日本原子力学会シニアネットワーク連絡会

第12回シンポジウム報告書

どうする、これからの原子力

福島第一原子力発電所事故を踏まえた我が国原子力の今後

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3月11日の東日本大震災ではM9の巨大地震とそれに続く超巨大津波により、わが国に未曾有の災害をもたらしました。とりわけ福島第一原子力発電所の事故は、私たち原子力に深く関わってきた者にとって、あってはならない事態に至ったことに深く心を痛めています。

地震により原子炉は正常に自動停止したものの津波による浸水で安全冷却系の電気設備が機能を果たせなくなり、燃料熔融という最悪の事態になりました。この後水素爆発により原子炉建家が破壊、大量の放射能が放出され、周辺の広範囲に放射能汚染をもたらしました。

今回のシンポジウムは福島事故を正面から見据えて、専門家の方々からお話を伺うとともに会場の皆さんと一緒に考える場とするため開催したものです。

第一部では4人のパネリストの方から「福島事故の経緯と今後の安全対策」、「既設プラント対策」、「避難地域の復興に向けて」、「これからのエネルギー政策」についてお話を伺い、第二部では4人の方をパネリストとして、会場の皆様からの質問、ご意見を含めて討論を行いました。

シンポジウムは約200名(内一般参加者約50名)に参加いただき、関心の高さが感ぜられ、盛会裏に終了することができました。

その概要を以下に報告します。

 

日時: 2011年86日(土)13001710

場所: 東京大学武田先端知ビル5階

主催:(社)日本原子力学会 シニアネットワーク連絡会 (SNW)

共催:エネルギー問題に発言する会、エネルギー戦略研究会(EEE会議)

後援:日本原子力技術協会、日本原子力産業協会、日本原子力文化振興財団

 

プログラム

全体司会:金氏 顯(SNW代表幹事、元三菱重工常務取締役)

開会挨拶:宅間正夫(SNW会長、元原産協副会長)

第一部:講演

1.   事故の概要と原子力の今後

尾本彰氏(東大大学院特任教授、前IAEA原子力発電部長, 原子力委員会委員)

2.   既設プラント対策

富岡義博氏(電気事業連合会、原子力部長)

3.   避難地域の復興に向けて

    井上正氏(電力中央研究所、主席研究員)

4.   これからのエネルギー政策

    村上朋子氏(日本エネルギー経済研究所、原子力グループリーダー)

第二部:パネル討論・フロアーとの対話

座長:林 勉(エネルギー問題に発言する会代表幹事、元日立製作所理事)

パネリスト: 第一部ご登場の4人の方たち

内容

討論および質問回答、フロアーとの対話

パネリストと座長のまとめ

閉会挨拶:金子熊夫(エネルギー戦略研究会会長、EEE会議主宰者

 

シンポジウム開催に当たってのご挨拶

シニアネットワーク連絡会会長 宅間正夫

 

IMG_5362本日は土曜日にもかかわらず暑い中を、シンポジウムで過去最多のご参加をいただいて誠にありがとうございます。

史上例を見ない東日本大震災は原子力発電所の炉心溶融事故を惹起し、立地地域の皆様には津波の被害に加えて放射能放出による避難と環境汚染の三重のご迷惑をおかけしたことは、長年原子力に携わってきたシニアのメンバーにとって痛恨の極みであり、避難を余儀なくされている福島県の皆様方はじめ多くの方々に対しまして、心より申し訳なく思っております。

半世紀にわたるわが国の原子力が、かつては世界トップレベルの安全・高性能を誇ったにもかかわらず、ここ10年程は利用率の低迷や不祥事などさまざまな内部矛盾が顕在化し、原子力開発における官民それぞれの改革の必要性が叫ばれていた矢先の出来事でした。自然事象を契機として深層防護が破られた今回の事故は、原子力取り組みへの意識改革をはじめとして、これまでの安全基準をはじめとする多くのルールや体制を抜本的に改革し、国民の皆様が真に頼れる原子力へと脱皮する絶好の機会ともいえます。国内だけに閉じこもってガラパゴス化したわが国の原子力を世界的に開放し、その真価を問う機会でもあります。

その一方でこの事故は、原子力縮減・再生可能エネルギー期待へと大きく世論を変えつつあります。とはいうものの、島国の資源小国わが国は、ドイツ・イタリアなどと違って数十年は原子力との共存は避けられません。今回の事故は、原子力が単なる電気生産の手段に止まらず、国の安全保障の重要な一端を担っていることを明らかにしました。その意味で原子力は、「安全リスク」が突出したなかでの「理性の技術と感性の安心」との果てしないせめぎあいから少し離れて、「安全リスク・経済リスク・環境リスク」のバランスの中で冷静な国民的な議論が必要なのではないかと思います。

また今後国の発展を目指す諸国の原子力発電への意欲は、必ずしも衰えを見せておりません。エネルギー資源を巡る太平洋戦争に敗れ、1952年に独立を回復した翌年の国連「平和のための原子力」提案は、新たな平和国家建設を目指すわが国にとってかけがえのない技術への道を拓くものであり、兵器利用とは確実に一線を画しつつ非核兵器保有国として原子力平和利用の技術を築き上げてきました。原子力発電によって国際的な資源争奪から離れて自国のエネルギーをまかなおうとする国々の「平和のための原子力」を支援・協力することはわが国の歴史的使命ともいえます。原子力の技術基盤を持つわが国がこの事故からの反省と教訓を糧として一層安全性を高めていくことを、これらの諸国は期待しております。また原子力の平和利用技術を維持することは、国の安全保障の一角でもあると思います。

