第5回チェインディスカッション



日本原子力学会 社会・環境部会
 

第5回チェインディスカッション議事概要
 

註)発言内容の本人による確認が出来ないため、座長・講演者以外の発言者名は示さないが、発言毎に便宜的に番号を振る。
 

テーマ:「国民の理解を得るためには何をなすべきか?」

日時: 9月16日(土) 13:00-15:30
場所: 学会秋の大会A会場(青森大学)
座長: 鈴木篤之先生(東京大学教授、運営委員)
プログラム:
(1)基調講演:宅間正夫氏 日本原子力産業会議専務理事 

(2)パネル討論 :「社会との交信のあり方、とくに女性の立場から」
          小川順子氏  日本原子力発電広報室
          坂本和子氏  中国電力広報部
          菖蒲順子氏  サイクル機構東海事業所運営管理部
          石岡由美子氏 陸奥新報社記者
          千歳敬子氏  三菱重工原子力事業本部原子力技術センター
(3)全体討論
出席者:約180名

[議事]

常任幹事の傍島眞氏(原研)よりチェインディスカッションの趣旨および経緯の説明があった。
引き続き、 鈴木座長から、講演者とパネリストの紹介があり、基調講演に入った。

1)基調講演 宅間正夫氏(日本原子力産業会議)

(発言番号1)
はじめに、新しい技術が社会にどのように受け入れられるかを考えてみる。電気は明治時代に社会に現れ、最初は便利だ便利だと歓迎されていたようであるが、そのうちに電線の下は危ないなどといった風潮も出てきたようである。ただし、そのうち人々が電気に慣れ、受容が進んでいった。原子力も当初は夢の技術であったが、電気と同じように、徐々に抵抗が生じてきた。では、その後、人々が慣れてきたかというと必ずしもそうではない。ますます抵抗が厳しくなっている。

(発言番号2)
この違いは何か?
まず考えられるのは、電気はわれわれの生活の身近にあるのに対して、原子力は直接的に我々の生活に現れない点があげられる。また、スリーマイルやチェルノブイリでの事故の影響が大きいと考えられる。

(発言番号3)
原子力が、当初もてはやされた理由は、戦争の世紀ともいえる20世紀の当時の風潮(力の時代)、すなわち、パワーや重厚長大なものがもてはやされていたことと関連がありそうだ。それでは、なぜ今日、原子力に対する抵抗が強くなってきたのだろうか。これには、巨大技術に対する不安感(この先どうなってしまうのか)と巨大技術を扱う当事者たちの倫理に対する不信感があるのだと思う。

(発言番号4)
20世紀はもの作りによって生活が便利になった。従って、もの作りに携わる人が興味と社会のニーズに引かれて技術を引っ張ってきた。外国でやっているのだから間違いがない。やってみようじゃないか、ということでやってきた。結局、社会への影響への洞察を欠いたまま技術が入って進展してきた点があったのではないか。哲学無き技術ともいえる。技術者集団も社会のためにと一生懸命に働いてきたが、社会の変化に対する理解を欠き、自分たちの世界に閉じこもった。これが技術者と社会のギャップの原因である。

(発言番号5)
20世紀から21世紀への変わり目にある今日、生産者論理が支配する社会から消費者論理が支配する社会へと移行しつつあるように見受けられる。同時に男性原理(父性原理)から女性原理(母性原理)へ移行しつつある。力の世界は癒しを求めてきているようである。

(発言番号6)
以上をふまえた上で、それでは理解を得るためにどうすればよいのか考えてみる。「信頼の獲得」、「原子力の技術側からのアプローチ」、「教育」という3つの論点で話したい。

(発言番号7)
まず、「信頼の獲得」についてあるが、これまでは原子力の必要性、経済性、安全性といった側面で理解を得ようとしてきたが、これらは論理の世界の事柄である。現在では、信頼、環境、共生、安心といった感性の世界の中で訴えていくことが重要。

