第4回チェインディスカッション



日本原子力学会 社会・環境部会
 

第4回チェインディスカッション議事概要
 

註)発言内容の本人による確認が出来ないため、座長・講演者以外の発言者名は示さないが、発言毎に便宜的に番号を振る。
 

テーマ:「原子力は人類に何をもたらすか−その益と害−」

座長: 藤井靖彦先生 (運営委員、東京工業大学教授)

講演:
  「世論調査に見る原子力」−友清裕昭氏(朝日新聞)
  「原子力の役割と課題」−傍島 眞氏(日本原子力研究所)
  「守るも攻めるも女の出番」−小川順子氏(日本原子力発電)

日時: 7月6日(木) 13:30−16:30
場所: 東京大学 山上会館
出席者:約45名

幹事(大山)よりチェインディスカッションの趣旨・経緯の説明があり、議事に入る。
 

藤井座長の冒頭発言要旨

(発言番号01)
第2次世界大戦中、ドイツは南ロシアの油田を狙っていた。日本はABCD包囲陣の中で、インドネシアの石油を狙っていた。大平等戦争の動機は石油だったと言われている。エネルギーと戦争は密接な関係がある。真珠湾攻撃がマンハッタン計画をすすめ易くした。広島、長崎の原爆が日本の軍国主義を終わらせたともいわれるが、日本陸軍のその当時の「機密戦争日誌」によると、1945年8月9日はソ連の記述ばかりで、同年8月14日にやっと原爆の記述が見られるが、その内容は「原子力爆弾の威力は小」というものであった。また、冷戦終結の一要因はチェルノブイルだともいわれている。このように原子力は、良い意味でも悪い意味でも、我々の歴史に大きな影響を与える。今日は「原子力は人類に何をもたらすか」という題で、お一人につき30分ほどで講演をしていただき、その後に議論及び全体討論を頂きたい。

講演者の講演要旨

1.「世論調査に見る原子力」−友清裕昭氏(朝日新聞)

(発言番号02)
「日本人は核アレルギーがあるから」とよくいわれるがそうであろうか。戦後の日本の世論から、実際にそうであるかどうか確かめる必要がある。

(発言番号03)
戦後は、民主主義と科学技術が重要との考えが国民の末端まで浸透したのではないだろうか。まずは歴史的な流れをおさえてみる。45年被爆、53年アイゼンハワー演説、54年原子力予算が成立した。この予算案に朝日新聞は、「誰が予算を使うのか」、「軍事利用の歯止めをどうするのか」という2点に対し反対したが、原子力開発そのものには賛成だった。55年の新聞週間標語は「世界平和の原子力」であった。このころの国民世論は、原子力平和利用と原水爆などの軍事利用を区別して、前者に賛成、後者に反対となっていたと考えられる。

(発言番号04)
朝日新聞は、78年12月以降、原子力の世論を「同じ質問内容」により調査してきた。最初の調査では、原子力に賛成が55%、反対が23%であった。その後TMIの事故もあり若干、原子力に賛成する割合が減ったが、半年後、すぐに賛成する割合は回復した。しかしながら、80年代は徐々に原子力に反対する割合が増え続け、86年には逆転するに至った。

(発言番号05)
この原子力世論調査の全体的な考察として、まず、80年代には、チェルノブイリを含め、原子力船「むつ」の事故や、美浜の燃料棒破損事故などもあったが、それと同時に、とくに公害問題から科学技術への不信が増大してきたという要因があると思われる。

(発言番号06)
また、この原子力世論調査で特に注意しなくてはならないのは、男女間の差が大きいことである。女性は、80年代の早い時期から賛成の割合よりも反対の割合が多かった。

(発言番号07)
原子力は当初、石油枯渇に対する対策という面があったが、石油の可採年数は、年々伸びている。また、COP3の後、世論調査を行ったが、二酸化炭素排出を抑制するために原子力を増やすべきだという人は、それほど増えなかった。

(発言番号08)
朝日新聞は「社論=社説」であり、また内外から朝日新聞は「Yes but」だと言われている。Butの重点は時代の流れとともに変わってきており、原子力に関しては、当初は、「平和利用」であり、次に「安全性」であった。最近は、「情報公開、透明性」に変わってきた。

(発言番号09)
社説に対して外部からは賛成、反対の両方の意見があり、これは好ましい状況と思われる。
 

(発言番号10)
国際政治の場では、ある国がある政策をとっても、それは1つの政策もしくは意図であり、変わりうるという考えがある。日本の非核三原則も国際政治の場では、いつでも変わりうると思われている。

