第7回チェインディスカッション
日本原子力学会 社会・環境部会
●チェインディスカッションのパンレットは こちら●
●当日実施したアンケートの集計結果は
こちら●
討論テーマ:「原子力と新エネルギーの現在と将来 ― 北の大地、原子と風のエネルギー…」
日時:平成13年9月20日(木)13:00ー15:30
場所:学会秋の大会A会場(北海道大学)
座長:小林好宏先生(札幌大学)
幹事:新谷(サイクル機構)、山田(東電)、千歳(三菱重工)
1.プログラム
以下の講演者の方に、今回のテーマの趣旨に沿った演題にて講演をいただき、会場からの質疑と自由討論を実施した。参加者は約150名であった。
(1)講演
・大名 直樹氏(ドリームアップ苫前 取締役)「風力発電の現状と今後の展望」
・長谷川 淳氏(北海道大学教授)「原子力の現状と今後の展望」
・鈴木 利治氏(東洋大学教授)「大規模集中型電源と小規模分散型電源の役割と課題」
(2)質疑&全体討論
2.議事概要
田中部会長(学習院大)より、社会・環境部会の役割とチェインディスカッションの趣旨および経緯の説明があった後、常任幹事の新谷聖法氏(サイクル機構)より、座長を務めていただく小林先生の紹介があった。
小林座長の挨拶
私の専門は経済学である。チェインディスカッションは市民公開の企画であり、必ずしも専門でない人も交えて社会と原子力の関係等について認識を深めることが目的である。素人の立場で率直な疑問を提起してもらい、専門家の立場からのお話を伺うという形で進めたい。素人という立場で以下の問題を提起したい。
・ 核燃料サイクルがスムーズにいっているようにみえない。長期的にどうなるのか?
・ ヨーロッパは脱原発でアジアは原子力を進めているのはなぜか?
・ 新エネルギーが普及しないのはなぜか?
社会全体を見たときに、集中的な管理と個人による分散的な管理があり、自由化のかけ声とともに分散化が進んだ。交通では軌道系とマイカー、通信では電電公社とインターネットであるが、同時にセキュリティの問題も出てきた。エネルギー問題と安全管理についても考えてみたい。
(1)大名 直樹氏(ドリームアップ苫前 取締役)「風力発電の現状と今後の展望」
・ 現在の苫前の風力発電は合計で52,200kW。日本全体では、今年中に30万kWを超える見込みである。現在は国の補助があり、電力会社も高値で買い入れている。
・ 1500kWの風車でも風の弱い夏場は25kW程度の日もある。蓄電池と組み合わせたとしてもコスト的には全くダメであり、ベース電源にはなり得ない。
・ デンマークでは風力発電や廃棄物発電で運転計画(発電計画)をたてているが、36時間前と6時間前の天気予報から発電量を予測している。
・ 最新鋭の原子力発電所(138万kW)の建設費が約3600億円だが、設備利用率を80%とした時、同じだけの発電量を得るには太陽光であれば8兆円の建設費がかかり、風力であれば1.1兆円かかる。
・ 新エネルギー導入の国家目標を5月に見なおし、2010年までの風力発電は30万kWから300万kWとなった。設備利用率が25%になったとしても総発電量の1%に満たない。
・ 北上山地の風力発電の計画は当初の28基案から12基に変更した。景観と自然保護(野鳥)の観点の市民団体からのクレームによるものである。今後は環境と調和していなければ進められないという新たな課題がでてきた。
(2)長谷川 淳氏(北海道大学教授)「原子力の現状と今後の展望」
・世界の原子力の現状と日本の現状と動向
・ JCO事故後に新たな法が制定され、高レベル廃棄物についても法律が定まり、枠組みはできた。今後は国民の理解と協力が問題。
・ アメリカでは原子力発電所の売買もはじまり、二極化が進んでいる。
・ ドイツでは原子力炉は19基で電力の34%が原子力である。各発電所の送電期間を32年と定めた。フランスは75%が原子力で電力を輸出している。スウェーデンでは1基閉鎖したが、電力不足に悩んでいる。ヨーロッパでは連系が進んでおり、システムとして考える場合EU全体として考える必要がある。原子力発電所の閉鎖はCO2排出量を激増させる。「ヨーロッパは脱原子力に動いている」という大くくりな視点では言えないほど複雑である。
