対話とシニアの対話
in宇部工業高等専門学校2021概要報告書

宇部工業高等専門学校では昨年度から2回目の開催。SNW対話会は当初は対面で計画されたが、新型コロナ感染禍の影響でオンライン開催に変更となった。
対話会の高専内における位置付けは授業の一環ではなく、最終回としてSNW基調講演―2に続き、電気工学科学生4名と対話会を開催。
参加学生は電力の送配電や変電を、6年間で基礎から学んだ後に、今春から送配電会社へ就職が内定しているため、原子力の他、会社生活や社会貢献にも関心が高く、従来にない内容の対話会となった。4月からの社会生活に入る心構えができつつあると感じられた。
1. 講演と対話会の概要
学生:電気工学科 4名
シニア(2名):金氏 顯、松永健一
まず原子力開発の歴史を振り返った。2011年3月11日東電福島第一事故の概要と原因、安全規制体制改革、新規制基準、再稼働や廃炉の再稼働、新増設・リプレース、核燃料サイクル、高レベル廃棄物地層処分などの課題、世界は潮流は原子力推進、エネルギーの3種類、世界も日本も一次エネルギーは化石燃料依存80%以上。エネルギーの基本要件「S+3E」、ベストミックスの必要性、2015年パリ協定を踏まえ、世界は2050年カーボンニュートラルへ舵を切った。我国はこれにどう対応するか、これからの大きな課題だ。
2020年10月に菅首相が2050年脱炭素を表明して以降、産業界はカーボンニュートラル(CN)に向けて取り組みを加速している。2050年のCNを目指すうえで、国の政策やCO2排 出の多い電力業界などの動向に注目が集まっている。一方,再エネの課題が次第に明らかにな りつつある現在、既存のCO2を排出している設備を有効利用しながら長期的に「低・脱炭素化」を 進めることが、技術的にも経済的にも現実的な選択のようでもある。
この節目にあたり、エネルギーとは何かなどの「基本」を足場固めすることが重要であろう。幅広2050年CNのエネルギー政策と課題について、参加者の皆さんと議論したい。
2. 対話会の詳細
- 1) 開会挨拶(金氏 顯)
- 本日は、まず参加される4人の5年生のご卒業並びに中国地方の有力企業である中国電力ネットワーク株式会社へのご就職、誠におめでとうございます。宇部高専での2回目の対話会を新型コロナ感染の沈静化を期待して対面での開催を望んでいましたが、見極めつかずオンラインで開催となりました。土曜日にもかかわらず、お二人の先生も参加され、全員で8人という少人数での対話会なので、和気あいあいと有意義に過ごしたいと思います。よろしくお願いします。
- 2) グループ対話の概要
- 参加学生: 4名
- 主な対話内容
すでに学生からの質問に対して、回答をシニアより返信している。その中で、各学生がさらに詳しく知りたいことを順次、質問してもらうこと、シニアの逆質問に答えてもらうことで、対話を進めた。
それらの内容は、以下の原子力、会社生活及び社会貢献に分類される。 - 《質問の分類と内容》
- 【原子力】
- 1. 高レベル放射性廃棄物や原発事故などのリスクを負うが、本当に再稼働や増設を進めるべきなのか?
- 2. 既設されている原子力発電所で未申請なのが9つもあるのは何故か? 3. この先原子力発電はどうなっていくと考えられるか?
- 【会社生活】
- 2.電力業界で技術者として評価を得るためには何をすべきか?
- 5.会社で可愛がられる後輩の特徴は何か?
- 6.これまで一番大変だったことは何か(仕事上)?
- 【社会貢献】
- 7.なぜ(今回の対話会のような)社会貢献活動を始めたのか?
- 《シニア回答と逆質問》
- 【原子力】回答
- Q⒈高レベル放射性廃棄物や原発事故などのリスクを負うが、本当に再稼働や増設を進めるべきなのか?
