第9回チェインディスカッション
日本原子力学会 社会・環境部会
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討論テーマ:「原子力のコミュニケーションに必要なもの」
日時:平成14年9月15日(日)13:00−15:30
場所:学学会秋の大会H会場(いわき明星大学)
座長:北村正晴先生(東北大学教授)
1.プログラム
以下の講演者の方に、今回のテーマの趣旨に沿った演題にて講演をいただき、会場からの質疑と討論を実施した。参加者は約250名であった。
(1) 講演
@糠沢 修一氏(福島テレビ 常務取締役)「マスコミからみた21世紀のキーワード」
A林 久美子氏(双葉郡連合婦人会長)「市民の立場から専門家にお願いしたいこと」
(2) コメント 別府 庸子氏(姫路工業大学教授)
(3) 質疑&全体討論
2.議事概要
宮沢部会長より、社会・環境部会の役割とチェインディスカッションの趣旨の説明があった。冒頭で「8月29日に発表された東電自主点検に関する不適切な取扱いを学会員として深刻に受け止めている」との発言があった。部会は5年前に「技術者が社会と接点をもつ」「原子力を社会の視点から見直す」ことを目的に設立され、現在約300人の部会員がいる。皆様のご意見を聞く会を催した。今回はコミュニケーションをテーマにとりあげたが、当初からコミュニケーションという問題については重要性を感じていた。今回の東電の問題にしても現段階でははっきりしたことはいえないが、コミュニケーションに関する問題があったのではないかと思う。「コミュニケーションが成り立つためには話し合いをする相手を信頼することが大前提であり、今回の事件で我々が信頼を裏切るようなことをしてしまったことは大きな反省である。再発防止を含めて今後どのようなしくみ、社会的動きが必要かを考えていくつもりである」と締めくくった。さらに部会長から、座長を務めていただく北村先生の紹介があった。北村先生は東北大学で技術社会システム専攻のリーダで、量子エネルギー工学の専攻も務められている。原子力学会ではヒューマン・ファクターのしくみを考え研究する部門のリーダでもある。
北村座長から、本日のディスカッションのルール、多くの方の意見を紹介するために、フロアからの質問は紙に書いて事前に提出する方式とする、との説明があった。
(1)糠沢 修一氏(福島テレビ 常務取締役)「マスコミからみた21世紀のキーワード」
・ 成熟した社会と国家において、公権力や公的不正行為を覆い隠すことはできない。1972年のウォーターゲート事件も内部告発がきっかけであった。
・ 東電のトラブル隠しは渦中にある。しかし1日たりとも電気エネルギーを切ることはできない。トラブル隠しの追及は必要だが、同時にこれのためにエネルギー政策が中座してはいけない。目に見える形の責任問題は今年中に終わらせ、本来のエネルギー政策の議論をしないと明日の日本が危うい。
・ 平成3?4年に、活字媒体と放送媒体の社会に対する影響を調査した。人々がまず情報に接するのはTV、ラジオであり、これを第1次情報接触媒体という。更に詳しい情報を得るための第2次媒体は、これまでずっと新聞(活字)であったが、このとき初めて第2次媒体もテレビになった。TVは印象として残る伝え方をする。東電の責任問題が解決したあとの、これからのTV報道の有り方が全国民に与える影響は大きく、心してやっていかなければならないという思いがある。
