日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
学生・市民とシニアの対話会
ー熱意と熱気に満ちたその軌跡-
対話活動の軌跡

1. 学生とシニアの対話会のはじまり

(写真)2005年7月13日、武蔵工業大学で開催された第一回対話会の参加者集合写真。

2004年秋に既に活動を開始していた「エネルギー問題に発言する会」に、原子力学会から、原子力を志す学生達を支援する活動を一緒にやりましょうと呼びかけがあった。早速、2005年7月、武蔵工業大学(現東京都市大学)において学生21人,シニア10人の対話会を開催、約半年間で全国4か所で開催した。大変意義があると大学の先生や学生に評価され、各界からも技術伝承、原子力教育、原子力広報としても注目された。そこで、この活動を全国各地で継続的に行うため、2006年5月学会の傘下に「シニアネットワーク連絡会(SNW)」を発足することとなった。

その後のSNWの活動範囲は拡大したが、対話会は、常にSNWにおける中核活動として継続発展してきている。

2. 第1回学生とシニアの対話会概要

(写真)第一回対話会グループ討議の模様。真剣に議論されている様子が見て取れる

これから原子力界に進もうとしている一般学生が日頃思っている疑問や希望を聞き、経験と知識の豊富な原子力シニアの考え方を伝えることで、彼らのキャリア形成ややる気を引き出す一助とする。またシニアがこれからの日本/世界の原子力を背負っていく若者たちに是非伝えて行きたい考えを述べる。

3. 参考文献

2020年原子力学会誌Vol62,No11,p69-73「世代間対話を通した原子力技術と文化の伝承-学生・教員とシニアの対話活動」(pdf)」

2017年原子力学会春の年会、SNWセッション「学生とシニアの対話10年を振り返って」(pdf)」

学生・教員とシニアの15年間の対話活動の軌跡

4. 学生・教員とシニアの15年間の対話活動

対話会発足から15年間の活動についてSNW石井正則氏、対話会発足に係わった松永一郎氏による10年間の活動実績報告を参照して、これまでの活動概要を紹介する。

(1) 対象は全国の大学・高専・教員

全国の34大学、7高専、1地方自治体で181回の対話会を開催し、参加者した学生・教員は累計で約6,115人となった。(図1、表1)

図1:対話会15年間の実施大学、高専、自治体

(2) 時代を反映した対話の拡大

原子力系学生を対象として出発し、原子力学会学生連絡会が呼びかけて複数の大学が合同で実施する対話会も行われた。2011年の福島第1原発事故以降、学生連絡会が一般大学に募って複数大学合同対話会も開催されるようになった。2016年以降、この活動は、原子力発電所、地層処分研究施設などの原子力関係施設の見学会とセットで実施され対話の効果を高めている。なお、図2の「②原子力系」には、これら複数大学の対話会分を含んでいる。

また、原子力関連事業には、多くの原子力系以外の理工学系学生が就職などで参画するので、理工系大学、高専への取り組みも強化した。図2の「④理工系」の傾向が示すように現在では対話会の柱の一つとなっている。

図2:15年間の対話会参加者数の累計の推移

(3) もう一つの柱「教育系学生との対話」

次世代の若者に、原子力エネルギーや放射線、エネルギー資源の利活用を的確に理解してもらうために、これら若者の教師となる教育系の学生との対話も重視して活動を行っている。(図2 ⑤教育・法文系)。また、2016年からは、教育に携わる先生方の研修会に基調講演などで参加し交流を深めている。

表1:対話会参加者の内訳

(4) 特異な活動となった「往復書簡」

原子力系の学生にとって原子力問題は他人ごとでなく、より深堀して理解したいとの意識が強く、2009年からシニアとのメールによる質疑応答、意見交換が始まった。(図2 「③往復書簡」)メール交換が一区切りすると対話会を開催し疑問点、問題点の詰めを行い、「往復書簡集」として編集した。

原子力系の学生にとって原子力問題は他人ごとでなく、より深堀して理解したいとの意識が強く、2009年からシニアとのメールによる質疑応答、意見交換が始まった。(図2 「③往復書簡」)メール交換が一区切りすると対話会を開催し疑問点、問題点の詰めを行い、「往復書簡集」として編集した。

この活動の最中に福島第1原発事故が発生したため、この往復書簡を基に、一般の人に理解していただくよう「とことん語る福島事故と原子力の明日」(電気新聞ブックス、新書版)を上梓した。(図3参照)

(5) 「往復書簡」

学生とシニアの往復書簡新書版:図3
図3:学生とシニアの往復書簡の記録「とことん語る福島事故と原子力の明日」 電気新聞ブックスISBN978-4-905217-15-2
目次
第1章:とことん語る福島事故
第2章:事故から学ぶ
第3章:放射線は怖い?
第4章:核燃料サイクルは本当に必要か?
第5章:廃炉と放射性廃棄物を考える
序文(抜粋)
 この本は、学生とシニアとが、双方対話を通じて、原子力を主たるテーマとした「技術と経験の伝承」と同時に、その技術に長年携わったシニアとこれからその技術を志そう、あるいは関わろうとする学生諸君との「心の交流の記録です。」技術は理性に基づく世界と言われています。各人が理性で話し合えば、皆が同じように技術を代わり合えると思いがちです。
 
 対話は理性のレベルに止まることなく、互いの感性の交流にも発展していきます。こうした意味でこの本は「知識・技術の伝達」のレベルを超えて「人間力」の醸成、育成の場の記録と言えるでしょう。シニアにとっても年とともに衰えかかた探求心、好奇心を再びかっきたてられるエクサイティングな経験でもありました。
 
対話活動15年間の評価

5. 対話活動15年間の評価

対話会10年を振り返って図4
図4:対話会後のアンケート結果、「対話会に対する満足度」及び「対話会の必要性」

アンケート結果から、対話内容の満足度は、不満またはやや不満が10%前後で年度ごとに変動し、あとは満足またはとても満足との結果が得られてる。対話会の必要性は、満足度の分布とほぼ同じであり、実施の効果が得られていると言える。

対話会開始直後は、「原子力ルネッサンス」の風潮のなか、学生もシニアも前向きのテーマで対応したが、東電福島事故が発生し、テーマもこれに関連したものが中心となった。しかし、学生達の原子力の重要性に関する認識は、事故前後で差異は見られない。