日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話in福井工業大学2021

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)矢野隆
福井工業大学福井キャンパス

今年度の対話会は、年が明けた1月8日(土)午後、昨年度と同様にオンライン開催された。講演は、「世界の原子力発電の最新状況について」のテーマで、カーボンニュートラル(CN)に向かう世界的潮流のなか、日本の取るべきエネルギー環境政策について講話がなされた。続くグループ対話は5グループに分かれ、①原子力発電をベースにした日本の将来のあるべき電源構成、②福島原発などの廃止措置、③放射線によるがん治療、④SMR等の小型炉の特徴、⑤高レベル放射性廃棄物の地層処分といった最近のホットな話題をテーマにした対話が行なわれた。

1.対話会の概要

1)5つの興味深いテーマの対話会
今年度の福井工業大学との対話会は、新年の1月8日(土)午後に開催された。方法は昨年度と同様にMSTeamsを用いたオンライン開催であった。
講演は、エネルギー問題に発言する会代表幹事の針山シニアより、「世界の原子力発電の最新状況について」のテーマで、カーボンニュートラル(CN)に向かう世界的な潮流のなかで、日本のエネルギー環境政策に関する要件について講話がなされた。
次に、学生とシニアが5グループに分かれ、次の5つのテーマについて、対話を行った。
テーマ1:日本の電源構成(2030年、2050年将来の電源構成)
テーマ2:廃止措置(通常原子炉および事故炉)
テーマ3:放射線によるがん治療
テーマ4:SMRの特徴と国内外の開発現状
テーマ5:高レベル放射性廃棄物の地層処分
対話5グループのうち4グループは、学生が務めるファシリテータの司会・進行に従って質疑応答を行い、残り1グループは、幸シニアの指導の下に実施される『みゆカフェ』方式での対話を行った。詳細は(5)グループ5の対話概要を参照のこと。
2)日 時
2022年1月8日(土)13:00~17:20講演およびグループ対話の実施
3)場 所
MSTeamsによるオンライン開催
4)参加者
学 生:26名(原子力技術応用工学科)
シニア:11名 金氏顯、川西康平、佐藤忠道、中村進、岩瀬敏彦、石塚隆雄、針山日出夫、幸浩子、宮川俊晴、中村威、矢野隆
5)対話会スケジュール
13:00-13:10 開会挨拶(砂川教授)
13:10-13:20 参加シニアの自己紹介
13:20-14:00 講演「世界の原子力発電の最新状況について」
14:10-16:00 対話(5グループに分かれ、各学生とシニアのグループ対話)
16:00-16:50 学生グループ発表および質疑応答
16:50-17:05 全体講評(中村威)
17:05-17:20 閉会挨拶(金氏顯)
6)講演
講演者名:針山 日出夫
講演題目:世界の原子力発電の最新状況について
講演概要:カーボンニュートラル(CN)に向かう世界的な潮流のなかで日本 のエネルギー環境政策はポピュリズムの海の中で漂流していること、世界の主 要国は脱炭素政策の要に原子力への傾注が見られること、エネルギーネットワ ークのない資源小国日本は、社会的受容性を改善して原子力新設に舵を切り、原 子力と再エネの活用を目指すこと、などの講話があった。

2.グループ対話

(1)グループ1(報告者:川西康平)

1)参加者
参加学生は、4年生1人(ファシリテータ)、3年生1人、1年生2人 計4名。
シニアは、金氏 顯、川西 康平 計2名。
2)主な対話内容
グループ1の対話テーマ:「日本の電源構成(2030年、2050年将来の電源構成)」
事前学習資料を金氏シニアより簡単に説明したのち、意見交換した。主として2050年の電源構成について意見交換し、原子力発電が必要になるということが理解されたと思う。ただ、国民の原子力発電に対するアレルギーが大きく、これを解決することが大きな課題であると問題提起され、これについて意見交換したが、メディアに訴えることくらいのことしか解決策として浮かばず、難しい課題であるという共通認識に終わった。発表会では、一人で発表するのではなく、全員が発表するという形式をとったのはよかった。質問として、原子力アレルギー解決策と小型核融合についてあった。

(2)グループ2(報告者:中村進)

1)参加者
参加学生は、3年生2名、2年生2名 計4名。シニアは、佐藤忠道、中村進 計2名。
2)主な対話内容
グループ2の対話テーマ:「廃止措置(通常原子炉と事故炉)」
質疑、対話の主な内容を以下に記す。
  1. ①デコミ期間が長引いているのを短縮できないか? ⇒ 最速の米国でも最低10年程度はかかっているので、我が国では、30年は目安であり、規制等の外圧がないと短縮は困難ではないか。
  2. ②汚染水の処理問題について、100 年程度かかるのではないかと、高校の先生からは聞いたが。
  3. ③デコミに係る産業の形態は現状あまり明確ではないが、既存の企業が将来のデコミを先導する立場にあるのではないか。どの程度具体的な取り組みに至るのかはっきりしないと、現状も進まないのでは。
  4. ④福井県内の電力事業者、JAEAなどの機構等の原子力の多方面の課題には、今後廃止措置を含めて係われるのではないか。
  5. ⑤交付金はいくらもらえるのか? ⇒ 運転中とかPuの取り扱いについてはあるが、デコミでは特にない。
  6. ⑥嶺南Eコースト計画のようなものが、今後の福井県の事業の目玉になるのではないか?

