第11回チェインディスカッション
日本原子力学会 社会・環境部会
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日本原子力学会
社会環境部会・ヒューマンマシンシステム部会・倫理委員会 合同企画
公開討論会(第11回チェインディスカッション)
開催時間 2003年9月25日 13時〜16時20分
座長:古田一雄(東京大学 ヒューマンマシンシステム部会幹事)
討論テーマ:「停電の危機に学ぶ 〜原子力に対する信頼回復は進んだか〜」
講演1:東京電力 田中治邦氏「夏の電力危機の教訓と信頼回復への取り組み」
講演2:柏崎商工会議所 内藤信寛氏「信頼回復・危機回避の努力を地元はどう見たか」
講演3:静岡新聞 谷川治氏「新聞記者から見た危機」
ショートコメント1:原子力学会倫理委員会委員長 西原英晃氏「倫理委員会からのコメント」
ショートコメント2:産業想像研究所 森信昭氏「原子力安全規制のあり方―過去の教訓から学ぶもの」
ショートコメント3:東京都地域婦人団体連盟 飛田恵理子氏「供給責任と信頼のネットワーク」
ショートコメント4:静岡県地域女性団体連絡協議会 夏目智子氏「消費者の本音」
配布資料:
アンケート
質問コメント用紙
東京電力 田中 治邦 氏 発表OHP資料
倫理委員会からのお知らせ
・宮沢 社会環境部会長挨拶
主催者側からの挨拶。
7名の講演者を迎えて開催できて感謝している。
チェインディスカッションは、原子力の「チェインリアクション」から名前を取っている。
社会環境部会は、技術屋の集まりの原子力学会では異質。社会的な影響を考えるものの
集まりである。今年は、技術的な問題の不適切な扱いから、停電の危機を招いた。このような
社会への影響は非常に重大である。
今回は、原子力に対する信頼回復は進んだかという副題を掲げた。このような問題は様々な
視点から考えることが必要。今回は、ヒューマンマシンシステム部会・倫理委員会との合同で
共催することとなった。本日は活発な議論を期待している。
1.講演
講演1:
東京電力 田中 治邦 氏
「夏の電力危機の教訓と信頼回復への取り組み」
・東京電力としてのお詫びの言葉が述べられた。
「原子力発電所の点検等に関する不祥事のために、立地地域を始め広く社会の皆様のご信頼を裏切り、
また原子力に取り組む方々の長年に亘るご苦労を踏みにじることになり、深くお詫び申し上げます。」
・原子力に関する一連の問題についての経緯の説明
-GE社から指摘された29件の事案
GEから原子力安全保安院へ:「東京電力は、炉内構造物の自主点検で見つかった20数件の問題を
国へ報告せず、あるいは事実と異なる報告、勝手な修理をした疑いがあり、GEの協力は全て東電の
指示によるもの」
-再循環系配管の「ひび」8件を報告せず
過去の自主点検で再循環系配管にひびを発見 その事実を公表していなかった。
-福島第一1号機の格納容器漏洩率検査における不正
「1992年の定期検査において、国の検査官が立ち会う格納容器漏洩率検査の合格を目的に
検査中に密かに格納容器へ空気を補給」
行政処分を受ける(1年間の運転停止)
・一連の不祥事に対する対応についての説明
設備の点検を確実に実施/格納容器漏洩率検査を公開の下に実施
再発防止対策への取り組みの強化/情報公開の拡大と透明性を向上
地元住民の方々にとっては、国の再発防止策、国によるプラント毎の安全確認が大切
順次、原子炉を停止して点検。今年の4月15日は全機停止
・夏の電力危機への対策
一日の最大電力に対応して供給できることが重要
最大電力は昭和44年以降、冬ピークから夏ピークへ変化/特に夏の電力需要の増大が顕著
夏は昼間にピーク、冬は夕刻にピーク。端境月と夏期では2500万kWの需要格差あり。
夏期の最大電力は、最高気温1℃上昇あたり170万kWの違い
今年は「猛暑高需要」を想定。 6450万kWを想定
これまでの実績を考えるとこれは不合理に大きい想定ではない。
過去の最大電力実績
平成13年7月24日 6430万kW(供給力 6625万kW 原子力 13基
他電力会社から80万kWを受電)
平成14年8月1日 6320万kW(供給力 6624万kW 原子力 15基)
・供給側の対策(水力、火力)
-保守停止計画を全て前倒し後送りで調整
-全水力発電設備 160カ所を運転
-火力は25発電所 70基を運転
スタンバイを起動、長期停止を補修して運転再開
・今夏の供給力(原子力除く)
-原子力を除く供給力 約5930万kW
当社設備で発電 4070万kW(水力 710万/火力 3360万)
他社設備から受電 1600万kW
追加供給力 260万kW(試運転電力、自家発の余剰電力供給、増出力運転)
・需給のバランス
猛暑高需要の想定値6450万kW
