日本原子力学会 社会・環境部会設置趣意書


 今世紀は、科学技術がめざましく進歩し、人間社会の営みを劇的に変化させてきた。その意味で科学 技術の世紀と呼ぶこともできよう。これからも人間活動のグローバル化が一層進展していくと予想され、 また途上国における人口爆発や地球環境の劣化が憂慮されている現状を鑑みると、人類の抱える諸問題 を解決するために科学技術が果す役割は、来世紀においても小さくないと考えられる。他方、社会が科 学技術に対してむしろ懐疑的になっているところもあり、社会と科学技術との関係が大きな課題として 認識されつつある。

 原子力は今世紀の科学技術を代表するものの一つであり、現在、人類が直面している地球規模のエネ ルギー・環境問題を、成長、資源、環境の三つの制約条件を充足または緩和しながら解決するための有 力な手段として期待されている。しかしながら、原子力を取り巻く状況は混迷化の様相を呈しており、 発電所の新規立地や放射性廃棄物の処分問題など、社会との関連で困難な課題が顕在している。これと 同時に、原子力に対する社会的関心は高まっており、技術的次元のみならず社会的次元から、例えば、 エネルギーセキュリティ、環境調和と地球温暖化対策、経済性と市場原理、核不拡散、国際協力、合意 形成、リスクコミュニケーションなど様々な観点から議論が展開されている。

 このように、社会との関連が大きいことが原子力エネルギー技術の著しい特徴であって、その社会的 側面について学問的に研究し、その成果についての情報交換や普及を図ることは、原子力を環境調和性 に優れたエネルギー源の一つとして、長期的に人類社会に役立たせていく上で、極めて有益なことと考 えられる。そこで、日本原子力学会において、これらの研究を専門的かつ学際的に行う場として社会・ 環境部会を設置する。

 本部会は、技術論や文明論の観点から見た原子力技術の特性や特質を分析するとともに、政治、経済、 法、社会、国際関係、環境調和などの領域に発現する原子力の諸相を様々な学問的アプローチから研究し 、大競争時代、地球環境問題、ポスト冷戦時代、グローバル化経済の出現などにみられる大きな時代的変 化に対応した原子力エネルギーの利用のあり方、すなわち、人間、社会、環境、技術の相関系における原 子力のあり方を探求する。

 本部会のメンバーは日本原子力学会員で構成されるが、研究対象が極めて学際的であることを鑑みれば 、外部との交流を積極的に指向することが不可欠であり、外部に開かれたシンポジウム等を開催するとと もに、シンポジウムの共催など関連学協会との連携を推進していく。

平成11年3月22日年会(広島大学)設立総会で採択






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