(3)グループ3(報告者:矢野隆)

1)参加者
参加学生は、4年生(ファシリテータ)、3年生、2年生、1年生各1名 計4名。シニアは、岩瀬敏彦、矢野隆 計2名。
2)主な対話内容
グループ3の対話テーマ:「放射線によるがん治療」
事前学習資料と、その関連資料をもとに、岩瀬シニアより簡単な説明を加え、その後質疑応答を行った。質疑、対話の主な内容を、以下に記す。
  1. ①治療用の原子炉についての詳細について  ⇒ 研究用原子炉を使用し、脳腫瘍細胞に中性子を照射し治療効果(ホウ素中性子捕獲核反応→α線発生→がん細胞に到達し死滅)を達成する。
  2. ②がんの種類や進行度別の10年生存率について  ⇒ 事前学習資料中の「がんの種類・進行度別 10年生存率表」をもとに大まかに回答した。
  3. ③心臓にがんができない理由は何か?  ⇒ そういった情報は持ち合わせていないが、著名な先生の著書に「脳の神経細胞自体は分裂しないのでがんにならない」と記載されており、心臓にがんができないことも、細胞分裂の有無が関係しているかも知れない。
  4. ④がんに対処する最良の方法は?  ⇒ 言葉で言うと、早期発見、免疫力を向上させる健康的な生活、正しい食生活につきる。
   

(4)グループ4(報告者:針山日出夫)

1)参加者
参加学生は、3年生(ファシリテータ)、2年生、1年生各1名 計3名。シニアは、石塚隆雄、針山日出夫 計2名。
2)主な対話内容
グループ4の対話テーマ:「SMRの特徴と国内外の開発の現状」
主な質問は以下。
小型炉の定義
小型炉のシステム構成、設計概念、一体型の概念
小型炉の市場成長の可能性
日本での小型炉の必要性と実現可能性
小型炉の世界での市場成立要件および今後の可能性
安全性・物量削減・コスト削減・許認可制の現状について

(5)グループ5(報告者:宮川俊晴)

1)参加者など
参加学生は、3年生1名、1年生10名 計11名。シニアは、幸浩子、宮川俊晴計2名。時間配分は、講義20分、『みゆカフェ』対話(学生とシニア(講師陣)との対話)1時間30分、グループ内のまとめと発表5分である。
2)主な対話内容
グループ5の対話テーマ:「高レベル放射性廃棄物の地層処分」
幸シニアより原子力発電と高レベル廃棄物の処分についての簡単な説明があった後、次の3つのサブテーマで『みゆカフェ』対話を行った。
サブテーマ1「対策 国民の理解を得るために」
サブテーマ2「東日本大震災の原発の処理水の海洋放出について」
サブテーマ3「地層処分事業の作業リスク
『みゆカフェ』対話では、1つのサブテーマごとに意見の書き込みシートが作られ、3つのサブテーマに所定の時間ごとに自分の意見を書き込んで、3つのサブテーマをローテーションし、全員が意見を書き出す作業が行われた。この方式は発話ではなく、無言で記入するので、同時に3つのサブテーマの意見交換ができるマルチコミュニケーション方法である。また、記述式なので、記録として整理しやすいが、一方で記述の表現力を問われる方式である。
最後に3つのテーマの出された意見を集約し、発表のポイントを整理した。また、総括発表者は3年生、3件のテーマは1年生が分担して発表を実施した。発表内容は以下の通りである。
サブテーマ1(対策 国民の理解を得るために)
CMや新聞など多くの人が見たり聞いたりするものを使用すること、ラジオやCG映像で今の日本の現状を知ってもらうこと、学校へ日本の原子力とエネルギー問題について出前授業をすることなど
サブテーマ2(東日本大震災の原発の処理水の海洋放出について)
処理水がもたらす人体への健康影響、風評など漁業への経済影響、観光不況など産業影響を考えること、福島産であることの風評被害の対策や処理水の安 全性を証明し理解してもらうために放射線への基礎理解が必要なこと、外国では行われていることなのに日本が問題になるのはなぜかなど
サブテーマ3(地層処分事業の作業リスク)
土地管理の徹底と地震対策の強化、地下にある溶岩や地下水の把握、作業員の負担のケアと事故が発生した場合の対処と救助方法の設定、地域住民への正 しい説明、文献調査だけでなく掘削調査までじっくり行う、何万年も破壊されない岩盤の中に処分するため地震が発生しても廃棄物が地表に漏れる可能性は低いことなど。

