パネル冒頭発言要旨
大山 耕輔(慶應義塾大学法学部助教授、行政学)
1. 原子力学会の非会員として、社会・環境部会の設立を心より喜ぶとともに、原子力と社会・環境との関係にアプローチすることで、新しい原子力学が確立されることを大いに期待したい。新しい原子力学は、従来型の技術学オンリーの原子力学ではなく、技術と、技術を取り巻く社会や時代の環境とがどのような相互作用をしているかをも視野に入れた原子力学であるべきである。
2. 技術そのものの合理性を考える場合は、技術の専門家に任せるべきであるが、その技術をどのように社会的に利用し役立てるかを考えるような場合には、利用者である技術の素人の考え方を考慮する必要が出てくる。
3. 原子力の平和利用としてエネルギーを利用する場合、どのように利用するかは、エネルギー資源のマーケット価格で決まる部分と、エネルギー政策プロセスで決まる部分とがある。
4. これまでの原子力政策プロセスは、技術専門家や提供者の影響力が強くテクノクラシー(技術による支配)的だったが、今後は、利用者である素人の影響力が強くなるだろう。最近いわれるアカウンタビリティ(説明責任)の議論が原子力政策の分野にも及びつつある。
5. 問題は、利用者や素人は一枚岩ではない点である。とくに都市の消費地域住民と非都市の電源地域住民とでは、「便益拡散・負担集中」の非対称の利害対立が生じるため、何らかの政治的補償が必要となる(電源3法制度)。都市の消費地域住民は、いくらまでならコストを支払うえるかの覚悟が必要になろう。
6. 電源地域住民の視点に立つと、原子力発電関係施設は、地域振興の1手段に過ぎない。また、電源3法制度により、ハコモノができたり自治体財政が一時潤ったりするが、「住民」自身には必ずしも直接メリットが感じられていなく、カネは入るがヒトは出て行くという問題がある。
7. 原子力発電関係施設の誘致を1つのオプションとして、他の選択肢も含む「まちづくり」のプロセスに、電源地域の住民や自治体だけでなく、原子力関係者も参加することが必要かもしれない。