日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話
in 東北大学2021 報告概要

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)
世話役:阿部勝憲
報告書取り纏め:本田一明
東北大学大学院工学研究科 量子エネルギー工学専攻
昨年度(2020年度)コロナ禍のため取り止めとした東北大学との対話会について、本年度(2021年度)はZoomを用いたオンライン会議を用いて基調講演および対話を行った。 参加学生は工学研究科 量子エネルギー工学専攻12名(B3-1名、B4-1名、M1-8名、M2-2名)。 参加学生は次世代炉の研究開発、バックエンド分野、昨今の情勢(カーボンニュートラル・CO2削減目標など)に対しての原子力が果たす役割など、原子力の今後の展望について幅広く関心を持っているようであり、これらを対話のテーマに選定した。 基調講演では特に『原子力の将来』に寄せられた質問事項を盛り込み、その後の対話の参考として頂いた。 リモートであったが原子力分野専攻の学生諸君が進路選択にも関連して真剣に臨んでくれ、学生、シニアとも満足のゆく対話会であった。

1.基調講演と対話会の概要

1)工学研究科 量子エネルギー工学専攻12名と原子力の将来を中心に対話
東北大学との対話会は、2006年から継続して行っていたが、残念ながら昨年度は全国的なコロナ禍のために取り止めとしている。本年度はZoomを用いたオンライン会議を用いて基調講演およびそれに続く対話を行った。
参加学生は工学研究科 量子エネルギー工学専攻12名(B3-1名、B4-1名、M1-8名、M2-2名)。 対話は同じメンバーで1時間程度を2回行なうこととし参加者を3つのグループ(学生4名ずつ)に分けて行った。
学生の世話人が参加学生に関心のあるテーマ・トピックについて事前アンケートを取り、対話テーマとして1回目の対話では、『次世代炉の研究開発』、『廃止措置(廃炉)・バックエンド』、『原子力と社会(地域共生・機関・企業)』を選定し、また、2回目の対話では、各グループともに共通テーマとして『原子力の将来』について対話してもらうこととした。
リモートであったが原子力を専攻する学生さん達が進路選択にも関連して真剣に臨んでくれ、シニアもそれに熱意を以て応えたことから学生、シニアとも満足のゆく対話会であった。
2)日時
令和 3 年 12 月 21 日(火) 13:00 ~ 17:00
(令和 3 年 12月16日10~11時にシニア参加者がZoomのリハーサル)
3)場所
Zoom を用いたオンライン会議
4)参加者
東北大学 工学研究科 量子エネルギー工学専攻:清野智大大学院生、高橋宏幸助教
学生 :12 名 :量子エネルギー工学専攻 (M1-8名、M2-2名、B4-1名、B3-1名)
シニア: 6 名:齋藤伸三、田辺博三、大野崇(以上原子力学会シニアネットワーク連絡会)、阿部勝憲、中谷力雄、本田一明(以上SNW東北)
6)基調講演
講演者名:斎藤 伸三
講演題目:「原子力の将来」
講演概要:我が国における原子力開発の歴史(原子力時代の幕開け、原子力発電の導入)に始まり、我が国における原子力の現状(カーボンニュートラルとエネルギー基本計画、原子力発電の現状、安全の確保、核融合炉)を踏まえて、我が国における原子力の将来(エネルギー選択、行政/電力の選択)について説明。併せて海外の原子力情勢と次世代炉の開発(原子力発電の現状/見通し、SMR等)に言及。 参加者にとって関心の高いテーマであり、対話会のベースとなる情報であるとともに、今後原子力産業界で活躍が期待される参加者への力強いメッセージになったものと思料される。

2.対話会の詳細

(1)グループ1(報告者:阿部勝憲)

