セミナー「刈羽村住民投票から学ぶこと」



日本原子力学会 社会・環境部会
 
社会・環境部会セミナー議事概要


テーマ:「刈羽村住民投票から学ぶこと」

日時:    平成13年12月18日(火)10:00−12:00
場所:    日本教育会館 一ツ橋ホール 7階中会議室
座長及び司会:田中靖政先生(社会・環境部会 部会長)

プログラム:
以下の講演者の方に、御講演をいただき、会場からの質疑と自由討論を実施した。なお参加者は約90名であった。

10:00-10:40「刈羽村住民投票の背景」内藤 信寛 氏(柏崎商工会議所専務理事)
10:40-11:20「地方自治と住民投票」森田 朗氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
11:20-12:00 質疑応答

議事概要

 宮沢企画小委員長より、本日の司会進行役の田中部会長が紹介され、田中部会長の挨拶に引き続き講演が開始した。

(1)内藤氏講演

・ 柏崎市と刈羽村の概要、及び柏崎刈羽原子力発電所におけるプルサーマル計画の経過紹介。刈羽村の人口は約5000人であるが、柏崎市で発電所に隣接する地域の人口は5000人を超える。また、柏崎刈羽の1-4号機が建設されている部分は柏崎市の土地であり、5-7号機の部分が刈羽村と柏崎市の土地である。今回MOX燃料装荷が予定されているのは3号機である。

・ H12年の11月19日に柏崎市長選と刈羽村長選があった。柏崎市長選はプルサーマルが争点であったが、刈羽村ではラピカ問題が争点でプルサーマルではなかった。村長選には立候補者が5名もあり、上位3名の混戦であった。次点だった候補者(プルサーマル慎重派)と、反対を唱える第3位の候補の2名の支持者が結束し、村長に対抗したことが、今回の住民投票のきっかけであった。

・ 反対派は外部(中央)から多くの人材を送りこみ、物量作戦を行った。その道のプロであり、チラシひとつみても非常に上手で、恐怖感をあおる。イラストレータが村に滞在して、どんどんチラシに載せる漫画を描いていた。

・ 賛成派は外部から村内に入って活動することができず、柏崎商工会議所も地元団体のチラシにアドバイスをするくらいしかできなかった。経済産業省が大臣名入りのチラシを配ったが、内容は堅く、全く読む気をおこさせない、代物であった。

・ 本日の講演を総括する。刈羽村の住民投票はプルサーマルの是非ではなく、政治の問題。プルサーマルのような高度な問題を住民に判断させることが間違いであると思っている。刈羽村の有権者は約4000人であるが、高齢化が進んでおり、70才-80才のおじいさん、おばあさんが判断できるはずはない。今回の問題は住民投票には全く馴染まないし、このようなことを住民投票で図るべきではない。

(2)森田氏講演

・ 住民投票制度(拘束型)を設けることは、憲法95条の存在から考えても、違憲ではないと思われる。

・ 社会が大きな曲がり角にさしかかっている。これまでは大きな問題が起こると、多くの場合財政措置による解決が図られてきたが、国の財政事情が厳しくなるとともに、住民の要求水準も高くなったため、解決が困難になってきている。また、個人の生活は豊かになり、求めるものが変わってきている。日本を含め先進諸国は、地域のことは地域の人々が参加して決めるべき、という地方分権に基づいた成熟社会へと向かっている。この方向自体は以前から指向していたものであり、望ましいことである。

・ 1990年代に冷戦構造が終結すると共に、イデオロギーで社会をみるという視点がなくなった。これまではパッケージとして捉えられてきた「人、イデオロギー、政策」がバラバラになってきている。

・ これまでに実施された住民投票をみると、立地問題では巻町、沖縄などがあり、産業廃棄物最終処分地問題に至ってはキリがない。しかし「どういうしくみが望ましいのか」は未だ検討途上である。民主主義をより意味のあるものとするための制度でなければならない。

・ 原則は間接民主主義で、選挙では人を選ぶ。住民投票は物事についての是非を決めることであるが、日本の現在の法制度においては議会の決定を上回る決定を住民投票で行うことはできないと解釈されている。現状では住民投票の結果は、あくまでも参考情報であり、住民投票の性格は、拘束型ではなく、諮問型である。

・ 国策の是非について住民投票を行ってもよいのか?どのような事項が住民投票になじむのか?現行法上市町村の権限事項に関しては問題ないが、その範囲を確定するのは難しい。たとえば国策に関連した事項であっても、「国策を進めるために町有地を売却することの是非」を住民投票にかけることは否定しがたい。現在、拘束型の住民投票を念頭において、どんなテーマであれば住民投票が可能かを示すポジティブリストが検討されている。しかし、住民投票を求めるような人たちは、そのリストに示されるような事項(市町村名、役場の位置、合併)では満足しないであろう。

・ 住民投票は二者択一方式で実施すべきであるが、その場合、両方の案について十分に周知する必要がある。宣伝の上手・下手だけで結果が決まってしまってはよくない。そのような事が問題になること自体、現在のシステムが上手く機能していないことを示している。上手く機能する制度を作ることは難しい。伝家の宝刀のように、真にその機能が求められる場合以外は、使わないということがベストではないだろうか。

