パネル冒頭発言要旨
学習院大学法学部教授
田中 靖政
1.21世紀半ば頃までを見据えた、日本と世界のエネルギー・環境問題の展望、およびその中での原子力の位置付け、役割
□ 原子力については「市場論」からの議論と「資源論」からの議論の双方が必要でしょう。
〇まず「市場論」の見地からは、21世紀に原子力が価格の面で他のエネルギー源(石油、天然ガス)と競争できるかどうかが明白にされねばなりません。この場合、比較される原子力の「価格」の中身(バックエンドの高レベル廃棄物処分費用や核物質防護費用なども含まれるか)についても明らかにされる必要があります。
〇次に「資源論」の見地からは、仮に価格の面では石油や天然ガスとの競争力の点でそれほど利でなくとも、1970年代の「油断」によるショックを繰り返さないために原子力の割合を漸増していく政策を選択することは資源小国としての日本の場合は合理的な選択です。1998年度のBP統計によれば、わが国の1次エネルギーのなかで石油・石炭・天然ガスなど化石燃料の占める比率は84パーセントに上り、そのほとんど全部が輸入です。「国産」エネルギーは原子力17パーセント、水力2パーセントに過ぎません。
〇上記のわが国の1次エネルギー構成は、「COP3」で日本政府が示した炭酸ガス排出規制の面からも別な問題を提起します。最近の統計によれば、わが国の炭酸ガス排出量は年に1パーセントの割合で増加していますから、今後10年間には少なくとも10パーセントの「自然増」のあることが予想されます。仮に最終的には「排出権取引」による調整が免れ得ないことになるとしても、10パーセントの自然増を抑制し、かつ90年の排出量の6パーセント減を数値目標とするためには、1次エネルギーに占める84パーセントの化石エネルギーの割合をどのように変えていくべきかについて具体的なシナリオが示される必要が有ります。改めて、原子力と再生可能な自然エネルギーの推進について検討する必要があります。
2.「原子力学」という新概念の定義、学問としての体系、具体的内容等に関する考え
一挙に「原子力学」の着手が困難であっても、以下のように「話題」ごとに、いくつもの分野にまたがって外縁を広げていくことは可能と思います。
□原子力発電 = 原子力工学
〇原子力工学
〇地質学
〇材料科学
□経済学 = 原子力の事業化・経済性
〇経済学
〇組織学または組織研究 → 近代的組織モデル
〇資源論 → 資源予測・有限な資源の配分と獲得・ライフラインの維持
〇国際金融論 → 国際通貨の変動・世界の株市場の動き
□発電所立地・PA = 政治学・社会学・社会心理学など、社会・行動科学
〇政治学 → 政治的意思決定の研究・地方自治/住民投票
〇国際政治学 → 核拡散・紛争と紛争予防・国際協力・安全保障
〇社会学 → 地域開発・老齢化社会・社会福祉・文化変容・マスコミュニケション
〇社会心理学 → リスクの知覚・イメージと意味の学習・コミュニケーションの心理学
〇メディア研究 → 世論(市場)調査・広告・広報・ニューメディア・在来型マスメディア
□原子力関連学際的領域
〇リスク研究 → 確率論的リスク研究・知覚されたリスクの研究
〇国際法 → 核不拡散レジーム (NPT, カットオフ条約など)・国際協約 (2国間原子力協定など)・多量破壊兵器(WMD)禁止条約
〇国際機関研究 → IAEA
〇低程度(レベル)紛争研究 → 核テロリズム研究および対策
3.当部会の今度の活動への提案
□日本原子力学会研究発表会における日本政治学会・日本選挙学会の会員と共同で可能なシンポジュームないしセッション例:
〇「巻町の住民投票」
〇「選挙と原子力立地」
□日本原子力学会研究発表会における日本社会学会・日本社会心理学会・日本心理学会・日本リスク学会等の会員と共同で可能なシンポジュームまたはセッション例:
〇日本人における先端科学技術の受容と拒否
〇社会的リスクの受容と拒否の判別要因
〇原子力に対する日本人の認知構造の分析