本日は国内外に著名な4人の専門家を、大変ご多忙の中をやりくりつけてお出でいただきました。未だ事故収束への第1ステップの目標をクリアーしたばかりでありますが、避難された皆様の一刻も早いご帰還と普通の生活への復帰を心から念じつつ、3.11以後の新たな原子力のあり方を皆様と共に考えてまいりたい、そして手前ごとですが原子力シニアの活動を応援していただきたい、と思っております。最後に、福島事故の収束に向けて懸命の努力を続けておられる多くの方々に深い感謝と激励の声を、皆様と共に送りたいと思います。ありがとうございました。

 

第一部 講演

 

1.福島第一原子力発電所事故

講師 尾本 彰氏

東京大学大学院特任教授、前IAEA原子力発電部長、原子力委員会委員

講演資料はココをクリックすると参照できます

講演概要

福島第一原子力発電所の事故の概要について、今後の対応策等を考える上での素材の提供に資したいとの観点から、概ね次のような話があった。

 

I.    IMG_5369地震と津波

(1)  地震と津波の状況

プレートの破壊は宮城県沖領域の震源から開始され、岩手県沖、福島県沖、茨城県沖へと連動しながら伝播した(震源域の範囲が広範囲、地震規模M9)。

柏崎刈羽原子力発電所では、設計ベースの23倍の加速度によっても、安全機能は維持されたことから、今回の地震によっても安全系の損傷は重大なものではないと推測されるが、6つの外部電源が鉄塔の崩壊等で全て喪失した。

地震後原子炉は緊急停止、その後非常用電源で冷却を開始したが、津波により非常用電源、原子炉冷却機能、燃料プール冷却機能を喪失した。

(2)  原子力発電所の津波対策

安全委員会の安全設計審査指針では「(自然現象に対しては)最も過酷と考えられる条件を考慮した設計であること」とされているが、具体的な安全目標は定義されてない。土木学会原子力土木部会から「原子力発電所の津波評価技術」が2002年に公表されたが、このガイドラインは決定論的な手法にとどまっており、その後、確率論的津波ハザード曲線の研究が進んでいる。ロジックツリーによる認識論的不確かさの評価が課題とされている。

 

II.  原子力発電所の応答

(1)  女川、東海、福島第一、福島第二の14基の間で何が差異を生んだか

福島第一1~4号機以外は、下記により冷温停止が可能であった。

   設置高さと津波高さとの関係

非常用DG関連電気品室等の浸水が一部だけにとどまったこと

   利用できる電源の有無と適切なアクシデントマネジメントの関係

外部電源の存在、非常用DG関連電気品室等の浸水が一部だけにとどまったこと、空冷非常用DGの存在、アクシデントマネジメントによる隣接電源への接続が出来たなど

(2)  シビアアクシデントマネジメントによる改善に関して

   シビアアクシデント対策の状況

圧力容器の耐圧性の強化、代替注水系統の強化、電源系統の連携強化等が図られてはきたが、シビアアクシデントマネジメントを、実効性を持ったものにする努力は十分ではなかった。

   事故後認識されたシビアアクシデントマネジメント実施上の問題点

ベントラインの弁の設置位置、ベントラインの隣接号機との共有、原子炉建屋ベントの設置、バッテリーチャージャー設置、炉心損傷後の環境条件下でのシビアアクシデントマネジメント実施への備え等が不十分

   海外の事例の吸収が十分でなかった

(3)  福島第一の炉心燃料の損傷に至るまでの経過

   1446分、地震とこれにより原子炉停止、外部電源喪失、非常用電源が起動し ICRCIC起動した。

  1538分〜41分、津波によりAC/DC電源喪失、ヒートシンクから隔離された。

   炉心燃料の損傷までの時間は、福島の1号機では415時間、2号機では7577時間、3号機では4043時間と考えられており、TMIに比べ、長時間持ち続けられた。

(4)  原子炉建屋内での水素爆発

福島一号機の水素爆発は、酸素のある格納容器外の閉空間(原子炉建屋頂部)で発生した。4号機の水素は隣接の3号機からの流入と推定される。

 

III. 回復操作

原子炉へ一日400トン程度が注水され、一号機の原子炉圧力容器は100度程度に冷やされている。

(1)  安定化のための施策

   原子炉と使用済みプールの冷却システム構築

   発電所外への放射性物質漏えい防止

原子炉建屋を覆うカバーの設置(9月末目途)、水のリサイクル、Cs等の除去及び淡水化、汚染水の貯蔵、腐食管理等

   残留リスクの低減

余震対策(燃料プールの補強、補給水システムの信頼性向上)、水素対策等

(2)  滞留水の処理とリサイクル

   滞留水の浄化システムによる放射性物質の除去と海水の淡水化

これにより原子炉冷却のための注水をリサイクルし、環境への汚染水の放出防止と腐食を抑制する。汚染水の貯蔵は20万トン貯蔵できるようにする。

(3)  安定化した後の主要課題

   損傷炉心の燃料取り出し(TMIでは510年後に実施)

   汚染水の処理(TMIでの汚染水の1020倍の量)

   長期的な覆いと除染、将来は廃炉

   最終的な廃棄物処分

IV. 環境対策

   警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域等の設定と今後の見直し

   人体への放射線の影響

急性:250mSv以上でリンパ球の減少、30006000mSvで脱毛、皮膚の炎症

晩発性:白血病など

 

