日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話
in三重大学2020(WEB対話形式)

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)
若杉和彦
伊勢湾を望む三重大学キャンパス(写真は三重大学ご提供(2021/1/29)

コロナ禍中にある現在、再生可能エネルギーと原子力発電が日本のエネルギー問題や地球温暖化対策のためにどのように寄与するか、課題は何かについて講演を行い、教育学部学生達と対話会を開催した。学生達は対話の必要性を強く認識し、将来子供たちに教えるための心構えや感想を積極的に発言した。(世話役:SNW 若杉和彦)

1. 対話会の概要

1) 教職を目指す学生8名が参加
三重大学では昨年に引き続き2回目の対話会であり、教育学部2~4年生を対象に初めてリモート形式で10月15日に基調講演、その内容を中心に翌週22日に対話会を実施した。
大学側は松岡守教育学部教授とその受講生8名、シニア側は4名とオブザーバ1名、合計14名が参加した。
基調講演は、「コロナ禍でエネルギーについて考える」と「地球温暖化対策としての再生可能エネルギーと原子力の役割」をテーマにそれぞれ約50分実施。
対話は、学生とシニアを2グループに分け、講演内容を中心にQ&A行い、各グループから学生が対話内容を発表し締めくくった(約1時間半)。
対話後の学生の事後アンケートでは、講演・対話共に大多数が満足し、対話の必要性を認め、“もっと知識を増やしてから再度参加したい”と答えた。特に、それらの意見の背景や将来子供に教えるための心構え等様々な記述があった。
2) 日 時:
2020年10月15日(木)18:00~20:00 講演1及び講演2
2020年10月22日(木)18:00~20:00 対話会(2グループに分かれて対話)
3) 場 所
三重大学Zoom講義システム内の仮想講義室
シニア、学生とも自宅、職場などからインターネットで仮想講義室に接続した。
4) 参加者
2020年10月15日(木)学生9名 シニア4名 松岡守教授 
2020年10月22日(木)学生8名 シニア4名 オブザーバ1名 松岡守教授
学生9名(教育学部):4年生 3名(うち女性2名、3年生 3名(うち女性1名)、2年生 3名(うち女性1名)*対話会時1名欠席
教員1名: 松岡守教授(教育学部 技術・ものづくり教育講座)
シニア5名:大野 崇、早野睦彦、針山日出夫、若杉和彦
オブザーバ:瀧上浩幸(日本電機工業会)
5) 講演会
講演1:「コロナ禍でエネルギーについて考える」(針山日出夫)
講演2:「地球温暖化対策としての再生可能エネルギーと原子力の役割」(大野崇)
講演会閉会挨拶:松岡守教授

2. 講演会概要

(1) 講演1:「コロナ禍でエネルギーについて考える」(針山日出夫)

エネルギー問題・地球温暖化問題を考えることは、世界の政治・経済・技術開発の動向を俯瞰しつつ激しく変化する国際情勢の中で「島国/資源小国」である我が国の将来を考えることである。又、新型コロナの来週で生活様式や生産活動・社会活動(スポーツ、文化、教育を含む)が大きく変化し、デジタル技術やエネルギーの使い方なども「劇的な変化」の契機になることが考えられる。一方、2011年3月の東電・福島第一原子力発電所の炉心溶融事故が日本社会に齎したものは、「原子力不信構造の定着」と「エネルギー・環境政策の漂流」であろう。その結果、国民の約半数は『新規制基準に基づく安全審査に合格しても原発再稼働NO』である。しかし、海外ではエネルギー需要は依然として強く安定・安価・安全なエネルギーの獲得に向けた動きは加速し、その中で原子力は一定の役割を担うべく多くの国で期待されている。

今、世界はエネルギー/環境政策の大きな変換期にある。2016年11月に「パリ協定」が発効し2020年より各国の本格的な取り組みが展開する。地球温暖化対策は「投入費用対実効果」などの不確定要素が多く、各国の自己犠牲も求められるなど極めて難路であるが、コロナが推進要素となる公算も考えられる。今回の講演では、内外の状況を俯瞰しつつこれからの我が国のエネルギー供給構造の在り方について最新の情報を織り交ぜ、下記が概説された。

  1. ①エネルギーの問題はどれほどの問題か~国の重要政策課題の観点から
  2. ②エネルギーの安定供給の問題で我が国は何を最優先課題としているか
  3. ③世界のエネルギー事情と我が国の状況を考察する
  4. ④纏め:これからの我が国のエネルギー選択の論点

(2) 講演2:「地球温暖化対策としての再生可能エネルギーと原子力の役割」(大野崇)

世界の平均気温は産業革命以降増加をしており、その上昇傾向は年々大きくなっている。連動して温室効果ガス濃度も増加の一途をたどっていることから、産業革命以降の人類のエネルギー消費増大がその原因として、このままでは環境激変による人類の生存に係ることから、産業革命時から2℃以内に気温上昇を抑えるべく各国が炭酸ガスの排出量を削減する努力を行うことが国連で採択された。いわゆる、地球温暖化問題である。今回の講演では、地球温暖化の状況を俯瞰しつつ、我が国の温暖化対策に最も有効な再生可能エネルギー原子力について、最新の情報を織り交ぜ、下記が概説された。

