
         SNW東北: 阿部勝憲、梅田健夫、井上 茂、嵐田 稔、
                中谷力雄、本田一明

(4)基調講演(7月1日(水) 対面形式.。Webにて参加シニアに配信)

講演者:本田 一明 
講演:テーマ「最近のエネルギー問題」
 講演概要:
米国、イスラエルのイラン攻撃で改めて重要性が認識された日本のエネルギー安全保障についての話題提供が為された。
最近のエネルギー問題は、エネルギー安全保障が優先。
エネルギー自給率を上げるためには、再生可能エネルギー発電の増加、原子力発電の活用、及び省エネルギー(化石燃料使用の抑制)が大切。
電気は質の良いエネルギー。 電化率(最終的なエネルギー消費全体に占める電力消費の割合)は今後とも増加し、デジタル化の進展等により電力需要も増加すると予想されている。
電源として、再エネ、原子力、火力の何れにも利点・課題があり、これらをバラ ンスよく組み合わせた電源構成(エネルギーミックス)とすることが必要。
エネルギーは私たちの日々の生活に密接に関わるもの。 エネルギーの問題について、自分事として考えようと結んだ。

2.対話会(7月8日(水))の詳細

 開会挨拶
長南先生から開会の挨拶、続いて阿部シニアからの挨拶及び参加シニアの紹介があった。
(長南先生)
 先週の講演に続き、本日のワークショップでは4つの班に分かれてシニアネットワーク(SNW)の方々と対話を行います。SNWの皆さんは長年原子力業界で仕事をしてきた人達で深い知識と経験をお持ちです。また、「紫陽花の会 なとわ」の皆さんにも各班に入って頂きます。 先週記載してくれたファシリテーションシートを活用して活発な対話をお願いします。
(阿部勝憲)
 シニアネットワーク東北の阿部です。自分は青森県の八戸出身です。今日のテーマはエネルギー問題ですが、青森県の役割はエネルギー産業で極めて大きいです。再エネの風力発電では北海道と並びトップです。 また原子力では発電所と燃料サイクル施設を有する国際的な拠点であり核融合研究所もあります。
 我が国のエネルギー問題をみると、ウクライナ戦争や最近のホルムズ海峡情勢など国際的な危機の影響もあります。今日は長南先生のご協力で学生諸君にお忙しいところ集まっていただきました。市民の方も参加されることで初めての経験です。参加シニアは電力や原子力の専門家です。エネルギー問題について活発に意見交換しましょう。

(1)Aグループ(報告者:石隈 和雄)

1)参加者 
学生:3名 (学部3年生2名、4年生1名)/「紫陽花の会 なとわ」:1名
シニア:阿部勝憲、石隈和雄
2)グループのテーマ:
特に設定せず、講演後に配ったファシリテーションシートの内容と学生の関心あるテーマで対話
3)主な対話内容
最初に自己紹介として、学生には出身地、部活・関心事項等について紹介してもらいアイスブレイクを行った。
次いで、基調講演時のファシリテーションシートを基に、学生さんの関心のあるテーマに沿って、質問に対するシニアの説明と全員での意見交換をしながら対話を実施した。
学生から質問として、①脱炭素社会の実現と国内産業を支える安定したエネルギー供給を両立させる必要性について、特に、データセンターの増加による電力需要や大量の水利用が地域社会へ及ぼす影響、②再生可能エネルギーの発電効率向上や蓄電技術の必要性など、将来のエネルギー需給に関する課題が出され、対話した。 また、紫陽花の会の方から、地域課題として、データセンター建設に伴う生活環境への影響についても意見が紹介された。
教育学部の学生からは、将来教員として子どもたちにエネルギーや放射線について正しく伝える教育の重要性が指摘された。現在の副読本では事故や課題に重点が置かれる一方、放射線の医療利用や社会への貢献などについて十分な説明がなく、よりバランスの取れた教育が必要ではないかとの意見が示された。
また、エネルギー政策と教育、学校現場との関わりや、国・企業・学会などが連携して理解促進活動を進めている状況についても意見交換を行った。
さらに、東日本大震災と福島第一事故以降、原子力に対する不安が広がった一方で、安全対策やモニタリング技術の向上が進み、正しい知識に基づく理解を社会全体で深めていくことの重要性についても意見交換した。空間線量に関連した卒論に関して、自然放射線全体との比較で判断すべきことや環境技術研の情報も話した。    
4)感想
今回の対話を通じ、教育学部の学生が、子どもたちの未来を見据えながら、エネルギー政策、技術開発、安全性、制度、社会との関わりを多面的に捉えて、教科書はじめ教育の現場に生かしていこうとする姿勢が強く印象に残った。
また、エネルギー問題を自ら考え、社会へ働きかけようとする地域の方の参加もあり、 こうした対話の機会は相互理解を深める上で大変有意義であると考える。加えて発電所や原子力関連施設の現場を訪れ、地域の声に触れることも理解促進につながるものと考える。
私たちシニアにとっても多くの学びと気づきを得る貴重な機会となり、参加いただいた学生の皆さんに心より感謝したい。