V.   主要な教訓事項

(1)  技術的要因に関する教訓事項

   地震津波などの自然災害への考慮

ハザードカーブを用いた内因事象と整合が取れた超過確率の考慮、浸水を考慮した配置設計、自然及び人工的なハザードによる共通原因故障への配慮など

   電源確保とヒートシンク確保

長時間にわたる全電源喪失とヒートシンクからの隔離の考慮、安全確保のためのヒートシンク、水源、電源の信頼性確保など

   複数基立地のリスク

   受動安全系を活用した除熱

RCIC(残留蒸気利用)作動中に逃がし弁による減圧・低圧系注水モードへ移行、格納容器からの受動安全系による除熱

   使用済み燃料プール

代替除熱システム、設置位置の問題、使用済燃料の管理(早期キャスク保管)など

   アクシデントマネジメント

所内や危機管理センター等に各種可搬式機器を用意し訓練、炉心損傷後の放射線環境下でのマネジメント、建屋内水素ガス対策など

   事故時計装と事故時の計算機支援

   緊急時責任、指揮体制、情報提供

   規制行政〜専門能力と独立性。設計指針の修正

   国際協力など

(2)  技術的要因以外に関する教訓

シビアアクシデントが「起こりうるもの」として、不断の有効性検証や海外から学ぶ姿勢がどうであったか、基準要求を巡っての学協会基準のありかた、規制に関する制度的諸問題(独立性、専門性の確保)等についての検証が必要。

 

Y.将来への課題

(1)  福島事故からの復旧に関する課題

土地の除染、避難している人の将来、町の復興計画、健康影響とその調査、運転中および停止中の原子炉の安全確保、原子炉法令・基準・体制の改定、損害賠償、エネルギー供給確保、エネルギー政策の見直しと国民の意思決定への参画、防災計画など社会一般のリスク管理の向上、経済へのインパクトなど

(2)  福島後の原子力政策に関する課題

   当面する緊急の課題の明確化と方向付け

   エネルギーミックスの将来(原子力政策を含めたエネルギー基本計画の改訂)

検討にあたっては下記のようか条件を考慮する必要がある。

需給バランス、供給セキュリティ、低炭素化、個々のエネルギー源の特性や再生可能エネルギーの果たす役割、国民経済負担、立地地域の意向、技術開発、原子力の利用を支配するその他の要因(「安全確保」を前提とした国民と事業者の関係、規制への信頼性、国民の意思決定プロセスへの参加)など

(佐藤祥次記))

 

2.原子力発電所における緊急安全対策等について

講師 富岡義博氏

電気事業連合会 原子力部長

講演資料はココをクリックすると参照できます

講演概要

福島第一の事故後、保安院からの指示を受けて採られた原子力発電所の緊急安全対策の具体的な内容と、シビアアクシデント対応策等についての紹介、並びにその有効性確認の考え方等についての説明があった。

 

I.    IMG_5374緊急安全対策への対応(330日 経済産業省の指示)

@   指示内容

津波により3つの機能(全交流電源、海水冷却機能、使用済み燃料貯蔵プールの冷却機能)を全て喪失した場合でも、燃料損傷や多量の放射性物質の放出を防止すること。

(「 福島第一・第二原子力事故を踏まえた他の発電所の緊急安全対策の実施について」の文書による指示)

A   事業者の対応事項

短期対策(各社対策済み)

  緊急時対応計画の作成〜津波を想定した対応計画及び手順書の作成

  電源確保〜全交流電源の喪失を想定し、最低限の電源を確保するため、高圧移動式発電機車及びケーブル類を配備

  除熱機能確保〜原子炉、使用済み燃料プールへの注水を確保するため消防車・可搬式ポンプ・ホース類を配備

  建屋への浸水対策〜重要機器を設置している建物への侵入を防止するため扉の浸水対策を実施

  全交流電源の喪失を模擬した訓練の実施

中長期対策

  海水ポンプ用電動機が機能喪失した場合に備え、復旧するための資機材の配備、取換用の電動機予備品の確保(1年程度で実施)

  非常用ディーゼル発電機のバックアップとして、空冷式非常用発電機等の設置(12年程度で実施)

  津波の侵入・衝撃を回避するための防潮壁(防潮堤,防波壁)の設置、建屋扉の水密化(23年程度で実施)

B   保安院による立入検査・評価

保安院は発電所の立入検査を実施し、56日緊急安全対策が適切に実施されているとの評価結果を公表。

 

II.  シビアアクシデント対応

@   経済産業省の指示内容(67日)

万一シビアアクシデントが発生した場合でも迅速に対応するための措置を実施すること。

(「平成23年福島第一原子力発電所事故を踏まえた他の原子力発電所におけるシビアアクシデントへの対応に関する措置の実施について」の文書による指示)

A   事業者の対応事項

  全交流電源が喪失した時においても、電源車等から中央制御室の非常用換気空調系設備を運転可能とする措置

  全交流電源が喪失しても通信機器を継続的に使用できるよう通信機器へ電源を供給する電源車を配備

  高線量対応防護服等の資機材確保及び放射線管理のための体制の整備(高線量区域での作業のための高線量対応防護服を配備など)

  水素爆発防止対策として、原子炉建屋への穴あけ作業が出来るように資機材を配備(中長期的には水素ベント装置及び水素検知器を設置)(BWR)

  がれき撤去用ホイールローダ等の重機を配備

B   保安院による立入検査・評価

保安院は発電所の立入検査を実施し、618日シビアアクシデントへの対応に関する措置が適切に実施されているとの評価を公表。

 

