学生とシニアの対話
in 岐阜工業高等専門学校
第3回(2026年度)報告書
- 日本のエネルギー安定供給と原子力についての基調講演と対話を実施
基調講演と少人数グループ別対話を同日の1・2限で実施した。基調講演のタイトルは「日本のエネルギー安定供給と原子力発電」。少人数グループ対話のGr.1と2では基礎的なことから応用面まで幅広く質問に回答し、対話活動として充実していた。Gr.3と4では「みゆカフェ」方式のためシニアとの対話はやや乏しくならざるを得ないが、学生達は意見の記入作業に没入しており、全員が自らの頭で考えることが出来ていた。最後の各グループ発表と事後アンケートの結果から原子力について前向きの理解を得られたと考えられる。ご担当の先生からも学生が活発に議論していた姿を見ることができ喜ばしい限りであったとの感想を伺うことが出来た。
1.講演と対話会の概要
(1)日程
2026年5月15日(金)1限及び2限
(2)場所
岐阜工業高等専門学校 専攻科講義棟
(3)参加者
- 高専側教員
電気情報工学科 准教授 柴田欣秀先生 - 参加学生
先端融合開発専攻1年生 合計21名(受講登録者全員が出席) - 参加シニア 6名(大西祥作、大塔容弘、鈴木成光、湯佐泰久、幸浩子、田中治邦)
(4)基調講演
- テーマ:「日本のエネルギー安定供給と原子力発電」
- 講師:大西祥作 SNW対話会幹事
- 講演概要:
SNWの紹介、国内外のエネルギー情勢、日本のエネルギー政策、原子力発電の仕組み、次世代原子炉について説明(配布資料は添付-1)。この段階では学生から手を挙げての質問は出なかった。
2.グループ対話の概要
(1)時間; 2限10:40~12:10
(2)グループ構成
あらかじめ事前アンケートで学生の関心を尋ね全員から回答を得たが、複数回答を許した結果、学生を班分けする共通項を見出しにくく、単純に学籍番号順の4班構成とし、二つの講義室の2班ずつに分かれて対話を実施した。
Gr.1 学生5名 シニア大西祥作
日本のエネルギー需給の問題点をテーマに対話
Gr.2 学生5名 シニア大塔容弘
放射線の基礎的理解を深めるための対話
Gr.3 学生5名 シニア鈴木成光
Gr.4 学生6名 シニア湯佐泰久
Gr.3とGr.4はシニア幸浩子のリードで「みゆカフェ」を合同で実施。
シニア田中治邦は全体の実施準備、進捗管理、記録作成等。
3.各グループの実績詳細
(1)Gr.1(シニア大西祥作より報告)
- 学生; 先端融合開発専攻科1年生5名
- 対話の主要テーマ;日本のエネルギー需給の問題点について
- 対話の内容
- 日本のエネルギー需給の現状と課題について要領よくまとめてある資源エネルギー庁のリーフレット「日本のエネルギー@2026年2月」を学生に配布した。
- 参加学生全員にエネルギーに関し興味がある事柄(サブテーマ)を聞き、それらについて他の学生からの意見出しや参加シニアからの情報提供を実施した。
- サブテーマとして、「ビルや家の省エネ方法」、「カーボンニュートラルを実現するための電力監視デバイス(スマートメータ)の活用」、「電源のベストミックス」、「風車の特徴と課題」、「廃棄物の最終処分による電気代の行方」という5つの事項が出た。一つのサブテーマあたり議論は10分程度しか出来なかった為、議論を深めることはあまり出来なかったが多角的な視点からの議論が出来た。
- 最後の発表では省エネに絞り、電気を使う側と作る側の両方の視点から議論内容(経済性と環境適合性の両立や新しい技術開発の必要性)をまとめて説明した。
- シニアの感想
- 雑多な意見や情報を短時間で上手く整理、発表しており、日頃のトレーニング(授業)の賜物と感じた。
- サブテーマに対する意見出しは知識量が少ないためか定性的なものとなった点が残念である。
- 但し、何気ない議論の中に、日本の原子力政策の課題(説明不足や国民目線の欠如など)の一端を垣間見た気がした。
(電子制御工学科2名、電子情報工学科1名、建築学科1名)
(2)Gr.2(シニア大塔容弘より報告)
- 学生; 先端融合開発専攻科1年生5名
- 対話の主要テーマ; 放射線の基礎
- 対話の内容
- 担当の先生を介してGr.2に属する専攻科1年の学生5名に対し事前に送信してあったテキスト「放射線の基礎」をベースに対話会を開始した。事前に資料に目を通しておくように依頼しておいたので、その前提で始めた。
- まず、第1回ノーベル物理学賞を受賞したレントゲン(独)が、受賞対象であるX線を発見した際の実験装置の写真を紹介した。コンセントにプラグを差し込めば装置を動かすことが出来る現在と違って、装置専用の電源と真空ポンプを備えなければならない状況を説明するために、電気の歴史と真空技術の歴史から解説をしたところ、初めて聞く話であるからか、学生は興味深く聞いていた。
