学生とシニアの対話
in 静岡大学静岡キャンパス修士学生との対話会 2024年度(第4回)報告書
日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)世話役 田辺博三
報告書作成 2024年7月15日
《静岡大学静岡キャンパスと富士山》
学生間の対話を中心に実施
静岡大学静岡キャンパス前期M1学生との対話会は、「放射線利用分析特論」を受講する理学専攻の修士1年生7名と修士2年生1名を対象に実施。大矢先生の、学生は自分の意見を積極発言し学生間で討論するように、シニアはそれをサポートしてほしいという意向に従い、学生が日頃の関心事をベースに対話テーマを提案し、提案理由や問題意識等を説明し、その後、学生間で意見交換を行うという形式で実施した。シニアは、学生の発言を促すとともに、質問を行ったり、必要と思われる情報を提供することにより、ファシリテータとして対話を促進した。
学生は、提案したテーマに関して自分の提案理由の説明、相互の意見交換を行うことにより、自分の意見を明確にするとともに、問題の理解をより深める等、本形式により一定の成果をあげることができた。
1.講演と対話会の概要
(1)日時
- 基調講演 :なし
- 対話会 :令和6年7月8日(月) 12:45~16:00
(2)場所
- 静岡大学理学部B棟213教室
(3)参加者
- 大学側世話役の先生
学術院理学領域 大矢恭久准教授
- 参加学生
「放射線利用分析特論」を受講する8名(修士1年生7名、修士2年生1名)
- 参加シニア:4名
早野睦彦、湯佐泰久、星野知彦、田辺博三
(4)基調講演
- なし
2.対話会の詳細
(1)開会あいさつ
- 大矢先生より学生が主体となって対話テーマを提案しシニアも交えて意見交換を行うようあいさつがあった。
(2)グループ対話の概要
- グループ対話は、グループ1は4名の学生、グループ2は4名の学生に分かれ、各グループに2名のシニア(フロントエンド専門、バックエンド専門)が加わって行った。
- 大矢先生より、事前に、学生に対して、対話テーマを各自考えておくようにご指導があったことなどにより、対話テーマの提案、選定から対話まで、スムーズに進めることが出来た。
- 学生はグループ毎に対話内容をまとめた。
- 最後に、2グループが相互に発表を行い、意見交換を行うことでより理解が深められたものと思う。
- 以下、各グループ対話の概要である。
- 1)グループ1
- テーマ
- 学生が提案、選定した原子力発電の有用性、特に、原子力と社会との関係について議論した。
- 参加者
- 学生:4名(修士1年生の学生3名、修士年生の学生1名)
- シニア:早野睦彦、湯佐泰久
- 対話内容
- エネルギー全般について、日本の現状を把握し、今後のエネルギー必要量や方策について情報交換し、「原子力発電の有用性、特に、原子力と社会との関係」について議論を行った。
-
日本のエネルギー自給率は10%程度と非常に小さく、そのほとんどが輸入に頼っている。
-
今後もエネルギー需要の拡大が予想される。そのため、日本は主要エネルギー源の一つとして原子力発電を保持すべきである。
-
様々なエネルギー源には様々なメリットデメリットがあり、それらをバランス良く運用することが必要である。
-
しかし、今の社会の現状には、(福島の処理水問題のように)情報の正しい理解が不足している。
-
さらに、原子力発電への根強い反発がある。これはリスクやデメリットにばかり焦点があたっているからである。
-
結論として、原子力を正しく理解してもらうために、メリットデメリットの両方の情報を入手し、その上で自己判断すべきである。
- その他、「地層処分以外の方法」や「核融合の実現性」についても短時間議論した。学生4名全員が理学専攻の大学院生であり、時間の余裕もあり、積極的な発言が交わされた。
- 2)グループ2
- テーマ
- 学生が提案した以下の点について議論した。
- 「原子力発電の現在の状況と今後の見通し」
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原子力発電に対する一般の人々の考えはどうか?
-
浜岡原子力発電所の再稼働準備の状況、安全審査の状況は?
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蒸気サイクルを用いた発電方式が採用される理由は?メリットは?
- 「高レベル廃棄物の地層処分」
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3町村に続く他の候補は? これらの地域住民の意識の変化はあるか?
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原子力発電比率を増やしていくに当たり最終処分場は足りるのか?
