日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話
in静岡大学 2021報告 概要(後期)

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)・湯佐泰久
静岡大学静岡キャンパスと富士山

静岡大学では2021年度前期、7月5日(月)に学生とシニアの対面方式の対話会を実施した。今回は前回と異なり基調講演なしとし、参加予定学生90名を4グループに分けて対面の対話会とした。対話会の前に学生から質問を提出してもらい、シニアは作成した回答資料を学生に送った。対話会ではシニアがそれらを説明し、学生と意見・情報交換を行なう形とした。マスクを着用し、席は距離を開けた。 静岡県は原発立地県であり、「ビキニ海域における水爆実験による第五福竜丸の被災事件」で罹災者が出た県でもある。この事件を契機に、昭和33年に静岡大学に放射科学研究施設が設立された。今回の対話会はその施設に所属されている大矢恭久先生の授業、「エネルギーと環境」の一環として実施された。

1.対話会の概要

1)「エネルギーと環境」の受講生と議論した。
今回の対話会は大矢恭久先生の授業、「エネルギーと環境」の一環として実施された。受講生のほとんどは理学部・農学部・教育学部・人文社会科学部等の学部生であった。
今回は基調講演なしとし、参加予定学生約90名をA・B・C・D、4グループに分けて対面の対話会とした。対話会の前に学生から提出してもらった質問について、シニアが回答資料を作成し学生に送っておいた。対話会ではシニアがそれらを説明し、学生と意見・情報交換を行なう形とした。
学生への事前の質問書は大矢先生が作成されたもので、受講した「エネルギーと環境」を基礎として、興味・質問・自分の意見を持ったテーマを、「1.エネルギー・環境問題、2.エネルギーセキュリティー、3.原子力発電、4.放射性廃棄物、5.核融合、6.放射線影響」の6項目の中から選び、その理由と自分の意見や質問を追記するものであった。
ちなみに、全員の選択した項目を1番目2点、2番目1点として集計すると、
1.エネルギー・環境問題49点
2.エネルギーセキュリティー11点
3.原子力発電30点、4.放射性廃棄物21点
5.核融合27点、6.放射線影響15点であった。
学生は質問書に記入し12月6日(月)までに大矢先生に提出した。大矢先生からそれらを記載された資料がシニア全員に配布された。シニアはそれに対する回答を分担・作成し、大矢先生を通して学生に配布された。
対話会の進め方は、シニアの挨拶と自己紹介のあと、
①事前質問の学生による趣旨説明、②シニアからの回答
③学生からの更なる質問とシニアの回答、これらを数件に絞って実施した。
対話会後の学生のアンケート結果では、「事前の質問にも丁寧に答えてくれ、より詳しく掘り下げた話を聞け、マスコミ情報と違った新しい知見を得られた」と、ほとんど全員が満足とのことであった。また、「この対話会は、世代の壁を越えて議論するよい場であり、機会があれば友達や後輩に対話会への参加を進めたい」と半数以上の学生が答えた。一方、「もう少し対話があると思っていた」や「意見交換をしたかった」との感想・意見があった。シニアからの説明だけでなく、多くの学生から発言を引き出せる工夫が必要である。
2) 日 時
12月6日(月)学生からシニアへ質問の提出
12月10日(金)シニア間による対話会進め方についてのZoom打ち合わせ会
12月13日(月)シニアから回答を大矢先生へ提出
12月17日(金)10:20~11:50 静岡大学にて対話会を実施
3) 場 所
静岡大学 静岡キャンパス 共通教育B棟・P棟(静岡市駿河区大谷836)
4) 参加者
静岡大学 学術院理学領域(放射科学研究施設)大矢恭久准教授
学生:授業「エネルギーと環境」の受講生約57名 (主に3年生、一部4年生、学部は人文・教育・理学・農学)
シニア:8名:若杉和彦(世話役)、早野睦彦、齋藤伸三、大野 崇、 川合将義、後藤 廣、三谷信次、湯佐泰久

2. 対話会の詳細

(1)グループA(後藤)

