日本原子力学会シニアネットワーク連絡会(SNW)

9回シンポジウム

原子力に対する不安とは?−それにどう対処するのか

 

日時:200888日(金)10:0017:10

場所:東京大学武田先端知ビル

主催:日本原子力学会シニアネットワーク連絡会

共催:エネルギー問題に発言する会、エネルギー戦略研究会(EEE会議)

後援:日本原子力技術協会、日本原子力産業協会、日本原子力文化振興財団

 

(敬称略で記載させていただきます)

 

プログラム

開会挨拶

SNW会長 竹内哲夫

1部 原子力に対する国民の不安とは何か?

基調講演1 原子力と日本人の安心観

東洋大学社会学部教授 中村 功

基調講演2 これまでの原子力騒動について〜原子力不安の正体

日本原子力技術者協会最高顧問 石川迪夫

基調講演3 一般国民に原子力を安心して頂くために〜主催・共催シニア3団体の問題認識

SNW代表幹事 金氏顕

第2部      パネル討論 放射線と地震に対する国民の不安にどう対処するか

座長    林 勉 (エネルギー問題に発言する会代表幹事)

パネリスト 碧海酉癸(消費生活アドバイザー、くらしと放射線理解活動)

      新野良子(柏崎市民、原子力立地地元の視点)

      落合兼寛(元日立技術者、耐震設計技術者の視点)

      東嶋和子(ジャーナリスト、メディアの視点から)

      武藤 栄(東京電力常務、事業者として)

閉会挨拶

エネルギー戦略研究会(EEE会議)会長 金子熊夫

司会進行

SNW副会長 荒井利治

 

講演資料(クリックすると参照できます)

1)原子力と日本人の安心観PDF)(東洋大学 中村功)

2)原子力不安の正体―トラブル事例の分析からーPDF)(日本原子力技術者協会最高顧問 石川迪夫)

3)一般国民に原子力を安心して頂くためにPDF)(SNW代表幹事 金氏顕)

4)WENの「くらしと放射縁」プロジェクトからPDF)(WEN会員、消費者生活アドバイザー 碧海酉癸)

5)透明性の評価〜住民の視点から〜PDF)(柏崎刈羽原子力発電所の透明性を確保する地域の会会長 新野良子)

6)地震に関する国民の不安にどう対処するかー設計経験者の視点からの問題提起―PDF)(日本原子力技術協会テクニカルアドバイザー 落合兼寛)

7)柏崎刈羽原子力発電所における新潟県中越沖地震後の取組みと現状PDF)(東京電力(株) 武藤栄)

 

講演と討論の概要

 

開会挨拶

シニアネットワーク会長 竹内哲夫

おはようございます。今日は暑いなかを大勢お集まりいただき、ありがとうございます。

これまでの一連のシンポジウムで、わが国の原子力が停滞状態にあることに関連し、国や自治体、国民、事業関係者、マスコミなどがどうあればよいかといったことを議論してきた。これらの中で、最近感じていることが二つある。一つ目は日本の国民が原子力を好きかどうかが良く判らないことである。二つ目はこの会場には推進派の方々が多い思うが、推進派は思い込みが過ぎないかということである。

ちょうどこの時期は広島、長崎のシーズンである。63年間同じ報道番組をやっており、最近も様々な報道が流れている。その一方、原子力の有効利用に関する報道はほとんどない。63年間「新盆」を続けていると言ってもよい。

教育界では最近やっと放射線が自然界にもあること、エネルギー資源は有限であること、原子力を有効に使えることの3点が、学校の教科書に取り上げられることが決まった。今頃になって驚きではあるが、原子力の認知の兆しともいえる。どういう面で社会的に認知されるかも今日の議論になればと思う。

二日前に横須賀火力を訪問した。45年前にできたものである。中越沖地震で柏崎刈羽原子力発電所が停止しているため、お蔵入りしていたものを再登場させて発電している。売る値段よりはるかに高いコストがかかっている。社内には使える電力がないため、横須賀発電所内は冷房もない中で、従業員が働いていた。まさに紺屋の白袴である。

最近エスカレーターのブレーキがきかず逆走する事故があった。このままでは文明自体が失速し、逆戻りが起きなければよいと願っている。

このような事態を避けるため、原子力がどうかかわるかが重要なテーマである。このためのいろいろな視点を、フロアからの参加も交えて議論してもらいたいと思っている。

長丁場となるが、今日一日、よろしくお願いします。

 

1部(10:0012:00

原子力に対する国民の不安とは何か?