原子力を除く供給力 5930万kW
原子力が無ければ約500万kWの不足
予備力として更に300万kWが必要
受給バランスの面から原子力7−8基の運転再開が必要
・事故停止の実例
台風による送電鉄塔の倒壊等、本年6月以降も、実際に最大150万kW程度の
計画外停止が発生
・需要側の対策
受給調整契約の確保(計画調整契約、随時調整契約)
節電のお願い(でんき予報の実施)
・原子力の地元の皆様へのご説明
大型の住民説明会
行政区単位の住民説明会
PR館などで多数のミニ説明会
立地市町村で全戸訪問 等
・原子力プラントが徐々に運転再開
7基 758万kWが地元の了解を得て運転を再開
-柏崎刈羽6号機 5月9日 運転再開
-柏崎刈羽7号機 6月20日 運転再開
-福島第一6号機 7月13日 運転再開
-柏崎刈羽4号機 7月25日 運転再開
-福島第一3号機 8月16日 運転再開
-福島第ニ1号機 8月31日 運転再開
-福島第一5号機 9月12日 運転再開
・夏の電力需要の実績
-伸びなかった最大電力
最大電力の実績:5736万kW(9月11日 15時)
これは平成13年度実績(6430万kW過去最大)を大きく下回る
-想定最大需要に対し供給力はぎりぎり
しかし、電力需要の実績は遙かに低かった。
今年の最大電力の実績は9年前を下回る水準
・電力需要が伸びなかった理由
-記録的な冷夏
-家庭/企業の節電の協力が得られた(130万kW程度 原発一基分)
-エアコンの使い慣れが進まなかった
(エアコンの使い慣れ効果;暑さの累積効果により、同じ気温帯でも需要水準が上昇)
・最大想定需要が発生していたら、原子力が無くては乗り切れなかった
原子力は一年間の総電力供給量の40%以上を担っている。
・今後の取り組み
プラントの点検、補修を実施中、順次原子炉の運転を再開
・「ひび」の点検・補修の方策
-国の健全性評価小委員会の見解
「シュラウドのひびは、現時点で直ちに補修を講じる必要はないが、
今後適切な頻度で点検を実施し、実際の進展状況を把握すること。」
「再循環系配管のひびは、改善された超音波探傷試験方法によりデータ
の信頼性を確認した上で健全性評価を行うまでの間、一定の期間が必要
となることことから、その前に運転を再開する場合には、配管を取り替えるか
或いはひびを除去すること。」
-東京電力は上記の見解を踏まえ、補修の基本的考え方を以下の通り定め実施中。
シュラウドのひびは、ごく軽微なものを除き、シュラウドの健全性に影響を与えない
もの、即ち進展しないものを除き全て除去。
-再循環系配管のひびは、配管を取り替えるか、或いはひびを除去。
-地元要請に基づき溶接線の追加点検を開始
・再発防止への取り組み
-原子力部門から独立したチェック機構を設置
-企業倫理委員会を設置(相談窓口では、これまで100件以上を受付)
-原子力安全・品質保証会議(これまで4回開催 有益なアドバイス)
-情報公開に関する反省と新たな取り組み
安全に対する社内の価値観が、社会の価値観から乖離することを防止)
・地域情報会議を設置
-住民が主役、東京電力は協力する立場
-福島第一、第二発電所:「所在町情報会議」
-柏崎:「地域の会」
・反省点
-「安全」が「安定供給の確保」に優先することを徹底
-「安全」は自分たちで決めるものではない
-閉鎖的意志決定を排除
-品質保証体制を改善
・原子力不祥事の影響
-会社全体の信頼を損ねた
-プルサーマル計画が凍結
-CO2排出増加
排出原単位 0.317kgCO2/kWh(平成13年度)→0.381kgCO2/kWh(平成14年度)
平成14年度の排出量10740万トン
-収支への影響(燃料費15年度は2400億円増加の見通し)
原子力修繕費は400億円増加の見通し
・欧州での猛暑
-フランスでは1万4000人以上の死者、スイスでは最高気温 41.5度
・米国・カナダの広域停電
-2003年8月14日 16:11発生
-停電規模は最大で6180万kWh 5100万人に影響(米国、カナダ計)
・信頼回復に向けて
-事業基盤となる社会的信頼を根底から失う
-信頼回復には想像を超える時間がかかるものと覚悟
-不断の努力を継続する
講演2:
柏崎商工会議所 内藤 信寛 氏
「信頼回復・危機回避の活動を地元をどう見たか」
我々は300kmの彼方から東京に820万kWの電気を送ってきた。
東京電力 柏崎・刈羽原子力発電所の概要についての説明があった。
今から34年前 昭和44年に誘致を決議。昭和60年 9月1号機運転開始。
昨年まで17年間無事故で運転してきた。こうなると我が町に原子力発電所が
あるかどうかも意識しないくらいに、住民に溶け込んでいた。17年かけて
東京電力と地元の信頼関係を築き上げてきた。
この発電所は一年間に600億kWhの電気を首都圏に送ってきた。これは東京都が