・ むしろ、行政の決定にあたって、住民の代表者を加えるコンセンサス会議のようなものを開催する、など方法はいくつかあり、それが検討されるが、それよりもまずは地方議会がしっかりとしなければならない。

(3)質疑応答

(内藤氏から、先の補足説明があった)
賛成派が「日本のエネルギー」という高度な視点から判断したのに対して、反対派はアジテーターに恐怖感をあおられ感情的であった。また、刈羽村のケースは、巻、海山町と比べても賛成票と反対票の差が小さかった。沖縄県の名護市のヘリポート誘致の場合、反対が53%だったが市長は受け入れを決めた。刈羽村の住民投票後も「知事、村長の良識に期待」とコメントするマスコミもあり、村長は名護と同じように反対を押し切ることもできたが、やらなかった。原発建設の場合と異なりプルサーマルを受け入れても、村にとって何もメリットがない。そもそもの計画では柏崎刈羽のプルサーマル導入は福島に次ぐ2番手であり、メリットもないのに敢えてトップになって受入れる必要もない。現在でもプルサーマル受け入れを表明しているのは柏崎市長のみとなった。

(会場からの質問)

(参加者A):コンセンサス会議と住民投票の関係をどう考えるか?遺伝子組替え食品について、など大きな問題をとりあげたコンセンサス会議については聞いたことがあるが、地域にとって身近なテーマにおいてどのように考えれば良いのか?

(森田氏):住民投票のように短期に一度で決めるのではなく、高度な専門分野のことを決める方法のたとえとして「コンセンサス会議」といったまでである。会議を通して、皆で共有できる情報を作り出せれば、それも意味がある。

(参加者B):今回の刈羽村の結果では、保留票が思ったより少なかったようだが、なぜか?

(内藤氏):今回の選択肢に保留をいれるかどうかで議論があり、結局残した。当初はいずれも3割程度になると読んでいたが、反対派が「保留するくらいであれば、反対票を」と積極的に教育した。

(田中部会長):住民投票の場合には、公職選挙法のような制約がないので、饗応、個別訪問など何でもできて、あまりに違うのではないか?

(森田氏):人を選ぶ事と物事を選ぶ事は全く違う。ただし、住民投票条例を定めるときに一般的ルール程度は定めておくべきだった。

(参加者C):ラピカ問題とは何か?簡単に説明してほしい。

(内藤氏):刈羽村に昨年完成した生涯学習センターである。58億円のうち56億円を交付金で賄った。その中の5,000万円の茶室は檜の柱、高級瓦、1枚12万円の畳を使用することになっていた。しかし、できあがって畳をひっくり返してみたところ、8000円-9000円程度のビニール畳で、交付金返還問題にまでなっている。刈羽村の特産の米(ライス)、ピーチ、そして刈羽村から「ラピカ」と名付けられた。

(参加者D):反対派の誇大広告、流言飛語、いい加減なデータをばらまくといった行為を取り締まるべきではないか?不公平である。

(森田氏):虚偽の情報を流したので無効とするわけにもいかない。住民の良識に期待するしかない。

(参加者E):圏外から援軍が押し寄せて、一つの地域の利害についてコメントしても良いものなのか?

(内藤氏):刈羽村の場合、品田村長が東京電力には一切の関与を拒否し、村に入るな、といった。これは片落ちであった。国や原子力学会は村長からNoといわれていたわけではなかった。しかし何もしなかった。結局、村以外の組織は全く当てにならなかった。東京に住む反対派は村に入って積極的に活動していた。原子力学会もトラブルや事故のたびに組織として見解をアピールするなどしてほしい。

(森田氏):インターネットも普及しているような今日、情報をどこまでコントロールできるだろうか。遮断することはできない。現在のような状況が問題であり、これらの問題を取り除けないとしたら、現在の住民投票というシステム自体が問題である。しかし、これに変わるものはない、というジレンマがある。

(参加者F):一度事前了解してから撤回することに対する説明責任はないのか?

(内藤氏):柏崎市の事前了解は未だに有効である。ただし、今回の問題は住民数比ではなく、刈羽村と柏崎は対等の関係なので、一方が反対している状況では進められず、当分見送るということに決まった。期限は「刈羽村の民意が了解に変わるまで」である。2003年4月の村議選挙までであろう、とするのがマスコミの見方である。

(森田氏):行政は権力を行使するためにきちんとした手続きをとる必要がある。しかし、事前了解には法的拘束力がなく、手続きを踏んだものではなく感触をさぐる程度のものであった、とすれば了解を撤回しても法的責任は問われない。

(参加者G):住民投票を一般的システムとして確立するには、投票対象としての適・不適を判断する必要がある。どのような方法があるのか、また確立されるまであと何年くらいかかるのか?

(森田氏):現時点では愛知県高浜市にのみ、住民投票条例がある。ここでは、あいまいな項目をひとついれて、フレキシブルに対応できるようにしている。中身について決めることは難しく、結論は先送りにされている。たとえば市町村合併のための「合併協議会の設立」くらいは入れてよいのではないか?まずポジティブリスト作りから取りかかるが、長い年月がかかると思われる。外国で上手くいった例があれば、意外に早く進むかもしれない。

(4)閉会

最後は田中部会長の閉会の挨拶で、セミナーを締めくくった。

以上

(文責:チェインディスカッション幹事 千歳)



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