 

基調講演1

原子力と日本人の安心観

東洋大学社会学部教授 中村 功 氏

(講演資料はココPDFをクリックすると参照できます)

200204年の間に行った「日本人の安全観」、及び200507年の間に行った「一般住民と原子力関係者の原子力観(原子力発電に関する意識や感情)の比較」に関する調査の結果ら、原子力と日本人の安心観について紹介する。

専門家と一般人では安心の構造が異なっている。専門家は科学的安全性にもとづく安全認識(客観的に安全)により安心する。これに対し、一般人は安全性への認識が安心とセットになっており、科学的な安全性とはかならずしも一致しない。狂牛病の例に見られるように、客観的に安全であっても、社会的には安全とは云えない。「正確さ」は「正しさ」「適切さが」とは一致しない。

不安を高める要素としては、非日常性やダメージを受けるメカニズムの不明瞭性(不気味で不安)、さらには関係者の対処の悪さ、マスコミの影響などがある。一方、不安を低める要素には危険行為への慣れや代替コストが高いことによるあきらめなどがある。また、科学技術観、関係者への信頼感、怒りと罰の心理、自然志向など、受け手の信念に関する要素もある。

原子力の不安は食の安全や環境問題への不安など、世界観・人生観とセットになっており、リスクとベネフィットの問題であると同時に「生き方」に関わる問題でもある。

安全観の第1層(表層)は事故が起きるとマスコミ報道に揺れ動く不安観があり、第2層には報道によって影響を受けやすい安全をめぐる心理ある。最下層の第3層には報道によっても影響を受けにくい安全に関わる人生観(人間は間違うもであるといった)が横たわっている。ややもすれば表層のみに着目するが、下層は岩盤のようなもので、容易に揺れ動くことがない。

地域別には、発電所のない地域は原子力発電の方向性について「わからない」「なんとなく不安」と答える人が多い。「不安」には具体的な理由にあげられる項目が多いのに対し、「安心」には具体的な項目数が少ない。広報活動は安心感との結びつきが少ないが、立地地域以外では不安を高める原因になっている。原子力関係者に対する不信感によるもの大きく、事業者や政府に対する不信感は不安感との相関が高い。原子力事業者の信頼感は街頭の人々並みである(役人も同様)。これに対し医者や裁判官の信頼度は抜群である。医者が放射線に対し安全と言えば信頼してもらえるのではないか。

人生観との関連では、ロハス志向が高まっているが、エコロジー志向や近代医学より自然治療を重視するスピリチュアリティー志向も、原子力との間に相関がる。

原子力関係者と一般住民の意識の比較では、原子力発電の社会的許容度は、一般住民も現状維持が6割を超えており、多くの人が受入れていると云える。危険認識は原子力関係者にもあるが、不安感では差が大きい。また、ほとんどの関係者は危険を技術により押さえ込んでいると認識しているが、一般住民の認識率は1/3以下であり、発電所の放射線が自然レベル以下であることも一般住民には浸透していない。原子力発電の必要性については一般住民も7割以上が認めており、大半がメリットを感じていると云える。原子力への懐疑は関係者、住民ともあるが、一般住民の方が程度は大きい。関係者は危険性への認識はあっても科学的に管理しており不安感は低いが、住民は原子力の必要は感じていても、危険や不安を感じる人が多く、不安のなかで容認していると云ってよい。

関係者には不安と危険性の認知には強い相関性が見られるが、住民の不安と危険認識の相関は関係者のそれより更に高く、住民の場合は不安と危険認識は一心同体と云える。それにもかかわらず、住民はメリットがあるということから原子力を許容している。この原子力発電の是非に関しては、中越沖地震の前後でも変わっていないが、危険認識や不安感はトラブル後に増加した。

一般住民は事故や災害時のみ報道に接するので、マスコミ報道は不安感情や危険認識を高める。不安をあおる報道に対しては、原子力関係者を悪者扱いにしている報道が多いなど、住民にくらべ関係者の方が厳しく捉えている。風評被害についても関係者は住民より報道を重視している。

マスコミは「大変だ!」というのが本質であり、交通事故死やダムの整備などにより災害死亡が激減したようなことは報道されない。「安全」は「忘却と違うイメージ」の上塗りによる。これにより、「なんとなく安全」という認識が形成されるのが実態であろう。従って安全感の醸成には、例えば温暖化ガス削減などのような違うイメージを植え付けることが効果的であろう。発電所が稼動しているので寒中水泳をしたといった、楽しいイメージであれば、さらによいのではないか。

科学を信じない人々に対し原子力発電所を許容してもらうのは、科学的安全とは別なアピ−ルを考える必要がある。

 

基調講演2

これまでの原子力騒動から〜原子力不安の正体

―トラブル事例の分析から―

日本原子力技術協会最高顧問 石川迪夫氏

(講演資料はココPDFをクリックすると参照できます)

新潟県中越沖地震では、NHKが報道の表紙とした火災映像と、各誌が10日間に亘り書き立てた放射能漏れ記事が、国民のみならず世界中の不安を煽った。イタリアのサッカーチームが来日を中止し、ロシアは日本海の放射能測定を行った。尻馬に乗った新潟県知事の不安表明が、新潟県に出向く海水浴客を激減させた。住民の健康財産を守る役目の知事の不安表明だ。他県民が旅行を取り止めたのは当然の成り行き。中越沖地震で生じた原子力の原子力不安の根源は、無思慮で野放図な報道と、役割を果たさない行政である。

昨年3月の電力の不正調査では、提出前の28日に『私が出すよう指示したのです』と、甘利経産大臣が新聞広告を出すまでの事態になった。毎日毎日五月雨のように報道された原子力の不正報道によって急速に高まった原子力不信が、北陸電力の臨界事故隠しにより頂点に達したからだ。流行のコンプライアンス病に毒されての、不正調査命令がその原因だ。行う必要性があったのであろうか。