1)参加者
学生:量子エネルギー工学専攻 修士1年 2名、学部4年1名、 学部3年1名
シニア:齋藤伸三、阿部勝憲
2) 主な対話内容
第1回テーマ:「次世代炉の研究開発」
司会役は学生が担当し、自己紹介からはじめた。以下の事前質問に対する回答資料と講演資料を1週間前に届け事前に読んでもらうよう依頼。
Q1:小型モジュール炉は日本で実現するか。実現した場合、従来の原子炉は利用されなくなるのか。
Q2:従来の原子炉と比較した場合次世代炉の優位性(安全性・コスト・社会受容性などの観点で)
Q3:商業用次世代炉の実用化は何年後か。
Q4:次世代炉は2050年CNへどの程度貢献できるか。2050年CNに間に合うか。
事前質問あるいは講演内容など広く話題を取り上げながら進め、主なやり取りは以下:
  1. ①小型炉の多様性とは?:方式も軽水型、ガス冷却型、ナトリウム型などあり、利用法も発電、熱利用、水素製造など。熱利用には出口温度が高い高温ガス炉が有利で多段により熱効率向上。HTTRで水素製造実証試験。出力調整に小型の複数基で対応しやすい。
  2. ②小型炉の安全性について:自然循環冷却、受動的安全システム、モジュール化で現場作業低減、地下立地による航空機対策などの安全性向上。
  3. ③小型炉の実現性:国際的に実用化機運が高まり国内でも研究開発。日立/GEがカナダから受注との報道。国内での建設には主体、メーカー、許認可などの課題。
  4. ④軽水炉に替る基幹電源になり得るか:基幹電源には現行の軽水炉の延長とリプレースが柱。避難不要の設計も重要。小型炉は特徴を活かし新増設に参入を。水素利用が進めば高温ガス炉が供給源になれる。
  5. ⑤高速炉開発:日本では実験炉常陽の活用と国際協力で研究開発継続。ループ型かタンク型かの設計と国際動向。金属燃料方式の研究も。
  6. ⑥核融合炉開発:ITERの次に原型炉に進むにはプラズマ制御、材料などの炉工学課題が残されており、発電までの道のりは長い。放射性廃棄物を低減する設計も必要。学生時代は磁場の話だけだったがITERで核燃焼実験を行うまでに辿り着いた、今後の発展が楽しみ。
第2回テーマ「原子力の将来」
  1. ①2030年ごろまでに原子力が20-30%担うこと可能か:再稼働だけでなく、寿命延長が必要でリプレースや新増設なければ2050CNは無理。
  2. ②再稼働が進むのか:東北では女川で審査や地元了解進んでおり、東通は地元が望んでいる。一方で茨城の東海は避難対象の都市部の了解が課題。地域の理解を進めること。
  3. ③福1事故後の風当りをどうするか:正しい理解が届けば若者の支持得られる例も。理解進めるには。
  4. ④メディアの影響:電力消費地の都市部で影響が大きい。原子力の面白さや可能性を伝えることも大事。原子力が分かる人間がメディアに就職するのが効果的か。
  5. ⑤日本の競争力:外国で特に共産圏で開発・利用が先行するのは問題。我が国の競争力にはエネルギーセキュリティや技術力維持のため原子力産業が重要。
  6. ⑥大学でできること:若者や市民向けに学園祭の活用。分からないことが不安の原因なので聞くことや見る機会を増やす。
  7. ⑦発電以外の分野:エネルギー利用では宇宙などの原子力電池。放射線利用は産業利用や医療応用など活発。加速器による中性子の利用も広がっている。
  8. ⑧進路に関係して周囲の説得には:再エネでは行き詰まり原子力が必要になるので、将来こそ出番が来る。原子力は国際的に活躍でき研究開発が盛んな分野でやりがいがある。
まとめると、1,2回とも原子力の将来に関係するテーマで、学生諸君の率直な疑問や考えが聞けた。専門分野での知見を深め、ぜひ将来の原子力科学技術の担い手になってほしい。

(2)グループ2(報告者:田辺博三)

1)参加者
学生:量子エネルギー工学専攻 修士1年 2名、修士2年 2名
シニア:田辺博三、中谷力雄
2) 主な対話内容
司会役は学生が担当し、参加者全員の自己紹介からはじめた。
以下の第1回テーマに関する事前質問を学生から提出してもらい、それに対する回答資料を1週間前に届け事前に読んでもらうよう依頼。
第1回テーマ:「廃止措置(廃炉)・バックエン ド」
事前質問
Q1:NUMO創設以降の取組みの評価、今後の処分場選定に向けた課題について。
Q2:日本よりも処理について先進している海外では最終処分場候補 地をどのように検討しているのか。
Q3:海外の廃止措置(廃炉)・バックエンドの動向で、日本が参考にすべきポイン ト、参考にするには注意が必要なポイントは何か。
事前質問に対する回答資料をシニアから説明し、質疑応答を実施。主なやりとりを以下に示す。
  1. ①北海道の2町村で文献調査が進められている中、住民投票の結果についての判断指標があるのか。
  2. ②調査に手を挙げる自治体の数は増えるのか。
  3. ③高レベル放射性廃棄物の処分方法は地層処分だけか。
  4. ④調査を受け入れた自治体に補助金等は出るのか。等
シニア側から補足説明をしつつ、地層処分が抱える諸課題について共通認識が持てた。
第2回テーマ「原子力の将来」
基調講演に基づき質疑応答を実施。主なやりとりを以下に示す。
  1. ①再エネの大量導入で電気代が上がると思うが、原子力で安くできるのか、
  2. ②原子力発電所の多くが停止している中、若手のスキルアップやモチベーション維持はどうしているのか、
  3. ③(電力会社へ内定しているが)どんな仕事にやりがいを感じたのか。等
シニア側から説明すると共に、原子力の将来に対して、関心を持ち続け、原子力の発展に大きく寄与してほしい旨、伝えた。