消費する電力の8割近くを占める。
1−4号機:柏崎市 5−7号機:(刈羽村80%、柏崎市20%)
(余談であるが、プルサーマル計画は3号機。これは柏崎市に属する。刈羽村が住民投票で
NOを決めたが、これはおかしなことである。)
柏崎刈羽原子力発電所の特徴
・発電規模が世界一大きい
・都市型の発電所である
・誘致型の原発である(その他はほとんど電力会社側からの依頼)
・もともと石油の街(エネルギーとの古くからの関係)
・発電電力は他地域(首都圏)へ
誘致決議文:
地元就職率が29%しかなかった過疎の街であった。誘致をバネに地元活性化
国のエネルギー政策に貢献すること
トラブル隠蔽問題の経緯
平成15年3月29日 柏崎の全ての原発停止
運転再開の経緯
我々は東京へ電力を供給するという使命感を持っている。
・東電が点検状況・補修の基本的な考えを公表
国と電力は合わせて30回以上説明会を実施
・柏崎商工会議所は深く原子力に関わっている
事件後直ぐ、経済産業大臣、東電社長、保安院長に強い抗議を行っている。
平成15年4月7日 柏崎商工会議所が柏崎市長に早期稼働を要請
4月23日 東電が6号機の運転再開を地元に申し入れ
4月25日 保安院が6号機の検査結果を県・市・村に説明
5月7 日 6号機再稼働 3者協議 6号機運転再開
8日
経済産業省が「関東圏電力需給対策本部」を設置
9日 経済産業省が「夏期に向けて節電キャンペーン」を開始
マスコミ各社が電力危機回避へのキャンペーン展開
田中氏講演へのコメント
柏崎、福島共に、夏までに6基運転再開している事実も、電力危機回避へ貢献している点を強調して欲しい。
柏崎と福島の運転再開の経緯の違いを指摘
・柏崎では県知事は地元の3者協議の結果を尊重
・福島では必ず県知事が一人で決める。地元の意向は尊重されていない。
運転再開に対しては柏崎・刈羽は頑張っている。
この違いはどこから出てくるのか? 「柏崎・刈羽」には「新潟」の文字はない。
これに対して福島は県名が入っている。これが原因ではないか。
新潟の知事も今回は結構厳しかった。これは知事選があることの政治的影響では。
東電さんは一生懸命信頼回復に向けて努力しているが、発電所があるかないか
意識しないほどになるにはまだまだ時間がかかる。国の姿勢も問題。
安全・安心という言葉があるが、これは誰を信じるかの問題。国が、東電の不正を
見抜けなかったことが問題。
柏崎では、原子力保安院の体制、規制のあり方をシンポジウム等を通じて考えている。
他の地域では何も考えていないのではないか。
この問題をもう一度考えてみると、ひび、キズが本当にどれだけ危険なのかという本質的な
議論が不足している。これにはマスコミにも責任がある。
年間の見学者が大幅に減っている。東京の人と話をすると「そんな危険なところに行かないよね」
と言われた。本当に知りたい情報は、放射能は漏れたか漏れないかということ。住民が分かるような
情報提供がされていないことが重大な問題。
地域情報会議
柏崎刈羽原子力発電所の透明性を推進する会
推進団体 6名
反対団体 6名
一般団体 12名
(柏崎市16名 刈羽村 4名 西山町4名)
代表:会長(欠員) 議長(随時) 市部長
会議:準備会(3回)
予備会(1回)
本会議(4回)
視察会(2回)
運営委員会、広報委員会
広報:会報 年6回 全戸配布
インターネットホームページ
いつも議論は白熱。バトルになる。今度11月に飲み会を企画。どうなるか楽しみ。
福島では「福島県原子力発電所所在市町村情報会議」
メンバーに反対派は入っていない。年4回。
講演3:
静岡新聞 谷川 治 氏
「新聞記者から見た危機」
富士川以東は東京電力管内。5月の連休は暑い日が続き冷房機器が売れ、
暑い夏が予測された。平沼経済産業大臣が国会を抜けて全国を行脚、お詫び
に回った事実が、ことの重大さを物語っていた。
今年の夏は、霞ヶ関でも節電の努力が見られ、ことの深刻さを語っていた。
資源エネルギー庁が「節電隊」を結成。アンケートを実施。消費者の8割が
電力危機が起こるのではないかと予測。第1次オイルショックの時は、石油
火力が7割くらいをまかなっていた。石油価格の高騰で電力供給が危機的
状況に。ネオンの消灯、深夜放送の自粛が行われた。10年後、1都5県で
280万世帯が停電。個人的にはオイルショックの時と似た状況が見られる
のではないかと予測していた。電気予報等で最大電力消費時間を予測し
節電を呼びかけたが、実際には記録的な冷夏であった。電力危機が回避さ
れたからと言って安心していてはいけないのではないか。アメリカでは大停電
が発生している。その影響は電力に強く依存している現代社会を象徴して
いるように思われる。我々は停電があることを前提にした備えが必要でないか?