1)参加者
学生:人文社会科学部3年1名、人文社会科学部4年1名、教育学部3年2名、理学部3年2名、理学部4年1名、農学部3年6名、計13名
シニア:早野睦彦(ファシリテーター)・後藤 廣
2)主な対話内容
テーマ:①エネルギー・環境問題、③原子力発電、④放射性廃棄物、⑤核融合
対話に入る前に、シニアから「エネルギーと環境を考える上での基礎知識」として、人類とエネルギーとのかかわりやS+3E政策とエネルギーミックス等について説明。
学生からの下記事前質問に対してシニアから説明
  1. ①カーボンニュートラルのため火力発電所の利用量の低減を目指していると思うが、再生可能エネルギーでの発電で電力がまかなえると思うか。
  2. ②日本で電力供給の大部分を原子力発電に頼ることは可能なのでしょうか。
  3. ③放射性廃棄物をうまく処理できると思われる方法はありますか。
  4. ④原子力発電は、当初、クリーンな夢のエネルギーであるかのように宣伝されていたと耳にしたことがある。核融合を用いた発電も同じような道をたどることになったりはしないのだろうか。
上記の問題提起について、学生とシニアの間で以下のような対話が行われた。
  1. ①人類が生き延びる上で不可欠なものは、空気、水、食料とエネルギーである。
  2. ②再エネには、安定再エネの水力、地熱、バイオマスと、変動再エネの太陽光、風力がある。電力システムの安定性と経済性から、再エネ導入は50%程度が限界か。
  3. ③ヨーロッパ各国の電力網は連携している。変動再エネを大量に導入した場合の、電力システムの安定性を得るために、日本、中国、韓国などの近隣諸国と電力網を共有すべきか。友好関係にない国との共有は問題との発言が学生側からあった。
  4. ④水力は安定再エネに分類されているが、降水量やダムの貯水容量により全く安定とはいえない。地熱、バイオマスと共にそれぞれ不安定な要素はあるが、天候に大きく影響される太陽光や風力に比べれば安定といえる。
  5. ⑤フランスでは電力量の70%以上を原子力が供給している。日本も2010年の第3次エネルギー基本計画では2030年時点で50%以上を目標にしていた。カーボンニュートラルを検討している多くの国が、原子力利用の推進を表明している。
  6. ⑥原子燃料を再処理した際に発生する高レベル放射性廃棄物は300メートルより深いところに地層処分される。原子力エネルギーは高密度であるため、廃棄物の絶対量は非常に少ない。日本の地層処分施設は1ヶ所で足りる。
  7. ⑦日本、米国、ロシア、中国、EU他の国際協力により、フランスで、核融合実験炉の建設が2020年代後半完成、2035年フルパワーの運転を目指して進んでいる。
  8. ⑧技術の発展段階には、サイエンス⇒エンジニアリング⇒インダストリがあり、核分裂による原子力発電はインダストリ段階、核融合はまだサイエンス、エンジニアリングの段階。エンジニアリングからインダストリへはダーウィンの海という大きな障壁がある。
対話の最後に、シニアから学生に伝えたいこととして「サイエンスリテラシー、メディ アリテラシーに磨きをかけて教条主義に陥ることなく、自分の頭で考えてください。そ れが我が国に残された道である。」を提示した。

(2)グループB(三谷)