  1. ①地球温暖化問題とは
  2. ②温室効果ガスが寄与
  3. ③地球温暖化防止対策推進のための国際連携の枠組みは
  4. ④温室効果ガスを削減するには
  5. ⑤再生可能エネルギーと原子力が鍵

3. 対話会(10月22日)

A,Bの2グループに分かれて対話を行った。自己紹介、学生のとりまとめ者、発表者の確認を行った後、講演内容に関するQ&Aを中心に対話を行った。

(1) グループA

1) 参加者(敬称略)
学生:教育学部4年1名、学部3年1名、学部2年2名 計4名(男子3名、女子1名)
シニア:早野睦彦、針山日出夫
オブザーバ:瀧上浩幸
2) 対話概要
ファシリテータは学生が担当し、各自自己紹介とともに先週開催された講演について質問・感想や思うことについて述べ、その中から対話テーマの方向を決めた。 講演を聞いて、再エネにも課題があることを知る一方、原子力の良くない面だけが先行していたのだがそれが少し改まったとの共通した感想があった。しかし、それはあくまでイメージであり、エネルギーそのものが分かりにくい概念であって将来教師になって子供たちにエネルギー問題についてどのように伝えるべきかよく分からない。講演からは安全性と効率性(経済性)のバランスの問題だと認識したようである。
グループ発表を聞いて概ね正しく理解していたようである。また、約1時間の対話時間であったが、各自考えながら発言しており好感が持てた。(文責 早野)
3) 主な対話内容
事前に「景気が良くなると温室効果ガスの排出量が増えることが分かったが、景気を良くしながら地球温暖化を防ぐことは可能なのか、可能な場合どのような解決方法があるのか」との質問があり、まずこれについて議論した。⇒エネルギーを考える上で環境、経済、安定供給の重要な3つ視点がありどれかを優先するとどれかが犠牲になるので質問はとても難問である。諸君の世代の問題として捉えてほしい旨伝えた。また、エネルギー源も基本となる一次エネルギーは化石エネルギー、再生可能エネルギー、原子力エネルギーの3種類しかなく、良いだけ・悪いだけのエネルギー源はない。それぞれに長所と短所を持ち、上手に組み合わせて使っていく必要があることを説明した。
特に原子力は安全性に関する社会受容性の課題が大きく、安全とリスクについてどのようなイメージを持つか、国家としての安全・リスク、国民としての安全・リスクについて語ってもらった。出てきた言葉は国家としては戦争・テロ、国民としては事故・健康であり、原子力は放射線によるリスクである。いずれも日常感を伴わないものであった。 ⇒四方を海に囲まれた日本は悪く言えば平和ボケであり、地続きで国境のある韓国やドイツとは自ずと緊張感が異なるが、我が国は資源小国との認識が重要である。メディアを鵜呑みにしないで徹底的に情報を精査する重要性を伝えた。
4) グループ発表に参加しての感想
グループ発表を聞いて概ね正しく理解していたようである。また、約1時間の対話時間であったが、各自考えながら発言しており好感が持てた。(文責 早野)

(2) グループB

1) 参加者(敬称略)
学生:教育学部 4年生2名 3年生 2名 (男子2名、女子2名)
シニア 若杉和彦、大野 崇
2) 対話概要
学生及びシニアの自己紹介の後、対話の進行役、対話結果のまとめ役を決め対話に入った。
1週間前の10月15日に実施した2件の基調講演に対する学生からの質問を中心に対話を行った。学生が進行役となり、学生の疑問質問に対し、シニアが答え、またシニアからの逆質問に対し、学生が自分の意見を述べるなど、噛み合った対話が形成された。発言は積極的で明確な問題意識をもって対話会に臨んでおり、その真摯な若者らしい姿勢にあっという間に時間が過ぎた。対話進行も最後の対話結果のまとめ・発表も合格点であり、卒業後は皆教員の道を進むということであり、常に子供たちにどう伝えたらよいかという視点を強く感じた。
3) 主な対話内容
再エネの中で太陽光と水力の割合が高いが、私は将来性のある地熱発電がもっと使われてもよいと思う。(4年女子学生)➡地熱発電は純国産、炭酸ガスの排出が少なく環境にやさしく、日本は地熱資源国なので地熱をもっと使ったらという考えは正しい。現在地熱割合が少ないのは発電規模が小さい、開発場所が国立公園などの規制対象地域にかかるなどの要因が原因であるが、地域電源に適した発電であるので国は規制緩和などで割合を増やそうとしている。
世界全体でメタンの温室効果への寄与は20%もある。軽視できないと思うが対策はとっているのか(4年男子学生)。オランダではメタン、一酸化二窒素への対策をとっていると聞いたが日本ではどうか(3年女子学生)。➡指摘は正しい。メタンの温室効果は二酸化炭素の20倍以上もある。排出が増えるとその影響は軽視できないので、国際的に削減対象となっている。牛や羊のゲップ、ふん、天然ガス・石油掘削から多く排出されるので餌の改良やメタン回収し発電に使用するなどの努力がなされている。海底やツンドラに眠っているメタンハイドレイドもメタンの宝庫であるので注意が必要である。一酸化二窒素は主に家畜の糞が発生源なので同様である。日本では排出量の多い二酸化炭素の削減に注力しており、メタン、一酸化二窒素への取り組みはまだまだである。
4) その他フリーディスカッション
東日本大地震の時は小学生であったが原発を初めて意識した。日本は反原発ムードであるが、世界も同じなのか。南海トラフ地震などを考えると子供たちに原発は大丈夫だという説明ができない。安全確保は大丈夫だろうか(3年男子学生)(シニア➡世界は原発推進が大勢)
エネルギーについて小学生にわかってもらう方法はあるか(3年女子学生)   (シニア➡食品に例えたら。なくなると困る)
福島での事故では避難が行われた。直接死はゼロということであるが避難したから影響がなかったのか、それとも非難しなくても影響はなかったのか(4年女子学生)。(シニア➡発電所の近くの人は影響があるので避難を急ぐ必要であるが、それ以外は屋内退避が考え方)
原発にかかわらず、体に悪いと思ったものには反対するのは自然の考えと思う。反原発もそこから来ているのではないか(3年女子学生)   (文責 大野)

