パネル冒頭発言要旨
東京大学 谷口富裕
新しい「原子力学」の確立を目指すに当たって、「原子力学とは何か」、「今何故原子力学か」、「原子力学は何を問い、何にどこまで応え得るか」、「原子力学は学として可能か」、そして「原子力学は新しい学の地平を如何に切り拓いていくか」といった基本的な問いについて十分議論を尽くし、関係者の知恵を結集することによって、アカデミズムそしてより広い世間(特に若い世代)で理解され信頼されることが先ず第一歩である。この事は以下の理由により特に重要である。
1.社会的、技術的諸要因が複雑に絡んで原子力に対する世の中の不信や不安が国内外で高まっていること
2.我が国の原子力分野の学問的実績は、狭義の技術分野以外では極めて限られていること
3.大型先端技術である原子力利用を社会が受け入れるための最後の拠り所は、それを支えている専門家による知的基盤への信頼であること
4.エネルギー・セキュリティーや地球環境問題といった人類文明共通の長期的重要課題に応えるには、原子力オプションの維持向上が不可欠であることが益々明らかになってきていること
より現実的観点からは次のような配慮が必要である。
1.体系化や整合化を急ぐよりは実践性を重視して、各人が関与する現場での積極的試行錯誤の積み重ねを通じて、段階的発展を目指す
2.技術と社会の接面における橋渡しを重視し、総合化、特に個々の技術的社会的要素を超えた統合的アプローチを試みる。究極的には総合的な新しい学のパラダイムの構築を目指す
3.原子力学が21世紀の総合的実践的学として具体的に取り組むべき特性として、先端性、経済性、社会性、人間性、安全性、核拡散抵抗性、セキュリティー指向性、情報性、環境調和性、世界性等が挙げられる