今日の原子力不信、不安の根源は、昔のような反対派のインチキな扇動によるものではない。むしろマスコミ報道と行政の姿勢にある。

それに加えて、国民全体に経済的ゆとりができ、安心立命が願える社会状況になったのが今一つの理由。戦国時代とは、農業技術の進歩による経済的ゆとりが招いた社会現象だが、同時に庶民は『欣求浄土、厭離穢土』の安心立命を求めて戦った。現代はこの時代と似ている。注意すべきであろう。戦後の食うや食わずの時代は生きるのに精一杯で、不安など考える暇はなかった。今日の原子力ルネッサンスは、欧米での電力供給不安が安定な電源を求めた結果であり、これまた発するところは同じだ。

安心と安全は全く別物である。好例がBSE牛だ。米国でのBSE牛の発生数は2頭、これに対し日本は20頭近い。どちらがBSEに対し安全か歴然だが、国民は全頭検査があるから国産牛は安心と考えている。韓国ではヒステリックな反対運動、不安とは人や社会の気分、ムードに支配される。BSEの病原体プリオンは目、脳髄、脊髄といった部位以外には存在しない。科学的な安全議論とムードとは全く別物。安全安心などと、一緒くたにすること自体が間違っている。

この好例がJCO事故。事故発生以降の半日間、野中官房長官による退避命令が出るまでは、10キロ圏の人々は外出していた。その人達は、翌朝NHKが臨界が治まったと放送しても、政府から避難解除指示が出るまで、窓を閉め、カーテンを引き、息を殺して家に閉じこもっていた。僕も10キロ圏住民だからつぶさに観察している。庭に洗濯物を干しているのは僕の家だけ。社会の不安を沈静転嫁しうるのは、責任ある行政の長だけなのだ。これがあべこべだから情けない。

研究社の和英辞典を引くと、不安とは、uneasyuncertaininsecureanxietyとある。

uneasyは気分や価値観、個人個人の問題だ。uncertainは社会的な確実性の問題、さしずめ電力会社の信頼問題とみてよいだろう。insecureは安全問題そのもの。我々の原子力発電の安全性は他産業の1000倍以上だ。anxietyの内容はconcerndesire、社会的な問題意識と解決法と見てよかろう。これは国、民族の文化の差によって相違する。日本の解決法は集団の『和』にあり、欧米社会の『神と契約』と大きく相違する、とは井沢元彦氏の指摘するところだ。この『和』が、原子力不安に如何に作用するか、しているか、日本の浮沈も『和』の出方次第という所か。

 

基調講演3

一般国民に原子力を安心して頂くために〜主催・共催3団体シニアの共通認識

SNW代表幹事 金氏顕氏

(講演資料はココPDFをクリックすると参照できます)

主催・共催3団体は、それぞれ国際問題、エネルギー・環境問題全般の勉強会や政府への提言(エネルギー戦略研究会)、立場にとらわれず自由にマスコミ、原子力界や一般へ発言(エネルギー問題に発言する会)、学生との対話、一般市民向けシンポジウム、講演会講師派遣(SNW)を行っている。コアメンバーは共通であり、共通認識のもとに連携して活動している。共通認識には世界の原子力を巡る状況、わが国の失われた10年と原子力ルネッサンスなどがある。

世界を巡る原子力の状況は、エネルギーの安定供給と地球温暖化問題から原子力の強力な推進を世界各国(一部足並みの揃わない国もあるが)が望んでいる。一方、わが国では様々なトラブルでこの10年間原子力が停滞した。世界各国が原子力ルネッサンスを進めているなかで、高レベル廃棄物処分地の取り下げや中越沖地震で運転停止するなど、依然として停滞が続いている。

わが国の原子力推進に関連する問題点としては、第一に計画外停止率の面から世界有数の品質を誇っており、稼働率90%は出せる実力があるにもかかわらず、70%台と停滞していることである。これにより火力代替コスト(約5,500億円/年)、CO2増大(約0.6億トン、わが国の総排出量の5%)、CO2排出権購入費(約1,000億円/年)の追加負担が必要になっている。

問題点の第二はエネルギー安定保障政策の欠如である。シニア3団体は、2050年にCO2排出量の半減しエネルギー自給率を50%とする政策目標を福田総理に提案した。省エネと効率化で25%削減、石油・石炭・天然ガス使用量を半減し、新エネルギーを5倍に、原子力を2.5倍にすることで実現できるものである。

問題点の第三は社会的受容性の欠如である。これには様々な要因があるが、まずは原子力村に閉じこもらず、国民に開かれた透明性の高い原子力界とすることがなにより望まれる。

SNWがこれまでに実施した学生との対話では、学生達の疑問や不安に答え、学生達に対し原子力への大きな期待と社会が求める人材像を示してきた。また、「原子力コミュニケーションのあり方を問うー社会と原子力界の相互信頼」と題して行った第7回シンポジウムでは、メディアの本質を理解したうえで、「技術者が自ら語る」重要性を指摘し、緊急時の適切な報道のために「原子力110番」を提案した。