・ 1995年から世紀末をはさんで色々な事件が立て続けに起こったが、今なお東の横綱はオウム真理教事件だと思っている。西の横綱はJCO事故だろう。張りだし横綱は神奈川県警、新潟県警といった警察不祥事、外務省、三菱自動車、三井物産、雪印、日ハムの不祥事。どうしてこういうことになったのかと、よくよく分析してみると、あらゆる社会事象で「他人事だと思っている」「棚上げ」「先送り」の危機管理のワースト3パターンがみられる。自分の在任期間中だけは波風をたてない、責任をかぶらない、このワースト3パターンを繰返してきた。あらゆる組織が現場から鬼軍曹を排除してしまったことが決定的である。彼らが長くそこにいて、やって良いことと悪いことをチェックしてきたのだから。日本の国を揺るがす決定的なことがこの10年に集中的に起こったが、TVや新聞も何か起こった時だけその表面を追いつづけ、原因の報道に至っていない。
・ 作家の村上龍が失われた10年と呼んでいるが、失われた30年ではないだろうか?昭和20年8月15日の終戦から高度経済成長が始まり、バブルの元凶である3大神話ができた。土地の値段は上がることはあっても下がらない、消費は拡大し減少しない、雇用は安定し終身雇用は崩れない。金さえ儲かればよいという考えでモラルが失われた。
・ 昨年8月1日現在の日本の総人口は12,732万人でこれは前年比27万人増である。おそらく2005年をピークに人口は減るだろう。少子高齢化が進み、最終的には6000万人台にまで減ると言われている。一方世界人口は2001年4月1日に61億人に達し、前年から9000万人増えており、2050年までに100億人を超える。その2/3がアジアに集中している。中国が12億人、インドが2000年で10億人である。21世紀最大のキーワードは「100億の民が生きるための食料とエネルギーをどこからどう確保するか」である。ここから逆算すると資源のない日本ではどうしても原子力に移行しなければならないのは自明の理である。原子力の必要性を国民的なコンセンサスとする、そのためのいの一番は幼児教育であると思っている。教科書の中にこういった問題をきちんと含めてもらわなければならない。現在のシステムではエネルギーと食料問題を学ぶ機会が少ない。発電所の現地視察もよいけれど、まず家庭教育、幼児教育の中から手をつけて頂きたいし、我々マスコミもそれを手がけていかなければならない。
・ 今後東電の事件の調査結果が公表され、マスコミのボルテージはかなり上がるだろう。責任の所在追及と再発防止は途切れるものではないが、けじめをつける必要がある。技術的な安全についての情報開示を全国民に対し明らかにすることは継続的に行い、安全対策に最大の配慮をしてエネルギー対策を前進させなければならない、そのために報道機関として何をするべきか、ここでマスコミの報道のあり方が問われている。私見であるが、人口増大からみても、原発の9?15基の増設は必要である。またグロスで12兆円を投じるプルサーマルも、コンセンサスを得て、安全対策に最大の配慮をして、やはりこれもやらざるをえないことだと思っている。
・ 福島、広野、新潟からのVラインで首都圏3800万人のエネルギーを送っている。電源開発の只見川水力もあった。戦後の復興のエネルギーの大部分は福島から送っている、そういう思いである。首都機能移転、正確には国会機能移転であるが、国会で決議までしたのに反古になった。知事の思いは「原発の場所も提供し、米もエネルギーも送っているのに、これを東京の人はどうみているのだろう」ということだ。東電の事故隠しも東京の人がどう見ているのかを知りたい。
・ 東電事件後に知事と1対1で会う機会があった。その時「この程度なのか」といった意味のことをおっしゃった。国と電力会社の対応、すべての企業にあてはまる危機管理について、この程度なのか、といった包括した言葉だと思う。
・ 災い転じて福という言葉がある。今回のことを深く反省しつつ、あるべき日本のエネルギーを考えなければならない。私見であるが、技術的に発展すれば中国やインドに原子力のプラント輸出をしても良いと思っている。海底送電が可能となれば、フランスのような電力輸出国となることも良いと思っている。
(2)林 久美子氏(双葉郡連合婦人会長)「市民の立場から専門家にお願いしたいこと」