3.全体講評(中村威)

福井工大野村先生のご指導の下、多くの学生さんの参加、また講師の方たちの資料の作成、講演等により、対話会がスムースに進行したことに感謝します。
テーマが、最近の地球温暖化の問題における原子力エネルギーの位置づけ、放射線、原子炉の医療分野での利用、高レベル放射性廃棄物の地中処分、廃炉問題など広範な問題提起であり、私自身も初めての内容もあり、興味を持って議論の進むのを見ておりました。
とくに我が国では、2011年の東電福島事故の放射性物質の拡散、地域住民の避難などといったことなどから原子力発電に対する意識、感情は、10年たった今でもよくなったとは思われません。しかしながらその中でも、廃炉作業、トリチウム水の海洋放出計画などは、着実に進められております。そのような活動を通して、原子力に対する信頼を着実に取り戻すことが今求められていると考えます。
一方、地球規模ではその温暖化という人類の存亡に関わる、未経験の事態に直面している現在、世界では2050CNというスローガンのもと、各国ではそれぞれがその対策を講じようとその取り組みを始めつつあります。
そのような中、資源の無い、また安定した再生可能エネルギーを期待できない我が国では、温暖化ガスの炭酸ガスを排出しない原子力エネルギーの利用拡大が解決策になると考えられます。原子力エネルギーの確保のために、現在の原子力発電に加えて、新たに、小型の原子炉や、高速炉が提案されるなども行われておりますが、まだまだ課題は多く、今すぐにはということになり得ません。
原子力発電の利用拡大については、50年近い歴史があるとはいえ、その中で福島事故を目の当たりにし、記憶の片隅に残っている多くの人たちにとっては、安全性に疑問を有し、信頼できないというのは、当然の感情だと考えられます。その問題の一朝一夕の解決は容易ではないが、本日の対話会、これからの学業を通じて、一人でも多く理解者を増やすようにしていただきたい。
1年生の学生さんにとっては、初めて聞く内容も多かったことだろうと思いますが、それだけ課題も多く、それらを学び、深めていくことは、これからの時代の担い手としての避けて通れない問題です。2050年にも美しい地球であり続ける為に、本日の対話会が少しでも役に立てれば幸いです。

4.閉会挨拶(金氏顯)

原子力建設がピークを過ぎたあたりから大学における原子力工学の人気は徐々に下火になり、特に福島第一事故以降は全国の大学で「原子力」の名前を冠した学科が無くなっていって、現在は福井工業大学の原子力技術応用工学科、唯一つです。原子力の重要性をしっかり認識して人材育成教育を継続している先生方とそして在校生の皆さんにまず敬意を表したいと思います。
私は現役時代に関電、原電の原子力発電の仕事をしていたので特に嶺南には30年間通い、OBになってからは福井工大に対話会などで何度も訪問し、中安先生や来馬先生にはお世話になりました。このSNW対話会を長年継続して開催していただいていることは、原子力の技術と経験の次世代への伝承をミッションとする原子力学会SNWにとって大変ありがたく感謝する次第です。
今日は正月明け早々の土曜日の半日を、まず2050年カーボンニュートラルに向けた世界のエネルギー政策や原子力開発動向を基調講演として聞いた後、5つのグループに分かれて、原子力を巡る重要な各テーマについて、シニアと質疑応答、意見交換など双方向対話を行いました。各グループの発表からは、学生は各テーマの課題を良く把握し対策についても考えを述べてくれました。4年生は今年春には卒業し地元の原子力関係に就職するだけあってしっかりした意見を述べていました。1年生も見習ってください。オンラインだったので十分な対話には支障がありました。来年はぜひ対面で開催したいと思います。
福井県は青森県と並んで多くの原子力施設がある原子力と共存共栄の県です。多くの先輩に続いて、原子力県を支えるしっかりした技術者になっていただくことをおおいに期待しています。

5.学生アンケートの集計結果(矢野隆)

1)まとめと感想
原子力工学専門の学生との対話会であり、アンケート結果からも、今後も原子力発電が必要であることや放射線・放射能に対する理解度がずば抜けて高いことが分かる。一方、対話会の内容、得られた成果、今後の必要性などについては、必ずしも満点の評価は得られていない。
今後の学生とシニアの対話の進め方としては、単なる知識の伝達ではなく、事前に決めたテーマを従い、シニアと意見をたたかわせる討論会形式が良いのではと考える。
2)アンケート結果の詳細
対話会のアンケート結果の詳細を参照して下さい。

6.別添資料リスト

(報告書作成:2022年2月1日)