III. その他の国指示文書への対応

@   非常用ディーゼル発電機に関する措置

原子炉停止中も含め、常時、非常用発電設備2台を確保。当面電源車または他号機からの電源融通で対応。中期的には可搬式大容量発電機を用意する。

A   原子力発電所及び再処理施設の外部電源の信頼性確保について

電力系統の供給信頼性等の評価、各号機に全ての送電回線を接続、原子力電源線の送電鉄塔の耐震性等の評価と対策、および開閉所等の津波防止対策を行う。

B   原子力発電所等の外部電源の信頼性確保に係わる開閉所等の地震対策について

福島第一の開閉所で1、2号機にかかる遮断機等が、311日の地震により損傷を受けたことから、福島第一の地震観測記録分析結果を踏まえ、各原子力発電所等の開閉所等の電気設備が機能不全となる倒壊、損傷等の可能性の評価を行い、必要な対策を策定する。

 

IV. 津波安全対策の有効性について

次の手順により津波対策の有効性を確認した。

福島事故の分析に基づく「強化すべき安全機能」の摘出「強化すべき安全機能」に対する安全対策の整理安全対策に係る事故対応手段の実効性確認事象進展ツリーによる安全対策の有効性確認

 

V.   まとめ

@   緊急安全対策により炉心損傷防止に必要な安全機能の信頼性は向上し、津波に対するプラントの安全性は高まっているものと考える。

A   今後も緊急安全対策の更なる充実を進め、事故対応の実効性向上やプラントの安全性向上のための努力を継続していく。

B   確率論的安全評価(PSA)の更なる活用を進め、プラントの安全性の向上に努めていく。

(佐藤祥次記)

 

3.避難地域の復興に向けて

講師 井上正氏

電力中央研究所 主席研究員

講演資料はココをクリックすると参照できます

講演概要

原子力学会として福島第一原子力発電所(F1)事故調査を行う「原子力安全」調査専門委員会を設置し、環境修復を取扱う「クリーンアップ分科会」組織し、具体的な検討を行っている。その検討状況の概要につき、以下に紹介する。

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1.分科会の目的(以下の3課題の内容分析・提言・課題摘出を行う)

  F1敷地内・外の放射性物質による汚染の除去に関して、環境修復計画を分析し、課題の検討と解決に向けた提言をすること。

  関係機関の作成する修復計画を分析し、必要に応じて新たな課題、改良点を提言すること。

  TMIやチェルノブイリ原発事故の事例と比較して、今回F1事故の修復に関する課題を摘出すること。

2.具体的な活動内容

@   発電所敷地内の修復

  実施機関が作成した修復計画を分析・評価し、必要に応じた新たな課題、計画の見直し点などの提言

  炉心、燃料取出し、処理・処分に伴う中期的課題の摘出、整理

  汚染水処理、汚染程度、廃棄物の分類・廃棄物物量等のデータを分析し、汚染除去や放射性廃棄物の処理・処分方策における課題の摘出、整理

A   発電所敷地外の修復

  汚染状況の把握・分析、様々で大量の汚染物の除去、処理に関する課題の摘出、また総合的な修復戦略の検討、関係機関の実施・活動に対する提言

  社会も参加する中長期的に実現可能な修復プロセス、修復技術オプションの提言

  環境放射線モニタリングセンターの速やかな開設と恒常的な運営、修復センターの必要性を提言

3.福島第一発電所敷地外修復についての提言

  521日原子力学会「原子力安全」調査専門委員会主催の緊急シンポジウムを開催、一般への理解増進のための提言等を目的

  F1事故に起因する環境回復に関する提言(68日)

  この間、519日、527日、611日福島県を訪問し、地元自治体の意見を拝聴、本活動へ取込み活用した。地元自治体等への訪問は現在も継続実施中。

これまでにまとめられた提言は次のとおり

 

提言1:「環境放射線モニタリングセンター」及び「環境回復センター」を速やかに設置すること

@   「環境放射線モニタリングセンター」の設置

これまで、各機関が縦割で独自に実施してきた環境放射線の測定データは、一般公衆には理解が難しい。このため、各機関が独自に測定したデータを集約し、測定地点間の比較や時間的変化等を総合的に解析する機関「環境放射線モニタリングセンター」の設置が必要である。収集したデータ及びその解析結果は、関係自治体等を通じて迅速に住民へ明示すること、および放射線防護専門家による現地住民への定期的な説明体制を急ぎ構築すること。

A   「環境回復センター」の設置

活動は、福島第一発電所敷地内と敷地外の環境回復に関する、総合的な対応活動を対象とする。

環境回復センターの機能としては、下記のような案と提言した。

  既存技術の適用による放射性物質の除去方策の検討

  新技術の開発

  除去技術の実証

  放射性物質の除去作業によって生じる汚染廃棄物の処理方策

このため、環境回復のための総合戦略(*)を作成し、適用可能な技術の提示、実施計画、実施方策並びに必要な研究開発を行う。

(*)総合戦略とは、発電所敷地内外の広範な地域を対象に、周辺住民の生活上の重要度に基づく実効的な除染計画を立案するとともに適用可能な技術とその実施方法を二次廃棄物の発生及びその処理、処分法も含めて提示する環境回復戦略をいう。

 

提言2:放射性物質の除去に向けた下記のような環境回復戦略を構築すること

@   放射線測定結果に基づく環境回復計画の策定

A   客観的指標に基づく環境回復の優先順位の決定

B   合理的な環境回復技術の適応性評価

環境回復作業により、濃縮放射性物質を含む廃棄物の多量発生と、様々な作業による二次廃棄物の発生が想定されるため、それらの量、種類、放射性物質の濃度を適切に把握した処理・処分の方策の検討が重要である。