1)参加者
事前質問提出者15名(農学6名、理学2名、人文3名、教育2名)出席者11名
参加シニア: 齋藤伸三(ファシリテーター)・三谷信次
2)主な対話内容
グループBの登録学生は全部で23名であるが、その内15名の学生から事前にエネルギーと環境についての関心テーマ、それを選んだ理由、自分なりの意見や質問等について、手書きA4一枚の情報を、大矢先生を通して参加シニアに配られていた。それらの情報を詳しく精読した。
その結果、各学生の疑問がエネルギー環境問題や放射性廃棄物など複数分野に跨がっていたり、他の学生の質問と重複していたりしていて、従来のように一問一答で回答するのが効果的でないため、シニア(齋藤、三谷)で分担し次のカテゴリーに大きく分けて全体を少し体系的に解説しながら回答していった。説明用スライドは、事前に頂いた学生の疑問点等を忠実に折り込み作成した。
第1部(齋藤)
  1. 1)エネルギーセキュリイェィーと環境問題(再生エネルギーの得失とエネルギーバランス等)
  2. 2)原子力の立ち位置(第6次エネルギー基本計画、原子力政策等)
  3. 3)原発の安全性(過去の歴史、新規制基準とSMR等)
  4. 4)核融合の位置づけ安全性等(ITERの説明を主に将来見通しについて)
  5. 5)国民への理解活動、教育、普及等について
第2部(三谷)
  1. 1)放射性廃棄物・地層処分の安全性と環境影響評価
  2. 2)(医療含む)放射線の安全性
  3. 3)南海トラフ地震と浜岡原発の対策
  4. 4)次世代エネルギー(特に水素)の展望 等
  5. 5)国民への理解活動、教育、普及等について
対話後の学生の反応
対話後、事前に出した疑問点は今回の説明で解消したか学生達に尋ねたところ、ほとんどの学生から解消したとの返事を頂いた。
今後の課題
学生からの積極的な質問が出なかったこともあるが、事前質問の疑問解消の説明に時間がかかり、双方向の対話時間が十分に取れなかったのは残念な気がする。

(3)グループC(川合)

1)参加者
学生:16名、農学 10名、理学 3名、経済 2名、人文1名
(理学4年を除き他の15名は3年、うち女性4名)
シニア:大野 崇(ファシリテータ)・川合將義
2)主な対話内容
事前質問に基づいて下記の4テーマを選んだ。事前質問に対する回答を送付してあったので、再質問を期待したが特に無かったために、テーマ別に質問への回答を説明して、質疑応答した。各テーマの説明後に質疑応答したが、残念ながら指名することで発言がなされた。
①放射線のリスクと利用について(川合)
放射線は原子力とは切り離せないもので、事前質問でも未受講であり、関心も高いことからテーマに選んだ。開講一番、放射線について怖いと思う人と聞いたら、ほぼ全員が挙手した。そして、パワーポイントを用いて放射線について説明した。
内容は、放射線の性質、自然放射線による年間被ばく量、人体への影響、特に一般人の被ばく限度とそのリスク、日本の原子力施設における被ばく事故、放射線の応用として基礎研究から医療や産業応用について話した。
その結果、放射線の怖さに対する印象は和らいだことを確認した。それでも一人の学生から、一旦事故が起きると大被害が生じる原発事故への不安が述べられた。
②放射性廃棄物の処理・処分(川合)
再処理施設が完成していないことで、放射性廃棄物の処理状況、地層処分での地下水の問題等の事前質問への回答を準備したが、時間不足で割愛した。
③核融合(大野)
講義を受けて原子炉に比べてクリーンで、日本でも燃料のリチウムと重水素の確保が可能として核融合炉に対する関心は高かった。原子力屋から見た核融合炉の特徴と核融合炉実験炉ITERの開発状況を説明し、将来エネルギーとして有望であること、核融合時代の電源として、核融合、原子炉、CCS(CO2地下貯蔵)付火力、再エネの順が予想されると述べられた。
④カーボンニュートラルとエネルギー選択
第6次エネルギー基本計画にあげられた2050年カーボンニュートラル実現のための通過点2030年のCO2排出量を(2013年比)46%減の達成可能性と課題が述べられた。再生可能エネルギーの太陽光は、固定価格買取制度で急激に増えた。一方、適地が少なくなっていること、風力は北日本と九州に限られること、再稼働を中心とした原子力は2030年で20%を切るため新造設が必要なこと、火力についてはCCS技術の開発、水素・アンモニアについては安価かつ安定な供給の見込みが立たないので、原子力の復権が必要と思われることを述べた。
この対話会を通じて上記のエネルギー事情と原子力の必要性も多くの学生に理解されたように感じた。しかし、原発の安全性への懸念も示された。そう思わせる原因が新しい原子力防災でのUPZ (緊急防護措置を準備する区域、5km - 30km圏内)の人の避難計画にあると思い、そのことに言及したが、更なる説明を行うには時間がなかった。
原発の再稼働がなかなか進まない中、一般人の理解を得るためにも、原子力の安全性を論じて、再稼働への不安を払拭することが重要に感じた。すなわち、30km圏内を含む防災計画は、福島第一原発事故の再来を思い起こさせる。そうでは無いことを如何に説明するかが課題である。

