日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話会
イン宮城教育大学2021概要報告書

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW東北)世話役 工藤昭雄
中高の理数系教員を志望する2、3年の学生とシニアとの対話をWEB方式で実施した。
対話に先立ち「カーボンニュートラル実現に向けて」と題してシニアから講義形式で説明を行った。対話では「カーボンニュートラル」「原子力発電」「放射性廃棄物処分」の3テーマに分かれて質疑応答ならびに意見交換を実施した。

1.対話会概要

1)教職を目指す学生24名が参加
宮城教育大学は本年度で4回目の対話会であり、WEB方式(google meet)では、2回目の対話会である。
参加者
宮城教育大学福田善之教授
学生は中高理数教職志望中心の2,3年生24名、
シニア7名(小野章昌、阿部勝憲、本田一明、西郷正雄、岸昭正、石塚隆雄、工藤昭雄)
対話会は福田先生の講義時間を利用し、7月20日(基調講演主、90分)、7月27日(対話主、90分)と2回に分けて実施した。
基調講演は、「カーボンニュートラル実現に向けて」をテーマに小野章昌氏が60分実 施し、その後質疑応答を実施した。
対話は学生とシニアを3グループに分け、各グループテーマを(1)「カーボンニュートラル実現に向けて」(2)「原子力発電について」(3)「放射性廃棄物処分について」とした。
7月20日の基調講演終了後、学生からの事前質問を受け付け、シニアからの回答を行い、7月27日の対話会を実施した。
対話会終了後のアンケートでは、講演、対話共満足の回答が多かった。学生達は将来の自分を念頭におき、真剣に対応をしたと感じられた。
福田先生からは、対話会回数を更に増やしたいとの提案を頂いており、前向きに対応していきたい。
2)日時
2021年7月20日 16:20~17:50(基調講演が主)
2021年7月27日 16:20~17:50(対話が主)

2.講演会概要(7月20日)

テーマ;「カーボンニュートラル実現に向けて」
講演者:小野章昌
講演要旨
  1. (1) 主要国において2050年、CN実現の宣言がなされている。更にわが国では2030年に、CO2排出46%削減(2013年比)と、従来より前倒し目標が掲げられている。
  2. (2) 2009~2019年、世界は再エネを増やす努力をしてきたが、エネルギー消費における化石燃料割合は80%でほとんど変わっていない。
  3. (3) その理由は、エネルギー利用の約80%が熱需要であり、電力消費が20%程度であることに起因している。
  4. (4) CN実現の為に、太陽光、風力等再エネ利用の期待が大きいが、日本は中緯度モンスーン地帯で太陽光の適地とは言えず、風力についても北欧に比べ平均風速が小さく適地とは言えない。
  5. (5) 太陽光エネルギーで日本の熱需要を賄うためには本州の!/3が必要で、風力で賄うとすると日本海(EEZ)全域が必要との試算もある。(英、LUCID CATALYST)
  6. (6) 太陽光、風力は変動電源で、安定供給の為には、バックアップ電源(火力、水力、原子力)が必要になる。
  7. (7) 太陽光、風力は稼働率が低い(各々~13%、20%)ので、既存電源の各々6倍、4倍の設備容量が必要になる。
  8. (8) ドイツの例
    2019年、発電設備容量は、再エネ増のため、最大需要の2.8倍になった。
    再エネ優先買い取りにより、安定電源の収支が悪化し、電力会社は発電から撤退する動きがある。家庭用電力価格は世界最高レベルになった。
  9. (9) 日本も再エネ付加金は2020年、2.7兆円に達した。又風力の利用拡大には北海道―関東始め他地域連系の為の送電線増強が必要で、これに3.8~4.8兆円掛かると見積もられている。
  10. (10) CO2削減に成功しているのは、スェーデン(水力、原子力)フランス(原子力)位である。
  11. (11) バックアップ電源に蓄電池の利用する考えも、短時間変動の吸収は可能でも、長期間変動(季節変動等)吸収に利用しようとすると、天文学的な費用がかかる。
  12. (12) グリーン水素の利用も、エネルギー効率が低く、コストも高い。
  13. (13) CCSは最後の手段かも知れないが、CO2の吸収、圧入には大量のエネルギーが必要である。又我が国では安全なCO2圧入埋設場所の見通しもない。
  14. (14) 政府のグリーン成長戦略では、(1)再生可能エネルギー最優先の原則で行く、(2)原子力は可能な限り依存度を減らしつつ、安全優先で原発再稼働を進める、となっていますが、これでエネルギーの安定供給と、CO2削減が出来ると思いますか?
講演後、地熱利用をもっとふやせないのか?CO2、46%減は無理である事が理解出来た等の質問意見等があった。また2009~2019年で、化石燃料の利用割合が変わらい理由をより詳細に説明して欲しいとの要望がだされ、講演者が回答した。