-
文献調査報告書はどうなっているのか
- 「核融合関係の材料研究で研究しているような低放射化材料はどのように役立つか」
- 参加者
- 学生: 4名 (修士1年生4名、うち1名はスリランカからの留学生))
- シニア:星野知彦、田辺博三
- 対話内容
- 参加した学生はいずれも核融合関係の材料の研究(材料物性、コーティング技術)に携わっている。留学生は多少日本語が不得手で他の学生が適宜通訳した。(今後も留学生の参加がありうるので英語版事後アンケートの準備について検討が必要と考えます。)
- はじめに学生より自己紹介が行われ、出身地、研究テーマ、エネルギー・原子力について疑問や関心などについて話してもらった。
- 学生が感じているエネルギー・原子力について関心のある上記の項目毎に学生の疑問点にシニアが答え、理解を促した。
- 学生は以下のようにまとめた。
- 「原子力発電の現在の状況と今後の見通し」
-
種々の発電方式にはメリット、デメリットがあることを理解する必要がある。そのために一つの方式に絞り込むというよりもデメリットを小さくするように努めメリットを最大限に活用し、バランスよくミックスするのがよい。
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S+3E:カーボンニュートラル達成(E環境)、安価な電気料金(E経済性)、安心できる燃料調達(Eセキュリティ)などの理由から原子力発電の位置付けは重要。
- 「高レベル廃棄物の地層処分」
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3町村が文献調査に応じているが現段階で処分地が決まったわけではなく次のステップに進むためには技術的な判断だけでなく地域の意見が尊重される。
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日本国内50数基の原子力発電所から搬出されるガラス固化体を埋設するのには当面1ヶ所で間に合う。
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放射性廃棄物低減のための核変換技術はまだ研究段階。
- 「低放射化材料の影響」
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原子力発電所では被ばく低減の目的でCoフリー材など放射化しにくい材料の適用など行っている。運転中、保守時の作業員の被ばく線量低減に役立つ。また放射性廃棄物として処分する際にも効果がある。
3.講評、閉会のあいさつ
- 今回は少人数での対話であり、対話の時間も十分にとれた。また、グループ毎の対話だけでなく、グループの対話成果の相互発表においても、学生、シニアを交えて活発な意見交換が出来た。なお、シニアより、原子力発電や地層処分の推進のためには住民との合意形成、受け入れが必要であるとの問題提起は適切であるが、どうしたら合意が得られるかについて今後考えて欲しい等の講評があった。
4.学生アンケート結果の概要
(1)参加学生について
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「放射線利用分析特論」を受講する修士1年生7名と2年生1名(うち1名はスリランカからの留学生)が対話会に参加。
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参加学生8名のうち5名が回答。回収率は62.5%。なお、スリランカからの学生は日本語の理解が十分ではなかったことを考慮して回収率を補正すると71.4%になる。
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全員の学生が理系。4名が原子力系専攻、1名が原子力系専攻以外。
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全員が就職を希望。
(2)対話会について
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今回は基調講演は行わなかったが、今後ある場合の希望テーマとして、原子力発電の今後とその世論について、が挙げられた。
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対話会の満足度は「とても満足」、「ある程度満足」が合わせて100%。ポシティブな意見は新しい知見が得られたが最も大きく、次いでマスコミ情報と講演や対話の情報に違いがあった、将来の参考になったが挙げられた。最後の本企画を通した感想にもポジティブな意見が述べられてる。一方、ネガティブな意見ではないが、対話内容が難しかったとの意見が2名から出ていたので、理解の状況を把握しながら進める必要があると感じた。
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対話会の必要性は「非常にある」、「ややある」が合わせて100%。ネガティブな意見は特になかった。
(3)意識調査について
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放射線・放射能については、「一定のレベルまでは恐れる必要はない」と「有用であることを知っている」が各々100%であった。
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原子力発電については、「必要性を認識しており再稼働を進めるべき」が40%、「将来に向け新増設、リプレースを進めるべき」が40%、「2030年目標を達成すべき」が20%であった。
再エネ発電については、「環境にやさしく拡大すべき」が最も大きく60%、次いで「天候に左右されるので利用抑制すべき」が40%であった。
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カーボンニュートラルとエネルギーについては、「地球温暖化や脱炭素社会の実現の関心」は「大いにある」が60%、「あまりない」と「ない」が合わせて40%であった。「興味や関心があるのはどの項目でしょうか?(複数回答可)」については幅広く関心を示した。「日本の2050年脱炭素化社会の実現可能性について」は、「実現するとは思えない」が最も大きく60%、「相当いいところまで到達する」が20%、「分からない」が20%であった。「脱炭素に向けた電源の在り方」については、「化石燃料発電を最小とし原子力発電と再エネ発電の組み合わせが望ましい」が最も大きく40%、「原子力発電と化石燃料発電を最小とし、再エネ中心が望ましい」、「原子力発電、再エネ発電、化石燃料発電をほぼ均等に組み合わせることが望ましい」、「分からない」が各々20%であった。
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高レベル廃棄物の最終処分については、関心や興味が「大いにある」と「あまりない」が各々40%、「少しある」が20%であった。「近くに処分場の計画が起きたらどうするか」については全員が「反対しないと思う」であった。「地層処分について興味や関心がある項目(複数回答可)」については「処分技術」が最も大きく100%、次いで「処分地の選定」が50%であった。
詳細は別添の「事後アンケート結果」を参照して下さい。
5.別添資料リスト