第12回チェインディスカッション
日本原子力学会 社会・環境部会
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討論テーマ:「社会が求める透明性とは?」
日時:平成16年3月30日(火)13:00−15:30
場所:学会春の年会G会場(岡山大学工学部1号館大講義室)
座長:土田昭司氏(関西大学 社会学部教授)
1.プログラム
以下の講演者の方に、今回のテーマの趣旨に沿った演題にて講演をいただき、会場からの質疑と討論を実施した。参加者は約100名であった。
(1)講演
@望月 弘保氏(核燃料サイクル開発機構)「フランスの廃棄物処分問題に関わる社会の透明性」
A竹内 光男氏(原子力発電環境整備機構)「地層処分事業に見る透明性」
(2)質疑&全体討論
2.議事概要
宮沢部会長より、原子力と社会との関わりについて議論を進めてきた社会・環境部会の役割とチェインディスカッションの趣旨の説明があった。また、前週にハワイで環太平洋の原子力に関わる会議があり、3日間にわたり「会話・対話」の重視をkeywordとして原子力広報や社会との関わりについてのセッションがもたれたことが紹介された。続いて、座長を務めていただく土田教授の紹介があった。土田教授は社会心理学が専門で、日本社会心理学会、日本リスク研究学会など数多くの学会で勢力的に活躍されている。原子力と社会との関わりという観点では、原子力安全研究協会の地層処分の安全性の理解促進に関する専門委員会の委員長を務められた。
(1)土田 昭司 氏(関西大学)
・70-80年前は大学を出ただけで学士様とよばれ、大卒はエリートだった。一握りの特殊な能力をもって社会に貢献する人達であったが、民主主義社会になってこれが変わった。人々は権力の平等化、財の平等化、教育の平等化によって「知的レベルにおいて差はない」、との幻想を抱いている。
・専門家の権威が低下している。ある意味で幻想であるが、社会としては専門家の方がバカだと思う傾向さえある。人々は自分が理解できることでなければ信じない。
・コミュニケーションにおいて、送り手が「情報・思考・感情」を発信しても受けて側がこれを解読するコードをもっていなければ伝わらない。解読できない情報は発信されなかったことと同じである。社会とコミュニケーションをとりたいのであれば、受け手に同じ意図で解読されるように発信しなければダメである。
・透明性のある情報発信とは、受け手にとって理解可能な情報を、受け手の世界観(情報観)を踏まえて発信することである。たとえば一般の人から「怖い」、と思われる時には、どのパラメータが怖いのか分析が必要である。
・原子力学会くらいの広範囲の技術が含まれる学会になると、全てのセッションを理解できる人はいないだろう、と聞いた。素人には理解できないので、結局は浪花節であるが、「信頼される発信者になること」しかできない。
・科学的真実のみを伝え中立性を保つこと、説明(妥当性/信頼性)、予測可能性、コントロール可能性(こうすれば事故はおきない等)を示すことが大切である。都合の悪いことも話すことが効果的。また、組織の方針に哲学(普遍/不変の価値観)があり、自分が正しいと思うことを愚直に情報発信できるかどうかにかかっている。
(2)望月 弘保氏(核燃料サイクル開発機構)
「フランスの廃棄物処分問題に関わる社会の透明性」
・2000年から3年間パリに滞在した。サイクル機構のパリ事務所勤務時にはCEAや欧州各国と協力体制をとっており、その時に入手した情報をお話する。
・島国日本と違い、ヨーロッパは陸続きである。ドイツは原子力をやめる方向にあるが、フランスからドイツへは多くの電力が流れており、ドイツは「原子力はよその国から買えば良い」との考えである。
・フランスでは化石燃料が乏しいが原子力のおかげで電力の15%を各国に輸出している。
・ヨーロッパでは2007年の7月1日に電力の完全自由化を達成しようとしている。
・フランスには原子力発電所は58基あり(殆どが川沿い)、火力発電も含めた総発電量は2002年で511TWhであり、日本の約半分である。人口は日本の半分、国土の有効面積は日本の約10倍である。電力の78%が原子力、火力が5%程度、風力などの再生エネルギーは1%以下、水力が15%程度である。国としては今後再生可能エネルギー(水力も含めて)を21%くらいにまで上げようとしている。
・フィンランドは国民が討論し原子力を選択した(EPRが建設される)。太陽光は選ばなかった。その理由はパネル製造時に多くのSOxを排出するからである。
・EUの指令として2008年までに放射性廃棄物の処分サイトを決定し、2018年までに運転開始する、ということが決定している。
・フランスの政治は中央集権である。2002年に新しい政権になったが、原子力に反対しているのは緑の党3人のみである(全体で500名程度)。
・2003年3月より、エネルギーに関する国民討論を開始した。70%以上の国民は原子力は独立を保つ上できわめて重要と考えている。
・原子力発電所の建設は通常の大型工事の手続きと同じで、まず政府がインフラを整備する。フランスではまず、法律を作り、その後は法律通りに進めるというプロセスをとる。インフラを整備し、関連企業の誘致の手続きをしなければならない、と全てが法律に明記される。住民へ保証金を払うことはせず、インフラを通して地域の反映を培う。
・大型エネルギー施設に関する地方情報委員会が組織される(議員が最低半数。その他労組や地方支部代表、公認環境保護団体など)。議長はエネルギー担当大臣に意見あるいは勧告することができる。住民に対して、被曝リスク等色々な情報を出している(Letter形式)。住民への情報は会社・機関からダイレクトに出されるのではなく、情報委員会を通じて(住民が理解できる情報を確認して)出される。