原子力は社会システムであり、多くの関係者はそれぞれ問題を抱えている。とりわけ一般国民の受容がもっとも重要であり、これらの関係者がそのカギを握っている。これら関係者の双方向のコミュニケーションにおいては、その根底にある不安観を適切に理解する必要がある。今日は一般国民の放射線と耐震性の具体的な不安材料として、どう対処すべきか、この辺りに焦点を当てて討論したい。

 

2(13:0017:00)

 

ネル討パ論 放射線と地震に関する国民の不安にどう対処するか

座長 エネルギー問題に発言する会幹事 林勉氏

パネリスト基調講演1

WENの「くらしと放射線」プロジェクトから

〜放射線に対する女性(20〜70代)の不安と関心〜

ウイメンズ・エナジー・ネットワーク(WEN)会員

消費生活アドバイザー  碧海 酉癸氏

(講演資料はココPDFをクリックすると参照できます)

今日は市民の側の視点で話しをする。男性対女性は5050というが、人口は女性の方が長生きしていて300万人位多い。原子力の理解、支援を求めるためには、一般の人に原子力をもっと知ってもらう魅力を感じてもらうことが大切である。

WENとは、1993年に発足した任意団体で、正会員は100名弱の女性のみで、エネルギー関連の企業で働く者や、消費生活アドバイザー、グループ活動をする主婦等から構成されている。エネルギーや原子力の専門家と一般の人々を結ぶパイプ役としてわかりやすい正確な情報を提供しようと務めている。

 2001年から始めた活動に「くらしと放射線」プロジェクトがある。原子力利用においては放射線への不安感があるが、放射線利用のことはほとんど知られていない。放射線への恐怖があって原子力利用への理解も進まないと考えて、アンケート調査を行った。

「放射線」という言葉を見たり聞いたりした時、怖いものだというイメージがあるか、という問いに、第1回調査(2001年)、第2回調査(2005年)共に80%前後の人達がそのように感じていることがわかった。第2回調査の時には日常的に怖いものは何かの問いに、テロ、地震、ダイオキシン等、その時々のニュースに左右されるものがあがり、放射線よりも比率が高いことも分かった。「怖い」と感じる理由として、自分の力で防げない、健康への悪影響の恐れ、被害の規模の大きさ等をあげる人が上位を占めた。

また、放射線は怖いと思う人の85%以上、そうは思わないと思う人の95%が放射線の事を知りたいと思っていることが分かった。

1995年秋に行った別の意識調査では、略語などの表記によって認知度が大きく変わることが判明した。例えば、核拡散防止条約と表記すると87%が知っているあるいは聞いたことがあると答えるが、これをNPTと表記すると35%の人しか認知できないとうことである。原子力関係者は略語の使用には慎重になって頂きたい。これは特に一般市民(とりわけ女性)を対象としたコミュニケーション活動では大切なことの一つである。また原子力、エネルギーについては感動する、魅力を感じるものを作って頂きたいと思う。例えば私が最近見て感動した芝居「コペンハーゲン」も原子力をテーマとしたものだった。

私達のWENとは別にWIN(Women in Nuclear)という組織もある。WENは放射線についてもっと知ってほしいと思って活動はしているが、エネルギー問題全般を考えるということで原子力は前面に出していない。原子力にしぼると一般市民とのコミュニケーションはなかなかむずかしい。

 

パネリスト基調講演2

透明性の評価〜住民の視点から〜

柏崎市民 新野良子氏

(柏崎刈羽原子力発電所の透明性を確保する地域の会会長)

 

(講演資料はココPDFをクリックすると参照できます)

私達の「地域の会」は、2002年8月の東京電力不正問題公表時に地域全体が大きな衝撃を受けたことから始まった。9月に県・市・村がプルサーマルの事前了解を撤回するなどの経緯を経て、発電所の透明性確保を目的に「地域の会」の設置が提案された。

12月、賛成・反対・中立の立場の住民の情報共有をめざして準備会を発足。翌年4月に会が認めた地域在住の25名の委員による予備会議が行われた。そこでは「発電所そのものの賛否は問わない」「権限は持たない」「原則公開」を基本とした。自治体・国・事業者はオブザーバー又は説明者として出席する。会の任務は発電所の運転状況等の監視、事業者等への提言、住民への情報提供等である。会長には、反対・賛成のどちらでもない中間の人間として私が互選で決まった。柏崎は人口10万人にみたない町で、このような活動をするのは難しい。男性は原子力発電所の仕事に関係する方も多く、女性は小さな都市という背景から、表舞台に立ちにくく学ぶことにも追いつかない。最初の1年、会は緊張状態で半分は感情的議論が続くような状況であった。中越沖地震発生後には、賛成派・反対派の先生を別々に呼んで話を聞き、中立的な公開勉強会を行った。

「地域の会」からの提言・意見は、2003年以来、保安院、東電、原子力委員会、同安全委員会、経産省、自治体に対し9件に達した。こうした経緯ののち、東電は徹底した情報公開の表明、保安院は検査制度体制の大幅な改善等、また地域の会は委員相互の信頼の深まり、冷静な議論の場が出来る等の変化が現れてきた。

見えてきたものとして、(1)情報公開・透明性の確保は、原因や結果の公表だけでなく経過を伝えることが重要、(2)安心・安全は信頼しあえることが前提、等である。また、メディアはその影響の大きさを認識し、視聴者への信頼に足る報道に工夫と努力をお願いしたい。信頼を取り戻すことが第一で、原子力の安全確保には時間がかかる。