(発言番号8)
技術的安全というのは論理の世界。技術的な安全と社会的な安心は根本的に違う。技術力に対する信用がまずあって、さらに技術者に対する人間的な信頼が生まれれば、社会的な安心につながっていく。

(発言番号9)
情報公開を通じて透明性を確保することが重要。これによって技術と技術者に対する信頼を獲得していける。人間の姿が見える情報公開が大切。

(発言番号10)
市場経済では、信頼が根底になければならない。いくら安くても商品に対してあるいは企業の倫理に対して信頼感がなければその製品は淘汰され、企業も退場を迫られる。

(発言番号11)
次に、「原子力の技術側からのアプローチ」であるが、原子力のようなハードな技術そのものをソフト化していくことである。ハードな技術とは巨大で複雑、専門的、硬直的で、かつ自然と遊離しているもので、技術の世界だけで作られる。これらの逆に原子力がなるように技術の側からアプローチしていくことが大切。これからは例えば中小型炉など(身の丈の原子力)。

(発言番号12)
これからは哲学が先行して技術はそれを実現する手段として後からついてくる時代。これからの時代、哲学を発信するのは市民ではないか。

(発言番号13)
硬直性をなくしていくことが重要。長計に見られるように、これまで解は一つということで突っ走ってきた。社会が変わると以前に評価されていた技術に対する評価も変わる。解は一つではない。技術に対する評価が変わっても対応できるようにすべき。そのためには不断の研究開発が不可欠。

(発言番号14)
3番目の「教育」についてであるが、初等中等教育の重要性は言うまでもない。また、市民一人一人が社会に対して責任を持つ時代であり、公開された情報に対してバランスある、適切な、常識的な判断ができるようにならなければいけない。さらに、高等教育の中では職業倫理・経営者倫理を教育していく必要がある(企業内の教育においても)。
 

(2)パネル討論 「社会との交信のあり方、とくに女性の立場から」
 

○千歳敬子氏(三菱重工原子力事業本部原子力技術センター)

(発言番号15)
これまで、業務のかたわらPA活動に携わり、社内の他部門、女子大生、メーカー女性社員向けに勉強会(原子力のしくみなど)なども実践してきた。これまでの経験で言うと、ウラン235やウラン238といっただけで、難しい数字の話に誤解されてしまう。また、伝えたいことは3つにしぼることが大切。

(発言番号16)
次に、原子力に関する情報の受信・発信について触れたい。まず、原子力の勉強をする時に、ちょうどよいレベルの本がない。数式があるような難しすぎるものか、ごく初歩的で簡単すぎるもののどちらかである。一方、反対派が出した書物は一般の人の心を捉える。

(発言番号17)
原子力学会オープンスクールのような場を市民への情報発信に活用していくべき。ホームページも重要。原子力学会のHPは学会員向けの情報提供のみである。他の学会のページを参考に、HPも外部への発信の場としてほしい。

(発言番号18)
最後に学会への期待であるが、まず、組織の一員としてではなく、一人の人間としてのメッセージの発信を期待する。学会外への発信が有意義。その際には、自分が大丈夫だと信じていることの、その結論に至った根拠を全て公開するべきである。
 

○小川順子氏(日本原子力発電広報室)

(発言番号19)
学会員の方にこういうことを望むということでお話をさせていただきたい。今、企業の消費者に対する説明責任という意味でアカウンタビリティーという言葉がよく言われている。この事は、研究者にも当てはまると思う。大学の研究費は税金から出ることを考えると、研究成果についてもタックスペイヤーに対する説明責任があるはず。この点をまず自覚していただき、研究室に閉じこもっていないで社会に出ていただきたい。

(発言番号20)
伝えるときにはスキルがある。以下、これまでの経験から注意点をお話ししたい。わかりやすい言葉を用いることが大切であるとはしばしば言われるが、原子力とは関係のない業界の人や、主婦や、一般学生などさまざまなレベルを対象に話す場合の言葉の程度はというと、小学校6年生程度ということを米国のコミュニケーション専門家が言っている。私もそれに同意する。