・ 昭和11年生まれの66歳である。富岡町に暮らしている。人口は約1万6000人で、温暖で暮らしやすいところである。新幹線も高速道路もなく単線の常磐線が走るだけである。基盤産業もない米の単作地域で所得水準も低かった。11月〜3月の農閑期に男性は東京に出稼ぎにいっていた。
・ 1960年代に町長が町の活性化の為に誘致を決め、建設によって町に雇用が生まれた。みんながサラリーマンになり、若い人も地元で働けるようになった。40年たったいま専業農家は6軒だけで、あとは大型機械を使った土日のみの農業である。交付金で町は豊かになり電力会社とも共存、共生をしてきた。
・ 人生の半分は原子力と無関係にすごした。原子力で連想するのは原子爆弾とレントゲンである。日本一の電力会社が私の町に原子力で電気をつくる発電所をたてた。原子力を理解しているわけではないけれど、子供からお年寄りまで原子力という言葉を知らない人はいない。原子力に関する話題が新聞にのらない日はない。稼動後10年くらいから、原子力への関心が高まり、今は誰の心にももやもやした不安がある。大きな事故、チェルノブイル、臨界事故、アメリカのテロが起こると決して他人事とは思えず大きく不安が広がる。発電所設置は間違いではなかった、と子供達に自信をもっていえるだろうか、と自分自身に問いただすことが何度もあった。
・ 毎年学習会を開いている。発電所も建設当時から今まで、何度も見学をしている。原子力でつくる電気の作り方はその場でなるほど、と納得できるが、発電所の構造上のしくみは複雑で幾度聞いても見ても覚えきれないし、名称もカタカナで覚えきれない。一番肝心な放射能、被曝といった危機管理についての学習はしたことがない。おのずと「不安を取り除くのは、国の言うことを信じるほか方法がない」となる。安全性については100%国のいっていることを信用している。安全であるといって国が許可しているから間違いはないと信じている。誰もが心の中に不安を感じながらも、自分の力で不安を取り除くことができず国の発表を信じている。しょっちゅう事故があるが、その都度電力会社は「人体には何も影響がありません、事故ではなくトラブルです」という。
・ トラブルと事故の違いはよく分からないが、人体には何も影響がなく、全く危険のないものをトラブルです、と電力会社は言っている。原子力発電所は現在まで一度も事故は起こしていないという。国も「事故は決しておきない」という。現実にトラブルは度々おきている。事故が起きないというのは、完璧な発電所がまちがいのない運転をした時の状態ではないだろうか?しかし私の町にある原子力発電所は火入れして稼動して20年たって、隣町の発電所は30年たっているので、新しい時より何か変化が起きてくるのではないだろうか?
・ 1回の事故で国の破滅につながるので、原子力発電所の事故だけは決してあってはならないことだ。トラブルがおきるのはなぜなのか。専門家にお願いしたい。原子力がどうであれば原子力発電所が安全なのか、地域住民にも納得ができる理解の仕方を考えてほしい。机上の理論では安全なのかもしれないが、稼動している発電所はその状態状態で色々な事が想定できるのではないか?安全だから心配ありません、というのではなく、何がどうであるから安全だ、という方法で理解していきたい。私達に理解できる内容で考えてほしい。難しい説明では頭に入らないので、分かる言葉で説明してほしい。
・ 知りたいことは、いつまで発電できるのか、稼動できなくなったらどうするのか、もう使えない、とは誰が決めるのか、その後の処理はどうなるのか、トラブルが起きるのはなぜか、トラブルが重なると事故になるのか、事故が起こったらどうなるのか?である。色々な角度から分かりやすく広報してほしい。こういった事を理解しながら自分たちで納得し、安全性の問題を解決する方法を見出していきたいと思っている。