(2)Bグループ(報告者:梅田 健夫、田中 治邦)

1)参加者
学生:4名 (学部2年生1名、3年生1名、4年生2名)/「紫陽花の会 なとわ」2名
シニア:田中 治邦、梅田 健夫
2)グループのテーマ:
特に設定せず、講演後に配ったファシリテーションシート内容と学生の関心あるテーマで対話
3)主な対話内容
対話に入る前に学生と地元シニアの自己紹介(シニアは紹介済)し、対話を行った。
主な対話は、以下の通り。
① 再エネ、火力、原子力について
  • -再エネはお金がかかるし、建設時にもエネルギーを必要とし、寿命も短い。やる必要があるのか。
  • -水力は良いが限界がある。再エネも火力もそれぞれ問題がある(景観上、CO2排出など)。自分は原子力だと思う。⇒太陽光発電の余剰電力を揚水発電で活用する仕組みを説明。
② カーボンニュートラルについて
  • -CO2削減は効果が出ているのか?⇒日本はオントラックで減らせているというが、産業の停滞など問題が多く今後は難しくなるはず。イラン戦争、ウクライナ戦争で化石燃料調達が危機に瀕し、その重要性が再認識され火力に対する批判はトーンダウンしている。日本の火力は熱効率が60%台に向上しており、CO2削減に寄与している。
4)感想 
シニア側より質問して学生の意見を求めることを繰り返し、僅か1時間でも充実した対話が出来た。基調講演を良く聞いた結果なのかは不明だが、驚いたことに、学生4人が全員原子力に肯定的であった。
再エネに対しては、出力密度や利用率の低さ、天気任せで電力需要に合わせられないこと、蓄電によるコストアップ、太陽光パネルの廃棄処分などの問題点を良く理解しており、質疑応答も具体的でさすが理科系の学生と感心させられた。また原子力に関しては1F事故後の安全性向上を知っていた。また、地元シニアの方も原子力の必要性を熱く語ってくれ頼もしく感じた。
 学生諸君は、将来教職の道に進んだら理数系の子供達を育て、正しく理解させるとの意欲を持っていた。二次的に次の世代を育てることに繋がる大変に有意義な対話であった。日頃の指導教官(長南教育学部長のご指導)と地元シニアの方のご協力に大いに感謝する次第である。

(3)Cグループ(報告者:中谷 力雄)