(発言番号11)
女性に原発反対が強い理由を理解するヒントの一つが作家林真理子とのインタビュー記事にあると思う。「子供ができてからのあなたの気持ちは?」と聞かれて「私は単純な平和主義者になった。」と言っていた。

(発言番号12)
また、20世紀の発明発見で功罪ともに大きかったことは、1、自動車、2、テレビ、3、原子力、4、コンピュータ、5、航空機であった。これも、これからの原子力を考える上でヒントになるように思われる。

質疑応答
(発言番号13)
Q1、COP3でもそうだと思われるが、イベントの前後におけるメディアのニュース報道により、世論が決まるのではないか。
A1、メディアは影響があるにこしたことはないと考えていて、全く影響がないと困るという面もある(笑)。メディアがどの程度、世論に影響を及ぼすかどうかは、調べられていないし、実際のところ分からない。

(発言番号14)
Q2、butの内容で、現在は「情報公開、透明性」ということだが、情報公開とは何か。
A2、平和利用や安全性というのは、一つの目標である。これに対して情報公開は、一つの手段にすぎない。情報公開の目的はやはり安全性や平和利用か。
 

2.「原子力の役割と課題」−傍島眞氏(日本原子力研究所)

(発言番号15)
最初に、原子力産業界は、人材不足に悩まされている。「原子力に行けば、沈む船に乗るようなものだ」といわれることもある。原子力産業の調査を行った結果、量は確保できても質が伴わないという企業が35%、質量ともに人材が不足していると答えた企業を合わせると53%もあった。

(発言番号16)
原子力批判を招いた原因として、次のことが挙げられる。技術面:チェルノブイルによる恐怖や不安、動燃の事故及び不祥事、その後も繰り返される事故。施策面:政策の不透明性、安全問題への不十分な対応、社会学者・心理学者が意思決定の場に参加していないこと、コミュニケーションの不十分さなどである。臨界事故は原子力体系への多くの疑問を人々にも投げかけるものであった。

(発言番号17)
反原発団体の主張は核物質輸送における秘密主義、データ改ざんは日常的、発電所は有り余っている、省エネと太陽光発電で対応可能など様々に上げられているが、自然エネルギーへの過大な期待は有識者にもある。

(発言番号18)
正しい議論のためにはデータに基いて反論する必要がある。総合エネルギー調査会の長期エネルギー需給見通しによれば、新エネルギーは2010年においても数%に満たない。また、1kwh当りの温室効果ガス排出量は、電力中央研究所の資料によれば、原子力は非常に少ない。二酸化炭素対策コストを比べると原子力が非常に優れている。エネルギー収支の比をみると、自然エネルギーは5−9倍程度であるが、原子力は82倍で、火力よりも優れている。時系列コストデータと累積生産量を調べると、自然エネルギーは一段のコスト低下は難しいと考えられる。また、EIAのInternational Energy Outlookの将来予測などから、総合的に考えて、30年から50年後の人類の平和的共存のためには、原子力の普及が不可欠である。

(発言番号19)
原子力の普及のために、立地を促進し、コミュニケーションを改善する必要があり、また安全、安心の論点を明瞭にする必要がある。

(発言番号20)
リスクは、事象の確率とその事象による被害の大きさの積で表される。これに対して、一般人のリスク感は、確率と被害の大きさの積にさらに、被害の大きさそのもの、遺伝的要因、恐怖感、知識度などの関数であるファクターをかけたものである。

(発言番号21)
技術者のできる原子力普及に対する課題は、教育活動や意思決定制度など様々あるが、人口問題等を予測するなら、世界的解決を図っていくことが必要で、次の討論命題が提起される。

(発言番号22)
命題:原子力が必要量受容され人口問題等とともに解決されないと、人類は争奪戦争を迎える可能性がある。

質疑応答
(発言番号23)
Q1、二酸化炭素対策コストのグラフがあったが、対策コストとはそれほど原子力で低いのか。
A1、そのような試算結果である

(発言番号24)
Q2、豊田利幸さんの「原子力発電は地球環境をとりかえしがつかないまで破壊するが故に人間と共存できない」という記述と、傍島先生の意見のギャップはどこから生まれてくるのか。
座長、今日配布した豊田さんの資料は、一つの例だが、そのギャップをうめるのがこのような場ではないかと思う。このあとの総合討論で議論を続けたい。
 