・「生データを出す」ということが話題になるが、フランスの場合には理解されない生データを住民に提供しても意味がないと考え、地方情報委員会で必ず住民に理解できるように加工してからデータを出している。
・全15条からなる廃棄物法がある。廃棄物管理庁(ANDRA)はこの法律に基づいて事業を行っており、設立から15年以内(2005年まで)に評価結果を出さなければならない。研究サイトにおいては、地方情報監督委員会が設立され、委員会は少なくとも年に2回、公開で行われる。
・ノルマンディのラマンシュには低レベル廃棄物の処分場があったが1994年に予定量の処分を終え、土をかけてグリーンにした状態で閉鎖し、現在は施設から流れ出る水の管理を実施している。低レベル廃棄物の処分場として、現在オーブの処分場が稼動中である。
・高レベルは2006年に方針を決める。現在は粘土層と花崗岩層への処分を研究している。花崗岩層の研究は国内にサイトがないので他の国の研究データを用いることになる。
・ドイツ、スウェーデン、スイスで地層処分の研究が進められている。
・2003年3月18日のパリを皮きりに国民エネルギー討論が行われた。バタイユ氏が中心で、フランス中をさらに5−6ヵ所回った。原子力は将来のエネルギーなのか、間違った選択なのか、を議論した。このような議論が大事であり国民の理解を得て処分地を決めたいと思っている。
(3)竹内 光男氏(原子力発電環境整備機構)
・高レベル放射性廃棄物の処分地を公募中である。地下は3km四方、地上は1km2が必要である。処分施設の公募は初めてである。
・法制度に見る透明性としてはH10.5.29の原子力委員会「高レベル放射性廃棄物処分懇談会」で「制度組織の透明性を確保」と記載されており、特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律の中でも、第60条に「透明性を確保」と書かれている。なお公募しろ、と法律に書かれているわけではない。
・処分費用をNUMOではなく原環センターが取り纏めていることも制度としての透明性確保の一環である。
・調麻佐志氏は開放性/透明性を「組織の外部からでも知識生産の過程で誰が何をしているかを知ることができる」としており、ロスアラモス国立研究所では「自らが公表した活動のみを実施していることを外部の者に確信されるための自発的な情報公開」を透明性として例示している。
・情報の非対称性が存在する情報を「透明性がかけている」と定義している。
・もっと身近な問題として食の安全という形でリスクコミュニケーションが進められている。ここでの透明性は「客観性と外部による検証性、実行後の再評価の保証による信頼性確保の仕組みを指す」とされている。
・公開とは相手が情報に自由にアクセスできる権利であり、透明性とは自分が発した情報が内部でどのように処理されているかを知る権利である。
・透明性は目的であり、情報公開はその手段のひとつである。
・NUMOは国による確認のしくみがあり、情報公開についても「情報公開規程」を策定し情報公開請求への対応のために2つの外部委員会を設置している。ホームページでも情報公開請求の流れを示している。
・H15年11月中旬~12月下旬に高レベル放射性廃棄物に関する情報公開の認知度を、大都市で1009名を対象にアンケート調査を行った。結果は約3%が情報公開されていると答えるにとどまった。
・情報公開と双方向コミュニケーションが必要である。透明性から信頼感醸成へ、そのために情報公開と住民参加が橋渡しとなる。
(4)質疑&全体討論
会場参加者A
いくつかコメントしたい。
・NUMO自身が「Negativeなものをどこかにもっていく」という感覚から抜け出ていない。100年単位でコミュニティを形成できるのだ、という話が全くでていない。
・広報における情報のコード化が間違っている。安心・安全というKeywordが使われているから誤解を生じる。鳥インフルエンザの時に兵庫県知事が「民間には流通していないから安心して下さい」といった。安心を伝えるとのミッションが強いが故に誤ったのではないか?他のミッションがあると、科学的真実のコード変換が間違うことがある。
・フランスでは被曝リスクを報道しているというところに学ぶところがある。一般の人に正しくリスクを広報することで安全が得られ、結果的に安心に繋がるのである。Securityという安全とSafetyという安全を発信側が区別できていない。Managementすることによって得られるSecurityは、情報を公開し皆に協力してもらえなければ達成できない。
望月氏
・フィンランドではサイト選定に住民が参加している。若い世代ほど、CO2の問題を解決しなければならない課題と考えている。自分のゴミは自分で処分するという考えである。
・スウェーデンでは、原子力発電と廃棄物問題とを切り離している。廃棄物の危険性を冷静に判断し、サイト誘致のメリットも判断している。
土田教授
・Riskには危険という意味があるがRiskをおかすのは裏に利益があるためである。どうして原子力を語る時に利益のことをもっと表に出さないのだろうか?利益が目にみえないのが要因か。自動車は自己管理型のリスクであるが、他人に管理をおまかせしなければならない原子力。住民を「利益を享受する当事者」として巻き込まない限り「やめろ」で終わってしまうのだろう。
・地層処分に関して、かつては交付金というお金で解決してきたが、これからは精神的豊さや誇りを求めるべきではないか?ババをひく、のではなく、処分をひきうけることは尊敬を集める立派な行為である。地層処分はコソコソしなければならない事ではない、といった広報こそが必要であり、安全はその次ではないか?
