日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話in全国複数大 2021報告概要

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)矢野 隆

昨年度に続きオンライン開催となった今年度の対話会は、北海道の幌延深地層研究センター見学のための事前勉強会を兼ねて開催した。基調講演とグループ対話は、高レベル放射性廃棄物の地層処分に関するテーマに絞って行なった。参加者アンケートに、とても面白い議論ができ参加して良かった、予想以上に視点が豊かになったなどの感想が述べられており、シニアの知識や経験が若い世代への良い道しるべとなっていると感じられた。なお、この対話会は、昨年度まで「関東複数大対話会」と呼称していたが、日本原子力学会学生連絡会からのネット募集に応じて全国からの学生参加があることから、今年度より「全国複数大対話会」に改称した。

1.対話会の概要

1)事前勉強会を兼ねた対話会
幌延の深地層研究センター見学の事前勉強会を兼ねた対話会であり、高レベル放射性廃棄物の地層処分に関連するテーマを選んで参加学生とシニアの対話を行なった。
昨年度と同様に、日本原子力学会学生連絡会からのネット応募に参加した 学生とのZOOMによるオンライン対話であり、今年度は、東京、福島、愛知、京 都および福岡の学生が参加した。
基調講演テーマは、深地層処分研究施設の見学を控えているため、高レベル 放射性廃棄物の地層処分に関するテーマを選んだ。基調講演の講師は、昨年度好 評を博した坪谷様に再度登壇戴いた。参加学生は昨年度から一新されており、基 調講演内容は昨年度好評だったものに加えて国内外の最新の動きを反映した内 容とした。
対話テーマも高レベル放射性廃棄物の地層処分に関するものに限定し、昨 年度のグループ対話で挙った“今後対話したいテーマ”などを参考に、学生連絡 会とも相談し、次の4つのテーマを選定した。
テーマ1:地層処分に関する情報発信をどう工夫すれば市民の理解を得やすくなるか
テーマ2:海産物や農産物への風評被害の影響及びその対策についての考察
テーマ3:地層処分に関する新技術と、その応用や現場での適用に関する議論
テーマ4:自分の市町村が候補地に立候補した場合、自分ならどう対応するか
グループ対話のファシリテータは例年通り、学生連絡会の学生が務めた。ま た、ネット対話の準備と当日のZOOM操作・管理に関しては昨年と同様に、「地層 処分事業の理解に向けた選択型学習支援事業」の一環で、原子力文化財団が務め た。但し、昨年度はコロナ禍が拡大状況にあったため、現地見学は最初から計画 されなかった。参加シニアは、基調講演の実施とグループ対話でのアドバイスに とどめた。
参加シニアの感想や学生アンケート結果などを見ると、学生ファシリテー タによるしっかりとした司会進行、原文財団による的確なZOOM管理および豊富 な知識と経験を有する参加シニアからの発言により、実のある対話が生まれ、シ ニアの深い知識と経験を参加学生に上手く伝えることができたと思う。
2)日 時
10月18日(月)基調講演資料を学生連絡会および参加シニアへ送付
10月30日(土)13:00~16:00基調講演およびグループ対話の実施
3)場 所
ZOOMによるオンライン開催
4)参加者
原子力文化財団:2名 真壁副部長、清水
学 生:14名 早大(2名)、東工大(2名)、東大(1名)、東京都市大(1名)、 福島高専(1名)、豊橋技科大(1名)、京大(3名)、九大(3名)
シニア:13名 坪谷隆夫、松永一郎、西郷正雄、植田脩三、川合將義、大野崇、岡本弘信、湯佐泰久、小須田紘一、武田精悦、船橋俊博、三谷信次、矢野隆
5)10月30日(土)の対話会スケジュール
13:00~13:10 司会と開会挨拶(学生連絡会)
13:10~14:20 基調講演(講演者:坪谷)演題「放射性廃棄物の地層処分の現状と今後の見通しについて」
14:20~15:30 対話(4グループに分けたグループ対話)
15:30~15:50 対話成果のグループ発表と質疑
15:50~15:55 原子力文化財団からの連絡事項
15:55~16:00 閉会挨拶(大野)
6)SNWの紹介
基調講演に先立ち、基調講演者でもある坪谷SNW会長より、日本原子力学会シニアネットワーク連絡会の活動概要について、スライドを用いた簡単な紹介を行なった。
7)講演
講演者名:坪谷 隆夫
講演題目:放射性廃棄物の地層処分の現状と今後の見通しについて
講演概要:本年度の全国複数大対話会は、原子力機構幌延深地層研究センターの見学に先立つ地層処分に関わる勉強会とのことです。その趣旨に沿うよう基調講演は、DVD「今から始めなきゃ!核のゴミ処分 マジ討論~20代の私たちが考えたこと~」(NUMO制作、30分)およびそのDVDを補足するためのスライド「高レベル放射性廃棄物対策」(SNW制作、30分)としました。参加者が20代の学生と同世代の若者が出演し、これまでも共感を呼んだ内容のDVDを活用し、グループ対話における意見交換を盛り上げることを試みました。この対話会の直前に実施された寿都町長選挙の状況を参加学生が勉強していたようで、選挙における地域住民の態度、北海道民と首都圏住民の情報量の違いなどを問われました。