- A1.まず、エネルギーには化石燃料と再生可能エネルギーと原子力の3つがあり、エネルギーに必要な「S+3E」の要件をすべて満たすエネルギーはないので、これらをうまくミックスすることが重要であることを、基調講演―1(66-74ページ)で学びました。
確かに原子力には福島第一事故のような放射能放出を伴う事故のリスクがあり、また高レベル放射性廃棄物の最終処分地の立地が未定という長年の懸案事項があります。前者については、基調講演―1で事故原因を学び(29-32ページ)、対策として新規制基準による安全性強化対策により「安全性は格段に向上したことを学びました(33-35ページ)。
どのエネルギーにもリスクはあり、世の中のあらゆるモノやコトにはリスクがあり、ゼロリスクはないことは陸海空の交通機関や、ITの世界でのサイバーテロなど、また自然災害を考えると分かると思います。これらのリスクを少なくするように技術革新したり、法的措置を工夫したり、人類は様々に対策し、安全性、利便性を高めてきたのが人類の歴史です。
原子力は特に技術者による技術革新によりリスクを低減できる分野です。そして既存の原子力発電所をより安全にして再稼働し、また今後減っていく原子力発電容量を確保するために、より安全な設計の原子力発電所を新増設・リプレースして、ベース電源として我が国のエネルギー安全保障に一定の役割を担うことが求められています。 - 【逆質問―1】
- 再生可能エネルギーの太陽光発電や風力発電にはどんなリスクがあるでしょうか?
- Q3.既設されている原子力発電所で未申請なのが9つもあるのは何故か?
- A3.未申請の9つの原子力発電所は以下の通りです。
東北電力、女川3号機、東京電力、柏崎刈羽1~5号機、東京電力、東通1号機、中部電力、浜岡5号機、北陸電力、志賀1号機 それぞれの申請理由については各電力会社は公表していませんが、次のような理由ではないかと、個人的には推測しています。
東北電力、女川3号機:東北電力は女川2号機の再稼働に全力を注いでいて、既に原子力委員会の審査には合格し、地元の了解も得て、現在安全対策工事の完了に向けて尽力しています。まもなく再稼働されれば、3号機を申請すると思います。
東京電力、柏崎刈羽1~5号機:東京電力はまず出力が大きく最新鋭設計の6,7号機の再稼働に注力し、両機とも原子力規制委員会の審査は合格しました。しかし、地元の了解に大変時間がかかっており、また昨年にテロ対策設備の運営上の不備が見つかり、規制委員会から事実上の運転停止命令が出されました。また、1~5号機は地元の柏崎市長から、5基のうち少なくとも1基は廃炉にしないと残りの再稼働は認められないと言明されて、申請のタイミングを失っているのが実情と思います。福島第一事故の当事者でもあり、厳しい対応を余儀なくされています。
東京電力、東通1号機:このプラントは東日本大震災の直前に、安全審査合格し、建設工事に着工しようとして、大震災と福島第一事故に遭遇しました。審査申請するには、安全審査のやり直しくらいの設計や解析のやり直しが必要なためと、建設工事を一から開始するに必要な建設資金調達が現在の東京電力には困難であることなどから申請できない状態にあると思います。
中部電力、浜岡5号機:中部電力は浜岡3,4号機の再稼働を優先しており、なかなか審査が進捗しないので、5号機の申請はまだ先になると思います。
北陸電力、志賀1号機:北陸電力は志賀2号(120万kW)の再稼働を、1号(54万kW)より優先しており、また2号は活断層の存在が審査のネックになって遅れていました。審査再開したので2号が合格すれば1号が申請されると思います。 - 【逆質問―2】
- 廃炉に決まったプラントは24基あり、そのうちの福島第一1~4は事故炉であり、5,6と福島第2の4基は福島県の強い意向により廃炉になりました。また関電大飯1,2号機は特殊な安全設計(アイスコンデンサー)で安全対策強化が困難なために廃炉にしました。残りの12基はいずれも小主力(50万kWクラス)のために電力会社が廃炉に決めましたが、なぜ小出力プラントをまだまだ運転可能なのに廃炉にしたのでしょうか?