静岡新聞では、MM(もっとむだなく)運動で、エネルギー節約を心がけて
いる。事業所自身がいつも停電の可能性を心がけて日頃からの心構えが
必要である。特に病院が心配であり、自家発電がどれだけの時間持つのか
不安である。
最近は、省エネタイプの電気製品が増えてはいるが、機器自体の個数が増
えていては同じことである。
今年の夏、休みの日は出来るだけ外出して、エアコンを使わない生活を体験
してみた。実際にはエアコンが無くてもなんとかなると思った。生活のスタイルを
根本から変えることを考えるべきではないか。
静岡県民に関して考えると、電力危機への危機感は薄かったように思える。
5月の東電から県側への説明では、一部の停電の可能性があることを明言
している。6月には調整契約が増えていることも報道されている。でも、これらに
対する県民の危機感は薄かったようである。
停電になると大きな支障が出ることは十分に分かるが、時には電気がない、足り
ないという状況を体験することも必要なのでないか。今の日本は停電ということを
前提にしていないが、停電があるということを前提にした社会づくりがあっても
いいのではないか。
今日の新聞を見ると、相変わらず、様々な原発関係の記事が見られる。
それぞれ実害はないレベルなのであろうが、それを信じろと言われても、
知識のない人たちにはそれを信じろと言っても無理だろう。電力側が言う
安全と、住民側の安心は全く違うのだと言うことを認識して頂きたい。
2.コメンテータによる発言
ショートコメント1:
倫理委員会 西原 英晃氏
「倫理委員会からのコメント」
・
日経の社説で‘東電の危機は回避できたか’というのがありました。これによりますと、東電問題の本質は、原発の安全性というより、原発部門の閉鎖性、倫理観の欠如そして順法精神違反という経営問題であるということです。
・
いろいろなご提言がありましたが、その中での‘正確な情報が危機管理の前提だ’ということについてお話させていただきたいと思います。このことについては、倫理規程制定委員会で議論をし、倫理委員会で色々議論しているところであります。我々の倫理規程によりますと、憲章5「会員は、自らの有する情報の正しさを確認するよう心掛け、公開を旨とし説明責任を果たし、社会における調和を図るように努める。」となっています。憲章番号には、ホームページ上でリンクがはられていまして、詳しい説明なり、行動の手引きなりに、とぶことになっております。行動の手引<情報の公開>5−2では「原子力の安全に係る情報は、適切かつ積極的に公開する。」「組織はあらかじめ情報公開に関する手順を定めておくことが望ましい。」となっております。このような内容につきまして、学会員及び会員以外の方にもよく理解していただけるように活動しているところであります。
原子力学会の会員というのは、一人一人の研究者だけではなく、賛助会員ということで組織にも入っていただいています。東京電力も勿論メンバーでして、ウェイトのおおきなメンバーであります。
・
会員はどうしなければいけないか。先ほどからお話のありました安心と安全の関係ですが、憲章2には「会員は、公衆の安全を全てに優先させてその職務を遂行し、自らの行動を通じて公衆が安心感を得られるよう努力する。」とあります。言い換えれば、信頼していただけるように行動するということです。行動の手引には重要なことが色々はいっているわけですが、どれを選んで説明するかは私の個人的なものも入ってきています。行動の手引<安全知識・技術の習得>には、2-2. 「会員は,原子力・放射線に関連する事業,研究,諸作業において,法令・規則を遵守することはもちろん,安全を確保するために必要な専門知識・技術の向上に努める」とあります。技術を向上する、専門知識をさらに高めることが‘技術者の倫理’の要と考えています。
・
最近、よく、社会の人に納得してもらうようにということに力点がいきがちですけれど、それ以前に、新しい企画などの技術的内容が、up-to-date になっていることを確認することが技術者にとって一番大事なことと考えています。
先ほどから傷の議論がございます。傷についても、科学者としての、技術者としての、適切な認識をしっかりもっておれば、なんということはなかった筈です。
・
自分の関係する施設が「安全性の損なわれた状態」である場合には、行動の手引<安全性向上の努力>2-5.の中に 「安全性の損なわれた状態を自らの権限で改善できない場合には,権限を有する者へ働きかけ,改善されるよう努める」とあります。これに関する教訓は多々ありますので、これらのことを現場で身につけていただければ、今回のようなことも起こらなかったのではないかという気がします。
・
憲章3に「会員は、自らの専門能力の向上を図り、あわせて関係者の専門能力も向上するように努める」とあります。原子力学会の会員の数は7千数百人ですが、原子力の事業に従事している技術者は何万のオーダーになります。原子力学会員は、自分が研鑽に励むだけではなく、例えば関係会社の技術者の専門能力向上にも努めなければなりません。これは行動の手引<関係者の専門能力向上>に3-3.
「会員は,専門家として自らが研鑚に励むだけではなく、専門能力を有すべき周囲の者、特に自らの監督下にある者の専門能力向上にも努力し、機会を与えるよう努める」とあります。これは、切磋琢磨ですから上から下にではなく、お互いの問題だということに気をつけていただきたいと思います。
・
次に専門能力ですが、ホームページをみていただきますと、「ある特定の業務の遂行に必要な知識、技能、資源などの能力をいうが、この能力には科学技術に関するものだけではなく、業務に関する法規制要求事項の知識、業務に関するリスク評価の技能も含まれている。」とあります。リスク評価については、これを行わないと、傷があっても大丈夫なのか、傷があって壊れてしまうのかがよくわからないことになります。
・
一番大事なことは自分たちで考えるということです。先ほどの憲章2「公衆の安全をすべてに優先させる」とは何かということですが、公衆の安全というのは原子力技術を扱うものに対する公衆の信頼感によって強化されるものであります。どうしたら信頼していただけるのかということですが、そのためには「自らの行動を通じて公衆が安心感を得られるよう努力する」ことです。‘我々がちゃんとやっているから大丈夫です。’は安心の押し付けであり、やってはならないことです。
・