・ 電気エネルギーシステムは安くて安定したもの、という二律背反的目標を掲げている。原子力をベース電源とした最適な電源構成が必要。大規模な投資を伴う原子力開発には逆風であるが、原子力抜きのシナリオはきわめて困難である。
(3)鈴木 利治氏(東洋大学教授)「大規模集中型電源と小規模分散型電源の役割と課題」
・ 原子力や火力などの集中型電源と自然エネルギーなどの分散型電源の役割と課題は、以下のような特性から考えることになるだろう。技術経済的特性、系統への適合性、エネルギーセキュリティ的特性、環境に対する特性
・ 小規模分散型電源には、(1)入力エネルギーの密度が疎であり、変動が大きい。(2)自然エネルギーの資源量は多いが、高品質で安定的に利用できる分は小さい。(3)電力需要の急激な拡大、大規模な需要、ユーザーの、高品位電力の安定供給を求めるニーズへの対応力が小さいなどの特性がある。
・ 大規模集中型電源は、技術的にも高度化された結果、小規模分散型電源が対応できなかったところを越えた。高度な技術をベースに、高密度と高品位を保てるようになった。しかしバリァが破れた時の被害は大きく、経済的なリアクションも大きいので、環境的負荷ポテンシャルも大きくなった。
・ 技術経済的競争における大規模集中型の優位性は、「規模の経済」に依拠している。小規模分散型電源の場合、大量生産による建設費低減がはかられなくてはならない。しかも入力エネルギーの低密度低品位のため、極く限られた条件(風力の場合、風況)以外では、経済性の改善は難しい。そのため高価格をカバーする社会制度が必要である。
・ 原子力は大型化で最大限のメリットを引き出せる電源として作り上げられてきた。ガスコンバインド方式火力も大量生産で経済性を達成できた。経済成長が続き、電力需要が大きい時に原子力は経済性の面では優位であった。今まではそうであった。しかし今はその構造が崩れようとしている。
・ 自由化によって社会経済的なシステムが変化する。長期間で投資回収できる大型システムが許されるだろうか?さらに環境問題もある。自由化、環境問題の深刻化といった状況の下では、今の原子力の技術経済的特性ではこの状況に適応できなくなり、課題となろう。
・ 環境問題を考えると、可能な限り「小規模分散型」自然エネルギーを導入していかなくてはならない。その場合、供給力の拡大可能性、供給可能量、低価格での供給可能性が課題である。火力の場合、小型でも経済性の成り立つシステムを実現した。いずれにしても、それぞれが得意な部分と特性を持っているので、それを活かしていかなくてはならない。それぞれの長所を活かし短所を補い合う形で、相互に補完させながら使用していくことが必要。原子力にとっては、小規模でも経済性が成り立つシステムに再構築できるか課題となろう。
(4)
質疑&全体討論
[参加者A]
大名氏は自虐的に風力発電の欠点を多く述べたが苫前のプラス点を紹介してほしい。風力発電といえば昔は騒音問題があったが、現在は随分と静かになった。今回発表されたデータは素晴らしく申し分ない。北海道は夏と冬で電力需要の差が小さく、本州は差が大きい。北海道は電気を本州へ売って儲けようと考えるべき。
大名氏
少し良い点もアピールする。1基ごとの出力は風によってかなり変化するが、19基まとめた出力はかなり平準化している。場所場所で風速がかなり違うからである。北海道中にちりばめると、出力はもっと平準化する可能性もある。
小林座長
北海道が電気で儲けたら良いというのはその通り。需要のピークも冬場で、本州とはずれているので、全国的にみると平準化するのだろう。他の地域へ売る場合は大規模電源である必要がある。泊3号が平成20年に完成した後であれば可能かもしれない。現在は北海道内の需給を見据えて計画しているので、それほど余剰が発生するとは思えないが、電力自由化で変わるかもしれない。
[参加者B]
鈴木先生への質問。環境オールマイティの世の中であり、環境技術が経済上のひとつの変数として捉えられるのではないか?「環境問題といった途端に思考停止状態」、という現状を打開できるのではないか?