Q4. この先原子力発電はどうなっていくと考えられるか?
A4.原子力発電は、軽水炉 → 高速増殖炉 → 核融合 に推移していくと考えられます。人類とエネルギーの歴史(図示)を考えると、(1)エネルギー密度の高い方向、(2)資源の枯渇を避ける方向、(3)(経済性を考慮して徐々に)技術の高い方向に推移しています。これらは、人口の増加(もしくは人間の幸せ)を考えると自然な流れです。 エネルギー資源の確認埋蔵量(図示)を考えると、まず、天然ガスと石油の資源枯渇を避けるように推移していますし、相対的に埋蔵量の大きな石炭も地球環境問題の影響を受けて使用しない方向に推移しています。また、軽水炉で使用している燃料も、ウラン235(存在比約0.7%)なので、埋蔵量は石炭と大差ありません。したがって、存在比の高いウラン238(約99.3%)を燃料として使用することのできる「高速増殖炉」へ移行することになります(図示)。更に、エネルギー効率の高い(図示)「核融合」に移行することになるでしょう。エネルギー密度の高い技術は、一般に実用化が難しい技術と言えるでしょう。また、太陽光と風力資源も、太陽(核融合)がもたらしたエネルギーです。そういう意味では、原子力だけでなく、太陽(核融合)を目指していると言えるでしょう。エネルギー全体が、天上(宇宙)の太陽を地上に実現しようとしているのです。 - 【逆質問―3】
- 原子力発電の長期的な開発戦略に関し、皆さんは実現可能と思いますか?
- 【会社生活】の回答
- Q2. 電力業界で技術者として評価を得るためには何をすべきか?
- A2. 私はメーカーで長年技術者として勤務していたことは基調講演-1の冒頭に自己紹介しました。また松永は現在も勤務しています。二人とも電力会社勤務ではありませんが、原子力や火力の発電プラントの設計に携わっていたので広い意味では電力業界の範囲に入ると思います。
一般に技術者に求められることは、基調講演―1の78ページ巻末【付録】に書きましたので、今一度、一語一句を噛みしめていただきたいと思います。 皆さんは、現在は基礎学力をしっかり身に着けることが、技術者としての「土台」造りになります。そして、入社したら、最初は新入社員研修があり、その会社の技術者としての分野、基礎的知識、課題などを学びます。そして配属された先では多くの先輩たちが忙しそうに働いています。
しかし新入社員の間は分からないことなどは先輩に聞くことが大事です。先輩たちは新入社員からの質問などには喜んで答えてくれるでしょう。自分は頼りにされているかな、と思うからです。これは新入社員の特権で、「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」です。そして、先輩たちのことも知ることができ、「評価される技術者」、「評価されない技術者」の姿を知ることにもなります。 - さて、以上は一般的な技術者の実務的な在り方を経験から説明しました。なお、電力会社の社員が持っているDNAで最も大事なものは電力の安定供給すなわち、「絶対に停電させない」ことと、よく耳にします。電力業界はこれまでの地域電力独占体制から電力自由化、送配電分離に変わり、電力会社は電力安定供給責任がなくなりましたが今でもDNAは変わっていません。従って、電力会社で評価される技術者は、安定して電力を供給でき、維持し、管理することができる技術を開発し、持っている者と言えるのではないでしょうか。
- このあたりで、技術士の資格をたくさん取得していろいろな企業の指導、技術者の指導を経験している松永にバトンタッチします。