会場参加者B
・原子力は科学技術の問題ではなく、行政の意志決定である。NRCは議事録を公開している。プロセスをはっきりさせることが透明性である。家をきれいにしておかなければ透明な家は造れない
会場参加者C
・原発も高レベル廃棄物処分地も、今後は自治体レベルで強烈な誘致合戦になるのではないか?迷惑施設への反対運動は若層が多く住民投票ではそれらの意見が反映されるが、この世代は選挙には行かないので、国政レベルでは結果がひっくり返ることになる。
竹内氏
・概要調査地域には毎年2億円が交付される。これは国としてもリスクをおっている。地域はいつでも概要調査の中止を請求できるが、国はそれまでに使ったお金を返してくださいとはいえない。
会場参加者D
・迷惑施設を受け入れることは立派な行為である。しかし感謝の気持ち+経済的な上乗せがなくてはダメである。見方によってはいやな物を引き取ってもらうワイロかもしれないが、投資ともとれる。受け入れてくれる地域への報酬である。NUMOも受け入れ地域の持ち上げ方を考えてほしい。
会場参加者E
・原子力関係者の意識が歪んできた。朝までTVなどで反対派に叩かれたり、リスクの話をマスコミに針小棒大に取り上げられたためであろう。負の情報を発信することに非常にnervousになっていた。透明性に関しては、安全側の情報が山ほど出ているが、マイナス側のリスクの情報が殆ど出ていない。それは情報を一般の人に正しく伝える手段が限られていたためである。現在は情報発信手段が整っており、正しく負の情報の発信もできるはずである。ホームページなどを利用できる。
土田教授
・情報発信は誰に向かって実施するのか?鳥インフルエンザについては、火を通せば安全であるのに、売れないという理由で出荷停止になった。流通が力を持っているからである。原子力はマスコミが力をもっている。国民の意見はマスコミに大きく影響を受ける。学会として間違った記事に何か反論しているのだろうか?地方紙では人手が足りなくて、科学のことを何も分からない記者が科学記事を書いている。
・学校の先生に対しても学会は対応しているのだろうか?
会場参加者A
・受け入れることによるメリットを示すことと、夢を示せるか、ということは違う。原子力関係者を丸裸にした時に、その地に住んで本当にその地域にいて良かったといえるか、が透明性に繋がる。100年のVisionが描けるかどうかである。
会場参加者F
・公共のベネフィットについて言及してくれていない。大きな戦略、ストラテジをたてて提示して欲しい。そのためには行政の人もいれなければならない。行政に対してきちんと物を言えるのは大学の先生くらいである。メーカや電力ではやりにくいが学会でならできるのではないか?
望月氏
・良い提案である。ポイントは教育である。フィンランドでは低学年からの教育プログラムがあり、学校の先生を対象としたプログラムがある。化学物質と放射線の環境に対するインパクトを考え、柔軟に対応する素地を築いている。
・原子力は目に見えないが感度よく計測できる
・学校の先生へのアプローチは大切
会場参加者G
・時間軸的意味での負の遺産を忘れてはいけない。行け行けどんどんの時代、30年間の無策の十字架を背負っている。それをclearするには同じくらいかかる。
・教育は、毎年トータル300人に丸1日、県の予算で原子力教育を行っている。反応は良く、子供達に教えたいとの感想もある。先生や生徒に教える地道な努力が必要。
宮沢部会長
・学会としてやるべきことがあるのではないだろうか?報道機関ともコミュニケーションをとりつつある。2年くらい前から実施しているが、効果が出るには時間がかかる。
・行政への提言も必要だと思っている。学会として1つにまとまれば、メーカ云々は関係ない。
・問題意識は共通にもっており、広い意味でコミュニケーションの輪を広げていきたい。
土田教授
・学生達も80%は原子力は利益を与えると思っている。分けのわからないものだから怖いとも思っている。大学の教員養成の学部に冠講座があっても良いのではないか?
会場参加者H
・各省庁で教育プログラムがあるが連携がとれていない。50人を集めてセミナを実施するのがいかに大変かを実感している。総合的な学習の時間で環境は重要視されている。これをエネルギー、放射線につなげなければならない。
・教育に関しては、各省庁の連携が取れていないのは非常にマイナスである。教育はある程度入っていかないと分からない問題が多い。経験をもったところが横通しをしてやっていかないと「教育プログラム」は作成できない。現在は個々がゲリラ的に実施している状況である。
土田教授
・ちょうど時間となった。このようなディスカッションは、ひとつの解答を求めるものではない。本日は充実した議論ができた。今回はここで終了とする。
以上