(4)グループD(湯佐)

1)参加者
学生:13名(農学部4年生3名、理学部4年生4名、人文学部修士2年2名・4年生3名、地域創造学環4年生1名)
参加シニア:若杉和彦(ファシリテータ)・湯佐泰久
2)主な対話内容
グループDの登録学生は全部で22名である。その内13名の学生から事前質問が提出され、大矢先生から配布された。その内容、すなわち、対話のテーマとその選択理由・意見や質問等について、それらを分類・検討した。その結果、シニア(若杉・湯佐)で分担し次のカテゴリーに分けて、全体を解説・回答した。説明はPPTを使用した。シニアからの説明に対し、更なる質問・コメントは(2,3名以外)あまりなかった。シニアが指名したら発言することが多かった。
第1部(若杉)
      1)核融合(研究開発の現状と将来の見通し、核融合や原発以外のエネルギー源、エネルギー消費量と生活の豊かさの関係)
      2)原子力発電(東電福島原発事故とその影響、現在の原発の安全性、風評被害)
第2部(湯佐)
      1)エネルギー・環境問題(問題の相互関係、今後の必要エネルギー量、環境倫理)
      2)放射性廃棄物(処分方法の種類・地層処分の安全性・ナチュラルアナログ研究・処分場選定手順)
      3)放射線影響(日常生活と放射線・人体への影響・ホルミシス・放射線の利用)
対話後の学生の反応 対話後、事前に出した疑問点は今回の説明で解消したか学生達に尋ねたところ、ほとんどの学生から「良く分かった」とのことであった。
今後の課題
学生からの積極的な質問が出なかった。事前質問の疑問解消の説明にとどまり、双方向の対話時間とはならかった。今後の課題である。

3. 参加シニアの感想

報告書本文を参照ください。

4. 学生アンケートの集計結果

報告書本文を参照ください。

5. 学生アンケート結果のまとめとシニアの感想

(1)今回の対話の内容
事前の質問にも丁寧に答えてくれ、より詳しく掘り下げた話を聞け、マスコミ情報と違う新しい知見を得られたと、ほとんど全員が満足とした。
「放射線・放射能」、そして、「原子力発電」の項目についての結果、多くの現代の若者も良く考えているとした。
「学生とシニアの対話」は、世代の壁を越えて議論する、また、シニアが取り組んできたことを次世代へ繋ぐよい場であり、機会があれば友達や後輩に対話会への参加を進めたいと半数以上が答えた。
「もう少し対話のある講義だと思っていた」、「意見交換をしたかった。」との感想・意見があった、シニアからの一方的な説明にならないようにすることと、以下の項目のアンケート結果とも考え合わせ、出来る限り多くの学生から発言を引き出せる工夫する努力を継続する必要がある。
(2)放射線、放射能
多くの学生が、一定のレベルまでは恐れる必要はないこと、また、生活に有用であると答えていた。一方、「やはり怖い」との意見も約2割あった。
(3)原子力発電
ほとんどの学生が、原子力発電の必要性は分かっていた、と答えていた。
(4)カーボンニュートラル
地球温暖化や脱炭素社会に実現について、ほとんどの学生が関心や興味はあるが、友人同士の話題にはしていない。
「2050年脱炭素化社会の実現可能性は無い」、または、「わからない」が3/4であった。

6.今後の課題

対話会終了後、大矢先生とシニアとの間で、学生からの更なる質問や意見が少なかったことが話題になった。これは、学生がシニアからの事前説明と口頭説明で満足したのが理由かもしれない。
しかし、対話会をより充実させるために、多くの学生から発言を引き出せる工夫が必要である。1月25日には静岡大学浜松キャンパスにて対話会が予定されているので、今回の反省を活かすべく大矢先生とシニアで検討・改善することになった。
(報告者作成:2022年1月16日)