技術者として求められる能力を理解して、一日のうちの僅かな時間でも、その研鑽に使うことが肝心だと思います。企業には「社会貢献(CSR)」が求められています。今後は、より「兼業」の時代にもなるでしょう。企業も短い期間に変化していかなければならないかもしれません。社会貢献活動の意義については、Q6やQ7の回答を参照。
今後は、国際的に業務を行うことが増加するでしょうから、国際エンジニアリング連合(IEA)が定めている「エンジニア」に相当する技術者(技術士)に求められる資質能力(コンピテンシー)を紹介します。技術士には「複合的なエンジニアリング問題(広範囲な又は相反関係にある問題)を技術的に解決できる」能力が求められますが、コンピテンシーには次の8項目が挙げられています(図示)。
[専門技術能力]専門的学識
[業務遂行能力]問題解決、評価、マネジメント、コミュニケーション、リーダーシップ
[行動原則]技術者倫理、継続研鑽 - 4月入社までの短期間で養成するとしたら、まず「コミュニケーション」能力でしょうか。海外(米国)で働くことを想定してみてください。英語で意思疎通ができないと始まりません。が、少しすると言葉はカタコトでも身振り手振りでなんとか・・ということも分かるでしょう。コミュニケーションにおいて、実は言葉の役割は7%とも言われています。非言語コミュニケーションのポイントは、視線、ジェスチャー、声の大きさ、だとか。これも、短時間での養成は難しいかもしれません。
- 私は、4つの学会などを渡り歩いてきましたが、そこで感じたのは、言語は日本語でも、業界用語や分野の雰囲気というものの違いがあって意味が分からないことがあったことです。それに慣れるには、結局のところ入会して慣れるしかない、とは思いますが、その「慣れ」には早めに着手して克服するしかないと思います。
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という訳で、まずは就職会社のホームページを全て読んでみてはいかがでしょうか。次に、上記のコンピテンシーを養成するための中長期計画を立案してみるのも良いかもしれません。入社してしまうと、目の前にある必要な技術だけに集中し勝ちでしょうから、20~30年も経過すると「能力差」となって表れてくるだろうと思います。私自身の「反省の弁」です。
一方、中国電力の置かれた立場、特徴や電力業界における特殊性を理解しておくことは、自分の業務の目的を理解するために必要でしょう。電力・ガス再編の時代になっています(図示)。中国電力は、九州電力や電源開発(J-power)とともに、非効率な石炭火力設備の割合が高いのが現状です。このため、J-powerと共同で「大崎クールジェン」の石炭ガス化複合発電IGCCプロジェクト(国プロ)を推進したり、既存発電所(中国電力水島発電所)でアンモニア混焼発電試験(国プロ)を行ったりして、石炭火力発電の低・脱炭素化の技術開発に熱心に取り組んでいるのが特徴です。旧来の大手電力会社(9電力+J-power、沖縄電力を除く)の中でも、どのような発電方式を強み・弱みとしているかは異なります。例えば、関西電力は原子力発電に強みを持っている(非効率な石炭火力はゼロ)一方で、中国電力は石炭火力発電に強みを持っています。法改正などから電力業界の再編が予想されています。
また、中国電力は多くの関連会社を持っていますので、実務経験を増強するために、入社5~10年程度で出向の機会があるかもしれません。出向先によっては、機械部門か電気電子部門の技術士資格があった方が良いでしょう。 - 【逆質問―4】
- さて、皆さんは電力会社に就職するとのことですが、どのような技術者になりたいと思いますか?→学生の発表例を参照。
Q5. 会社で可愛がられる後輩の特徴は何か?
