日本原子力学会シニアネットワーク連絡会
報告
学生・教員・市民とシニアの対話会

学生とシニアの対話
in関東複数大学2020(WEB対話形式)

日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)
矢野隆

今年度の関東複数大学対話会は、日本原子力学会学生連絡会の主催する「地層処分事業オンライン勉強会」(Web方式)を兼ねており、学生連絡会からのネット募集に応えて、これまでの対面式対話会では難しかった沖縄を含む全国の大学・高専から15名の参加があった。基調講演に続くグループ対話では「地層処分を進めるにはどうするべきか」を共通テーマに、専攻や学年も異なる学生を交えた自由闊達な対話が展開された。初めて地層処分問題について話し合った学生も多く、若い感性が刺激されたようで、アンケート結果に地層処分問題への前向きな意見がみられた。(世話役:SNW矢野隆)

1.対話会の概要

1)オンラインならではの全国の大学・高専から参加
基調講演では、最初に今回の参加者と同年代の20代の若者の学びの風景などを収めたNUMO制作のDVD「今から始めなきゃ!核のゴミ処分 マジ討論~20代の私たちが考えたこと~」が紹介され、次いでSNW制作のスライド「高レベル放射性廃棄物対策」を使って放射性廃棄物の地層処分の現状と今後の見通しの説明があった。
それを受けたグループ対話は、全国から参加した学生15名とシニア6名が3つのグループに分かれて行なわれた。対話テーマは3グループ共通で「地層処分を進めるにはどうするべきか」であったが、実際には身近なテーマを含めて対話が進められた。
Aグループでは、「住民理解を深めるにはどのような方法があるか」、「資金の調達をどうするのか」、といったテーマで対話が行なわれ、地層処分について初めて認識した参加学生も複数いることから、放射線への怖いイメージを払拭するための知識の蓄積や学校教育の充実などが必要、との意見統一があった。一方、無関心層に訴えるためにSNSが有効では、との意見が出されたが、反対意見もあってはっきりとした意見統一には至らなかった。
Bグループでは、「農水産物の風評被害」についての議論が行なわれた。風評被害の対応策について議論し、放射線教育が重要であること、情報リテラシー能力を高めること、情報のソースを確かめることなどが挙げられた。
Cグループでは、「情報発信について」のテーマで議論され、処分場のマイナス面だけでなくプラスの面も伝えること、身近な人から伝えること、などの意見が出された。また、自分の家の近くに処分場ができることになっても賛成するとした学生も複数名いた。
2)日 時
2020年11月28日(土)13:00~17:30
3)場 所 
原子力文化財団のZOOMシステムを利用して遠隔対話を実施。シニアと参加学生は自宅からインターネットで接続。
4)参加者
[学 生]15名(うち女性2名) 東工大(2名)、電気通信大(1名)、東京都市大(1名)、静岡大(3名)、鳥羽商船高専(5名)、富山高専(1名)、福井大(1名)、沖縄高専(1名)
[原子力文化財団]2名、長岡正剛氏、清水敬子氏
[シニア] 6名 坪谷隆夫、石川博久、武田精悦、石井正則、大野崇、矢野隆

2.講演の概要

                   
1)講演テーマ:「放射性廃棄物の地層処分の現状と今後の見通しについて」講師:坪谷隆夫
オンラインで20代の学生中心であることからDVD「今から始めなきゃ!核のゴミ処分 マジ討論~20代の私たちが考えたこと~」(NUMO制作、30分)およびそのDVDを補足するためのスライド「高レベル放射性廃棄物対策」(SNW制作、30分)で構成し、グループ対話の意見交換を盛り上げることを試みた。