 

提言3:環境回復技術プログラムを早期に提示すること

@   最終的な姿と段階的目標の早期提示

A   確実に達成可能な環境回復効果の見極め

日本原子力学会は、今後、提案される様々な技術方策に対し、期待し得る環境回復効果や環境回復計画への適用性を評価し、環境回復の実施主体や地域住民への分かりやすい情報提供に協力する。

 

提言4:地域住民の方々の参加のもと活動すること

環境修復における法制度上の課題

  放射能汚染されたガレキは産業廃棄物として取り扱えない

産業廃棄物に関する法律(「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」)における廃棄物の定義では、放射性物質及びこれにより汚染された物を除外することとされていることによる。

  避難解除する場合の環境放射線の安全基準がない

現在の避難区域の設定は、国際放射線防護委員会(ICRP)の事故時の勧告値による、20100mSv/年の下限値20mSv/年が目安とされている。

これは国際放射線防護委員会(ICRP)が定める事故収束段階の介入線量値120mSv/年の上限値20mSv/年を超えないことを目安に決められた。

(実際には最大約10mSv/年の見込み)

この構想実現のために環境修復センターが備えるべき6の要目についてとりまとめ、提言がなされた。(平成23年7月29日)

 

4.今後の実施計画

@ 放射線モニタリングセンター(放射線影響分科会と連携)、環境修復センターの役割、機能を具体的に提言する

A 環境修復総合戦略構築へ助言する

B 段階的な実施方策についての具体的技術プログラムを提示するとともに、今後種々提案される技術について評価する

C 地域住民の方々の意見の反映を図るため学会として積極的に行動する

D 外機関との連携を図り海外機関によるレビューに協力する

E F1事故について現地福島にてシンポジウム、国際会議を主催、共催する

 

なお、これらの学会レベルでの提言は専門家集団としての内容を有し、十分な学術的な根拠に基づくものであるが、その実行は、国・地方自治体の責任と財政支出のもと、実行力あるNPO法人などの主体的な参画により、早期に被災住民に対する暖かい・生活復旧を目指すものとすべきである。

(岩瀬敏彦記)

 

4.福島事故後の世界の原子力政策動向と日本のエネルギー政策」

講師 村上朋子氏

財団法人日本エネルギー経済研究所

戦略・産業ユニット 原子力グループ・マネジャー

講演資料はココをクリックすると参照できます

講演概要

原子力の動向は、それを取り巻くエネルギー全体の状況、さらには政治的な状況に左右される。このため、原子力の扱いについては各国様々である。福島事故後、各国が原子力に関してどのような動きを見せたかを概観し、それを参考にして日本のエネルギーについて今後どのような姿を描いていったら良いか、代替エネルギーの長所・短所の評価を含め、述べる。

 

IMG_53961.福島事故後の世界の原子力政策動向

各国は、福島事故後、比較的早い時点で原子力に対する方針を表明している。原子力利用が進んでいる、あるいは、今後利用しようとしている国は、その方針を基本的に変えていない。脱原発の方向を明確にした国々は、それぞれ事情は異なるが、元々、原子力を最重点に考えていなかった国々である。「お金持ちの国だけが脱原発を議論できる」とのウクライナ首相発言は的確である。中国は、現在約1000万kWを2015年には4000万kW、2020年には7000万kWを目指している。インドは、シン首相が新設計画を引き続き推進することを表明している。フランスは、「エネルギー自給のため原子力の放棄はあり得ない」としている。米国は、現エネルギー政策の維持を表明しているが、原子力はサバイバル状態となっている。ロシアは、事故後も国内外での積極的な開発姿勢を継続して、ヨルダンに新規建設提案書を提出している。

一方、イタリアは、国民投票で原子力新設禁止が多数を占めた。強力な石油・ガス国営企業Eniを有していることがその背景にある。スイスは既設炉の安全性を維持しつつ2034年までに順次廃炉の方針を発表した。ドイツは、2022年までの国内原子力発電所全廃止法案を閣議決定した。ドイツの代替電源促進の鍵は、大量の再生可能電源導入に備えた系統連系等の技術革新やガス火力への民間投資にある。スウェーデンは、代替を見つけることができていなく、現実は国策である脱原子力と乖離している。国内既設炉の安全性総点検に直ちに着手するも、新設については造るとも造らないとも何ら言及していない。

総じて、福島事故により各国の原子力政策に関する「本気度」が浮き彫りになったと云える。

 

2.日本のエネルギー政策

昨年6月に出された「エネルギー基本計画」では、自主エネルギー比率を現38%から70%に、CO2排出量を1990年比30%削減、ゼロエミッション電源比率現34%を70%にすることを目標に、2030年には原子力を約5割、再生可能エネルギーを、ポテンシャルの上限までがんばった数値、約2%と推計している。エネルギー基本計画見直しについては、経済成長と国民の生活水準の基盤となるエネルギー安全保障、世界のモデルとなる低炭素型経済成長の実現、合理的なコスト負担で世界のCO2削減に貢献することはが必須条件となる。しかし、すべてにおいて満点のエネルギーは無く、総合的な評価が必要となる。