以上のようなことが倫理規程に書いてあります。今回東電問題が起こって、国の規制行政も強化されて、原子力安全基盤機構も発足し、国としてきちんとした対応をされるようになりました。しかし、国にやってもらうだけでは充分ではありません。倫理規程には、原子力事業者本人、技術者本人がやるべきことが書いてあります。技術者はすべて自分で考えなければなりません。倫理規程に書いてあることを、自分ならどう解釈するのかという風に、自分自身の言葉に置き直して活動の道標にしていただきたい。 ということです。
・
ここまでがコメントですが、少しお時間をいただいてアナウンスメントしたいと思います。今申し上げた倫理規程が賛助会員などに充分浸透していないのではないかと思います。ただ東電さんをはじめいろんな組織の方々は倫理に関することをご自身で色々していらっしゃいます。我々倫理委員会としては、一方的な押し付けの講習会ではなくて、当事者の方々の声を充分うかがい、みんなが自分たちの問題として扱うようにしていくような集まりを持ちたいと考えています。
11月18日に東京でこのような会合を持ちたいと計画しています。「原子力(技術)に関する倫理研究会」というような名前をつけていますが、倫理の担当者の方、倫理に関心をお持ちのかた、一般の会員の方・・・会員だけに限りませんが・・・の参加をお待ちしております。
ショートコメント2:
産業創造研究所 森 信昭氏
「原子力安全規制のあり方−過去の教訓から学ぶもの」
・
現在は産業創造研究所におりますが、7月末まではNUPECにおりまして原子力を担当していました。その前は規制側、行政側にありましたが、OBになってから7年経っております。
・
過去、1975年位からのいろんな事故をありました。当初BWRのSCC問題、主に技術的な問題ということで、トラブルが発生いたしました。それに対して、国は、改良標準化ということで対応してきたわけです。ところが、TMI事故がおきたり、ギネー発電所で蒸気発生器の細菅がギロチン破断してみたり、あるいはチェルノブイリの事故がおきたり、というような主として外国での事故が起きるたびに、国内で色々な対策を講じなければならない。ということで、組織ができ、人数も増えてきたわけです。
・
ところがある時点、敦賀1号機の放射性廃液の漏れ、からは、原子力の事故・トラブルが事件化するようになってきました。それに応じて色々な対策を講じてきました。福島第ニ3号機の再循環ポンプ、美浜2号機での蒸気発生器の細管破断というようなものが、事故でしたが、事件としても取り扱われてきまして、教訓がえられ、新しい規制が始まりました。最近にいたりますと、技術上の問題もさることながら、改ざん事件とか隠蔽したとかで、いわゆる信頼を失うような話、それから原子力システム全体の品質保証問題に係るような話がでてきました。ちょうど原子力安全保安院が発足した途端、こういう事件が発生しまして、人数がうなぎのぼりにどんどん増えています。変な言い方ですが、事故・事件そのものも進化しつつあります。これに対応する安全規制も進化しなければならないのですが、事実が先におきて、対策が後追いしている状態です。
・
事件化しやすい背景は何かといいますと、どこかのHPにありましたが、「東電事件は、原子力村にとって、日常茶飯事だ」ということです。事件とは何かということに関連しますが、何かあると次のような批判があります。ものごとを斜めにみていることになるかもしれませんが。
日本初の仕事は。:技術は未熟であると、まず批判。
起きないといっていたではないか、それにもかかわらず起きた。:嘘をついた。
隠していることがばれた。:もっと隠しているはずである。
嘘の報告があった。:全体が信用ならない。
放射能の漏洩があった。(これは言語道断ですが)。: やっぱり怖いね。
被爆事故があった。風評被害も含め実害が発生した。:これは、もう、どうしてくれる。
規制当局で事故原因を早期に特定した。:情報操作している。
専門用語を使うと:ごまかしている。説明責任を果たしていない。
虚偽の報告や損傷の見逃し:能力がない。
事故の早期処理:運転再開を急いでいる。
電力会社の報告書を評価:追認、電力会社と癒着
日本の法律によると処分が軽くなりますが:実害のないセレモニー的処分
役所の反省事項:無責任、責任のがれ。
法律改正、組織改正:焼け太り。
・
根本的にみますと、事件化しやすい背景は 「許認可に関する判断基準が不明確」にあります。法律は文字で書きます。文字で書く限りにおいては定量化しにくい、従って判断基準が不明確なところがあるのは、報告基準を含めてやむをえないところがあります。その結果として官の裁量権が大きくなってしまいます。これは別に好んでやっているわけではありません。一方で判断根拠の説明が困難になる。だから説明したくなくなる。また、定期的な人事異動によって経験不足者が事故に鉢合わせして、説明せざるをえなくなる。その結果として説明不足になると、「なんじゃ ありゃ」となってメディアの過熱報道になる。だから関係者はなるべく報告を回避したくなる。こうなると隠蔽体質といわれる。
・
反対派の方と議論していまして、やられっぱなしのところもありますが、こちらとしては、あまり、今まで説明してきたことを変えたくない、特に裁判の場では、主義主張をころころ変えるわけにはいかない。そうすると頑なな態度をとらざるをえない。
・
トラブルが発生すると、運転をただちに停止とか、類似のプラントで停止中のものは運転の再開は駄目だとかいうことになるのを、今までは恐れていたわけです。これがまた、事件化しやすい背景になっています。
・
事件の展開の典型的なパターンというのがあります。
事件発覚から運転再開までのパターンですが、これは誰でもお分かりになると思います。
その間に、関係者の人事異動があり、経験記憶が風化し、事件化しやすい状況になり、事件が発生すると、経験の少ないものが担当ということになります。規制当局の人間は2〜3年で変わりますが、どうもメディア関係の方も短期間でお変わりになるようです。それで白紙の状態に戻り、同じようなことを繰り返すということになります。
・
その他意地悪い指摘事項がありまして、
事件化による緊急解決をはかっている。普段は解決策を講じることができないので、事件があるとこの時ばかりと、一斉に全部替えてしまう。
日本の原子力はアメリカのカーボンコピーである。
官の機能不全。事実情報を操る行政官。
東電は生贄。
電気事業法改正は焼け太り。
・
結局、事件究明をやったのか、規制への教訓反映をやったのかというようなところのチェックが求められています。日本原子力学会のような、高度に専門的な、第三者性のあるところから、色々な提案をいただけるとありがたい。これはあくまでも私見です。
・