(3) 講評(三重大学の皆様へ伝えたいこと:早野睦彦)

大学で教えていました。そこである学生から「先生、原子力は結局必要悪ではありませんか?」と尋ねられました。「原子力は必要悪!」その通りです。これをさらに敷衍すれば「科学技術は必要悪」になります。

科学技術に良い悪いはありません。これは使う側、人間側の問題です。 科学技術は少なからず光と陰があります。原子力はこのコントラストがきついのです。ただし、これは原子力に限ったことではありません。AIや遺伝子工学など未来技術はすべからくそのようなもので、原子力を特別視してはいけません。

工学は失敗学であり、経験学です。失敗を認めない社会には進歩はありません。また、文明は不可逆です。あったものをなかったことにはできません。

21世紀を生きる諸君らはそのような環境、即ち、これからますます巨大な科学技術を扱わざるを得ない環境、社会に進むことを自覚することです。

人間の飽くなき好奇心が科学技術を発展させてきました。多分この人類の営みが消えることはないでしょう。そして、人類は自ら作った科学技術によって、今までは幾度か壁を破って進んで来ました。どこまでこの不可逆な道が続くのか分かりませんが、人類は永遠ではないでしょう。成長の限界は必ずあると思います。

生きている限りリスクはあります。死んで初めて絶対安全が訪れるのです。原子力にはリスクがあります。原子力を失った場合にもリスクがあります。それを冷静に比較衡量する力量が21世紀に生きる諸君たちに求められています。そしてそのリスクがどの程度のものであるかの認識を共有し、リスクミニマムを求めながらもリスクとともに生きてゆく覚悟を決めてこそ成熟した大人の社会というものでしょう。

21世紀を生き抜くことは大変だと思います。我々の時代は貧しかったが、敗戦から立ち直るという右肩上がりのある意味単純な時代だったのかもしれません。飽和しきったこの日本、今まで守られていた米国の傘も破れ傘になるでしょう。日本は人口減少、財政赤字、技術力低下に悩むことでしょう。2050年にはGDPで世界10位という悲観的シナリオもあります。

日本はこれからも一流国を目指すのか、二流国で甘んじるのか、君たち自身の問題です。サイエンスリテラシー、メディアリテラシーに磨きをかけて決して教条主義に陥ることなく、自分の頭で考えてください。それが我が国に残された道です。

4. アンケート結果のまとめと感想(若杉)

1) まとめと感想
今回は遠隔講演・対話の最初の試みであったが、特に大きな問題はなく意思疎通が できた。
講演・対話ともにほとんど全員が満足し、聞きたいことも聞けたとした。
全員が対話から“新しい知見”を得られたとし、“教育指導の参考”と“マスコミ報道との違い”がそれに続いた。
大多数が対話の必要性を“非常にある”としているが、“再度対話したい”よりも“もっと知識をつけてから”対話の回答が多かった。
放射線、放射能について“一定のレベルまでは恐れる必要ない”と大多数が理解しているが、8名中3名(38%)が“やはり怖い”とした。放射線教育の必要性を強く感じる。
原子力の必要性は学生に良く理解されたと思う。教育系学生から将来子供に教えるための心構えや自覚を強く感じ、好感を覚えた。彼ら、彼女らの活躍を期待したい。 
2) アンケート結果の詳細
アンケート結果の詳細(pdf)はこちらから

5. 別添資料リスト

(報告書作成:2020年11月13日)