日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話
in佐賀大学2021報告概要

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW) 梶村順二
佐賀大学 本庄キャンパス

2020年度は新型コロナの影響で計画がなく2年ぶり4回目の開催で、WEB会 議方式(ZOOM)にて初めて開催した。過去の対話会は機械システム工学科の特別講義「エネルギーと地球温暖化」の中で実施していたが、本年度(2021年度)から機械エネルギー工学コース3年の後期選択科目「資源エネルギー概論」の授業(基調講演1コマ、対話会2コマ)で実施し、大学院生の有志も加わって開催した。対話会への導入として、基調講演ではカーボンニュートラル実現に向けての課題について講義し質問も多く受けることができた。しかし、対話会の事前質問は約半数の学生からしか提出がなく、当日の追加質問も低調であったことは今後の反省点であるが、カーボンニュートラル実現には原子力が重要なことは理解いただけたと思われる。

1.対話会の概要

1)「資源エネルギー概論」を受講する機械系の学部学生等16名と対話した。
本年度(2021年度)から機械エネルギー工学コース3年の後期選択科目「資源エネルギー概論」の授業の中で基調講演1コマ、対話会2コマを頂いて実施させていただいた。
コロナ禍の状況にあり、基調講演・対話会は学生側もシニア側もZOOMによる完全なオンラインリモートにて実施した。概論受講生は学部3年生14名で院生2年生の有志3名が加わり17名の参加で計画された。
基調講演を1コマ:対話会への導入として、講演(対話会の3週前)では「日本のエネルギーの現状とカーボンニュートラル実現」への課題を提起した。
講演資料は事前に参加シニアと光武教授へ送り参加学生へ配信していただいた。
次に、当初の参加予定者17名であったので、4つの対話グループに分けてもらい、各グループの対話テーマを選定することを大学側にお願いした。一方、参加シニア10名を旧所属や専門を考慮して4グループに担当を分けた。
各グループの質問をシニア側の各グループが受け、回答書を準備し学生側に送付した。
当日は2コマの内の約2時間を各グループでの学生-シニアの対話会を実施し、その後の30分を学生の各グループの「まとめとプレゼンの準備」にあてた。
最後に学生各グループの発表とシニアの講評で締め括った。
基調講演においては学生諸君から質問が7件も出され30分時間延長されたが、対話会の事前質問は約半数の学生からしか提出がなく当日の追加質問も低調であった。このため、シニア側の説明する時間が多くなったことは残念であったが、対話会を通じてカーボンニュートラルの目標を達成していくためには、再生エネルギーだけでなく原子力発電も重要であることは理解していただけた。
2)日 時
11月10日(水)学生のグループ分けおよび対話4テーマを決定
11月11日(木)シニアのグループ分けを決定
11月15日(月)講演の資料を大学および参加シニアへ送付
11月19日(金)3限目(13:00~14:50)基調講演開催(リモート)
11月26日(金)事後アンケート用紙を大学へ送付
12月 3日(金)学生は事前質問を各Gシニアに送付
12月 8日(水)シニアの回答書を学生Gに送付
12月10日(金)3~4限目(13:00~16:05)対話会を開催
3)大学の授業科目
佐賀大学理工学部機械エネルギー工学コース3年生
授業科目:エネルギー資源概論
科目責任者:海洋エネルギー研究センター 光武雄一 教授
4)参加者
海洋エネルギー研究センター 光武雄一 教授
理工学部機械エネルギー工学コース3年生:13名
大学院修士課程機械エネルギー工学コース2年生:3名
シニア10名:岩瀬敏彦、早瀬佑一、針山日出夫、湯佐泰久、梶村順二 金氏顯、古藤健司、山田俊一、*秋吉達夫、*山崎智英
*はオブザーバー参加者/dd>
5)基調講演
講演者:針山日出夫
講演題目:「地球環境問題とエネルギー資源を考える」~脱炭素化への難路を拓くための課題と対策を俯瞰する~
講演概要:科目責任者の光武教授から話題性のあるタイムリーなテーマとして提案された。日本のエネルギーの現状とともにカーボンニュートラル実現への課題を提起し「原子力」の位置付けが浮かび上がるよう考慮した。

2.対話会

(1)グループA(報告者:岩瀬敏彦)