今後の原子力安全規制のあり方については次のようなものです。
法律上、原子力規制当局が国民の付託をうけて、行わなければならないものが色々ありますが、公衆に対する安全規制行政サービスの目標設定が必要です。立ち止まらず、常に安全規制の進化を続けなければなりません。事故・トラブルも進化するので、安全規制行政部門、研究部門の強化が必要です。費用対効果を考えて、無駄な規制をやめて、必要な規制をやることです。信頼できる、専門能力、リスク評価能力を持ったプロフェッショナルが必要です。これには、説明能力も含まれます。規制行政部門に品質保証部門を設置すべきです。第三者機関による品質保証チェックが必要です。第三者とは誰か、原子力安全委員会でもいいのではないかと思っています。徹底的な情報公開によって密室性を排除すべきです。双方向コミュニケーションを推進すべきです
・
規制・被規制者が公正に議論を戦わせる被規制者による日本版NEI(米国、原子力エネルギー協会)を設置した方がよいかと思います。NEIはあるべき姿の規制、合理的な規制を米国NRCと公正に議論しています。日本にもこういうのがあってもおかしくはないのではないかと思います。
ショートコメント3:
東京都地域婦人団体連盟 飛田恵理子氏
「供給責任と信頼のネットワーク」
・
皆様こんにちは。今日は、私は専門家の皆様の前で何をお話したらいいかと戸惑いを感じておりますが、生活者の立場から、電力消費地の消費者の立場から、そして、永年、東京地婦連のサポータみたいな形で調査とか、運動に携わってきた、そういう立場から、ボランティアの立場から、お伝えしたいと思っております。
・
東京地婦連とは、どんなところかといいますと、いまから55年あまり前に婦人運動家であった山高しげりが、戦後の疲弊した社会を、女性の力を集めることによってよくしていこう、そのために東京から全国に手を差し伸べようということで、地域社会の皆様に声をかけて組織化した、そのもととなったのが始まりです。
・
団体としてエネルギー問題を考えていく場合、長年やってきたことといえば、省資源・省エネルギーです。電気の恩恵に浴しているということで、できることは何かということで節約に心がけてまいりました。その中には、過大・過剰包装の追放とか景品の代わりに増量サービスをしてくださいとかいう運動をしてきました。地球環境問題としてTVコマーシャルを調査したり、グリーンコンシューマーの眼で家電製品を選ぶ時、カタログは役に立つか・・・これは、省エネマークの発足前ですが・・・ということで、日米英仏独のカタログを集めて、見比べるということもしました。EUにはランク表示がある、アメリカにはエネルギースタンプマークがある、がしかし、日本では、省エネでわが社がトップというだけで、比較の基準がない、というようにカタログのわかり難さなどのPRもしました。その後、省エネマークができて、少しづつですが、省エネ家電を選ぶことができるようになってきました。もちろん、私どもの団体以外でも色々やっておられたことと思います。
・
数年前に家庭の中での電気に関する意識調査を行いました。そこでは、家庭の中での省エネ行動なども調べました。
・
東京地婦連は、原子力をこれからもどんどんつくりましょう、という団体ではありません。自然エネルギーにも大変興味を持っていまして、8月に、環境省が、来年から、自然エネルギー関係にも、少し予算をつけてくれるという記事をみまして、喜んでおります。風力発電のこれからの動きはどうだろうかというようなことにも興味を持っております。
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しかし、現状において、便利さを享受していく以上、高経年化した原発を安全に保って、そして、役割を果たしていただく必要があると考えています。私たちは消費地におりますが、まったく関心がないわけではなく、私たちなりにありがたさを感じ、電源立地の皆様がたのご苦労、また、ここにお集まりの皆様方がそれぞれの持ち場でご活躍いただいているということ等が、東京に電気を送っていただいているということになっているわけですので、決して感謝のこころを、忘れているわけではありません。
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ここ数年間、特に、去年から起こった出来事を考えてみます。東電の話は最初にありましたが、東電、東北電力、中部電力の原発のシュラウド、再循環系配管に損傷が見つかった10件について、国際的尺度による評価は、レベル1とでました。これは、もんじゅのナトリウム事故とか、中部電力の浜岡の配管破断事故などと同じとみなされ、‘逸脱’というところに入るケースになりました。
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今夏、電力危機を乗り切れたということは、冷夏であったとか、他電力からの融通があったとか、火力の再稼動とか、需給調整契約とか、自家発電の稼動要請とか、余剰電力の購入とか、新規参入組の協力、そして、家庭とか資源エネルギー庁などの大口需要家などの協力、官民あげての節電があって、それに色々ラッキーなことがあったからだと思います。目の前にあった危険な橋を渡りきったわけですが、この経験をどう生かしていくかということです。東電としては、供給責任を果たしたということだと思いますが、電力は各社とも地域独占性が高いわけですから、私たち消費者は・・・大口は自由化が進んでいますが・・・東電さんがあんな問題を起こしたから、中部さんよろしく、というわけにはいきません。また、電気以外も含めて、エネルギーは公共性の高い分野ですから、学会の方を含めて、安定供給の努力をいままで以上にしていただき、供給責任を全うしていただきたいと思います。
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NYの大混乱をみますと、なおさら、責任の重大性を痛感されたのではないかと思います。
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こういう問題を起こさないためにも、行政とのチェック&バランスが重要だと思っていますが、行政側にも問題があるのではないでしょうか。例えば、パブリックコメント制度で・・・どこの省庁も導入されて間がないのですが・・・実用発電用原子炉の設置・運転等に関する規制うんぬんの複雑なタイトルの意見を8月28日から9月8日の2週間に満たない位の短い期間で募集していました。また、9月18日の法令改正で、原子力安全基盤機構の設立がなされましたが、手数料があがってきています。1980年代後半から1990年代にかけての規制緩和の流れのなかで、事業者は経費節減に努力しているに、経産省は値上げをしようとしている。これは、消費者からみると納得のいかないことです。
