この霧箱は、北海道大学大学院 物理工学系専攻 応用原子科学講座 澤村貞史教授にご指導頂き、我々のグループで改良を加えたものです。

(1)用意するもの

・アクリルパイプ(直径9cm、高さ5cm) 1個
 (塩ビでも代用できますが、接着剤は別のものが必要です)
・発泡スチロール板(14cm×14cm×2cm厚) 1枚
・発泡スチロール棒(12cm×2cm×2cm) 4本
・黒いアクリル板(10cm×10cm×2mm厚) 1枚
 (白い飛跡を見やすくするために黒色にしています。紺でも可)
・透明アクリル板(12cm×12cm×2mm厚) 1枚
・スポンジテープ(15mm幅×厚さ5mm×27cm) 1本
 (市販のスキマテープを切って使います)
・色紙(14cm×14cm) 1枚
 (断熱を兼ねたふたです。少し厚い紙か発泡スチロールを使います)
・クッションゴム  1個
 (線源をぶら下げるのに使います。接着できる小さいものが良いです)
・アクリル接着剤
・ビニールテープ(好みの色を用意しましょう)
・注射器(安全のため先端を丸めています)
・プラスチック製スプーン
・スポイト
・エチルアルコール(ビーカーなどの小さい容器に入れたもの)
・はさみ
・両面テープ

マントル(左)。この糸1本から針の線源が2個できます。
針の線源は、クッションゴムを使ってふたの内側にぶら下げます。
・線源試料
 (ランタン用マントルの一部を待針に巻きつけたもの)
 左の写真(右端)にあるようにマントルを広げて巻きつけてやると、より
 多くの飛跡が見えます。また、マントルをサランラップで巻いて、アルコ
 ールで湿らないようにしたものも使えます。
 空気中のほこり(ダスト)には、ラドンの娘核種(Po-218、Pb-214、
 Pb-212、Bi-214、Bi-212など)が含まれますのでダストサンプラー
 (専用機)、掃除機、黒板消しクリーナーなどで30分以上吸い込んで、
 ろ紙上に集めたもの(サランラップでくるむ)もサンプルとして使えます。
 この方が、空気中に放射性物質が存在していることを確認してもらう
 には、良いかも知れません。

*ここで使用している待針は、クロバー株式会社の「パール待針32-003」
 で、長さ47mm、マントルの糸の部分が、霧箱の底に触れないぎりぎりの
 高さにしています。

・ドライアイス(約200g)
 固まりのドライアイスを鉄製乳鉢や金づちを使って細かい粉末にします。
 家庭用の氷かき機で削ると能率的に粉末にできます。
 ドライアイスは、マイナス78.5℃です。直接触らないように注意しましょう。
・金づち、鉄製の鉢、またはカキ氷機
・軍手(ドライアイスを触る際に使用)
・懐中電灯(あれば便利)
・化学繊維の布(あれば便利)

線源の拡大

*マントルには、放射線を出すもの(トリウムを含むもの)とそうでないものがありますので、事前に確認しておく必要があります。
 なお、「マントルの放射能」、「マントルからの放射線」は、トリウム-232によるもので、半減期が140億年と長いため、減ることはありません。

(2)霧箱の作り方

@スポンジテープの巻きつけ

アクリルパイプの内側に、スポンジテープを貼り付けます。

¶ ふちからはみ出さないようにしましょう!
 (テープが少し短くて余白ができてもかまいません)

 しっかり押さえて、接着面にスキマができないようにしよう!
Aアクリル板の接着
黒いアクリル板の中央にアクリルパイプを置いて、スキマに注射器を使ってアクリル接着剤を流し込んで固定します。

 ぐるりと一周、まんべんなく流し込もう!

 この接着剤は、アクリルどうしにしかくっつかないので、手についてもだいじょうぶ。

 外側からだけでなく、写真のように内側からも注入すると、すきまがなくきれいに仕上がります。
Bドライアイス容器の組み立て
発泡スチロール板の上に、発泡スチロール棒4本を両面テープで貼りあわせて箱を作ります。これがドライアイス容器となります。

 上で使った黒いアクリル板がスムーズに入るようにしよう!

C断熱容器の補強 ビニールテープを使って発泡スチロールのつなぎ目を固定しましょう。

 ちょうど中央のところをぐるっと一周巻いてやります。好きな色を使ってください。
D容器カバーの作製
正方形の紙の中心に描かれている大きな円の部分をはさみで切り抜きます。

 どうすればうまく切り抜くことができるか考えてみましょう。

 切り抜けたら容器にかぶせてください。うまく通るでしょうか?
Eドライアイスを入れる
細かく砕いたドライアイスを発泡スチロールの箱に入れて、プラスチック製スプーンで平らにならします。次に、左の図のように部品を組み立てていきます。

 ドライアイスに直接触らないように注意しましょう。

 アクリル容器を上から強く押さえて、ドライアイスに密着させます。
F線源の取り付けと、アルコール注入 透明アクリル板の中心に、線源(ランタンの芯の一部を針の先に巻きつけたもの)をクッションゴムで貼りつけます。