3.対話結果(7月27日)

第1グループ(工藤昭雄)

  1. 1) 第1グループは、学生が理数教職志望の2年生が8人、シニアは小野章昌、工藤昭雄の2名で、ファシリテーターは工藤が務めた。
  2. 2)7/20の基調講演の残り時間で、お互いの自己紹介を済ませたので、7/27は最初から対話に入れた。
  3. 2) 対話テーマは「カーボンニュートラル実現に向けて」で、7/20の基調講演(講演/小野章昌)と同じであったので、学生にはやりやすかったと思われる。
  4. 3) 対話の進め方は、学生の事前質問に対する回答のポイントのみを工藤が行い、小野が補足する形で行った。また追加の質問を促し、対応した。
  5. 4) 半数の学生から(1)安定再エネである水力をもっと増やせないのか?(2)森林によるCO2吸収をもっと期待できないのか?等の質問、CCSのような人工的なCO2除去に対する期待が示された。
    これに対しシニアからは「水力はほとんど開発され尽くしている事、森林の吸収はわが国の全CO2排出量の~3%程度で植林等による増加は難しいこと、CCSは技術的、エネルギー収支的、経済的に高いハードルがあり、まだ現実的な検討が出来る段階でないこと」を説明した。
  6. 5) 複数の学生からカーボンニュートラル実現には、先進国が率先し、見本を見せる事、太陽光、風力発電の適地のある国と協力し、成果を分かち合う等が必要ではないか?との意見がだされた。
    これに対しシニアからは「現実的な提案と思う。このような検討が既に行われている。」と回答した。
  7. 6) 又再生エネルギーは非力で、原子力に頼らざるをえないのではないか?再エネも更なる効率向上を図るべきではないか?等の意見が出された。
  8. 7)これに対しシニアからは「太陽光、風力等の変動再エネはバックアップ電源とバランスを取って増やすべきであり、安定的なCO2非排出電源である原子力をより増やすべきである。」と説明した。
    「効率向上については、単機容量の増大(風力)、低緯度、低降雨の適地の積極的活用(太陽光)の方向に向かっている」と説明した。
  9. 7) 現状のCO2 削減策には非常に問題があるとの認識は共有出来たと思うが、我が国にとって、より現実的なカーボンニュートラル実現策はどうあるべきか?について十分議論出来なかったことが、反省事項として残る。

第2グループ(阿部勝憲)