鈴木氏
おっしゃる通り。ただし環境問題で起こっていることは、経済活動で儲ける人と環境破壊によって被害を受ける人とが別という事にもっと配慮しなくてはならない。プラスの利益は、遺産として子孫に引き継いでいくのに、マイナスについては、破棄したらおしまいということで経済活動の主体が引き継がないのは問題。環境(廃棄物)問題、放射性廃棄物などがそうである。
[参加者C]
質問ではなくコメント。原子力がマーケットにのる必要がある、という点で、産業界が起業家精神を持つ必要がある。スウェーデンのABBは国民投票の後、アジア向け輸出、北米向け輸出を考え、小型で安全で、大型炉と同レベルの経済性をもつ原子炉を考えた。当時は買い手がなかったので実証するには至らなかったが。現在はESKOM(注1)、南アフリカのPBMRであるが、小型で10万kWが100億円、100万kWを1000億円でつくるという動きがある。
[参加者D]
長谷川先生に質問。原子力のメリットについて信用できない。CO2削減により地球温暖化を防ぐというが、大量の排熱による海水の温度上昇が温暖化をもたらしているのではないか?
長谷川氏
2つの問題を混同しないように。CO2の話が全部解決しても熱汚染は残る。一部局所的に現れているのがヒートアイランド現象など。ただし、太陽エネルギーに比べると我々が出しているエネルギーは非常に小さい。
小林座長
火力発電でも原子力でも温排水の問題は同じ、と答えれば簡単なのではないか?
[参加者E]
熱効率を35%とすると、どれも残りは海水や大気に捨てている。長谷川先生はヨーロッパについて良く調べられているが、私の学生達からはオランダが良くわからない、という声が多い。温暖化で真っ先に沈むのに原子力に反対するのはなぜか、など。
長谷川氏
ヨーロッパは一国で議論する必要は全くない。水力の豊富な北欧とも繋がっており、必要なエネルギーは周辺国から調達できる。そういう市場メカニズムの中にどっぷり浸かっている。NORD
Pool(注2)という市場も整っている。
小林座長
田中部会長に質問。日本は代表制民主主義の国だが、原発や米軍基地といった迷惑施設に関する住民投票が増えている。直接住民投票をすれば反対派が勝つに決まっている。世論というものは、投票する前から分かっているといっても過言ではない。政府与党がこれらの施設の意義を認め、国民は与党を支持している、というのが現状であり、直接投票すれば反対されるに決まっている。このような現状をどう考えたらいいのか?
田中部会長
非常に難しい問題であるが、それが大衆民主主義の現実である。さらに、日本の場合は住民投票の表と裏を考えなければならない。巻町、刈羽村とも、選挙絡みの権力闘争の側面があることを理解する事が必要である。「原子力賛成・反対」、あるいは「プルサーマル賛成・反対」が表向きの対立の争点であっても、実際は保守系派閥間の対立という裏の構図のあることを土地の人びとは知っている。他方、こんにち世界的に民主主義諸国においていわゆる「NIMBY」症候群が起こっている。総論賛成、各論反対の心理、
つまり、「どこか別のところでやるならば賛成だが、私の家の裏庭でやるなら反対だ」という個人主義的な心理である。
こうした心理が集団的に強まった時に、国益と個人の利益のどちらを優先するかということが問題となる。アメリカでは「Beyond NIMBY」(NIMBYを超えた先には何があるか)について、政治学者達が考え始めている。
小林座長による閉会宣言をもって、終了。
謝辞
今回のチェインディスカッション開催にあたっては、澤村現地委員長をはじめ、鬼柳先生、杉山先生、など現地委員の皆様に大変御世話になりました。また、小崎先生には、会場掲示用の素晴らしい垂れ幕を御準備頂きました。ここに感謝の意を表します。
以上
(文責
千歳)
注1)ESKOM:南アフリカ共和国の電力公社。PBMR(ペブルベッドモジュラー炉)建設のために、ESKOM、南ア政府投資会社IDC、英国原子燃料公社BNFL、米国の電力会社EXELONなどの共同出資により2000年にPBMR社が設立された。
注2)NORD
Pool:1996年にノルウェーとスウェーデンで開設された世界初の国際電力取引市場で、その後、フィンランド、デンマークが加わっている。NORD
Poolには、スポット市場、リアルタイム市場、先物取引市場がある。北欧の卸電力市場では、「NORD
Poolを通じた取引」と「相対取引(OTC)」が行われており、NORD Poolにおけるスポット取引量は北欧4国の年間消費電力量の約2割を占めている。