- 次に、ゴールドシュタイン(独)が陰極線を発見した経緯、レントゲンが陰極線の実験を行う中でX線を発見した経緯を説明し、ベクレル(仏)が人工的に生み出されたX線と同等な燐光を発生する自然源としてウラン鉱を発見した経緯を解説した。そして、ウランはチェコスロバキアの銀鉱山ヨハヒムスタールでピッチブレンド(不運な鉱石)というニックネームで呼ばれていたウラン鉱からクラブロート(独)が分離したという話をした。
- 最後に、J.J.トムソン(英)による負の電荷を持った微粒子(電子)の発見、ラザフォード(英)によるα線とβ線の発見、キューリー夫人(仏)によるPoとRaの発見、ピラール(仏)によるγ線の発見、ラザフォードによるα線はヘリウム原子核、γ線は電磁波であることの発見、チャドウィック(英)による中性子の発見をそれぞれの使用した実験装置の原理とともに解説した。そしてハーン(独)によるUの核分裂の発見とアインシュタイン(独)の質量-エネルギー等価則を紹介した。
- シニアの感想
- 学生達は、放射線にはα線、β線、γ線があり、人体にとって危険なものであるぐらいの知識を持っているが、その発生源、それぞれの性質、人体への影響の度合い、Uと中性子の反応等についての知識を問いただしても、あいまいな答えが返ってくるため、丁寧に解説を行った。
- 正しく説明を行えばキチッと理解して貰える学生達であるから、今回の対話会は大変有意義な機会であったとの印象を持った次第である。
(3)G.3及びGr.4(シニア幸浩子、鈴木成光、湯佐泰久より報告)
- 学生; 先端融合開発専攻科1年生11名
- 対話の方法; 「みゆカフェ」方式でのアクティブラーニング
- 対話の内容
- 従来型の質疑応答形式ではなく、「みゆカフェ」という連鎖式段階的対話手法を導入し、3班、4班の合同で実施した。
- みゆカフェ方式の進行
- 成果
- シニアの関わり方
- みゆカフェ事後アンケート結果から見られた特徴(詳細資料は添付-2)
- シニアの所感
今回の対話では、「興味の変化」や「思考の深化」を可視化することを目的として、段階的なグループ再編成を行った。まず、学生はそれぞれ1人1テーマを担当し、提示された論題に対して自由に意見や疑問、連想される言葉などをポスターへ書き込んだ。その後、参加者は全てのポスターを巡回し、他者の意見に対して自由に書き込みを行った。
次に、全ポスターを改めて閲覧した後、各自が「さらに考えてみたい」と感じたテーマへ自主的に移動した。この段階では、1つのポスターにつき2名までの小グループを形成するようにした。興味を持つ学生が存在しないポスターについては書き込みを停止した。この段階で班数は11班から7班へと集約された。
さらに、7班で再度巡回と討議を行った後、学生は再び「より興味のあるテーマ」へ移動した。最終的には5班へ再編成された。それは;
① 人はなぜ見えないものに不安を感じるのか
② 正しく怖がるとはどういうことか
③ 次世代という未来とは何か
④ 豊かな生活と大量のエネルギー消費
⑤ 学校教育によって「知らないことへの恐怖」は解消できるか
という5班であった。
最後に、班ごとに討議内容を整理しポスターを用いて発表した。
このように、学生の関心に応じて班構成が変化していく中で、対話を通して思考が深化していく過程が確認できた。学生アンケートにおいても、「自分が得られなかった視点を得られた」「他の人が書いた内容が自分には思いつかない内容だった」などの記述が見られ、対話を通じて視点が拡張されていった。各対話のテーマは感情、価値観、社会受容、教育などと深く関係しており、学生自身に今後も考え続けていって欲しい論点と言える。
3名のシニアは学生と同様に、書き込みを行った。そして、自由に各班を巡回しながら学生と対話を行った。そのため、学生1名とシニア1名による個別対話や学生2~3名とシニア1名による小規模対話、ポスターを囲みながらの自然発生的討議など、多様な形態の対話が同時進行的に行われた。
学生側は自身の疑問や考えを比較的自由に表現できていた。また、シニア側も学生個々の興味や理解度に応じて柔軟に説明や問いかけを行うことができた。特に、「答えを教える」ことよりも、なぜそう感じるのか、なぜ不安になるのか、なぜ人によって考え方が違うのか、といった、考え方そのものを対話の対象とする場面が多く見られた。
ただ、学生はポスターへの書き込みに集中しており、シニアとの直接対話は少なかった。シニアによる短時間の話題提供と学生からの質疑応答の時間を設けるなどが必要かもしれない。
事後アンケートでは、「他者の意見から新しい視点を得られた」「自分の考えが広がった」「書くことで意見を出しやすかった」「講義だけより深く考えられた」という感想が多く見られた。これらは、本手法の特徴である「連鎖的思考」が実際に機能していたことを示している。また、「遠慮せず素直に意見を書くことができた」「雰囲気よく楽しくできた」との記述から、心理的安全性の高い対話空間が形成されていたことがうかがえた。