  1. 1) 参加学生8名:教職課程の3年生2名と2年生6名、内訳は初等家庭科1名、初等音楽1名、中等理科3名、初等理科3名、(内女子5名)
  2. 2) 参加シニア3名:石塚、本田、阿部(文責)
  3. 3) 対話テーマ:原子力発電について
  4. 4)内容:石塚シニアがファシリテーター役となり自己紹介からはじめた。 事前準備として、原子力発電に関連する基礎資料を学生諸君に渡して各自の質問を出してもらい、それに対してシニアが分担して回答を作成した。本田シニアが19ケの質問内容をカテゴリー分けして表を作成し、参加者が事前に共有した。①必要性3Eが10問、②安全性Sが8問、③社会理解が1問で、必要性10問の内訳は安定供給5、経済性1、環境適合性4であった。初めにこのカテゴリー表に目を通してから対話に入り、方針として各自の質問項目に関連し残る疑問やさらに確かめたいことを発言してやり取りすることで、順番に進めた。
  5. ① 必要性に関連して:
    国ごとで原子力への取り組みが異なるのは?
    それぞれの国の置かれた状況が異なり、例えばEUでは電力網があり域内で補足し合うなど、島国の日本はそのまま真似できない。
    再処理や廃棄物を考えると原子力はコスト高では?
    原子力発電所は一基でも膨大な発電量であり、数十基の発電所からの燃料の再処理や廃棄物対策を一つのサイトで対応できるのでこれらの費用を含めても発電量当たりのコストは比較的低い。
    化石燃料には温暖化だけでなく酸性雨の問題も?
    硫黄酸化物などの微粒子によるもので要注意。ただし日本の火力は対策が進んでおり、海外では石炭火力の割合が高いので日本の技術の海外貢献が大事。
  6. ② 安全性に関連して:
    事故後の生態調査資料は目にするが事故前の資料は?
    各発電所では運転開始前から必要なモニタリング調査を行っている。再処理施設では稼働前の海陸などの生態調査を長期にわたり行っている。
    高速炉開発は原型炉もんじゅ廃止でどうなる?
    高速炉はロシアや中国などで進められている。日本では実験炉常陽の実績があり運転再開し仏などとの国際協力も含め開発を続ける方針。
    東北地方の原子力施設について?
    身近なところで女川の発電所があり、東日本大震災の震源に近いにも拘わらず原子力事故にならなかった。2号機は安全審査に合格し地元の了解もとれており残りの安全対策工事が完了すると再稼働できる。
  7. ③ 社会理解に関連して:
    社会の理解にはメディアの影響が大きいが、エネルギー政策の報道は新聞社により異なるので複数の新聞を読み判断すること重要。
    立地地域では事業者の丁寧な説明,見学機会や地元出身の社員からの情報などにより都会に比べて原子力への理解がある。問題は電気の消費地の都市部での理解を広げること。なにかアイディアがあれば聞きたい。
    女川発電所では東日本大震災の地震に耐えて、地元住民の避難者300人ほどを受け入れ、国際的にもIAEAから高く評価された。このような情報には接していないということで、これからも関心を持ってほしいと願う。
  8. 5)感想
    全体として、原子力発電の技術的基礎や安定電源としての特徴について資料を読んでから質問を出してもらったので、質問は多岐にわたった。これらの質問をカテゴリー分けしてから対話に入ったので、対話での質疑のポイントを整理し理解するのに役立ったと思う。社会でのコミュニケーションや女川再稼働についてもっと話し合いたかったが時間となった。
    第2グループの学生報告は良く整理し以下のように要点を捉えており感心した:
    原子力発電について必要性、安全性、理解の課題を考えて対話したこと。
    必要性では安定性、コスト、環境影響の点から、安全性では事故後の規準見直しなど、理解については一般の人の理解が最大の問題であることなど対話した。
    女川の再稼働については関心持ちたいこと。
    福田先生から避難計画についてはとの質問あったが、今回はそこまでふれられなかった。
    まとめとして、原子力発電についての資料の準備や質のやり取りを丁寧に行ったのでリモートの制約の中で学生諸君には課題に熱心に取り組んでもらったと思います。これからもエネルギー問題を考える上で原子力発電の役割や地元の状況に関心を持ってほしいと願います。福田先生には資料のやり取りやオンライン予行など非常にお世話になりました。

第3グループ(西郷正雄)

対話会の最初にシニア両名{西郷正雄、岸昭正}の紹介を行い、続いて、8名の学生が順番に自己紹介を含めて、質問を順次行うことで進めた。
既に、学生からの質問とシニアからの回答が配信されているが、それを再度、質問して皆さんにシニアからの回答を聞いてもらったり、あるいは、新しい質問をしてもらい、それにシニアが答えることで対話が進んだ。
各学生からの質問は、ほとんど既に行われ質問の繰り返しであったが、学生への回答を行うことで、本人だけでなく他学生も理解ができたと考えられる。
しかし、シニアの回答に対して、他の学生からの割り込んだ質問が出なかった。
一応、学生全員の質問と回答で時間が費やされ、余った時間は10分程度となった。その余った時間で、任意の3名ほどに新たな質問をしてもらって、所定の時間を過ごすこととなった。
なお、質問の内容は、大体、次のようなものです。
・高レベル放射性廃棄物の処分の幾つかの方法と深地層処分を選択した理由について
・処分地として、内陸部でなく、沿岸部を選ぶ理由について
・処分地について自治体が応募する理由について、またメリットは
・処分地に持っていくまでの管理は
・高レベル放射性廃棄物を処分場に埋めてから、安全であると考えられるまでには、どの程度の期間がかかるのか
・デブリの処分、再利用などの取り扱いについて
・風評被害について
対話時間が、1時間なので、皆が和気あいあいと意見交換するのには、足りない状況だったと思う。後30分あれば、シニアからも問題提起ができるので、自由闊達な意見交換が出たのではないかと考える。

4 参加シニア感想

報告書を参照下さい

5.アンケート集約結果

報告書を参照下さい

6.別添資料

(報告書作成:2022年2月15日)