1)参加者 
学生:4名 (学部3年生3名、4年生1名)/「紫陽花の会 なとわ」:1名
シニア:井上 茂、中谷 力雄
2)グループのテーマ:
特に設定せず、講演後に配ったファシリテーションシート内容と学生の関心あるテーマで対話
3)主な対話内容
対話に入る前に学生の自己紹介(シニアは紹介済)し、対話を行った。
主な対話は、以下の内容でした。
①再生可能エネルギーの太陽光発電設備には寿命があり、使い終わった後の処分やその責任はどうなっているのか?
→ 現在の廃棄物処理法上は基本的には設備の所有者に廃棄処理の責任があるが、2030年代の大量廃棄時代に向けて、政府は製造業者や輸入業者にもリサイクル費用の負担や回収責任を求める新たな制度や法案の整備を進めている。廃棄物(太陽光パネル)に含まれる有害物質を正しく処理する必要があり、不法投棄等が行われないようにするなどの仕組みが必要と思われる。
②CO2を減らす必要があるのに何故(化石燃料を使う)火力発電に頼るのか?
→ オイルショック以降の日本のエネルギー政策の変遷(原子力へのシフト、省エネ対策、石油備蓄が進められてきた)について説明し、様々な努力の結果として今日があることを説明した。また火力発電も様々な技術改良を進めてきており、低炭素・脱炭素の努力がされていることも説明。
③日本のエネルギー自給率が低いことに関して、(中学校3年生の教科書の最後に少し出てくる程度で)周りの人々の(社会問題)意識が低いのはシニアとしても同感で、そのような状況を変えていくには、教育内容に適切に反映していくこと、それを担う先生が必要であること、その手助けになる対話活動や出前講座をサポートできる組織があることを伝えた。また、率先してエネルギーに詳しい先生となることを希望すると助言した。
教育学部で中学校教員志望の学生が多く、エネルギーに対する問題意識が高く、原子力に対しても、電源としてその必要性を理解しているように感じた。将来の先生候補として、その意識を持ち続けて欲しいと伝えた。
 なお、対話会には地元でエネルギーや環境問題の勉強会を開催している団体の方の参加もあり、幅広い話題で対話会が行われた。

(4) Dグループ報告(報告者:嵐田 稔)

1)参加者
学生:3名(学部2年生1名、4年生1名、大学院1年生1名)/「紫陽花の会 なとわ」 2名
シニア:本田一明、嵐田 稔
2)グループのテーマ:
特に設定せず内容と学生の関心あるテーマで対話
3)主な対話内容
自己紹介後、順番に各自のエネルギーについての意見を述べて貰い、併せて質問を受け意見交換した。
意見交換の概要
①敦賀で廃炉の議論をしてきた。主にクリアランス制度(放射能濃度が極めて低い廃棄物や資材を、再利用や処分ができる制度)の最適化として、どのような対応が考えられるかなどの議論が面白かった。国は核融合炉に力を入れているが、高速炉こそが重要性だと主張する意見があったが、これはどのように考えればいいか、との意見と質問。
⇒ クリアランスの制度、現状及びこれに伴う安全についての日本と欧米の考え方の差異、革新炉について意見交換。 核融合炉は、高市首相自身が科学技術担当相として2024年に戦略を策定しており、超電導コイルなどの要素技術において日本が最先端であり、他産業への波及効果も期待されること、中国の動きに対抗する必要があること、並びにこの分野での主導権が握れたら日本は世界のエネルギー覇権を握れること、など他の技術にはない「戦略性」を感じているのではないか。実用化には時間がかかるであろうがこれからの日本の将来を担う皆さんに夢を抱いて進めて欲しい旨激励した。
②廃炉作業についてはどんな状況か。 福島第一原子力発電所の状況などはどうなっているか、との質問。
⇒ 福島第一原子力発電所の廃炉作業については数十年のスケジュールで進んでいるが、最大の問題は、地下のデブリをどうやって取り出すかの技術確立である。1~2gの回収を試験的に行ったのみで、本格回収には至っておらず、回収ロボットの設計と実証の繰り返しのなかで技術を磨いている最中である。その分野のロボットの世界的競争によって解決できることを願っている。 このような困難に立ち向かうために志をもって東京電力を目指人もいると聞く。このような貴重な人はその分野での第一人者になれる可能性も高いのではないか。
⇒ また、市民目線として福島第一もチェルノブイリのように石棺で覆ってしまうことは考えられないのか、クリアランスのコスト最適化に当たって一括溶融炉の設置などの意見があり、種々意見交換した。
③教師になって子供たちに原子力や放射線についてしっかりと教えていきたいと考えているが、どのようなことに気を付ければいいかとの質問。
⇒ 過去20校の中学校で社会科の先生にエネルギー授業へのアドバイスを行ってきた経験から、エネルギーを知っている先生はほとんどおらず、教科書にも大きな問題がある。中学生1~3年の教科書を分析すると、福島の原子力事故について延べ10回の記載があるが、一方、再発防止策や再稼働の話はゼロと極端すぎる。少なくとも教室では賛成・反対の議論ができる環境にすべき。 原子力は怖いという人には結局、がんのリスクを正確に理解することが最終的に重要と考えることなどについて説明した。
4)感想
エネルギーや原子力の中でも、廃炉やクリアランス制度、高速炉、更にエネルギー教育はどうあるべきか、など個別の具体的な疑問に対する意見交換となり、非常に有用な話ができたと感じた。
なお、エネルギー教育については、他のグループからも聞きたいとするオファーがあり、別途、資料を送ることとしたところである。 
 