3.「守るも攻めるも女の出番」−小川順子氏(日本原子力発電)

(発言番号25)
WIN Globalは1993年に設立され、現在51ヶ国1850名の正会員がいるが、今年4月25日、WIN-Japanが設立された。現在、57名の会員がいる。(WIN=Women In Nuclear)

(発言番号26)
WIN-Japanの設立趣旨と目的は以下の通り。
・原子力・放射線利用を推進する立場で広報活動を進める
・正会員は、原子力・放射線分野で働く女性(趣旨に賛同の男性会員は賛助会員)
・広報する対象は、女性と若者が中心
・会員の広報業務での能力UP

(発言番号27)
Women's Energy Networkにも私は入っているが、この組織は原子力に対して中立の立場をとるということになっている。

(発言番号28)
男の人は、一度に一つのことしかできない脳の構造になっているが、女の人は理論的な話をしていても、感情が入ってくるという脳の構造になっている。(もちろん男性でも女性に近い脳の構造を持っている人もいるし、その逆もある)

(発言番号29)
女性のコミュニケーション能力は、男性にはない面もあり、したがって、広報する対象を女性ということにしている。

(発言番号30)
WIN-Japanの活動内容は以下の通り。
・年に1回、年次大会を開催する
・メールによる意見交換を行う
・原子力関連イベントへの協力
・国際交流活動
WIN-Japanの設立総会時には、多くの取材があり、新聞にも取り上げられた。

(発言番号31)
フィンランドで開催されたWIN-Global年次大会出張のおり同国の原子力発電所の見学に行った。ルビーサ発電所敷地内にある低レベル放射性廃棄物地下貯蔵所は、地下50メートルにあり、現物を直接見ることができたが、地質が岩であり、非常に安全に貯蔵が行われているんだなということを実感することができた。

(発言番号32)
WIN-Globalの方たちは、徹底的なPositive Thinkingである。放射線利用もどんどん広がっていくことや、既存の発電所も稼働率が90%近くで、非常に高いこともあり、原子力はGrowingな産業であると考えている。また、米国のガリバートクリス原子力発電所は30年の営業許可を今のような早い段階で手に入れていて、「あと30年40年保証された職場は原子力しかない」という方もいた。

(発言番号33)
原子力発電所立地地域と電力消費地を結ぶネットワーク女性活動として、「女たちの井戸端会議」と「福井エネの会」があり、自主勉強会を開いたりしている。

(発言番号34)
半原子力、脱原子力を唱える女性たちも元気で、次のような方がいる。
・京都のASさん
カリスマ的存在で持論のエネルギー政策を展開
・若狭のOMさん
やさしいおふくろ様タイプで話す姿に共感
・グループ「品川の女たち」
静かなタイプとにぎやかなタイプのコンビネーションが素晴らしい

(発言番号35)
半原子力、脱原子力を唱える女性の方々は、反体制にも関わらず、自分を失うことがなく非常に素晴らしいと思う。また、キャッチフレーズが非常に上手い。全部に共通するのは、ブレーンとして男性がしっかり後ろで支えていること。

(発言番号36)
まとめとして、原子力は人類に、とりわけその50%以上を占める女性に何をもたらしたかというテーマに対するひとつの答えとして、原子力はお茶の間に初めて巨大科学技術についての話題をもたらしたといえるのではないか。科学技術はお上に任せっぱなしでよいということはないとか、みんながはっきりものを言う民主主義を成長をもたらした。それにより、物事が、なかなかきまらないという弊害もある。また、原子力当事者サイドでは、女性の職域拡大に貢献した。これからも、科学技術に関する政策に生活者(とりわけ女性)が参加し、さらに原子力で女性の職域拡大を図ることが重要ではないだろうか。

質疑応答
(発言番号37)
Q1、男性側に求めるものはないのか。
A1、WINはまだ新しく、組織としてまだ男性側に求めることはないが、男性の意識改革を行う必要がある。

(発言番号38)
Q2、「怖い」と言う女性に対して、どのようにすれば話すキッカケをつかめるのか。
A2、女性に変装して「えっ、私怖くないわよ」と言えば良い(笑)。現実には何も定石はない。お客様のカーブに自分のカーブを合わせていくしかない。あと、相手の言うことをしっかり聞くことも重要。