A5. まず、松永から・・・ - まず「後輩」の対象となるのは、新人~入社数年目までの若手社員。一方、可愛がる人は、30才前後まで、というところでしょうか。所属の係(グループ)長は計画的に「後輩」を育成する責任はあっても、「可愛がる」対象として見ているでしょうか。私の場合は、誰だろうと一人の会社同輩として見ています。特に、上司と言われる人は、異性の後輩ならセクハラ、「可愛がる=パワハラ」に注意しているものと思います。 ということで、「可愛がる後輩」と見ているのは、年齢の近い「同性」の「先輩」が、最も想定される人ではないでしょうか。ネット情報では、それくらいの年齢の人に「可愛がられる後輩」は次の人のようです。
- ①人の話を素直に聞ける人。若い「後輩」の場合は、注意やアドバイスを受けることも多いと思いますが、それを素直に聞けるというのは、とても重要。そうでなければ、注意やアドバイスをする人もいなくなるでしょうから、自ら「成長」を放棄するようなものです。但し、ある程度年を重ねてきたら、注意やアドバイスを鵜呑みにするだけでは「成長」できないでしょう。
- ②気が利く人。社外の人間関係にも有利に働くので、気が利くという能力は若手でなくとも万能。
- ③仕事熱心で一生懸命やる人。一生懸命やっている人を応援したくなる気持ちは万人に共通なもの(?)。但し、先輩に気に入られようとして、あざとさが見えると逆効果らしいです。でも、私だったら、有効性・生産性の方を重視します。
- ④相手(先輩・上司)に興味を持って接する人。質問してくる人。自ら関わろうとしてくる人。
- ⑤仕事をお願いした時に嫌な顔をしない人。雑用を進んでやる人。但し、なんでもかんでも引き受けてしまうと大変だし、要領の良い人に仕事を押し付けられる、などにもなるので、匙加減が難しいでしょう。
- ⑥明るく笑顔で挨拶がきちんとできる人。
- ⑦空気が読めて自ら動ける賢さがある人。私は、その「空気」の内容と質次第だと思います。
- 次に、金氏から・・・
基調講演-1の79ページの【付録】「社会にとって魅力の若者像」が答えになると思います。上半分に書いたことは前述の松永さんの回答と合っているようです。下半分の「勝者と敗者」は大変含蓄のあることです。出典は「竹内哲夫氏語録」ですが、竹内哲夫氏は元東京電力副社長、元日本原燃社長で、2006年に設立した原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)の初代会長ですが、私はその時の初代代表幹事として、二人三脚でSNWの対話会などの活動を立ち上げ、大変薫陶を受けました。 - 【逆質問―5】
- 二人の回答を読んで、皆さんはこのような社員になれると思いましたか?自分にはできないなと思ったことはありますか?
Q6.これまで一番大変だったことは何か(仕事上)?
A6.金氏と松永から回答します。まず、金氏から・・・・ - 私の会社生活36年間には大変だったこと(禍)と楽しかったこと(福)が沢山ありました。まさに「禍福はあざなえる縄の如し(如し)」のことわざどおり、禍と福が交互にやってくる36年間でした。
その「禍」に中で、技術者として苦労したことと、組織の長(管理者)として苦労したことを一つずつ説明したいと思います。
まず技術者として苦労したことは、三菱重工が設計、製作、建設し、電力会社に引き渡した原子力発電プラントで運転中にトラブルが起きることが初期のころによくありました。いわゆるバスタブカーブの初期故障や経年劣化故障ですが、発電が停止するようなトラブル発生しタラ、現地に飛んで行って現場、現物を調査し、原因を究明し、再発防止対策を検討し、実験などで確認します。そしてお客様(発電所)と規制当局に報告し、了解をもらわないと運転再開できません。一日遅れたら電力会社の損失が増え、電力供給に支障をきたしますから、関係者(設計、研究所、品管、現地など)は必死で、何日も徹夜します。過去に経験のないトラブルの場合は苦労しました。これらの経験を積み重ねて、設計や材料や製造などを改善し、より安全で信頼のある原子力プラントを作り上げていきました。そして、お客様との信頼関係もトラブル経験を通じて作り上げたといっても過言ではありません。航空機、自動車、電車、ボイラーなどなどどんな機械装置もトラブルを経験して改善しながら、より安全で信頼性あるものになるのが技術の歴史です。
私が入社した年の2年後の1970年に日本で初めて商業用軽水炉であるPWRもBWRも運転開始しましたから、日本の原子力発電実用化の初めから携わることが出来たのは大変苦労しましたが、誇りに思います。