1)参加者
学生:機械エネルギー工学コース3年生4名
:大学院修士課程機械エネルギー工学コース2年生1名
シニア:針山日出夫(ファシリテータ)、岩瀬敏彦
2)主な対話内容
グループAのテーマ:カーボンニュートラル実現のための技術的課題について
対話が円滑に進められるように、針山様からファシリテイトのもと、学生諸君からの事前質問とシニアからの回答を皮切りに、このテーマの持つ課題の議論展開を行った。
主な議論として
地球気候保全(産業革命以来の気温上昇を1.5℃抑える努力追求)の達成は世界人類全体で対処すべき喫緊の課題である。
このほど我が国政府は第6次エネルギー基本計画」を閣議決定し、国民各位にCNの実現に向けた課題と対応ポイントが提起され、その骨子は
  1. ①エネルギーセクター温室効果ガスの排出削減(例示:電力部門での再エネ・原子力等脱炭素の活用等)
  2. ②非電力部門は脱炭素化由来の電力で排出削減
  3. ③電化困難部門では水素、合成メタン等を活用し、脱炭素化を進める(産業分野での水素還元製鉄が可能性あり)
  4. ④CO2多排出国を先頭に排出規制を課すべきとの議論に対し、過去に多量にCO2排出国(経済成長達成国)と発展途上国(中国やインド等は多量のCO2を排出するも富国になる権利あり)との対立の恐れありや?
  5. ⑤我が国の再エネ推進には地政学的に制約条件あり→太陽光設置個所は限られる、風力利用地点は僅少、(風力は北欧地域の風力発電が優勢、豪州など広大砂漠地域での太陽光発電優勢など)、従前から水力・地熱発電は行われ今後の拡大余地は僅少?
我が国エネルギー消費に伴うCO2排出割合は現在高々約3%であり、CN努力しても世界規模では、僅少
グループ議論から、日本でのCN実現可能性は難しいのでは、また国民一人一人の省エネ徹底マインドが求められる、我が国イノベーション実力は世界13位、技術力あるも普及は難しいのでは?国民全体でのCNに向けた意識改革が求められる等

(2)グループB(報告者:梶村順二)

1)参加者
学生:機械エネルギー工学コース3年生4名
シニア:金氏 顯(ファシリテータ)、梶村順二
2)主な対話内容
グループBのテーマ:福島での廃炉措置と風評被害の克服について
事前質問に対するシニアの回答に対して学生は理解していたことから、金氏ファシリテータから逆質問をし、学生から順次意見を引き出した。 逆質問内容と主な対話内容は以下のとおり。
  1. ①玄海原子力発電所からもトリチウム水が放出されており、佐賀県でも同様の風評被害問題があります。皆さんも何か自分でできることはありませんか。 →玄海原発では常時放射能はモニタリングされている。周辺の海産物や水などサンプルを取り分析し、県の会議で評価している。全国で行われている。
    →風評被害の元は、原発周辺の消費者やマスコミだと考える。
  2. ②中国や韓国は自国の原発からも大量に放出するにも拘わらず、なぜ猛反対するのか。
    →中国や韓国は国内問題から国民の目をそらすために反日思想を政治に取り入れようとし、支持を得ようとしているのではないか。
  3. ③これまで事故を起こした原子炉は、米国スリーマイル2は全ての放射性廃棄物は全て撤去し更地にする予定、チェルノブイリは全く撤去せずコンクリートで固めて永久保存の予定。福島第一の廃炉をどういう形で終息するのが良いと思うか?
    →燃料デブリは放射線量が高く近づけないため、ロボットで遠隔操作をしている。取り出したデブリを保管することは可能だが、福島県に保管することは県民が反対している。
その結果、学生たちは次のとおり結論をまとめた。
  1. ①福島の廃炉措置は「負の遺産」として残して後世に語り継いでいくのが良いのではないか。
  2. ②風評被害を広げないためには正しい知識を身につけることが必要である。
  3. ③実際に玄海原発や福島の現地に足を運び、自分の目で確かめることも重要なのではないか。
以上の対話会では、ファシリテータの逆質問もあって、学生たちが自分の意見をほぼ言うことができた。
最後に学生4人からそれぞれ将来どのような製品や分野の仕事に進みたいか、またどのような技術者になりたいか、抱負を語ってもらった。

(3)グループC(報告者:山田俊一)