新潟県中越沖地震を受けて感じたことは、関係者(事業者・国・自治体等)が手をつないで連携している姿を見せて頂きたいということである。そして子供達にも原子力の基本を学ばせ、情報をきちんと判断できる住民を育てていくことが大切だ。

地域の会は、発電所を長く止めることが目的ではない。国はもっとわかりやすく、個々の素人にもわかるよう上手く説明して頂きたいと望んでいる。

原子力界の常識はいつも現行法に縛られていて不合理に思える。住民が提案しても「法律ではこうなっている」と返ってくる。法律は変えられるはず、住民の視点を取り入れた法律があっても良いのではないか。今までされてなかった事に踏み込んでやってほしい。

 

パネリスト基調講演3

地震に関する国民の不安にどう対処するか

元日立技術者、耐震設計技術者 落合兼寛氏

(講演資料はココPDFをクリックすると参照できます)

耐震設計経験者の視点から、国民の不安に如何に対処するかについて、以下に要点を示す。

1.耐震設計の技術的説明はどの程度一般の方々に理解されるだろうか?

例えば想定を越える地震動でも柏崎刈羽原子力発電所の主要設備が壊れなかった原因を、地震動と地震荷重の観点から考えると以下のようなことが言える。

l         技術者は実際に加わった地震荷重に注目するが、新潟県中越沖地震で大きな加速度の原因となったのは、ランダム波よりも比較的周期の長いパルス波である。

l         パルス波は建物で緩和されており、振動は成長しないので設計に使用された静的震度の1.5倍程度の影響しかなく、設計許容値に収まっている可能性が高い。

l         これに対して、屋外は地震波が地盤で増幅されて厳しい荷重条件となっている。

l         柏崎刈羽の原子炉建屋は深く埋め込まれ、軟質な岩盤に設置されて、機械設備を守ってくれている。

このことから、私は建屋内の設備の健全性については「安心」できると考えている。

2.建屋内の設備に対する私の「安心」は、一般市民に共有されうるか?

以下のような理由で、専門家である私は「安心」できても、地震に対する「安心」を一般市民と共有するのは難しい。

l         十分な説明に割く時間がない。

l         用語が難しい。専門家の間でさえ用語の曖昧さ、用法の食い違いが見られる。

l         工学的に説明が難しい。技術分野が広範であるうえ、全ての現象のメカニズムが解明されておらず、それを技術者の経験で補完している。

3.技術的に説明が難しい問題はどのような対応が良いのだろか?

例えば「原発は地震に対してどれほど余裕があるのか?」について説明が求められているが、現在の耐震設計技術では「限界」を説明するデータが乏しい。「限界」を知るには、長期的で莫大な研究を要する。

耐震安全の余裕は、これまでは「どのくらい余裕があるか」ではなく、「余裕を検討する地震」の大きさを設定して、その地震動に耐えることを評価しているが、このような従来の手法では、安全の理解が得られないのだろうか。

4.専門家としての信頼を得るにはどうすればよいか?

信頼される専門家の説明が安心の基本であり、信頼を得るには以下の事項が必要と思われる。一般建築の分野では信頼を失っていないように見える。

l         見える、継続的、真摯な努力を怠らず、隙を作らない。

l         迅速な対応を行う。

l         専門家間の見解を統一する。

以上のことから、我々は、原子力発電所の耐震設計には、地震という不確かさに対しても十分に耐えうる「ロバストさ(強靭さ)」があると確信して、説明を理解して頂く努力を継続する必要があると考えている。

 

パネリスト基調講演4

放射線と地震に対する国民の不安にどう対処するか

メディアの視点から、ジャーナリスト 東嶋和子氏

ジャーナリストの視点から、放射線と地震に対する国民の不安に如何に対処するかを述べる。

最初に、放射線量に関する国民の受け入れと、中越沖地震における報道の事例を以下に紹介する。

l         国民は、放射能泉のような体に良いと言われる放射性物質はお金を払ってでも手に入れる。山梨の増富温泉では、浴用で0.012ミリシーベルトの外部被曝があり、飲用・吸入で0.015ミリシーベルトの内部被曝がある。

l         原子力発電所では放射性物質が外部に放出されないよう、重要度をつけて耐震設計を行っている。被害を受けた施設は重要度の低いものであった点をきちんと説明すべき。

新潟県中越沖地震では柏崎刈羽原子力発電所から人体に影響がない程度の極めて「微量」の放射性物質の放出があった。

l         漏れた放射性物質による影響が、放射能泉の影響よりはるかに少なくても、受け入れられていないことを考えると、「微量」さの程度の説明が必要であろう。「微量」さの程度の説明では、以下の点に留意すれば国民の理解が進むと考える。

l         放射能泉での被曝量と比較すれば、漏れた放射性物質による人体への影響の少なさがよく分かるだろう。

l         放射能の単位(ベクレル)で説明しても影響はわかりにくい。市民に説明するときは人体への影響を示すシーベルトで説明すべきである。

l         自然放射線(バックグランド)と比較してどの程度なのかを示す。自然放射線を知らない国民すら多いので、放射能泉や放射線利用のような、一般市民の体験に則した例を使った説明が重要である。

l         放射線以外のリスクとの比較が重要である。

l         産業、農業、医療分野における放射線利用の現状にも言及すべきである。

 