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安全性重視と説明責任を果たすというためには、経産省と原子力安全保安院などの推進派とは別の、リスク評価・リスク分析システムを導入していく必要があるのではないかと思います。関連事業者や今日集まっている専門家の個々のところでも、私ども団体でも、評価部分と管理部分を切りはなさないと客観的にはできない面があります。どこの組織でも意見の対立があり、人間社会どこでも異なる意見がありまして、その時大事なのは、如何に反対派と交流するかということです。数の問題、多数決論理も重要だと思いますが、外部および内部の反対派の意見との食い違いを徹底的に議論し、公にすることが必要です。
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国も仕組みを変えていますし、皆様方も厳しくやられていると思いますが、記録の方法、保管や伝達の仕方、トップと現場の人との関係、下請の方との関係・・・昨今の情勢でのフリーターみたいな方が原子力の分野に入ってくるかどうかわかりませんが・・・などに専門性を如何に保つかということをやっていただきたいと思います。検査の内容について、信頼度が疑われているケースがありますが、検査体制をしっかりやるということを含めて、チェック体制をどう作るか、どのようにコミュニケーションをしていくか、の体制を整えていただきたいと思います。内部告発者の保護も十分行っていただきたいと思います。
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消費地で色々考えて、また、基準つくりにも参画しておりますので、私共の間違っているところのご指摘もいただければと思っております。
ショートコメント4:
静岡県地域女性団体連絡協議会 夏目 智子氏
「消費者の本音」
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皆様こんにちは、最後の発言者になり、締めができるかどうかわかりませんが、私は原子力発電所のあります静岡県に住んでいる極々普通の消費者として感じたことを発言したいと思っております。
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私は生まれた時から電気のある生活をしていました。従って、電気がどこにでもあって、スイッチ一つで、こんなに明るく、何にでも使えるということを、疑ったことがありません。この電気が何かの事故で短時間消えることがあっても、発電所が駄目になって停電するということを、ほとんど考えたことがありませんでした。今夏の停電の危機という話があった時、「こういうことって、実際に起こるんだ」と、アメリカの停電もそうですけれども、改めて考えさせられました。これが停電の危機について私が学んだことでした。
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何かが起こらないと、自分が恵まれた状況にいるということに、気がつかないのではないでしょうか。先ほどの話にありましたように、静岡県は1/3が東電で、2/3が中部電力です。従って、今夏の停電の危機について、県民の受け止め方に差があったように思います。全体として危機意識が薄いのですが、とりわけ、2/3が、「関係ないわ、東電さんの話でしょう。中電さんではないんじゃない。中電さんで私たちよかったわね。」というように、重く受け止めずに、軽く流してしまうことが大変怖かったということです。中電さんも隠していたことがあって、原子力発電所は止まってしまいましたが、そういうことを重く受け止めないで、停電の危機については、「東京電力さんの話よね、私たちに関係ないわ。」とすませてしまうことが大変怖かったということです。
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私は消費者団体に属しておりますので、中部電力などの企業の情報を与えていただく機会が多くあります。情報を与えていただく事、つまり知るということは大切なことです。こういう不祥事があったからこそ、企業が一般の市民に対して、より一層の情報公開を行い、理解をえようというように姿勢が変わったということは、よかったと思います。もしそうでなかったら、電力にとって、大企業はお得意様ですけれども、私どものように、月々1万円程度しか電気代を払っていない市民は、相手にされなかったのではないかと思っております。
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時代は変わりました。私ども市民でさえ、情報をさまざまな場所から取り入れることができるようになりました。一般市民に何がわかるのか、と専門家の方、企業の方がいうかもしれませんが、1回でわからないことも、何回も、何回も繰り返してみていくと、段々わかってきます。そういう意味で、市民の力、消費者の力を過小評価してほしくないということです。
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静岡県に住んでいるということは、原子力発電所だけではなくて、東海地震がダブってきます。原子力発電所は怖いけれども、地震はもっと怖い、というのは、地震は予測がつかないからです。わからないものが2重に重なった時にどうなるか、地震と原子力発電所を抱えている静岡県民はよその県とちがう不安を抱いているのではないかと思っています。東海地震に対してとか、地盤の弱さについては、中電はHPで、「安心してください」という広報を流していますが、なかなか安心という事にはつながっていません。