3.講評(石隈和雄)

各グループの発表では、再生可能エネルギーの高効率化や蓄電池との組み合わせ、ペロブスカイト太陽電池など日本の技術開発への期待について紹介頂きました。また、省エネルギーや高効率家電の普及により国内の電力需要は概ね横ばいで推移していることや、再生可能エネルギーには出力変動があるため、火力発電や揚水発電などとの組み合わせが必要であることを理解されて言及されてました。 加えて、バックエンド対策や廃炉で発生するクリアランス物の再利用、さらには教科書においても事故だけでなく原子力や放射線の利点、安全対策、再生可能エネルギーとの関係を含めたバランスの取れた記述が望まれるとの意見が発表されました。
 教育学部の皆さんがいろいろな視点を持って、子どもファーストで未来を見据えながら子供たちをどう守ってゆくか、放射線についてどう伝えてゆくか、エネルギー政策、技術開発、安全性、制度、社会との関わりを多面的に捉えて、教科書はじめ教育の現場に生かしていこうとする姿勢が強く印象に残りました。
また、エネルギー問題を自ら考え、社会へ働きかけようとする地域の方の参加もあり、 こうした対話の機会は相互理解を深める上で大変有意義であると考えます。加えて発電所や原子力関連施設の現場を訪れ、地域の声に触れることも理解促進につながるものと考えます。
私たちシニアにとっても多くの学びと気づきを得る貴重な機会となり、参加いただいた学生の皆さんに心より感謝致します。


4.閉会挨拶(長南先生)

以下の趣旨の挨拶があった。
SNW東北とは、本年2月にNUMOの地層処分学習に関わる全国交流会で知り合ったのが切っ掛けで今回の対話会開催となりました。来年度も是非、テーマを変えてお願いしたいと思います。
また、「紫陽花の会 なとわ」さん、ご参加有難うございます。本日はこれで終了いたします。


5学生アンケートの集約結果(中谷 力雄)

参加学生14名、回答者14名で、回収率100%であった。
基調講演は、「最近のエネルギー問題」であったが、「とても満足」(86%)、「ある程度満足」(14%)と、参加者全員に満足頂けた。また、対話については、「とても満足」(79%)、「ある程度満足」(14%)と、こちらもほぼ全員に満足頂けた。
今後聞きたいテーマとしては、「技術革新について」、「バックエンド措置」等が挙げられていた。
放射線・放射線への理解や原子力発電への理解は適切に得られていた。
対話会の「感想・意見」では「自分の知らない知識や考え方を知ることができて楽しく、興味を持てる良い機会にすることがでた」、「実際に東北電力で働いていた方などに話が聞けて貴重な体験となった」、「対話の時間を通して、今まで得られなかった知識や、学生のみで話し合った結論とシニアの方々の考えが異なっており、非常に面白い有意義な時間を過ごすことができました。 要望として技術者の方だけではなく、住民対応や出前授業など、表に出て活動をされていた方のお話も受けてみたいです。」との感想があり、対話会は有意義であったと思われる。
アンケート詳細については別添資料を参照下さい。

5.別添資料リスト

基調講演:テーマ「最近のエネルギー問題」 
アンケート結果詳細
(報告書作成:本田一明 2026年7月 14日)