日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会
 

学生とシニアの対話
in 愛媛大学2026年度(第2回) 報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW) 世話役 :大西祥作
報告書作成   令和8年8月15日
《愛媛大学城北キャンパス正門》
「フィールド実習」の授業の中に組み込み社会共創学部の学生と2回目の対話会を実施
大学社会共創学部の学生(2年生)との対話会を実施した。社会共創学部は、地域社会を持続可能な発展へと導く人材を育成するための文理融合型の学部であり、実践力を育成するための「フィールド実習」の1テーマとして「エネルギーの現状と課題」を取り上げ、この授業の一部としてSNW対話会等を実施した。「フィールド実習」の主な構成は、ⅰ)イントロダクションとしてのSNWによる基調講演、ⅱ)テーマ設定と調査(グループワーク)、ⅲ)四国電力殿による伊方発電所見学前講座、ⅳ)伊方原発見学(SNWも参加)、ⅴ)同振り返り、ⅵ)SNW対話会となっており、SNWに主要な部分を担わせて頂いた。 この対話会をお世話頂いた高橋教授のシステマティックな授業計画、四国電力殿の支援及びSNWの対話会実施の3者が上手くかみ合うことにより、 学生が自主的にエネルギー問題を自分事として捉え、議論や資料作りに取り組んでくれた。結果としてエネルギーリテラシーのレベルアップが図れた。 
                                                                     

1.講演と対話会の概要

(1)日時

基調講演 :令和8年6月17日(水)10:20~11:50
発電所見学:令和8年7月8日(水) 8:30(大学発)~15:30(大学着)
対話会  :令和8年7月29日(水) 12:40~16:40

(2)場所

基調講演&対話 : 愛媛大学 城北キャンパス 共通講義棟C4階 EL41室 
発電所見学 : 四国電力(株)伊方発電所

(3)参加者

大学側世話役:副学部長&産業イノベーション学科 高橋学  教授
参加学生: 産業イノベーション学科,産業マネジメント学科、地域資源マネジメント学科 2年生 9名  
参加シニア:4名(杉本純、鈴木成光、嶋田和真、大西祥作(世話役))

(4)基調講演

 テーマ
日本のエネルギー政策とその課題 ~次世代に伝えておきたいこと~ 
 講師
杉本 純(SNW会員、東京科学大学特任教授) 
 講演概要
エネルギーでは、(1)人類とエネルギーのかかわり、(2)一次エネルギーについて、(3)世界のエネ ルギー情勢と我が国の状況、について概括した。
我が国のエネルギー政策とその課題では、(1)2050年カーボンニュートラルに向けてのグリーント ランスフォーメーションの目論見、(2) 第7次エネルギー基本計画、(3)日本のあるべき立ち振る舞い、 について概括した。
次世代に伝えておきたいことでは、(1)安全とは(リスクについて考えてみる)、(2) 伝えておきた いこと、について概説した。
 

(5)発電所見学

 見学場所
ビジターズハウス、発電所緊急時対策所、総合事務所地下の免振構造、パノラマ館
 SNW参加者
杉本純、鈴木成光

2.対話会の詳細

(1) 対話の事前準備

対話の事前準備として、基調講演資料(事前配布)等を参考に班単位でフィル―ド実習(対話)テーマを検討し、フィル―ド実習(対話)テーマについて現況や課題、対応策等を調査・検討し調査結果をまとめた。 尚、調査は、四国電力殿による原子力発電システムの概説、伊方発電所見学のよって得た知見も反映した。対話会当日は、事前調査結果をベースに班単位で対話テーマの深堀を実施した。

(2) グループ対話の概要

ⅰ)第1班

  1)対話テーマ

核融合と核分裂の違いとその可能性

  2)参加者

学生:産業イノベーション学科2年生 2名
     地域資源マネジメント学科2年生 1名、計3名

シニア:杉本 純(報告者)

  3)主な対話内容

学生の自己紹介の後、核融合発電及び核分裂発電の違いとその可能性について対話を実施
した。高校物理教科書やネットなどから学生が事前に調べてきた情報に基づき、核融合発電は核分裂発電に比べて、以下の違いがあるとした。 

  1. ① 二酸化炭素の発生がほとんどないのは両者共通
  2. ② 核融合は軽い原子の融合、核分裂は重い原子の分裂によるエネルギー発生
  3. ③ 核融合は原子炉暴走の恐れはないが、核分裂は暴走の可能性あり
  4. ④ 核融合燃料は海水から豊富に得られるが、核分裂用ウランは稀少資源
  5. ⑤ 放射性廃棄物は核融合では少ないが核分裂は多量で長期に亘る
  6. ⑥ 技術的には、核分裂はほぼ確立しているが、核融合は制御が難しく未実証