・ 発電所と地域住民は個人で、またグループや団体、町ぐるみで色々な方法でお互いの理解を深めるための努力をして共存共栄を掲げて、住み良い町で安心して豊かな人生をおくることができるようにお互い信頼感を作り上げてきた。ここ10日ばかりのTV、新聞などで大きく報道されているが、原子力発電所に大変な問題が起きている。長い時間をかけてやっと作り上げてきた信頼感がゼロに戻ってしまった。すごく悲しい思いである。
・ わが国の発展にとって必要な電気。私達の毎日の生活が豊かになる電気。その無くてはならない電気を安全に作ってほしい。原子力の平和利用。地球にやさしいクリーンな原子力発電所。私達が誇りをもって「私達の町に原子力発電所があります。その発電所で皆さん方の電気が作られます」と胸をはっていいたい。
(3)コメンテータ 別府 庸子氏(姫路工業大学教授)
質問回収の時間を使ってコメントする。
・ 林さんの講演はコメントするまでもなく耳を傾け、学会員がそれに応えてくれれば良い。
・ 心の中のもやもやの中身をこれほど明快に話されたからだ。原子力関係者は「結局はお金が欲しいのではないか」と言う人もいるが、この御講演でお金では償えない問題を含んでいることがわかる。
・ 糠沢さんの講演では、「隠しおおせるはずはない」というこの言葉の意味は非常に重い。
・ 東電問題は、どうしてこんなに拡大する前になんとかできなかったのか、と思う。
・ 以前企業の倫理に関する調査をしたところ、お父さん(サラリーマン)からの回答は倫理を勇気と結びつけて考えている人が多いという結果であった。
・ 社会への告発の前になぜ内部への告発がなされなかったのか、と思う。日本IBMの先生が企業人の情報倫理の研究として、人にWhistle
blowingを決心させる要因を挙げている。
-自分の部門で不正や悪しき行為が行われている。
-証明できる十分なデータがある
-自分がしなければいけない
-通常の業務活動では改善する手立てがない
-このことによって組織の浄化ができる
・ 勇気がなくても、Whistle Blowingが出来るシステムにしなければならない。その環境作りが大切である。
・ 自分達に近いこと(内部)の方が大切という文化、たまねぎ文化の悪を取り除き、大きな視野ができないものかと思う。
・ 国民的合意形成に幼児教育が大切とのお話しであったが、幼児教育は使命感だけでなく、科学技術に対する夢を与える教育であってほしい。
・ 東電問題は、まずリスクコミュニケーションが上手くいっていなかったことを認めてほしい。判断は相手にゆだねるという覚悟が必要。素人にまかせられないという気持ちも分からなくはないが、非専門家の意見をきくところへ立ち返りたい。
・ チェルノブイル事故の時に、一般の人が知りたかったことは子供に飲ませる牛乳の安全性や雨にぬれても安全か、といったことであった。しかし、原子炉の種類が違う、だの日本ではおきないという答えばかりであった。リスクコミュニケーションとは、素人に対して、素人が自分で判断できる材料を包みかくさず出すことである。
(4) 質疑&全体討論
北村座長が会場から出た質問を整理して代読。質問は本日の講演者の糠沢氏に対するもの、林氏に対するもの、その他があり、回答者の指定がないものについては座長が参加者の中から回答者を指名する方法で進行した。
北村座長
では最初のご質問から紹介する。内部告発はそもそもなぜあったのか。30年来の信頼があったにもかかわらず、もっと以前に発表することはできなかったのか?
この質問の最初の部分についての解答であるが、告発者が解雇されたから告発したというのが現時点での一つの解釈である。なせ解雇されたか本当のところは分からないが。2番目の質問に対する答えは一言で言えることではないので、今回のこれからの議論、または今後の電力、お役所の対応を通じて明らかになるだろうと思う。
北村座長
林さんへの質問。経験的に、規制やルールを強化すると組織内のモラルが下がると思うが、どう思うか?