次に私は組織の長(管理者)として配下社員が1万人以上もいるような役員経験が5年間ありますが、その組織の目標を立てて牽引することがトップに求められます。原子力プラント以外の多くの製品事業も経験しましたが、全てに気を配り、組織を統率することは大変な苦労が要求されました。みんなにやる気を起こすことが必要です。人事考課にも苦労しました。厳しすぎて会社を辞めた社員もいて、反省したこともあります。ある大きなプロジェクトがお客の設計承認取得が遅れて色々な対策の効果もなく、心配で夜も眠れなかったことも多くありました。そのような窮地で頼りになったのは配下の技術者や中間管理職の人たちでした。チームワークが大きなプロジェクト、大きな製品製作には欠かせません。 - さて、次に松永にバトンタッチします・・・
これまで一番大変だったと思うことは、倫理(モラル)に関することです。原子力発電所から発生した使用済み燃料を六ケ所再処理工場へ輸送したり(輸送船を図示)、発電所構内を搬送したりするための「輸送容器(キャスク)」の中性子遮へい材(図示)として使用されていたレジン(樹脂)材の検査データの改ざんや該当しない材料証明書が使用されていた問題です。肉体的というよりも、精神的な大変さで疲労しました。
この経験から、技術者倫理、企業の社会的責任(CSR)を強く意識するようになりました。倫理的に行動することは、国民の企業に対する信頼・信用を裏切らないことに繋がりますが、更に、CSRにおける企業の社会貢献活動は、カーボンニュートラルにおける炭素除去(植林、DACCS)のような役割があることに気付きました。一番大変だった経験からも、学べることは多いと思います。 - 【逆質問―6】
- 二人の体験談、いかがでしたか?印象に残ったとことは何ですか?
- 【社会貢献活動】の回答
- Q7. なぜ(今回の対話会のような)社会貢献活動を始めたのか?
A7. まずは金氏から・・・ - A5で書いたように、私はSNWの初代代表幹事として、学生との対話会活動を推進してきたので、その背景と目的を説明しましょう。
2001年に原子力関係の企業(電力会社やメーカー)、研究所、大学などの第1線を退いたOBが、原子力に関し世の中に正しく理解していてもらうために「エネルギー問題に発言する会」(エネルギー会)という団体を設立しました。ほぼ全員が原子力学会会員であり、学会内で学生会員にOB会員から原子力について知識や体験談などを話してほしいとの要望があり、現役会員は時間的に無理なのでOB会員が引き受けたところ、原子力系学科のある大学(北海道大学、東大、東工大、武蔵工大、東海大、阪大、九大など)の先生(原子力学会会員)から自分のところの学生にも、と要望があり、それに対応するために原子力学会内にシニアの会(シニアネットワーク連絡会)を2006年に設立しました。現在会員は約300人です。
SNW会員は私も含めて、現役時代に原子力を仕事にしてお世話になったので社会に原子力の理解促進という形で恩返ししたいこと、反原発派やマスコミなどの間違った情報を正したいこと、またOBになっても勉強をしたいこと、などが会員になって活動する動機になっています。 - では、松永にバトンタッチします・・・・
- 会社生活の中において、CSRにおける企業の社会貢献活動が、カーボンニュートラルにおける炭素除去(植林、DACCS)のような役割があることに気付きました(Q6回答を参照)。例えば、所属会社では、次のような社会貢献活動、SDGs活動を行っています。
- 1.次世代育成「次世代への架け橋」:理科授業、宇宙教室、スポーツ教室など
- 2.地域貢献「社会との絆」:開発途上国の飢餓と先進国の肥満や生活習慣病の解消に同時に取組む、日本発の社会貢献運動。食堂や自動販売機等で導入。アフリカ・アジアの子どもたちに温かな給食を届ける「おにぎりアクション」など。
- 3.環境「地球との絆」:種子島アカウミガメ保全調査、森林保全活動、地域清掃活動など。
- 4.「社会とのきずな活動」:少年サッカー大会の開催、技術伝承活動など。
- 私は、「社会とのきずな活動」の技術伝承活動などに7年前から参加しています。
企業の社会貢献活動は本来、利他的な活動ですが、一方で、会社の事業領域の社会適合性を確認する大切な場でもあります。
なお、SNW対話会は、日本原子力学会連絡会の活動ですが、私にとっては、「きずな活動」の一環でもあります。また、会社の了解の元で、会社業務の他、社会への技術支援活動を行っています。
今後はますます変化の激しい社会となり、転職する機会が増えるものと予想されます。また、転職しないまでも「兼業社会」となり、複数の会社業務をこなせる「幅広い知識・能力」が求められることになるでしょう。上記のような「社会適用能力」を身に着けておくことが、今後はますます必要とされるものと思われます。 - 【逆質問―7】
- さて、私たちの対話会などの社会貢献活動をどう思いますか?金氏はすでに無職の年金生活者ですから、時間的には自由ですが、松永は現役にも関わらず、いろいろな活動に参加しています。皆さんが入社する会社でCSR(Corporate Social Responsibility)として社会貢献活動を行っていると思います。皆さんはそのような活動に参加したいと思いますか?