(3)グループ3(報告者:大野崇)

1)参加者
学生:量子エネルギー工学専攻 修士1年 4名
シニア:大野崇、本田一明
2) 主な対話内容
対話テーマ
第1回テーマ:「原子力と社会(地域共生・機関・企業)」
第2回テーマ:「原子力の将来」
東北大は、経験に根付いたシニアとの対話に期待するとして、2020 年度のコロナ影響による見送りを除き、研究室持ち回りで学生が主体となって毎年対話会を実施し今年度で15回目となる。
例年通り司会役は学生が担当した。自己紹介からはじめ、学生からの事前質問に対するシニア側の回答説明後、深堀対話を実施した。
Q1:北朝鮮の原発利用と核兵器への利用について(北朝鮮の核実験との関係からの疑問) Q3:原子力規制が厳しくなる中で、原子力関連企業にどの程度影響があったか。現在はどの程度影響を受けているか。(原子力業界への強い関心からの質問)
Q4:事業者と規制機関で連携はあるのか。(再稼働遅れからの質問)
Q5:原子力業界にマイナスイメージを持っている親族や知人に、業 界の存在意義を伝える際の重要なポイントは何か。(慎重な周りの親族・知人とのコミュニケーションからの質問)
原子力産業を対象としたアンケートによる、福島第一原子力発電所事故で低下した仕事への「誇り」、「仕事への達成感」の未回復、「将来不安」に対し、学生は当然のことながら原子力業界の将来に強い関心を持っていることが窺えた。
周りの親族・知人の原子力慎重意見への理解を得るためのコミュニケーション方法に強い関心をもった発言が印象的であった。
技術的には、第6次エネ基、SMRを含めた次世代炉開発と選択、もんじゅ無き後の高速炉の復活、カーボンニュートラルに強い関心を持っており、突っ込んだ議論が行われ、東北の雄として次の原子力を担う人材が育っている感触を得た。

3.講評(大野崇)

議論の導入として、「原子力の将来と」題して原子力開発の歴史から次世代炉の開発までの内容の濃い講演が行われました。
それを受け、グループに分かれて学生諸君と、SMR等の次世代炉の開発と選択、地層処分の社会受容性、核融合開発、再稼働遅れと原子力産業の今後、マスコミ対応、高速炉開発、カーボンニュートラルと第6次エネルギー計画等、さらに突っ込んだ問題の深堀を行いました。
流石に量子エネルギー工学の院生だけあって、ポイントを衝いた質問が多くシニア諸兄も熱意のこもった回答を行っていました。
2時間程度の対話でありましたが、世代を超えた対話が成立し学生諸君も貴重な経験となったのではないかと思います。
エネルギーは人類にとってなくてはならないものです。常に社会の要請にこたえなければなりませんが、社会情勢により大きく影響を受けます。これからの「持続可能なエネルギーシステムの構築」の主役は、あなた方の世代に移ります。大いに期待しております。

4.参加シニアの感想

報告書本文を参照下さい

5.学生アンケートの集計結果(中谷力雄)

1)参加学生の感想 
原子力の分野で新たな知見が得られたので、参加してよかった。
原子力のこと、将来のことなどを学ぶ貴重な機会を得た。
シニアの方が気さくで質問しやすかった。
有意義な対話ができたのでよかった。
学部の授業で原子力関連分野に対する世間の風当たりの強さに触れ、それに対してどのような姿勢を示せばいいのか悩んでいたが、阿部先生のご意見の中にあった「メディアに我々のような原子力について勉強した人間が積極的に入っていき、原子力の安全性や有用性をより広く伝えていく」という考えは非常に良い解決策かと思った。
我々学生の進路や研究に取り組む姿勢を見通す・見直すという意味でよい企画であったと思う。
理解していた内容が実際に話を伺うことで再認識できた。

6.別添資料リスト

(報告書作成:本田一明、2022年1月27 日)