学生の質問に答える形で、核分裂の原理、核分裂炉開発の経緯、核融合炉実現に関する技術的困難性、原子力発電の安全性(他電源と比べたリスクの比較、航空機や車と比べたリスクの比較、福島第一原子力発電所事故での放射線による被害)などについてシニアより説明した。当初は、核融合炉にはメリットしかないとの認識だったが、核分裂炉は早期に実現したものの、核融合炉は相当長期に亘って未実現であることを知り、核融合炉実現までには、核分裂炉が必要であることを理解したようだった。

対話内容を上手くまとめて、手分けして発表できた。質疑では、核融合における高レベル放射性廃棄物の表現、実用化時期を示す根拠、原子力に対する印象が学習によって変化した理由などを確認した。

  4)所感
質疑の中で、1F事故の影響もあり、原子力は危険なものと小中学校で教えられてきたが、今回の対話  活動の中で原子力発電が安全で重要であることを理解できたとの話が3人に共通してあったことが特筆される。
会話の中で、鉄腕アトム、ドラえもん、エイトマンのエネルギー源が原子力(核分裂)であることを学生 たちは知らなかった。発表資料の表紙に早速、鉄腕アトムの絵を取り入れたのは流石と思った。
今回は、基調講演、発電所見学、対話会と全てに参加したので、学生との接触時間が多かったため、 学生たちの物の見方などが多少は理解できた。ただ、最初の基調講演から対話会まで1ヶ月半もあ ったので、学生からの質問や感想などのフィードバックがもう少しあっても良かったと感じた。

ⅱ)2班

  1)対話テーマ

伊方原子力発電所の安全対策

  2)参加者

学生:産業イノベーション学科2年生 2名、大学院1年生1名 、計3名

シニア:鈴木 成光(報告者)

  3)オブザーバー

四国電力愛媛支店広報課 門田副長

  4) 主な対話内容:
  1. a)7月8日の伊方原子力発電所見学会において、四電から安全対策について詳しく説明を受けて理解を深めることが出来たと思うので、その中で興味が深く、関心がある対話会で議論したい事項は何かを学生に問い合わせたが、最初学生からリスポンスがなかったので、シニアから福島第一原発事故の経緯や要因を説明し、伊方原発の安全対策に反映されていることを理解してもらった。
  2. b)対話会の前に既に学生は発表資料を作成済みだったようで、安全対策としては給電対策や給水対策などではなく、次の項目に限って興味を持っており、それらについて発言があり、対話をした。
    1. ①発電所入口の厳しい検問や、警備員による24時間パトロールなどの不審者対策が非常に厳しく、テロ対策として重要
    2. ②緊急時対策室の見学の際の説明を踏まえて、緊急時における運転員用の防護服や食料などの備蓄や、建屋の免振対策、遮蔽対策など
  3. c)オブザーバーから、自然災害対策として、以前の発電所の周辺は森林に囲まれていたが、再稼働にあたり周辺35mの木々を伐採して、モルタルで覆ったという説明があった。
  4. d)伊方発電所の従業員が周辺住民の家を個別に定期的に訪問して、原発の状況を理解してもらうという四国電力の活動は非常に重要であり、強化された安全対策について理解をしてもらうことが大切ではないか、という議論をした。
  5. e)伊方発電所の安全対策とは関係ないが、大学院生からシニアの経歴について質問があり、シニアから高性能燃料や高燃焼度燃料の開発、燃料リークの要因究明などの経歴について説明し、新しいものを開発することの楽しさを理解してもらった。
  5)所感 
学生2名からの発言が少なかった。対話後の発表資料に拘っていたように感じられ、安全対策の全容には関心がなかったように思われた。 
対話会後の振り返り会で議論したように、事前に学生の調査結果をシニアに連絡してもらい、シニアからコメントを投げ掛けておければ良かったように考える。 