パネリスト基調講演5

柏崎刈羽原子力発電所における新潟県中越沖地震後の取組みと現状

事業者として、東京電力常務取締役 武藤栄氏

(講演資料はココを(PDF)をクリックすると参照できます)

中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所の被害とその復旧状況、ならびに災害に強い発電所に向けた取組みについて紹介する。

1)        地震の発生と被害状況について

l         3号機所内変圧器火災は、地盤沈降の相対的な差により生じたショートによる火花に起因する。屋外消化設備の損傷により消化活動が難航したが、防火壁があり延焼はなかった。

l         6号機では使用済燃料プール水が電線管を通じて非管理区域に滴下し、排水タンクを経由し海中に放出した。7号機では復水器に滞留したヨウ素と粒子状放射性物質が排風機により大気に放出した。

2)        放射線放出管理目標値について

l         6号機、7号機から漏洩した放射性物質の線量は、周辺監視区域境界外の線量限度(1.0mSv)、発電所周辺の線量目標値(0.05Sv)にくらべ、それぞれ0.000000002Sv0.0000002mSvと大幅に少なかった。

3)        設備の健全性評価について

l         NISAの指示に基づき、点検・評価計画スケジュールを策定した。現在、その計画に基づき点検や地震応答解析を実施中である。

4)        災害に強い発電所に向け対策について

l         主に耐震クラスの低い設備に対して、耐震性を強化している。

l         例えば消火設備の損傷対策(地上化、フレキシブルジョイントの採用、水源多様化等)や自衛消防体制の強化を実施。

5)        基準地震動Ssに対する耐震安全性向上への取組みについて

l         地質調査の実施し、その結果にもとづき規準地震動と建屋の揺れを設定した。揺れが一番大きな1号機側の値をもとに、建屋の規準地震動によるの揺れを1000Galとして、耐震設計安全性の向上をはかっている。

l         具体的には配管などの揺れを低減するため、サポートを追加するなどの耐震安全性向上のための工事を実施している。

6)        そのほかに以下の取組みを行っている

l         放射線管理の強化

l         情報の透明性の確保(迅速なプレス発表、徹底した情報公開など)

これらの活動を通し、より災害に強い発電所にするよう、全力をあげ取り組んでいる。

さらに、今回の地震が未曾有であったことに鑑み、今回の地震により得られら知見や教訓の共有をはかり、世界の原子力安全に貢献して行きたいと考えている。

 

フロアとの対話と討論

 

座長 フロアとのパネル討論に入りたい。休憩時間中に各パネリスト宛に質問票を記載して戴いているので、それに従って進めて行く。

(以下質問票に答える形で討論が進められた。)

 

フロアからの質問1 風評被害回避、実害ない微量放射能漏れ事象等への適切な対処のための放射線の正しい知識の普及方法はないか。

石川 小学校から放射線の教育を行うべき。フランスは小さいころから放射線教育を始めており、上手くいっている。

碧海 早くから始めることに賛成である。日本での教育は、上からの押し付けではないようにする必要がある。

 

フロアからの質問2 女性への説明は女性からの方が受け入れられ易いか。

碧海 女性からの方が受け入れ易い。男性は順序立てた説明を行う(演繹的にイロハのイから説明する)傾向があり、女性は順番には拘らず、なるべく身近なところからの帰納的な説明を求める。アプローチの違いがあることを分かってほしい。

新野 男性でも良い。その場に合う説明ができること。ワンパターンの説明は駄目で、センスが必要である。

東嶋 男性か女性かは関係ない。複合的視点をもった人が説明するのが良い。

 

フロアからの質問3 事故時の速報を、最も多くの情報を所有している事業者が発信する場合、地域住民の100%の信頼が得られるか。

新野 昨年の地震の事故時情報を事業者の東京電力が出したとしたら、過去の信頼回復途上にあることから、その効果は疑問であったであろう。住民にとっては情報源は複数であるほど良く、地元行政は災害対応で手詰まりとなるであろうから、国や県がキチンとした情報をタイムーに出すべきだと思う。

 

フロアからの質問4 「地域の会」の今後の進め方について

新野 柏崎刈羽原子力発電所の透明性を確保する「地域の会」は、国、県、市、村の行政機関と東電からなるオブザーバーに支えられて活動している。地域の会からの発信を各々のオブザーバーが施策等に取り込み、連携を図ってもらうことが会の目的でもあり、その情報を住民と共有することが大切である。

 

フロアからの質問5 専門家とメディアの説明にギャップがあると思うが、解消することはできないか。メディア(特に社会部記者による報道)は正しく伝えていないのではないか。

東嶋 メディアは専門家の言うことをそのまま伝えるのではないため、当然ながらギャップは生じる。また、メディア側にもテレビや新聞等、それぞれの限界がある。

碧海 メディア側にも限界がある。情報を受ける側もリテラシーが必要である。

 