スポンジテープにスポイトでアルコールをたっぷりしみ込ませます。また、パイプの側面や底面にもアルコールを注いで湿らせます。


 アルコールは、たっぷりとかけてください。底にもまいてください。底にたまるようなら、スポイトで吸い上げてください。
Gいよいよ完成
最後に、透明アクリル板でふたをすると霧箱は完成です。

数分間すると、線源のまわりに、数センチほどの長さのひこうき雲のような白い線(放射線の飛跡)が見え始めます。

 ななめ上から懐中電灯などの光を当てると、見やすくなります。


(3)この霧箱の特徴

 ・身近な材料で作ることができます(かためて購入すると1個あたり1000円ぐらいで準備できます)。
 ・液体窒素、高圧電源が不要なので、家庭でも実験することができます。
   (アクリル樹脂の静電気が高圧電源の代わりになります)
 ・工作する面白さがあり、小学生から高校生、一般の人まで楽しく作ってもらえます。
 ・失敗がなく、必ず飛跡が見えます。


(4)飛跡がうまく見えなかった人へ
  次の原因が考えられます、確かめてみてください。
  @黒いアクリル板と円筒の接着が完全でなく、隙間がありませんか?
    この隙間から空気が入って、容器の底の部分に「過飽和状態」がうまくできていない可能性があります。
  Aスポンジテープがはみ出ていて、ふたが浮き上がっていませんか?
    @と同じく、空気の対流ができて過飽和層ができません。スポンジテープを貼り直すか、ふたを押し下げた
    位置でビニールテープを使って固定してみましょう。
  B霧箱とドライアイスがうまく密着しているでしょうか?
    ドライアイスが平らになっていなかったり、大きな固まりが混じっていると密着が悪く、霧箱の底が均一に
    冷やされません。スプーンで平らにする、固まりを除去する、あるいは霧箱を上から体重をかけて強く押し
    込んでみてください。
  Cアルコールは十分に含ませたでしょうか?
    供給されるアルコール蒸気が不足している可能性があります。スキマテープが完全に濡れるまでたっぷり
    アルコールをかけ、また底にも一面に振りかけて下さい(入れすぎたら傾けてスポイトで吸い上げます)。
  D線源がぬれていないでしょうか?
    今回見ている放射線は、主として「α(アルファ)線」です。「α線は、紙1枚で止まる」と言われるように、
    透過力が弱い止まりやすい放射線で、アルコールでもある程度止まっている可能性があります。一度ふた
    を開けて、線源をティッシュペーパーなどで、ぬぐってみましょう。
  Eドライアイスの量は十分でしょうか?
    いつのまにかなくなっている可能性があります。確認してみてください。
  F線源であるマントルの糸が、接着剤の中に埋もれていませんか?
    Dと同じ理由で放射線が十分に出ていない可能性があります。線源を取り替えてみましょう。
  これでも見えなかった場合は、化学繊維の布でふたを強くこすってみましょう。当日の気温・湿度が高く、ふたが
  水滴ですぐに曇ってしまう場合は、ふたの上面をドライヤーなどで温めてみてください。必ず見えるはずです。
  根気よく観察してみましょう。

(5)家庭で試すには?
  ドライアイスは、町のドライアイス屋さん(タウンページなどで調べてね)で、1kg 350円〜600円ぐらいで買えますが、アイスクリームなどを買った時に余分にもらう方法もあります。これを新聞紙の上に広げて金づちやビール瓶などでたたくと細かい粉末になります。非常に冷たいので、直接素手で握ったり、触ったりしないよう注意してください。大量に実験するときは、カキ氷機を使うと能率的に粉にする事ができます。
  余ったドライアイスで、簡単に楽しい実験もできます。森裕美子さんのホームページ「なるほどの森」に、「ドライアイスで遊ぼう」というコーナーがあります。非常に面白いので、ぜひ参考にして下さい。
  アルコールは、試薬(薬品)のエチルアルコール(95%以上)が手に入らなければ、薬局で販売されている消毒用アルコール(70%程度)で代用できます。

(6)放射能や放射線は大丈夫?
  マントルから出ている放射線は、α(アルファ)線、β(ベータ)線、γ(ガンマ)線です。α線は、空気中では約4cmで止まりますし、紙一枚でも止まる放射線と言われるように、それが身体の外部からの場合には、人体への影響はまずありません。β線(特に今回のトリウムに由来する)も概ね、身体(主として臓器や造血器官、胸腺など)への影響は少ないです。問題は透過力が高いγ線ですが、マントル1パック(3枚入り)を胸に密着したと仮定して肺での実効線量は約0.6μSv/h となります。これは、3.5日間密着し続けて胸のX線検査1回分とほぼ同じになる量です。マントル3枚から針線源が約600本作れますので線源1本あたりの放射線の量は、さらにその約600分の1。トリウムは自然界にいくらでも存在する放射性物質ですし、そのあたりに見られる花崗岩など、石の中に存在している量とほとんど変わりません。


         このページに関するご質問・ご意見は、 渥美まで     (平成13年8月7日作成)

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