1)参加者
学生:機械エネルギー工学コース3年生3名
:大学院修士課程機械エネルギー工学コース2年生1名
シニア:早瀬佑一(ファシリテータ)、山田俊一、秋吉達夫
2)主な対話内容
グループCのテーマ:世界と日本における原子力発電の現状について
学生からの事前質問(①~⑤)、対話での質問(⑥)
  1. ①日本では原子力発電の利用が国民の不安などで難しいと思うが、世界で原子力発電を利用している国々では2011年の東日本大震災後どのような変化があったか。原子力発電に関するどのような不安があったか。
  2. ②現在、原子力を推進する国と縮小する国があるが、世界の傾向としてはどちらが支配的か。
  3. ③政治的な問題がなく原子力発電を推進できれば、エネルギー問題は解決することができるのか。
  4. ④日本で原子力発電所の再稼働が進まない理由は何だと考えるか。
  5. ⑤地震や津波に強いとされる浮体式原子力発電、水上原子力発電といった技術は日本で使用されると思うか。
  6. ⑥国によって、保有している原子力技術のレベルに差はあるのか。
上記の問題提起に対してシニアと学生が行った対話の骨子
  1. ①日本政府は原子力発電所の新増設、立替について方針を表明していない。これは原子力を選挙の争点にしないため。エネルギー問題は国のありようを左右する重要な問題である。100年先を見て決める必要がある。
  2. ②日本は国際協調で優等生すぎ。脱炭素問題などではもっと国益を考える必要がある。
  3. ③日本は技術導入した原子力技術を国産化し、世界のトップレベルの技術を有していたが、新増設がこのままなければ技術や人材はなくなってしまう。将来、原子力が必要になっても中国やロシアから輸入ぜざる得なくなるかもしれない。
  4. ④国民が原子力などの問題について知識を持つようなるためには、義務教育に環境に関する授業をいれることなどが有益。
  5. ⑤国のエネルギー基本計画に示された2030年の原子力比率の達成は、再稼働が進んでいない現状では非常に厳しい。
  6. ⑥福島事故を身近に感じていないといわれるかもしれないが、脱炭素のためには原子力発電は必要だと考える。
  7. ⑦どのような技術でも失敗は避けられない。福島事故はいまでも大きな影響があるが、それでもそれを乗り越えて問題を解決し、技術を活用していく姿勢が必要と考える。

(4)グループD(報告者:湯佐泰久)

1)参加者
学生:機械エネルギー工学コース3年生2名
:大学院修士課程機械エネルギー工学コース2年生1名
シニア:古藤健司(ファシリテータ)、湯佐泰久、山崎智英
2)主な対話内容
グループDのテーマ:原子力発電の安全性とその将来について
学生からの問題提起。
  1. ①事前の質問は1件だけで、「核汚染水を海に放流することで、環境や私たちへの影響はあるのか?」であった。まず、質問の意味について聞いたところ、「新聞などに、東電福島第一原発の処理水の海洋放出が話題になっており、(例えば、韓国の報道などが)環境、特に海洋生物への影響を問題視している。それはどのような事か知りたい」との事であった。
上記の問題提起について学生とシニア間で以下のような対話が行われた。
  1. ①「汚染水」と「処理水」とは意味が異なる。区別すべきである。
  2. ②福島第一原発の海洋放出されるトリチウムの量は、国の排水基準値やWHOの飲料水水質ガイドラインのはるか下の値まで希釈される。したがって、海洋生物への影響はないものと考えるのが客観的・科学的である。
  3. ③韓国の原発からは福島第一原発以上のトリチウムが放出されている。さらに、使用済み核燃料を解体処理する再処理施設からは同原発処理水の数千倍の量が最終的に海洋へ放出されている。
  4. ④(環境汚染の一般論では、汚染物質の濃縮が問題となるが、)トリチウムは水素の同位体で普通の水素(水素1)と容易に置換し拡散する。
  5. ⑤九州電力玄海原子力発電所での冷却水の海洋放出については、(九電だけでなく第三者機関によっても)魚類等の放射線量測定がなされ、問題ないことを確認している。
シニアからの回答・説明に対して、学生からの更問いはほとんどなく、全員が「良く分かった」とのことであった。

3.学生アンケートの集計結果

1)まとめと感想
 
対話会に参加した学生16名のうちアンケートの回答は学部生11名、院生3名の計14名からあった。総括的な評価がうかがえる「アンケート(1)講演の内容(2)対話の内容」について、どちらとも「とても満足」が11名で、「ある程度満足」が3名であることは、(シニアへの忖度も多少はありましょうが)本対話会に参加した学生諸君にはほぼ100%満足して貰えたと思われる。また、原子力発電については、「原子力発電の必要性を強く認識した」が10名、「原子力発電の必要性は分かっていた」が3名、「どうすればよいのかわからない」が1名で、原子力発電の必要性はほとんどの学生に理解いただけた。
2)アンケート結果の詳細
対話会のアンケート結果の詳細を添付する。

4.別添資料リスト