(発言番号21)
1個所でもわからない言葉が出ると、その後の理解力が非常に落ち、興味も失う。語彙の選択には注意を払わなければいけない。

(発言番号22)
講演等において、聴衆の印象に残るのは、内容がわずか8%、重要なのは、その人の人間性が現れる、説明の態度や気迫、服装や、ジェスチャーといった非言語領域に属するもの。対話においては、OHPの画面と発表者が向かい合うのではなく、常に聴衆の方を向き、できればアイコンタクトで一人ひとりと目をあわせ、心を通い合わせることが重要。

(発言番号23)
一般の人は科学的な詳細な真実を知りたいわけではない。危険なものを受け入れるのだから、それに対して自分なりに納得できる落しどころを見つけたいとおもっているのだと思う。そういう人それぞれのニーズにあった情報を与えてくれることをスピーカーの方に期待している。
 

○坂本和子氏(中国電力広報部)

(発言番号24)
JCOの事故の時には、別会社のことと突き放したり、ありえないことが起きたという反応が原子力界に見られた。まずは謝罪の態度を示すべき。

(発言番号25)
「絶対に」という表現には違和感を抱かれる。また、専門家は一般の人には分からない専門用語を使いがちで、一方、専門以外のことだと逃げる。

(発言番号26)
反対派の方の話術は一般の方に受ける。推進側は迫力がない。もっと話術を勉強してほしい。

(発言番号27)
みなさんが講演の講師として地方に呼ばれた際には、その地域で十分に時間を取って、その地域を理解し、講演にもその印象などを取り入れてほしい。受けが違ってくるはず。

(発言番号28)
学会で強力なチームを作ってエネルギー関係の教科書について文部省に働きかけをしていただきたい。教科書に記述が少なくて、学校の先生の理解も不十分である。
 

○菖蒲順子氏(サイクル機構東海事業所運営管理部)

(発言番号29)
3年前の東海村アスファルト施設事故時の広報担当をしていた。記者の厳しい追及に直面したり、新聞に素人集団と書かれたり、対応に忙殺された。3ヶ月でのべ2200人の記者がプレスセンターを訪れた。テレビや新聞は不安をあおり、興味本位の報道を続ける傾向があった。

(発言番号30)
記者の人も、2,3日たつと専門用語などを理解するようになった。一部の記者は広報の努力を評価してくれるようになったようである。記者との間に連帯感が生まれるケースもあった。

(発言番号31)
事故時に住民はどんな情報が知りたいか?事故についての原因究明等ではなく、空気や水、食物が安全か自分達の身の回りが安全かどうかである。住民の求めている安全を確認し、安心感を得たいという欲求を満たすには、データをきちんとわかりやすく説明していく必要がある。

(発言番号32)
もし原子力施設で事故が起こった場合、自分の立場で何ができるのか、考えておくことが重要。

(発言番号33)
一般の人は、原子力業界全体の責任だと認識している。

(発言番号34)
原子力に対して理解してもらうための第1歩として、まず自分達の家族をはじめ身の回りの人から安心させていくことが大切。
 

○石岡由美子氏(陸奥新報社記者)

(発言番号35)
六ヶ所核燃施設の報道に携わってきた。東海村のアスファルト工場で事故が起きたとき、六ヶ所村にはアスファルト工場はないにもかかわらず、再処理工場という点で同一とみなされ、六ヶ所村は大丈夫なのかということになった。このあとデータ改ざん問題等、不祥事が何度か発生し、事態はそのたびに混迷の度を強める。

(発言番号36)
情報公開が鍵。原子力を進める上で安全はもちろんだが、地域住民との信頼関係を築くことが重要で、そのためには情報公開が不可欠。

(発言番号37)
情報公開は進んできているように感じるが、一般の住民の素朴な疑問に対し、事業の推進にマイナスとなるような情報は依然として公開されていない印象を持つ。これでは国民の本当の信頼は得られない。