フロアからの質問6 県・国の行政専門家は低い放射線レベルの事象であっても安全についての判断を行わない。緊急時の県・国の判断は重要であり、良い改善方策はないか。

東嶋 生のデータを出し、また、その数値はどの程度の影響を与えるのか評価を加えることが必要である。

フロア(斎藤伸 例えば、柏崎の火災の映像に対して原子力安全委員長等が、安全上問題ない旨発言するべきであったと考える。

フロア モニタリングポストの数値は地方自治体も把握している。そこがまず、地域住民に言うべきだ。また、東電も事実を言うべきだ。

新野 東電のモニターの数値は県に連絡が届かなかったが、県は近くのモニターデータを持っていた。地域ではそのデータは一度しか流されず、繰り返されなかった。データはどこでも出せるところから繰り返し出すのが良い。

 

武藤 事業者も情報を発信する必要があるが、事業者だけ言っていれば済むというものではない。

 

フロアからの質問7 フランスでは、科学的な記事を書く記者は基礎的素養のある人に限定されている。日本では原子力のバックグランドのない記者が記事を書いたりするのか。

東嶋 フランスでそうだとは思わない。社会部の記者も原子力関連の記事を書いており、バックグランドのある人だけが書いているとは思わない。このような記者が取材に来る場合もあるので、わかりやすく情報を出して欲しい。

碧海 オフサイトセンターは見学もしたが立派な施設である、しかし実際に使えるようになっているのか疑問をもっている。柏崎・刈羽の地震でも使われなかった。

訓練が必要である。

新野 国(保安院)は、オフサイトセンターが有効利用できなかったことで、現在活用する方向で動いている。

武藤 事故が起きると社会部が記事を書くことになるので、社会部の記者に応対できる体制を考えている。また、普段の対応も大切だ。

フロア(宅間) 今の安全規制は事業者を規制しているところに潜在的な問題がある。国と事業者の情報発信分担についていえば、事業者が発信するのに加えて、行政側も情報を出すべきだ。国民の安全を守る立場で安全規制を行っている、という意識を持ってもらいたい。事業者を規制する規制と同時に、国民の安全を守る規制が必要となる時代になったと思っている。

 

フロアからの質問8 放射線に関する不合理な恐怖に対する説明方法について。

[少量の放射線はラドン温泉程度なので安心してもらえるが、チェルノブイリ事故の恐怖に対しては別の説明が必要となる。また、高レベル廃棄物の処分方法の説明も必要である。]東嶋 同感である。起こったことの影響をきちんと伝えるべきで、チェルノブイリの数値の意味を伝える必要がある。

武藤 チェルノブイリは炉型が違うことをきちんと言う必要がある。

 

フロアからの質問9 耐震設計の考え方が分かりにくい。明確な教科書を作るべきだが、できていない。なぜ遅れているのか。

落合 原子力に限ったことではなく、(機械)設備の耐震の考え方を説明する教科書がない。原子力では、耐震設計の基準としては膨大な資料を整備してきたが、考え方を分かりやすく説明できる教科書のようなものを作らなかった。20数年前に機械学会で参考書を作成して以来、このような努力がなされなかったのは、建築分野では構造設計が主流であるが、原子力の分野では亜流であり、耐震設計に対する意識が薄く、また、学者の興味も得られないということであろう。

 

フロアからの質問10  耐震設計者のパワー強化策はあるのか。

落合 国内の原子力発電所の建設は少なく、外国は事情が異なるので、構造技術に電力会社やメーカが多くの人材を投入するのは難しい。耐震設計は魅力が少なく、人材が他分野等に出ている。パワーという観点では技術者の数よりも指導者が少ないことが問題であり、良い人材も育にくくなっている。どこかに人材を集めて力をつけるべきだ。今はJNESに人材が集まっているが、原子力界全体として活用されているわけではない。かつての軽水炉改良標準化の時のように、学、官、民が一体となった活動が必要だ。

 

フロアからの質問11  柏崎原子力発電所は安全停止し、問題となるような放射能漏れもなかったが、1年以上も修理等に要している。これは経産省からの圧力なのか、世間の評判を気にしているのか。

武藤 安全を確認するべき事項はたくさんあり、現在着実に遂行しているところだ。設計を超える地震で、原子力災害に直接影響する機器は大丈夫であったが、それら以外には壊れたものもあり、直す必要がある。

落合 製造メーカ側では並行して他のプラントの健全性チェックを行っており、力が分散されている。また、説明にもあったように、既に活動して今後は動くことがないFB断層についても学識者が議論を続けているなどもある。

武藤 どこまで用心深くやるのか。全体を見通した耐震設計を行う必要はあると考えている。

東嶋 武藤さんの意見に賛成する。原子力学会はもっと横断的にやるべき時だ。連携して動いてほしい。

フロア(竹内) 実績としてクリティカルな事象はなかった。リスクの議論ばかりでベネフィットの議論がない。

新野 維持基準からつまずいている。維持基準があれば改ざんは生じなかったかもしれない。柏崎でも種々の議論があり、住民の納得を得るための時間を戴きたい。

 

フロアからの質問12  原子力発電所を集中設置することのリスクが判明した。分散設置の考えはないか。

武藤 発電所の安全は確保できた。分散した方がよいとの意見もあるが、人材や運転・保全などの知見を共有できることなど、まとめて設置する方は効率がよいこともある。

 