風力の導入ポテンシャルは、陸上のNEDO試算によると約640万kW、自然公園や洋上も含めると約数倍〜数十倍可能と云われているが、風力発電の設置に適した自然条件に加え、景観、騒音、バードストライク・漁業権(洋上)等、地元住民との調整を要する立地制約や、出力が大きく変動するための系統対策等の課題がある。また、コスト面では、陸上風力発電所は既に競争力を有するレベルにあるが、世界的な需要の急拡大や導入に伴う適地の減少から、近年はシステム価格が上昇する傾向にある。省エネルギーについては、日本は世界最大の省エネルギー国であるが、家庭部門・教務部門での省エネはまだまだ大きな余地がある。また、特に世界最高水準の産業部門の省エネ技術を更に進展させ、新興国に普及されることが重要である。

 

3.総括・インプリケーション

世界各国の原子力選択の是非はエネルギー・産業・経済状況により様々である。お金持ちや選択肢のある国は「脱原子力の議論が可能」であり、国民合意のもとで再生可能電源普及に注力したり、安全性を理由として既設炉を再稼働保留することも可能である。エネルギー安全保障と温暖化防止は今後とも必須条件であり、完璧なエネルギー源は無いことから以前にも増してエネルギーの多様化が重要となる。「より安全な原子力」「より安価な再生可能エネルギー」「よりクリーンな化石燃料」「より一層の省エネルギー」を巡って最適化はこれから探索される。

後藤廣記)

 

第二部 パネル討論、フロアーとの対話

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座長:

林 勉(エネルギー問題に発言する会代表幹事、元日立製作所理事)

パネリスト:

尾本 彰(東大大学院特任教授、前IAEA原子力発電部長、原子力委員会委員)

富岡義博(電気事業連合会 原子力部長)

井上 正(電力中央研究所 主席研究員)

村上明子(日本エネルギー経済研究所 原子力グループ・マネジャー)

(敬称略)

 

1.討論

林:福島事故については、原子力に何らか関与された方々は私を含めて痛恨の念と、社会に関する責任を強く感じられ、この状態にどのように対処すべきか悩み、戸惑っておられることと思う。この事故対応は、社会的、技術的に多岐にわたり、困難が伴うという思いを共有しながらパネル討論・対話を進めたい。もっとも関心の深く重要と考える4つのテーマを選び各パネリストに講演していただきました。まず、パネリストの皆さんが担当のテーマに拘りなくどのような意見を持っておられるか、お聞きすることから始めたい。

尾本:福島事故について、2点お話ししたい。まず、1点目は、自然現象が共通原因故障を引き起こすことについてのセンシビリティが不足していた。地震についてのPSAも行われていたが、これだけの自然災害が起きる我が国において十分でなかった。2点目は、敷地外における土地汚染について、1990年代のAM整備の際、土地汚染を防ぐことが最も大切であるという認識のもとに指針を作成したが、フィルタードベントの評価等、包括的でなかったことが悔やまれる。

富岡:燃料を安定的冷却する、放射能放出を止める、避難者が元の暮らしに戻れる等福島事故の収束が最も重要である。今回の事故は、津波に対する深層防護が十分でなかったのが原因。最大津波を福島であれば高さ5.7mで打ち切って、これが破られた場合のAM対策に考えが至っていなかった。

井上:事故収束に当たって、相手側すなわち地元住民の視点が大切である。地元、県、国の間に温度差がある。いつ帰れるかについてのスピード感、それに伴う、緊迫感が国に無い。34年、水耕田を放棄すると回復が益々難しくなる。組織の壁を無くし、迅速に、効率的に対処しなければならない。これには強力なリーダシップが求められる。

村上:エネルギーの選択については各国独自の施策がある。他の国の施策に囚われることなく、安全保障とか温暖化等我々の置かれたエネルギー事情をよく考えることが必要である。今回の事故がもたらした教訓は炉型や新旧に係わらず全てのプラントに適用されるべき課題で、仮に国民がリスクを受け入れるならエネルギー事情から必要なだけ原子力を利用し、受け入れられないなら全廃すべきもの。本来どうあるべきかを考えて国の施策を考えていかなければならない。

 

2.質問回答

休憩時間中に参加者から集めた質問は100以上有った。これら質問の中から共通的なものを取り上げパネリスト他から回答した。今回、取り上げなかった質問で連絡先が明示されているものについては、後日、メール・書面にて回答することとした。

林 :「海水冷却が早ければ事故に至らなかった。海水の注入に躊躇があったのでは?」

尾本:今後の調査に待たなければならないが、海水の注入は重大な決断であり、躊躇があったとは考えにくい。ウォルストリートジャーナル誌の「躊躇が有った」との記事は、海水注水の遅れには関する数々の原因が推定されるので、「躊躇があったかもしれない」という部分を誤解したことに基づくものである。

林 :「地震によって配管が破断し事故が進展した?」

尾本:観測された地震加速度は設計値以下である。中越沖地震に際して柏崎刈羽原子力発電所では設計値の23倍の加速度によっても安全機能が維持された。この経験から、今回の地震によっても安全設備の重大な損傷は無いと推測される。

林 :「津波対策が事前に採られなかったのか?」

富岡:想定されている高さより高い津波が襲ったことと、想定されている高さを超えた時のアクシデントマネジメント(AM)が不備であったことが反省点であり、これを今後整備していく。

林 :「緊急安全対策で十分と云えるのでは?」

富岡:予想される津波高さの再設定と、深層防護の観点から、それを超える津波に対するシビアアクシデントマネジメントの両面からの安全対策を見直している。福島事故の反省点をクリアする対策となっている。

林 :「緊急安全対策のさらなる安全性の向上は?」

富岡:緊急安全対策によって、炉心損傷防止に必要な安全機能の信頼性は向上し、津波に対するプラントの安全性は高まっているものと考えている。今後も、防潮堤の設置、電源設備等緊急安全対策の更なる充実を進めて、事故対応の実効性の向上やプラントの安全性向上のための努力を継続していく。また、確率論的安全評価(PSA)の更なる活用も進める。