一方で、「考える時間を増やして欲しい」「シニアともっと話したかった」など、今後の改善につながる示唆も得られた。また、エネルギー安定供給、再生可能エネルギー、原子力発電の将来像などの具体的議論を望む意見も見られた。ただ、時間の制約もあり、そのバランスを取る必要がある。
今回の対話会では、「知識を与える」ことだけでなく、「自分自身で考え続けること」を重視した対話活動が実現できた。特に、興味に応じて班が11班から5班へ収束していく過程は、学生自身の関心が対話によって集約化していったことを示している。また、ポスターへの書き込みという方式は発言が苦手な学生でも参加しやすい手法であり、そして、シニアが自由に巡回する形式は、学生一人ひとりの疑問や関心に柔軟に対応でき、学生とシニアとの距離を縮める要因となっていた。
今回のように、参加者自身の関心に応じてテーマが再編成される形式では、「与えられた問いに答える」のではなく、「対話を通して問いそのものを深めていく」ことができ、これが「みゆカフェ」方式の大きな特徴である。
4.対話会事後アンケートの回答(19名分)の概要(詳細資料は添付-3)
(1)進路について
就職 13名 進学 4名 未定 2名
進路の分野は電気電子、情報、建築関係のみで、原子力を挙げる学生は無かった。
(2)基調講演について
内容の評価; とても満足 37% ある程度満足 58% (計95%)
聞きたいと思ったことが聞けたか;
十分聞けた 53% ある程度聞けた 47% (計100%)
不満に感じた理由;
内容が難しく分かり難かった 7名 説明・質問の時間の不足 5名
(3)少人数グループ対話について
内容の評価; とても満足 53% ある程度満足 42% (計95%)
対話したいと思ったことが対話できたか;
十分できた 53% ある程度できた 42% (計95%)
不満に感じた理由;
時間不足 7名 シニアの話が長い 3名 話が難しい 2名
(4)対話会全体の評価
得られたことは何か;
新しい知見 18名 マスコミ報道との違い 5名
自分の将来への参考 4名 教育指導への参考 3名
学生とシニアの対話会の必要性;
非常にある 63% ややある 32% (計95%)
友達や後輩に対話会への参加を勧めたいか;
勧めたい 78% そう思わない 11% どちらとも言えない 11%
勧めたいと思わない理由(回答1人)
1つのテーマについてもっとじっくり考えたかった
(5)放射線、放射能
危険性
日常的に浴びており一定のレベルまでは恐れる必要はない 79%
放射線、放射能は量(レベル)に関係なく怖い 21%
有用性
医療関係等で利用されており生活に有用であることは知っている 100%
(6)原子力発電
再稼働を進めるべき 21%
将来に向け、新増設、リプレースを進めるベき 32%
2030年目標(原子力発電20~22%)を達成すべき 47% (計100%)
(7)再エネ発電
環境にやさしい電源であり利用拡大を進めるべき 79%
発電が天候に左右されるので利用は抑制的にすべき 16%
分からない 5%(1名) (計100%)
(8)カーボンニュートラルとエネルギー
関心や興味があるか;
大いにある 58% 少しある 42% (計100%)
興味や関心がある項目は;
エネルギー資源の確保 9名 温暖化の影響と対策 8名 その他
日本の2050年脱炭素化社会の実現可能性;
実現すると思えない 42% 相当いいところまで到達する 32%
分からない26% (計100%)
脱炭素に向けた電源の在り方;
再エネ中心42% 原子力と再エネの組み合わせ26%
原子力、再エネ、火力をほぼ均等 26% 分からない 5%(1名)
(9)高レベル放射性廃棄物の最終処分
関心や興味があるか;
大いにある 42% 少しある 53% あまり無い 5% (計100%)
周辺で地層処分場の計画が起きたらどうするか;
反対する 42% 反対しない 26% 分からない 32% (計100%)
興味や関心がある項目は;
技術 11名 法制度 10名 立地選定 7名
(10)本企画全体の感想・意見(自由記載、3件あり)
・新しい知識が得られたので良かったです。ありがとうございました。
・興味深い企画でした。ありがとうございました。
・知識を深めることができました。
5.その他
今回は基調講演と対話が同一日の1、2限に設定されて間に時間が無く、また原子力立地県の学校でもないため、講義資料を事前に予習させ質問を提出させてシニア側が回答作成して返送し、当日までに再び予習させる、というやり取りの方式は採用していない。