- 【逆質問―8】
- 最後に時間がありましたら、皆さんは就職したらどんな仕事をやりたいですか?また、将来どのような技術者になりたいですか?夢を聞かせてください。
- 《学生の発表例》
- 2050年CNの実現に向けて低・脱炭素を進めている→CO2排出量の多い「電力業界」に注目→電力業界の技術者の一員としてエネルギー問題にもっと理解が必要。 どのエネルギーにもリスクがある(原子力は小さい)→リスクを低減し、より安全に発電することが技術者の役目。脱炭素化に貢献できる技術者・周りから信頼される技術者を目指したい→入社後、基礎を確実に身に着け僅かな時間でも勉強する。積極的に先輩に質問する。
- 原子力発電のこれからについてもっと調べようと思った。これまでで一番大変だったことを聞いて、電力供給の責任の重大さを改めて実感した。社会貢献はイメージアップに繋がると思うので積極的に参加しようと思った。
- この先、原子力発電がどうなっていくのか?→1億℃で核融合が行われるというお話から、原子力発電の長期的な開発戦略は実現不可能だと考えた。 なぜ原子力発電所で小さいプラントが廃炉になっているのか?→プラントのメンテナンスにはプラントの大小に関係なく同じ額の費用がかかるので廃炉にしている。 対話会を終えて:何事にも疑問を持って、自分で積極的に探究する心が大切だと感じた。
- 3) 講評(松永健一)
- 4) 閉会挨拶(金氏 顯)
リスクマネジメンドでは、リスクとベネフィツトを明らかにして、いろんな手段を比較することが重要です。皆さんは社会・実務経験が少ないけれども、学校で培った「合理的な見方」が、社会に出た際に「武器」になるはず。入社まで短い期間だけれども、自分にどのような「武器」があるかを棚卸して「自分の魅力」を確認してはどうでしょうか。エネルギー問題を議論する際も、リスクだけでなくベネフィツトを考えて評価してください。また、必ず、あちら立てればこちらが立たない「相反関係」にあるものがあるはずので、それを見落とさないで両面を抽出した上で、エネルギー問題も考えてください。そのような「合理的な思考ができること」が、社会に出てからの「武器」になると思う。春から頑張ってください。
学生4人、先生2人、シニア2人と少人数ながら3世代間の対話会、オンラインながら徐々に打ち解けた対話が出来、ありがとうございました。今日の対話会と2度の基調講演がお役に立てれば幸いです。学生の皆さんは4月からは社会人ですね。期待とともに不安もあることと思いますが、5年間学んだことに自信をもって、仕事に取り組み、職場でなくてはならない立派な技術者になるよう頑張ってください。「禍福が縄のごとく巡る」と言いましたが苦労のほうが多いと思います。苦労したことは必ず身に着きます。立派な技術者になるには技術の研鑽だけでなく人間的にも成長することが大事です。それには読書を勧めます。私は古今東西の有名な人物の伝記小説、長編歴史的小説などずいぶん読みました。科学者は単独でもノーベル賞など立派な科学者になれますが、技術者はチークワークが必須なのでコミュニケーション能力も大事です。そして約30年後の2050年にはどんな会社に、どんな日本に、そしてどんな世界になっていくのか見届けながら人生を過ごしてください。
3. シニアの感想
- 報告書に掲載
4. 学生アンケート結果の概要
- 報告書に掲載