林 氏
詳しいことはわからないが、昨日の学会で福島県知事が「東電も国も体質改善が必要」と強くいっていたようにTVできいている。同感である。立地町村の住民は活性化を素直に喜んでいる。住民は電力会社には何も迷惑をかけていないのに、電力会社はなぜ迷惑をかけるのだろうか。その辺りの倫理の問題である。規制が厳しい云々よりそれ以前の心の問題だ。
北村座長
メディアに対しての要求が何件かある。原子力関係者にはメディアの偏向報道がこういう状態を作ったのではないかと思っている人間が少なからずある。個人的には原子力のあり方が問われている今、メディアが云々ということは口が裂けてもいいたくない。自分達がやることを先にやってから言いたいと思うが、そういう気持ちが若干あることも否めないし、会場からこのような質問が多かったので敢えてお聞きしたい。
糠沢氏
内部告発の件は、告発の動きがあって、思いとどまるように説得され、それをきかずに解雇されたのかもしれない。よほど腹立たしいことがないと、そういう行動には出ないだろう。
民放で倫理委員会を作っている。ニュースなどの報道とワイドショーとがあるが、ワイドショーは週刊誌と同じ切り口で予想記事に近いものがある。過剰報道である。高度経済成長とともにタガがゆるんだことは、反省すべきだと思っている。ワイドショー手法は何から何までほじくりだす、あることないことに近いことしており、一部の報道現場がその手法を真似なかったといえば嘘になる。
オウム真理教の坂本弁護士事件の時、TBSが坂本弁護士の一問一答のインタビュービデオを放送前にオウムの幹部にみせていた。これが殺害の原因であった。こういうことだったら許されるだろう、と自主規制がなされないまま放送している。
大いなる反省期で、今は相当きびしく、たとえば報道現場であればデスクでチェックしており、Key局のミスは地方放送局がこぞって指摘して改めるようなシステムを構築しなおしている状況である。
北村座長
林さんの言葉の中で「知りたいことにすぐ答えるシステムが欲しい」というご意見があった。非学会員から同感であるという意見があり、学会員からはどういったシステムがあると良いのかという質問があった。大学院生からは「暇だから出向いていって説明しても良い」という意見もあった。その他には「電話窓口があると良いのですか」、「定期的に座談会をするのが良いのか」、「専用のTVチャンネルがあれば良いのか」、といった質問がある。
林 氏
私の意見はそれに尽きるのだが、じゃあどうしてほしいのかいえないのがつらいところである。電力会社も今までに色々やってくれたけれど、なかなか飲み込めないのも事実である。今回も事件後すぐに地域住民を1戸毎に訪問したらしい。今時、昼間家にいるのは年寄りだけである。誰もいない家が殆どである。誠意だけは伝わるが。高学歴社会となり、人間の価値観は様々である。この方法ならばっちり、という方法はない。色々な方法をかみ合わせて年寄りには年寄りに、子供には子供に、女性には女性に、複雑な色々な方法をとって理解を深めるしかない。
別府教授
まず聴くことから始めてほしい。媒体をどうのといった問題ではない。いっせいに効率良くということも必要だが、最終的には個人的コミュニケーションになってくる。たとえば環境人間工学部では文系の学生もおり、放射線すら理解できない学生もいる。そのような学生にむかってα線、β線の説明をしても理解できない。「放射線を閉じ込めているから大丈夫です」と説明しても「閉じ込められた放射線が暴れ出さないのか」と不安に感じる学生もいる。
北村座長
情報を与えることでなく共有することがコミュニケーション。自ずと個人的にならざるを得ないということを覚悟してかかるべきである、ということだろう。
次の質問に移る。福島の原子力発電所は福島に本社を置く会社が運転し管理すれば良いのではないか?安全管理を中央にまかせずに福島県民が管理するようなシステムで行えば良いのではないか?