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浜岡原子力発電所というように、地域の名前がついていますので、新潟県と同じく、地域の力が大きいと思います。来年3月に隣の御前崎と合併しまして、新しく御前崎市になりますが、安全についても、この地域の地元の考え、首長さんの考えが基本になります。勿論、安全に対する国のお墨付きが必要ですけれども、このお墨付きがあって、首長さんがOKをだす、それを県知事が追認するという状況ではないでしょうか。これを痛切に感じましたことがありました。今まで、静岡県は、地震の防災訓練はやっていますが、これを原子力の防災と連携してやるということはなかったのです。今年の2月に、県が原子力発電に関する防災訓練をやったときに、地元の浜岡町と御前崎町が参加しませんでした。地元の首長は、「非常にマニュアル的な訓練で、地元住民のためにならない」と発言されたと思います。型どおりの訓練に意味があるかどうかは、住民に問うてほしいと思います。訓練をすることが、不安をつのらせるのではなく、不安を解消する方向にしていただければ、よかったと思います。
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消費者の話に戻りまして、食品に始まった企業の不祥事・トラブルが続いています。最近では、鉄板はないし、タイヤはないしで、自動車業界は大変です。不祥事が起きた時に私たちは何をするかというと、‘商品を買わなければいい’のですが、ただ、電力に関してはそれができないというのがジレンマです。静岡県は東電と中電ですが、あちらがいいといっても、それが選択できません。不祥事が起きても、トラブルが起きても、電力という商品を買わざるをえません。それですから、企業に‘これからは、そういうことはしない’という保証、つまり安心を与えていただく以外にはないかなと思います。
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女性団体は、原子力発電所を‘絶対NO’といっているわけではありません。さまざまな事、未解決の部分もありますので、これ以上増やしてほしくないと、私も私共の団体も考えております。しかし、他の代替エネルギーにして、高価な電力料金を払うというのも、待ってほしいというのが消費者の気持ちです。原子力発電が、発電量の三十数パーセントを占めている根幹エネルギーだという現実は、真摯に受け止めて、受け入れていきます。そういう意味でも、一つのエネルギー、原子力、だけに頼らず、電源を多様化してほしいと思います。
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本日も安全と安心は違うという議論がありました。この事件、もしくは他の事件をみまして、私たちが信用する、しないというのは、原子力そのものに対する議論ではなく、企業に対してです。さまざまなリスクがありますので、そのリスクに関しての双方向での意見、リスクコミュニケーションを十分にもってもらう事を消費者として、願っております。
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消費者は電力会社を選べません。電気を自由に買えません。そこのことをご理解いただいて、企業も真摯な努力をいただきたいと思います。
3.質疑応答と全体討論
Q:田中さんへの質問。東京電力の平成14年度のCO2排出量が増加しているが、平成15年度の排出量の見通しはどうか?
田中:まだ今期も終わっていないので、超概算であるが、原子力発電の利用率から推定すると平成14年度よりさらに2000万トン程度増加すると考えられる。ただし、電力会社はトータルのCO2排出量をターゲットとするのではなく、1kWhあたりのCO2発生量でターゲットを定めている。
Q:さらに田中さんへの質問。他電力からの融通電力にも原子力が混ざっていると思うが、他社の原子力発電所も止まっていたらどうなっていたか?
田中:融通電力の構成を確認しているわけではないが、平均すると日本では30%が原子力発電による電力なので、融通電力もその割合で不足しただろうと考えられる。しかし、即停電に結びつくわけではない。
C:谷川さんへのコメント(このテーマで議論をするには時間が足りないので紹介のみ)
バックアップ電源としての新エネへの言及があったが、新エネへの期待感が過剰ではないか?新エネをおおいに宣伝するマスコミは、一般市民に、エネルギーというものに対する誤った認識を与えるのではないか?
その他会場からの質問
宅間:夏目さん、飛田さんに御伺いしたい。昔の発電所では、外に放射能をもらすような事故を起こさない運転管理と品質管理をしており、電力会社は防災にはあまり関心がなかった。最近の事例をみると、事業者側は安全だから大丈夫だというが、立地地域の人々にとって防災は安心をあたえる要素である。安全を安心に変えるには防災がしっかりできていることが大切である。発電所も、今まで以上に防災に関心をもって、お金の面も教育面も含めて、地域と協力して防災を進めていくべきだと思っている。ご意見があれば伺いたい
夏目:今の発言を心強く受け止めた。静岡県の場合は地震と原子力を合わせた防災が重要だと思っている。その際、行政間の不調和や連携ミスはあってはならない。そういうことがあると住民に安心を与えるという点ではデメリットである。東海地震はいつ来てもおかしくないといわれている割には、原子力も含めての防災についてはあまり言われてきていない。女性団体としてもその必要性を強くアピールしていきたい。
飛田:夏目さんのご発言につきると思う。こまめに情報を出していくこと、専門知識のない人に言ってもわからないだろう、と決めつけるのではなく、状況を刻々と伝えることが大切である。命令系統が県と市町村によって違うといったことがあってはいけない。日ごろから事業者と自治体がコミュニケーションをとり、情報の開示の内容を疑わせないように、住民が疑心暗鬼にならないようにしてほしい。伝え続けること、一貫性、協力体制が重要だと思う。
森:防災の話に関連して。安全審査課長の頃に美浜蒸気発生器の細管破断が起き、ECCSが動いた。反対派から「さあチェルノブイルだ」と大騒ぎされるかと思ったが、「プラントを停止せよとはいわないが苛酷事故対策を早く講じてくれ」、との声があった。それまでは「シビアアクシデント対策をとるとことはチェルノブイルのような事故が起こることを認めることになるので防災対策はとらない」、というロジックでいっていた。反対派、地元からの強い要望で、行政指導ベースではあるがシビアアクシデント対策が進んだという経緯がある。地元の人、消費者からの発言が、規制行政にとって大変ありがたい。
4.まとめ(古田座長)
・安全と安心は違う。安心を得るためには事業者や専門家の信頼が大切。またこの信頼は、築くのは大変であるが失うのは一瞬である。
・信頼の基盤は情報公開である。情報公開が必要であり、説明責任を果たすことが大切である。
以上