林 :「森林の除染はどのように行うのか?」

井上:森林の除染は困難である。チェルノブイルでは実施されていない。住宅からの距離を区切った境界部までを除染する、などの対応を考えている。秋から冬にかけて生ずる広葉樹の落葉の処理も大事な課題の一つである。

林 :「環境放射線モニタリングセンターの運営は? 他の学会への協力要請は?」

井上:日本原子力学会は実施団体ではないので、実施する団体に提言を直接説明したり、センターへコミットしたりし、貢献していきたい。他の学会との連携は現状進んでいないが大切なことであり、進めていきたい。

林 :事故後、福島を訪問して地元の声を聞いた女性からの次のような意見がよせられている。地元の方々は、元の生活に戻れるのか、別の場所の生活を再出発させねばならないのか、子供はどうなるのか等不安を抱えている。関係者はこれら地元の方々の不安を早期に解消できるよう頑張っていただきたい。

林 :「脱原子力はエネルギー需給バランスから厳しいとの意見があっても、原子力推進には一般国民は不安を持っている。」

村上:私は脱原子力が不可能とは云っていない。設備の償却が進んでいる原子力は最安値であり、脱原子力でのエネルギーコストの負担増や、エネルギーセキュリティ上の脆弱性による経済力低下をどこまで国民が受け入れられるかによる。

林 :「固定価格買い取り制度は機能するか?」

村上:イタリアは太陽光発電に恵まれた自然環境にあるが、基幹電源としてではなく、ガス火力の負担軽減等多様化の一環としている。固定価格買い取り制度が破綻する以前に実効的に機能するかは疑問。

林 :「今回の講演内容を政府、政治家に理解してもらうには?」

村上:エネルギー関係者では当たり前のことが意外に知られていない。事実なので説明することは簡単な事であり、今後とも折に触れて情報発信していきたい。

林 :低線量被曝の健康への影響はあるのか?この回答は元放射線影響協会常務理事の斎藤修氏にお願いしたい。

斎藤:広島の放射線影響研究所が、1947年以降広島・長崎の被爆生存者12万人についての調査データを公開している。インターネットでも閲覧することができる。データ量が多くすべての世代に亘っている、という意味から貴重である。100mSv以下では放射線の影響は確認されていない。癌になるという証拠はない。100mSv以上ではリスクがあると示されている。放射線防護上「しきい値無直線仮定」が用いられている。原爆症認定訴訟の最高裁で国が敗訴したことがある。これは、広島県の低線量被曝者と広島県民、岡山県民を比較すると、死亡率が高いとの名古屋大学の疫学調査報告に依ったものである。これは原子爆弾の炸裂時の外部被曝量に、しいき値を超えた残留放射線被曝線量に加えられたため、これが下駄を履いた形になり、死亡率が高くなっていると推定される。

林 :今までの福島県住民を対象とした内部被曝検査では、健康影響は検出されていない。このように実測データの積み重ねが低線量被曝を心配されている方々の理解を深めることができる。

林 :「原子力損害賠償は?」

尾本:東京電力が福島事故の原子力損害賠償の当事者となる仕組みが成立した。原子力損害賠償法では「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものについては原子力事業者は免責される」となっている。地震であれば関東大震災の3倍以上の加速度を持つ場合と解される、との国会答弁が過去にあったが、「異常に巨大な天災地変」がどのレベルのものであるか明確に定義されていない。東京電力が免責されたときは、国のどこが賠償の当事者となるのかも明確でなかった。他電力負担についても、今回成立した仕組みから法的手続きがなされたことになる。無限責任を課しているのはドイツとの日本のみである。

林 :賠償責任を負う原子力事業者以外の者は一切の責任を負わない。これは被害者が容易に賠償責任の相手方を知って、賠償を確保するようにしているためである。(被害者保護のため責任集中の原則)、原子力事業者は原子力損害賠償責任保険に入ることを義務付けられている。現在の保険の賠償限度額は原子力発電所で1200億円。

 

3.フロアーとの対話

奈良林氏(北海道大学教授):欧州では、過酷事故時、中長期的に地元に迷惑をかけないためにフィルタードベントの設置が普及している。

尾本 :1990年代のSAM検討時、フィルタードベントは格納容器の保有水を用いるスクラビングベントと比較検討されている。スクラビングベントでもセシウム1/1001/1000の効果が期待され採用されたと聞いている。今回は、格納容器から漏れたパスがあり、フィルタードかスクラビングかではなく、全体のシステムとしてどうカバーするかが問題である。

富岡 :フィルタードベントは、深層防護全体のバランスの中で選択肢として考慮していく。放射性物質のリークバスが現在明確でないので、調査結果を踏まえて決めたい。フィルタードベントも含めて考え得る安全性向上策を検討し、国民の理解を得ていきたい。

奈良林:最終ヒートシンクを海に頼らない空冷方式を採用するなど、世界で最も安全な原子力発電所を目指し国民の信頼を得るようにしていきたい。

河合(高エネルギー研究所):太陽光場パネルを、福島の放射線汚染エリアに相当する20平方kmに敷き詰めると、100kWの原子力発電所7基分の発電量となる。この評価についてどう考えるか?