2.対話会

(1)グループ1(報告者:西郷 正雄)

1)参加者
学生:東工大D3(ファシリテータ)、豊橋技科大B3、九大M2、京大B3
シニア:坪谷 隆夫、松永 一郎、植田 脩三、西郷 正雄
2)主な対話内容
グループ1のテーマ:地層処分に関する情報発信をどう工夫すれば市民の 理解を得やすくなるか
ファシリテータから、議論の的を絞るために、学生に対してターゲットをど こに置くかなどの意見を求めた。
  1. ①誰を対象にするか?
  2. ②どのような内容でするか?
  3. ③どのような方法でするか?
  4. ④発信した結果をどう評価するか
その結果、文献調査の行われている2町村 (神恵内村、寿都町) での「市民の理解を得るための情報発信の工夫」について意見交換した。これらの内容は文献調査に応募する自治体を増やすという視点からも有用である。
  1. ①市民の理解を得るための情報発信としては、対話会をできるだけ多く開催することである。
  2. ②対話会に参加していなかった関心者や反対者も何度も開催されるといずれ参加することになり、市民への理解を増すことができる。
  3. ③若年層の理解促進が大きな課題であるため、国やNUMOの事業として日本原子力学会の学生連絡会なども現地の若者や学生などと対話会を実施すると良い。
  4. ④メディア、特に報道量の多い北海道新聞が、この問題をどう捉えてきたかを分析し、学生連絡会なども現地の若者や学生などと対話し、対話会の情報提供(どんな情報をどのように)に生かすことが大切である。
  5. ⑤「北海道における特定放射性廃棄物に関する条例」を持つ北海道を初め周辺自治体との情報共有が大事である。
  6. ⑥「市民 (地域の方々) においては、技術に対する信頼(confidence)以 上に、国やNUMOに信頼(trust)し得るものを求めている」との発言があった。
学生が中心になって意見交換が行われ、シニアが途中でコメントを入れる といった形式で有意義な意見交換ができた。

(2)グループ2(報告者:大野 崇)

1)参加者
学 生:京大M1(ファシリテータ)、東工大M2、東大D2
シニア:川合将義、岡本弘信、大野 崇
2) 主な対話内容
グループ2のテーマ:海産物や農産物への風評被害の影響及びその対策に ついての考察
学生側がファシリテータを務め、風評被害の例、風評被害は何故起こるのか、具体的対策について話し合った。
風評被害とは何か(例)
  1. ①奇形が生じたときに放射能のせいにされる
  2. ②農作物が売れなくなる
  3. ③陸前高田市の唯一残った松を京都の大文字焼きで燃やそうとしたときの反対
風評被害の対策でどういうことがなされ、どうしたらよいか
  1. ①農家が福島事故当時に実施したことを考える
  2. ②農家は除染を試み、放射能のデータを自分で測定して市場に持って行く
  3. ③現地の情報をSNSで発信、現地へ行く
  4. ④30代、40代といった若い人が関心を持って直接現地へ行く
  5. ⑤遠い人にも関心を持ってもらうような見学会を実施する
  6. ⑥まず地元の人に海産物への影響を考えてもらう→そこから広がっていく
  7. ⑦データによる事実の確立
  8. ⑧日本の基準は海外に比べて非常に低い。政府は海外との比較も取り入れる
有効な対策は
  1. ①サイエンスコミュニケータの存在が重要、科学館等の場所を設ける
  2. ②専門家とサイエンスコミュニケータのコミュニケーションも大切
  3. ③一般人同士のコミュニケーションが特に大事(専門家と一般人との話し合いは難しい)
  4. ④専門家と一般人との間にクッションが必要
  5. ⑤バナナにスマホを向けると放射能が見られるアプリの開発
  6. ⑥放射線のリスクだけが見られる、放射線の良さも考える(コントロールして使っている事実を周知する)
  7. ⑦基準値の見直しを実施する
  8. ⑧ベストミックスを考える

(3)グループ3(報告者:矢野 隆)