(発言番号39)
Q3、私は発電所の現場で働いた経験がありますが、見学にきた方が「女性でも働けるような、安全な場所なんだ。なんだか安心だ」と思っていただいたこともありました。女性の職域拡大が重要と小川さんもおっしゃっていましたが、このことについてどう思いますか。
A3、その通りだと思いますし、大変嬉しいことです。たくさんの女性が生き生きとはたらいている仕事はそれだけで、親しみやすいし、社会にも受け入れられやすいと思います。原子力でも女性が目に見えるところで働くことによって、この仕事のイメージアップが促進されると思います。
 

チェインディスカッション

(発言番号40)
電力会社の人が本音を言うべきではないか。例えば、大間はCANDUとの関係もあり、ATRに固執し続けてきたが、電力会社は早くから腰が引けていた。電事連が動いて始めてFull MOXへ変更になったが、それまで「止めよう」と公の場で発言した人はいなかった。

(発言番号41)
朝日新聞の社論に「賛成、反対の両方から反論があるからいい」という考えは納得できない。

(発言番号42)
メディアと世論の関係を調べてきたが、まだ研究の途中段階ではあるものの、次のことが言えるのではないかと考えている。茨城、福島などにおける地元に密着した新聞の影響は地元の世論形成において重要な役割を果たすが、朝日新聞などは、全国的にならされて、傾向が見えてこない。

(発言番号43)
人間にとっては潜在的に非常に危険であるが、だからといって「魔女狩り」のようなことをしていいのか。原子力は未来起きるかもしれない事故のために切り捨てられていいのか。

(発言番号44)
1kWh当りの温室効果ガス排出量などのこのようなデータは、「原子力発電は地球環境を取り返しのつかないまで破壊する」と決め付けているようなそういう「イデオロギー」によって判断するのではなく、実験と検証を用いて合理的に決めていくべきことである。

(発言番号45)
原子力の反対派が生まれてくるのは普通のことだと思う。

(発言番号46)
人類は乗り切らなければならない試練がこれから何回も出てくると思われる。乗り切れば人類は存続し、乗り切らなければ滅亡する。(原子力の問題は、人類にとって最初の試練である)

(発言番号47)
人類はエネルギーを得るために多大な努力を行ってきた。例えば、筑豊炭田は戦前から戦後27年まで創業していたが、年間200人が死亡した。黒部ダムでは170人死んだ。

(発言番号48)
人の数ではなく原子力特有の原因があるのではないだろうか。

(発言番号49)
ダイオキシン、洗剤にしろ反対する市民運動がおきているし、原子力特有の問題を捕らえることが難しく、専門家が決めることが破綻し、人々が決めることにすれば、次々発生する問題に対応できなくなってやはり破綻するのではないか。

(発言番号50)
安全性の問題の議論は「ゼロ×無限大」の答えを出そうとしていることではないだろうか。

(発言番号51)
アスファルト工場の事故現場を見たとき、放射能はほとんど漏れていないとは直感で分かってはいたものの、あたかもチェルノブイリであるように感じた。化学工場の爆発事故を見てお大して怖いとは感じなかった。やはり「放射能」があるかないかの問題だと感じた。

(発言番号52)
電気は我々の生活に身近な存在で誰もが、200Vの電圧であれば危険だと思うが、1.5Vで死ぬなんて思うことはない。私が子供のころは、X線の機械も性能が悪く、X線の量は現在の10倍ぐらいだった。健診で9倍のX線を浴びて、死ぬのではないかという心配をみんな抱いた。現に新聞で「お母さん、僕死んじゃうの?」というタイトルが使われた。

(発言番号53)
私たちは、反原子力の人ではなく、原子力に不安を持っている人と話をしていく必要がある。

(発言番号54)
放射線を怖いと思うのは、トラウマではないだろうか。

(発言番号55)
欧州のある機関は、原子力発電所の事故で数万人が死亡するとしている(ICRPの線形仮説に基いて)。ただ、このほとんどが、低線量被曝による死亡である。もっと、公正で、多重にチェックのかかる、アカデミックな組織が、このようなシュミレーションを行うべきだ。

(発言番号56)
WHOは、原子力発電所の事故で16000人が死亡するとしている(ICRPの線形仮説に基いて)。

(発言番号57)
長計には、ホルミシスという言葉こそ入れてないものの、低放射線の研究をより一層活発にすべきだという一文が入っている。

以上

(文責)大森良太、小田潤一郎






チェインディスカッションの記録に戻る