3.グループ対話

                   
1)Aグループ 学生5名、シニア2名(坪谷隆夫、矢野隆)
参加学生は原子力、化学、船舶といった専門の違いがあり、かつ、学年層も学部1年(相当)から修士1年まで広がっていたが、代表学生が適切に進行役を務めたことで、円滑な議論が進められた。地層処分を進めるにはどうするべきか、との共通テーマでグループ対話が始まった。このテーマは“身近な問題として捉えるために地層処分事業の円滑推進方法を考える”との学生募集要項に添うものであり、実際の討論は、住民理解を深めるにはどのような方法があるか、資金の調達をどうするのか、といったテーマで進められた。
2)Bグループ 学生5名、シニア2名(石川博久、石井正則)
参加学生は原子力、船舶、情報工学といった専門の違いがあり、かつ、学年層も学部2年(相当)から博士過程2年まで広がっていたが、代表学生が適切に進行役を務めたことで、大変円滑な議論が進められた。
まず、地層処分ということにどのようなイメージを持っているか、との進行役からの問に対して、参加学生より、非常に長い時間の考慮が必要である、他の選択肢がなくやむを得ずこの方法を選択しているのでは、国際的に選択されている方法が日本にも当てはまるのか、人や環境への影響はどの程度なのか、などの発言がなされた。
次に、地層処分について不安な点として、放射性物質が漏れる危険性はどれくらいか、一般事項(例えば日常生活)と比較して地層処分は分からないことが多い、農水産物の風評被害のおそれ、などが述べられた。この中で風評被害について議論を深め、風評被害とは誰が被害を受けるのか、目立つような情報をわざと発信しているのではないか、海外から非難されたりして影響を受ける、フェイクニュースが先に出回る、などの意見が出された。最後に、これらの風評被害への対応策について議論した。
3)Cグループ 学生5名、シニア2名(武田精悦、大野崇)
このグループの学生5名には原子力専攻の学生がおらず、情報工学、総合科学、船舶を専攻する学生であった。学年層も学部1年(相当)から博士2年まで広がっており、また、地層処分についての知識の乏しい学生もいたが、代表学生が適切に進行役を務めたことで、円滑な議論が進められた。
本グループの対話テーマは、「情報発信について」であり、議論の中で、具体的な数字で示すとわかりやすい(被ばく線量など)、(放射線についての)教育が重要、討論ができる場の設定が必要、処分場のマイナス面だけでなくプラスの面も伝えることが重要、身近な人から伝えることが大事、など様々な意見が出された。
また、自分の家の近くに処分場ができることになっても賛成するとした学生も複数名いた。
4)講評
学生連絡会がしっかり準備・運営されており、整然とワークショップは実施されました。
高レベル放射性廃棄物問題を初めて聞いたという学生が複数名おり、これからも初めての人とより学びたい人を念頭に置いて勉強できる機会を継続的に提供する重要性を改めて認識しました。
市民参加、信頼、情報共有、教育など地層処分に関わるフィンランドの状況をビデオで学んだためグループ対話はポイントを絞って実施されたのではないでしょうか。また、原発問題と最終処分問題は切り離して考えるとのフィンランドの若者のメッセージも心に響いたようです。

4.学生アンケート結果のまとめ(矢野隆)

1)基調講演の内容について 
海外事例の動画が自分と同年代の学生視点で作られており、具体的かつわかりやすく良かった。配布資料が充実していた。最初の動画は、よくまとまっていてわかりやすかったので、大学祭などで流したいと感じました。
普段聞くことのできないお話だったのでとても興味深いものでした。特に海外での事例などはテレビやネットでもあまり教えてくれないものだったので、貴重な時間でした。
いままで報道で話題になっているものではあったが、【よくないもの】という印象しかなく詳しくは知らなかったことについてよくわかりました。
2)グループ対話について
いろいろな学校や学科の方のさまざまな放射能に対する意見を十分に聞くことができました。
風評被害など特に社会的な問題についてとても議論ができました。
シニアの方の意見は、物事のとらえ方をはじめとして今後議論する上でとても参考になりました。
オンラインなので対話の際に間の読みづらさが感じられたので、少しやりにくかった。
マスコミ情報と今回の対話会情報に違いがありました。
多様な視点で問題に取り組んでいくためには、複数の意見に目を向ける必要がある。この先の問題に対処する上で世代を超えた対話が重要であると感じます。
学生の目線とは全く違う新たな目線での意見がたくさん聞くことができるのでこのような機会が必要だと思いました。是非機会があればまたお話を聞きたいです。
3)アンケート結果の詳細
アンケート結果の詳細(pdf)はこちらの「本文」報告から

5.別添資料

1)基調講演
スライド「高レベル放射性廃棄物対策」(pdf)(坪谷隆夫)
(報告書作成:2021年1月7日)