村上:講演資料21ページに示したとおり、太陽光発電の設備利用率を12%とすると、100kW原子力発電所1基の代替えに必要な設備容量は667kWとなり、67平方km必要となる。太陽光発電の設備利用率を最も高く見積もっても20%を超えないので、太陽光発電推進の方が評価しても大きな差は無いと考えられる。

小川 :住民が希望を失うような生活を強いてならない。その観点から、汚染地域に太陽光パネルと敷設するという案については反対である。住民にサポートされるエネルギーでないと意味がない。

 

4.パネリストと座長のまとめ

尾本 :インフォームド・インフォメーション・デシジョンメイキングの仕組みを作らなければならない。国全体としてまた一個人の両面から考える必要がある。

高岡 :技術的には深層防護の徹底、および、社会の信頼に答えることが不可欠。低線量被曝については技術説明だけではなく、心配、不安を解消するよう一つ一つ丁寧に答えていく必要がある。

井上 :太陽光パネルを汚染地域に敷き詰める案が議論されたが、元の生活に戻りたいという住民の思いに反する。地元自治体が主体的に動けるようにする。除染についてスピード感がかけている。いつまで待てば戻れるのか速やかに示す必要がある。

村上 :世界の中の日本とした観点が重要である。日本の原子力産業は世界に通用する戦略的技術であり、日本の原子力技術に期待している国もある。日本はこれに対して無責任であってはならない。国際的な視点から日本の原子力産業を考えるべきである。

林 :今回のセミナーは200人以上の参加者があり、パネリスト、会場から多くの意見が出て予想を超えた関心の深さを感じた。米国戦略国際問題研究所ジョン・ハムレ所長は、エネルギー資源の乏しい日本の脱原発は誤りであり、日本が原子力発電を断念することになれば、米国の原子力政策に影響を与え、放棄することになる可能性も否定できない。原子力開発に対する国際的監視の仕組みを形成し主導できる国がなくなり、返って、日本国内外の安全を脅かすことになると云っている。感情的、短絡的になってはならない。世界的視野を持たなければならない。大きい危機意識のあるところには抜本的新展開の機会がある。原子力産業界が厳しくバッシングを受けるような環境下であっても、シニアが自由な立場で発言していかねばとの決意を新たにした。多数の参加者、関係者に感謝したい。

(後藤廣記)

 

閉会挨拶

エネルギー戦略研究会会長(EEE会議代表) 金子熊夫氏

 

IMG_5454今度という今度は私も大変なショックを受けました。私自身は典型的な文系人間で、難しい技術的なことは分かりませんが、これまで日本の原子力の安全性を確信しながら、自分の専門分野である原子力外交や国際展開に長年係ってきました。それだけに、率直に言って、足元をすくわれたような気がしています。

日本全体は今、いわゆる脱原発ムードに取り憑かれています。いずれこれがじわじわと利いてくるのではないかと懸念されます。このような大事な時に頼りにならない総理大臣に当たったものと思います。

32年前のTMI事故を考えると、回復には相当な期間がかかることを覚悟する必要があります。TMI原発のあるミドルタウンという町は、もともと人口1万人程度の小さな町でしたが、事故後人口が減りさびしい町に変わりました。やっと元の人口になったのは最近のことで、平穏が戻るのに30年の歳月がかかりました。人口の半分は戻ってきた元の住民で、あとの半分は新しく移住してきた人々だそうです。

このことを思うと、原発事故が完全に収束し福島に平穏が戻るには10年、20年単位の期間を要すると思われ、長期戦を覚悟して頑張らねばならないと思っています。

私はこれまで外交面と国際展開、とりわけアジアの原子力協力と輸出を自分自身の課題(ライフワーク)として取り組んできました。アジアではタイ、フィリピン、インドネシアの原発プロジェクトに関与してきましたが、いずれも挫折しました。4番バッターとして登場したのがベトナムです。ベトナムはかつて外交官として勤務した国でもあり、格別の思いがあります。ぜひ頑張って実現してほしいと思っています。日本政府は国際的約束なのでやめないと言っていますが、ベトナム側は心配しているようです。日本はここでコケてはなりません。

日本はアイゼンハワー大統領のAtoms for Peace の政策をきっかけとし、原子力の平和利用を推進してきました。その結果、世界に冠たる原子力技術を確立しました。日本が自信を喪失し、原子力をやめるようなことがあれば、日本を手本としてきたアジア諸国にとって大きな衝撃となります。今日の村上さんの講演にもあったように、やめるなどというのは無責任です。

日本がもし原子力をやめれば、日本は化石燃料を大量に使うことになります。日本が石油やガスを買えば、国際マーケットに大きな影響を及ぼします。とりわけ途上国にとっては、石油やガスの入手が困難になるでしょう。日本がコケることは日本単独の問題でなく、世界全体の問題となります。だからこそ、国際的なビジョンをもち、国際社会における責任を考えて原子力政策を考えなければなりません。国際社会の大きな動向を見極める目をもたないようでは、大国としての日本の真価(鼎の軽重)が問われます。もう一度褌をしめなおし、逆境の冬の時代になるかもしれないが、原子力の灯火を絶やさないよう頑張って行かねばなりません。

原子力がくたばってはならないとの思いから、最近電気新聞に「吾輩は原発である」を掲載しました。お手元に配布しましたので読んでいただければ幸いです。日本はエネルギー資源小国です。今も昔も変わらぬこの基本的な事実を徹底的に自覚し、必死に踏ん張らないと日本の将来は拓けません。

今日は暑い中、200人を越える皆様に出席いただき、感謝申し上げます。お互いにこれからギアを入れ替えて、長期戦を頑張って行きましょう。

シンポジウムに参加していただき、誠にありがとうございました。

以上 R1 110905