(発言番号38)
情報を伝える上で、専門用語は理解を妨げる。専門用語を用いずに、記事を書くのに苦労した。

(発言番号39)
自分がまず理解することが大事。六ヶ所村や核燃料サイクルについての全体像を理解するには1年以上かかった。

(発言番号40)
事業者はできるだけわかりやすい言葉で話をすることが重要。
 

(3)全体討論

(発言番号41)
参加者A
分かりやすい説明というのは危険を伴うのではないか。例えばコルステロールの善玉、悪玉の説明は誤解を生んでいる。説明の相手を小学校6年生のレベルとするのは少し失礼だ。
物理学中心の原子力学会。最近は、学際教育を怠ってきた付けが回ってきたと思う。今回のパネリストが学会員ばかりというのはこのような企画としてはおかしい。

(発言番号42)
参加者A
テーマの「国民の理解」に主語がない。伝えることの技術の話の中で、報道中、記者と戦友になったような話があったが、そんな記者はだらしがない。

(発言番号43)
鈴木篤之座長 
広島大学で実施した時には、新聞記者の方に講演をお願いするなど、外からの意見も入れている。パネリストのうち3名は原子力学会員ではないことは申し上げたい。

(発言番号44)
参加者B
説明する相手のレベルが問題となっているが、話し手が自分の世界に閉じこもることが問題。相手が誰であるかを考えなくてはならない。大衆を細分化して、それに合わせて戦略を練る、これが出発点。

(発言番号45)
参加者C
パネリストにJCOの方がいないのが残念。JCOでやっていたウラン加工はJCOでできなくなったので、今後はJNCでやるのか。その際の情報公開はどうするのか。

(発言番号46)
鈴木座長
JNCでやるとは聞いていない。

(発言番号47)
参加者D
常陽炉の燃料を作っていたが、今後は燃料の溶液には海外から購入した中濃縮ウランを使うので、JNCでその仕事をやるのではない。

(発言番号48)
参加者E
エネルギー関係の教科書についてであるが、小中学校の教科書を分析してコメントを集め文部省に提出した。学会でも委員会を作ってやっているところである。特に文系向きの教科書。

(発言番号49)
坂本和子氏
それでは生ぬるい。文部省などへの働きかけなど、よりアクティブにやっていくべきだ。

(発言番号50)
菖蒲順子氏
茨城県では、すでに中学生向けの副読本を発刊しており、JCO事故後の反省をもとに作り直している所である。わかりやすい内容であることを期待する。

(発言番号51)
坂本和子氏
副読本は県独自のもの。2002年から総合学習の時間ができるが、エネルギ?問題に取り組む学校が少ないと聞く。そのための副読本を原子力学会の英知を絞って作り、全県に示すくらい思い切ってやってほしい。

(発言番号52)
宅間正夫氏
これまで、みなさんが話されてきたように、教育の問題は極めて重要。3つのEのトリレンマを解決するキメ手の1つは教育。即ち、3E+E ducation、4つのEとの考え方で、 原産会議でも検討していくつもり。

(発言番号53)
小川順子氏
中学校に出前講座が、計画されており、原子力学会員の方には講師の依頼がいくと思う。その際には、相手のニーズに合った相手の理解度にあった講座をしていただきたい。

(発言番号54)
菖蒲順子氏
職場で一日体験学習を担当している。現在、世間では原子力に対するイメージは悪いが、中学生の中でも将来の仕事として原子力に魅力を感じている子供達もいる。そんな子供達がいる事を忘れずに今後も皆さんに頑張って欲しい。 

(発言番号55)
石岡由美子氏
エネルギー全般の中で原子力をどのように位置付けるかが課題。とにかく原子力に関心を持ってもらうことが重要。そのためには教育が重要。

(発言番号56)
鈴木篤之座長
情報発信にさいしてはどのような情報が求められているのかを感じ取る感性が必要。学会員は外のニーズに敏感である必要がある。今日取り扱ったテーマは、1回のフォーラムでは時間的に不充分。これからも続けていければと思う。

以上

文責 第5回幹事 傍島、大森
 
 





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