1)参加者
学 生:京大B4(ファシリテータ)、都市大B3、福島高専(B4相当)、早大B4
シニア:湯佐 泰久、小須田 紘一、矢野 隆
2)主な対話内容
グループ3のテーマ:地層処分に関する新技術と、その応用や現場での適 用に関する議論
実際の対話テーマは「地層処分に求められる技術とその開発」と捉え、今後必要とされる新技術などに関する対話を行なった。
対話により得られた相互理解は、概ね学生発表(箇条書き)で述べられた通りであるが、補足説明を含め、対話結果を以下に示す。
  1. ①深部の地質環境調査、すなわち深地層の研究所で得られた知見や既存の地質文献や地表からの地質調査による知見の拡充が望ましい。
  2. ②(千年・万年単位の)長期的な安定性を確保するためには、自然界で既に安定しているもの(例えば、ガラス、金属、ベントナイなど)が人工バリア材として選択された経緯がある。新素材についても長期的な安定性の確証が求められる。
  3. ③安全の保障(安全評価):地層処分システムは多重バリアシステムという複合系の条件であり、保守的な評価を行なう場合がある。例えば、実験室スケールでの時間経過(移行速度)などを処分システム全体の安全評価に用いる場合には、その実験値より保守的な値を用いる場合がある。具体的には、NUMOのシナリオ(包括的技術報告書ベース)で述べると、人工バリア材であるオーバーパックの機能保持期間を保守的に(短めに)千年間とし、千年後にはオーバーパックの保持機能がなくなってガラス固化体が地下水と直に接することになり、徐々に地下水に溶けだす、とされている。オーバーパックが千年で壊れるという想定はかなり短い期間想定であり、安全性を説明するために、実際よりも保守的な評価をしている。
  4. ④安全性についての伝え方:安全性に関連する長期の安定性についてのシミュレーションを説明するには何を模しているかを伝えることが重要だ。保守的な安全評価をしている場合、過度に保守的にしすぎると違和感が生じる場合がある。
  5. ⑤理解の醸成:関心の有無や世代に応じた情報量と回数、身近な例、体感などが必要だ。「直感的に伝わりやすく」、「身近な例で説明する」、「信憑性のある」技術開発が必要であろう。

(4)グループ4(報告者:船橋 俊博)

1)参加者
学 生:九大M1(ファシリテータ)、早大M1、九大D1
シニア:武田 精悦、船橋 俊博、三谷 信次
2)主な対話内容
グループ4対話テーマ:自分の市町村が候補地に立候補した場合、自分な らどう対応するか
学生側がファシリテータを務め、テーマに従い以下の内容が話し合われた。
a.前提確認:「自分の住む場所」とは?
最終処分場としての条件を満たしている地方自治体を想定、文献調査の候補地として立候補した段階を考える。
b.現状分析(意見の相違箇所の特定)
賛成派・反対派に二分される可能性大である。
賛成派にとっての意見:補助金(地方創生の為の一手に)に期待できること、政府や技術者への信頼に基づいて十分に安全と判断出来ること
反対派にとっての意見:説明が不足していること、安全面での不安が拭えないこと、なぜ自分の町で無ければならないのか判らないこと、これまで培ってきた地域のブランド力を毀損すること
c.対応案
補助金の使い方を上手く説明する。
地層処分場を誘致した後の町の発展について説明する。
安全性に関する地道な広報活動をする。
全国的な広報活動も行う(地層処分への理解を深める)。
文献調査とは何するのか、詳しい内容を開示する。
反対・賛成どちらでも無い層」をどう説得できるかが重要。

3.閉会挨拶(対話会幹事:大野 崇)

本日はどうもお疲れ様でした。皆さんは、「高レベル放射性廃棄物の地層処分問題」に関心を寄せ、これから幌延にある高レベル放射性廃棄物の地層処分施設の見学に行かれると伺っており、その事前勉強会に、私共シニアネットワーク連絡会が同席して皆様と対話をする機会をいただきありがとうございました。我々も、半世紀前に原子力に足を踏み入れました。原子力は人類が手に入れた宝です。残念ながら、今は順風というわけには参りませんが、日本にとってもなくてはならない分野ですし、一生の生業にするに値するというのが私の信念です。今日は、皆様のしっかりした考えや意見をお聞きし、原子力の世代はつながっているのだということを実感し嬉しく思いました。本日は、日本原子力文化財団の清水敬子さんにはZOOMのご提供をはじめ運営にご支援を頂いたこと、学生連絡会の大迫氏並びにSNWの世話役の矢野隆氏の並々ならぬご尽力をいただいたことを記して感謝を申し上げます。

4.学生アンケートの集計結果(矢野隆)

1)まとめと感想

学生連絡会からのネットによる参加募集であり、また、一部の学生は幌延見学ができるため、全国各地の大学・高専生の参加するオンライン対話会が実現しました。参加学生はやはり、原子力推進の意見が多いようであり、地層処分に関する市民の理解を得るにはどうするべきか、風評被害への対策はどうするべきかなどの対話テーマに対して、一生懸命解決策を考える姿勢がうかがえました。参加者14名中11名から回答があったアンケート結果においても、アンケート第8項の日本のエネルギー政策を問う質問に対して、3名が“原発の必要性を強く認識した。削減または撤退すべきでない”、8名が“原発の必要性は分かっていたので、認識は変わらなかった”と回答されており、アンケート回答戴いた11名全員が原発推進意見でした。

全員からのアンケート回答ではないため確かな比率は不明であるが、このような原発推進意見の多い対話の場では、原子力の諸問題の解決に向けた議論を進めて行くことで妥当な解決策が得られる可能生が高くなるのでは、と感じました。

2)アンケート結果の詳細
対話会のアンケート結果の詳細を参照して下さい。

5.別添資料リスト

(報告書作成:2021年11月12日)