ⅲ)3班

    1)対話テーマ

クリーンエネルギー再考、S+3Eによる電源構成の客観的評価

    2)参加者

学生: 産業イノベーション学科、産業マネジメント学科 2年生 3名

シニア:嶋田和真(報告者)、大西祥作

    3)主な対話内容
  1.   ① クリーンエネルギー再考
  2. 再生可能エネルギーに対して、土地利用、設備利用率、出力変動、海外の供給網への依存、自然環境への影響及び固定価格買取制度に伴う負担が整理された。 質疑では、製造時の人権問題、使用済み太陽光パネルの処分、再生可能エネルギーの導入目標を達 成できない場合の代替策、再エネ賦課金を誰が負担しているかを明確にする必要性が指摘された。
  3.   ② S+3Eによる電源構成の客観的評価
  4. 原子力、火力、水力、太陽光及び風力を、安全性、安定供給、経済効率性及び環境適合性で採点し、 価値観ごとの重み付けによる変化を比較した。 質疑では、予想と異なる結果も研究成果として受け止める姿勢、水力の供給力・拡張可能性を含む 採点方法、アンケートと感度解析による客観性向上、国際情勢によって評価の重みが変わる可能性 を議論した。
  5.   ③まとめ
  6. 対話全体を通じて、単一の電源を絶対視せず、S+3E、社会的影響、国際情勢等を含む複数の視点か ら比較すること、また「リスク」「安定供給」「国産エネルギー」などの言葉を定義し、出典と定量的根拠を示すことの重要性を共有した。
4)所感
当日に初めて発表資料を確認し、内容説明から始めたため、専門的な対話に入るまでに時間を要した。また、主語の不足、出典確認、用語の定義、評価方法など、研究及びプレゼンテーションの基礎に関する助言が多くなった。学部生を対象とする以上、この指導にも意義はあるが、「シニアの専門性を生かした対話」を主目的とする場合は、事前準備を充実させる必要がある。

3.学生アンケート結果の概要

(1)調査概要
2026年7月29日に回収された事後アンケート8件を集計した。参加者総数は9名である。回答者はグループ1が3人、グループ2が2人、グループ3が3人で、7人が2年生、1人が4年生であった。性別は設問の指示に従い報告対象から除外した。標本数が少ないため、以下は参加者8人の傾向を示す記述的分析である。
(2) 主な結果
基調講演は「とても満足」5人、「ある程度満足」2人で、肯定的評価は87.5%であった。事前に聞きたかったことは全員が「十分」または「ある程度」聞けたと回答した。対話内容は全員が満足と回答し、事前に対話したかったことを十分またはある程度話せた回答は7人(87.5%)であった。改善点として、講演内容が難しかったとの回答が4人、対話内容が難しかったとの回答が3人、希望した内容を十分に話せなかったとの回答が2人、シニアの話が長かったとの回答が1人あった。
講演・対話で「新しい知見が得られた」は7人(87.5%)であった。学生とシニアの対話は全員が必要と回答したが、友人や後輩に参加を勧めたいとの回答は5人(62.5%)にとどまり、2人が中立、1人が否定的であった。特に、事前に希望した内容を「十分に対話できた」5人は全員が参加を勧めたいと回答した一方、「ある程度」または「あまり」しか対話できなかった3人には、勧めたいとの回答がなかった。少数回答ではあるが、学生が話したい論点を十分に扱えたという実感が、参加推奨意向を左右している可能性が高い。
最も面白かった・役に立った内容は伊方発電所見学が4人で最多であり、SNW基調講演、ヨンデン対話会、SNW対話会、フィールド実習のグループワークが各2人であった。現地見学を核としながら、講演、対話、グループワークを組み合わせた構成に教育的価値が認められる。
放射線・放射能については7人が「一定のレベルまでは恐れる必要はない」と回答し、7人が医療等での有用性を認識していた。原子力発電は8人全員が必要性を認識し、再稼働、新増設・リプレース、2030年目標の達成のいずれかを支持した。再エネ発電は、天候依存を理由に抑制的な利用を求める回答が4人、利用拡大が2人、分からないが2人であった。
温暖化・脱炭素への関心は6人(75.0%)にあったが、日本の2050年脱炭素社会については8人全員が「実現するとは思えない」と回答した。望ましい電源構成は、化石燃料を最小化し原子力と再エネを組み合わせる案が5人(62.5%)で最多であった。地層処分への関心は5人(62.5%)にあり、近隣で計画が持ち上がった場合は4人が反対しない、3人が反対、1人が分からないと回答した。技術面への関心が6人と高かった。
(3) 評価と今後のアクション
今回の対話会は、新しい知見の獲得と原子力・エネルギーに関する考察を促した点で、明確な教育効果があった。一方、高い満足度と「内容が難しい」という指摘が併存しており、専門性を下げるのではなく、事前資料や用語解説で理解を支えることが適切である。
次回は、①講演・対話の要点と主要用語を,1週間前を目安に共有する、②学生が聞きたい・話したい論点を事前に収集して議題に反映する、③シニアの説明を短く区切り、学生の発言時間を確保する、④学生のテーマとシニアの専門分野を事前に対応付ける、⑤条件付き設問の分岐を修正し、事前・事後の同一設問によって意識変化を測定する、の5点を優先して実施することが望ましい。

4.別添資料リスト