フロアからの質問13 外国からのミサイル攻撃に対する原子力発電所の防護策はあるか。武藤 ミサイル防護は、国全体の外交努力でなされるべきものである。

座長 原子力発電所をミサイル攻撃すると、その国は世界から抹殺される。

 

座長 最後にパネリストの皆様からまとめをお願いします。

碧海 原子力に対する不安に対しては、まず放射線を知ってもらうことが大事だ。そのうえでエネルギーとしては発電に使うが、いきなり原子力でなく、家庭内の電気から説きおこさなければ親近感がわかないのではないかと思っている。

新野 現行法では企業にすべての責任があり、こうやってもらいたくても法律上そうなっていないなど、規制がどうなっているかを説明されてはじめてわかった。住民が望むことを積極的に取り入れ、法律を組立て直すくらいの根本的な議論があってもよいのではないか。

落合 我々は維持規準の策定が遅れて種々の問題を生じた苦い経験を持っている。議論のあった活断層の問題は、維持規準の議論と同じで、新しいプラントの立地規準とは異なるべきである。既設プラントの耐震診断と再起動の規準を早急につくる必要を感じる。

東嶋 新学習指導要領では小中学生に放射線やエネルギーについて教えることになった。どう教えてよいかわからない教師たちに対して、授業で使えるようなツールを用意するなど、専門家としてもどう教えればよいかをもっと議論してもらいたい。

武藤 柏崎の停止でCO2が2%増加した。安全第一のうえで、原子力をどう使うかが課題である。安全、安心と一緒に言われるが、安心は違う。安心は信頼であり、顔を見えるようしないと信頼感は得られないと思っている。あの人たちがしっかりやっているから大丈夫と思っていただけるようにしたい。

 

座長総括

最後に座長として今日の議論で感じたことを述べさせていただく。

まず1点目は、これまで原子力村の関係者の視点からしか見ておらず、国民や社会の視点を加える必要があること、2点目は関係機関が自己目的で動いていたのではないかと思われること、3点目は、放射線や耐震問題は社会がもっと知りたいと思っており、どう説明するかが技術者に課せられた課題であること、4点目は知りたい情報を判りやすく迅速に提供すること、5点目は国民から見て信頼される技術者、スピーカーが見えていないこと、である。

原子力は国民、政府、自治体、事業者など様々な構成員からなる社会システムである。この社会システムの目的は、国民の最大利益を追求であるはずである。そういうシステムになっているかどうかとういう視点にたって、この社会システムを再考する必要があるのではなかろうか。今日の議論の結果を踏まえ、この思いを伝えて行きたい。

どうもありがとございました。

 

閉会挨拶

エネルギー戦略会議会長 EEE会議代表 金子熊夫氏

本日は猛暑の中をお集まりいただき、正味7時間にわたり熱心に議論いただきありがとうございます。大変に勉強になりました。

原子力の「安全と安心」はある意味では日本独自の問題意識であり、日本以外では「安全」だけで大概終わる。時節柄日本では広島、長崎が話題となっているが、原子力にも63年前のトラウマがまだ生きている。このトラウマのせいで、なんとなく原子力は怖い、嫌いだという方々もおり、説明してもなかなか納得してもらえない。

原子力は資源小国日本にとって理想的なエネルギーとしてスタートしたが、原爆を必要なものとして捉えている諸外国と比べ、日本はスタート時点から「原爆=原発=悪」という偏見や「核アレルギー」というハンディキャップを背負っていたといえる。

国民の教育においても、「安全だから心配ない」というのでは納得されないが、かといって「安全でないかもしれないから気をつけよ」といっても解決にならない。

かつて私自身も外交官として関与した経験があるベトナム戦争では、数千人のゲリラに50万人もの米兵が敗れた。反原子力派の力を侮るべきではない。確信犯である彼らを原子力賛成に改宗させることはできないが、一般市民がどちらの言い分を信頼するかが問題だ。科学技術を国民がどう判断するかにかかっている。原子力推進派も自分たちの蛸壺に閉じこもっていないで、反原子力派の人たちのやり方も勉強して、もっと積極的に発言する必要がある。

自給率60%の米国ですら、エネルギーセキュリティーを真剣に議論している。自給率僅か4%の日本は、原子力にリスクがあるから止めようなどと贅沢をいう余裕はないはずだ。最近米国では、アル・ゴア元副大統領あたりが向こう10年で電源を100%再生エネルギーにすると言っているが、詳しく質問すると原子力を含めての話だと言う。よく聞かないとごまかされる。

日本人はオイルショックの頃を忘れているが、何時また起きるか分からない。エネルギーセキュリティーの状況をきちんと国民に説明する必要がある。辛抱強く説明し理解してもらったうえで、正しい判断をしてもらう必要がある。

正しい情報を分かりやすい形で積極的に出すようにすれば、正しい判断につがるであろう。マスコミの報道振りも重要である。世間にどう理解してもらうかはこれからの我々の課題である。

本日は大変有意義であった。講師、パネリスト、会場の皆様、企画をした方々に敬意と謝意を表します。ありがとうございました。

以上