糠沢氏
質問者に対して逆に質問したい。首都圏の電気を永久に福島、新潟から送り続けなければならないのかという問題がある。お台場に作った方が送電ロスが小さいのではないだろうか?私見であるが、今回の29件は技術的にはおおむね安全だと思っている。安全の過信がデータ改ざんにつながった。社会的安全が根本から覆り、技術的安全をおびやかす、おびやかしつつある。国のしかるべきところが、一歩も二歩も踏み込んで安全対策を行うべきである。現在は電力が前面に出ている。職務権限だけもって責任を全て電力にとらせているようにみえる。
田中前部会長(元学習院大学教授)
福島県が原子力発電所をもったり運転することは、ちょっとどうかなと思うが政治学の人間としての角度からみれば、原子力発電所を建設し維持しその安全を確保するということに関する利害関係者を考えると、その利害関係者で最も大きなものは地域の住民であり、地元や地方自治体である。分からないことを、分からせるような説明を求めることなどはどんどん行った方がよい。地方の時代がスローガンで止まっていて、中央に対して遠慮しがちである。どういう形で誰にいったら聞き届けてもらえるのか、といった道筋がはっきりしていない。国はその道筋を示すべきである。マスコミも責任がある。地方自治体がそれをできていないなら、マスコミが地方自治体、地元に代わって社会の骨格としてそれをなすべきである。
北村座長
関連するものがもう1件。立地住民の方からである。福島、新潟は首都圏に生活物資を供給しているが、首都圏が利益ばかりを受け、地方が害ばかりなのだろうか。トレードオフはないのだろうか、との御質問である。地方が不利益ばかりを蒙っているのか?ということだが。
糠沢氏
我々が納める税金の2/3が国税で1/3が地方税である。ところが使うほうは地方が全体の税金の2/3である。ということで1/3の税金を地方に持ち帰るための陳情合戦になる。急速に権限委譲は進んでいるがお金の手当てがついていっていない。佐藤知事の核燃料税もそういうところに通じている。地方が工夫をしてお金を作っていかなければ、いざという時に動くことができない。発電所は雇用の場であり、決して一方通行だけだとは思わない。双方向であることは認めるので、地方の立場でもう少し考えていただくと、コンセンサスが前進すると思う。
北村座長
次の質問に移る。人間、もしものこと考えねばならない。もし今回爆発がおきていたら被害は福島県1県ですむのか、東北全体に及ぶのか?この回答は会場の柳沢さんにお願いしたい。
柳沢氏
爆発したらというお話しであるが、シュラウドのひびが核反応にすぐに影響するものではない。原子炉の中の様子が徐々に変わっていくことが仮にあった場合にも、制御装置、計測装置で原子炉の様子は運転員が監視し、まずは原子炉を止めれば爆発は起こらない。今回の事象では必ず何かあれば止められたと感じているので、爆発があるとは思っていない。
仮におこった場合に更に他にという話しであるが、JCOの事故以来、国では防災を相当強化し、各発電所の周りにはオフサイトセンターをつくり、国あるいは県をあげて防災に対する備えをしている。一つで何か起こった場合には確実にそこで抑えるという体制も出来あがっているので安心してほしい。
北村座長
原子力の専門家は概ね同様のお考えだと思う。一般の方々は発電所を見て怖いと思うと、次ぎはもし爆発したらどうなるのかと思う。専門家は笑い飛ばすが、一般の方にとって一番怖いのは爆発であり、大量の放射性物質の漏れである。「爆発しません」、ではなく「なぜ爆発しないのか」を分かるように説明しなくてはならない
そろそろ閉会時間となったが、どうしてもという質問があれば挙手願いたい。
会場参加者
福島県郡山市からきた。県内ではあるが離れているのであまり地元意識はない。高校で物理を教えている。原子力について生徒達に話すのは新聞記事やTV報道によるしかない。学会員の方、原子力専門家の生の声で、今原子力について高校生にどう話すのかの意見をききたい
北村座長
会場には回答したい人はたくさんいると思うが、原子力について、とは一般の原子力災害のことか、今回の東電のことか?
会場参加者
原子力一般の技術のことで、一言で述べるのは難しいと思うが。
北村座長
コミュニケーションは最終的には個人的にならざるをえない、というのが今回の結論であり、今のご質問には、ボランティアで回答する学会員が多数いると思う。よって終了後に個人的にご回答させて頂きたい。