第1回チェインディスカッション
日本原子力学会 社会・環境部会
第1回議事テーマ 「原子力の現状認識」
座長:日本原電 浜崎一成
日時:平成11年10月5日(火)15:00−17:30
場所:東京、大手町ビル 原電 第一会議室
出席者:40名(出席者リストはこちら)
幹事(傍島、大山)より開催経緯、趣旨、規約、今回テーマを説明し、議事に入る。
浜崎 いろんな人の考えをもとに今回のテーマを決めた。どう運営していくかについてまずチェインディスカッション(CD)の提唱者の松浦学会副会長に発言をお願いしたい。
松浦(原研) 当学会の新しい役割に社会との接点を考えることがあり、当学会誌を変えようとしており、部会活動も専門性をはずして議論を進める必要がある。連歌という文化のある中で問題をつかみ取り、次につなげていく中で、社会と原子力との関係の成り立ちを考えていく上で役立てるよう提案をした。今回の事故は社会との関係の問題を強く投げかけるものであった。それを含め、この様な場で突き詰めていくことを願っている。
浜崎 有意義な企画で、もっと早く初めてもよかったと思う。残念な事故があったが、社会との関係をみるのに重要ではあるが、ここではそこに議論を集中させることもない。原子力というものの存在は、一つの塊であり、周りから眺めるとどちらに向くべきかが分かるのではないかと討議用資料を作った(説明)。
・ 事業者が書いた原子力問題ということだが、学会の人たちにそれでよいのか、学会の活動として何をやればよいかの認識を狙いにするかどうか、同じ共通認識といっても違ってくるのでは。社会に働きかけるには深い議論が必要である。
浜崎 違った角度からの目で見たご意見は。
・ 原子力を見ようとしたときに、誰がやっているものか、大学では何をやっているか、などで3つの側面を持っている。事業者、研究者、放射線利用事業者である。、電力以外の原子力もある。アメリカでは電力以外の原子力予算への出資の方が大きいが、原子力全体を世の中の人は認識しておらず、原子力への思いこみがある。可能ならこれらも含め多面的に議論してほしい気がする。
・ 社会・環境という言葉からみると、本部会は社会が原子力に何を期待しているかを探っていくことが課題。地元の人と話をすると、社会に技術が正しく伝わっていない問題もある。NRCはリスクコミニュケーションを言っているが、学会ではどうやるかが課題である。
田中(学習院大) 次回の座長を引き受けた。2点ばかり申し上げたい。鈴木篤之先生から部会参加の依頼があったが、この部会が大事だと思ったのは、原子力の政策を世の中の仕組みに疎い人が決めていることに問題を見たからだ。女性がいないことにもショックを受けた。法曹界も男の世界だったが、近年変わってきた。原子力が宙に浮いているのは、運命的に学会が持つ体臭のようなものに賛成できない者が出てくるため。社会を教育しながら、社会に学ぶべきである。東海事故の後テレビで科学技術庁長官が出てきて、原子力が構造的にまずい面を採り上げていたが、いろんな科学分野と比較して問題を改めるべき。
・ 文学部出身ですが、広報の立場で行動している。部会に誘われて、違う発想の中に違った者として入ることに興味を持った。専門家に同化することなく、一般の人と同じ目線で活動して行く。大衆の中に入って1つづつ伝えていかなければ。
・ 東海村にいて仕事をさせてもらっている。妻と娘と議論が食い違っているが、事故で中性子が出たことの説明がテレビで安全委員長からあった。「死の灰が降った」との週刊誌広告があって、中をみると放射化ナトリウムのことでしかない。食い違いが大きいのを何とかしなくては。
・ 元メーカーの人間だが、以前は原子力を生き甲斐にしていたが、この2年原子力から断絶してものをみることを心がけてきた。部会ができてCDの位置付けが大事だと思っって参加した。コアグループの活動をみても、更なる新しい問題を発信していく場としてCDが重要である。具体的テーマがあるときはそれを詰め、ないときにはフリートークを広げていくとよいと思っている。社会に利用されるときに、社会との係わりを大切にすることが必要で、マスコミと原子力屋が接点を結ぶ前向きの努力をお願いしたい。
・ 原子力が国の政策であれば、国民の認めるものでなければならない。一般大衆の信用を得るには担保=QAが必要。PAの前に自らの側でQAが必要。日本では経験則により文書によらない傾向があるが、曖昧さが事故につながる。PAを立ち戻って見直す必要がある。
・ “もんじゅ”事故調査でQA問題がベースにあることが分かった。QAの根っこは性悪説に基づくべきで、あの事故の背景はサボタージュに近いと思っている。
・ 絶対に安全をいう傾向が事業者にある。そのため防災訓練をやらない。海外では訓練をやるから安全という説明をする。その違いが欠陥を露呈する。
・ 日本人が訓練を嫌うのは戦時の防空頭巾の避難の無駄さが身にしみているせいではないか。地域の防災訓練でも痛感する。
浜崎 地域差もあるかと思う。根本的な差は何か。茨城でなくよその県で事故が起きていたらどうだったか。
・ 原研を辞めて3年。ここは基本的に文化系の人のほとんどいない場であり、われわれ自身が勉強する場だろうと思う。量子力学を学んでいたとき、ほんとに分かった人に説明されて初めて少し分かった。ここは原子力への部会メンバーの認識をどういう言葉に代えて一般に説明するかを考える場になるとよい。
・ ここで議論したことを社会に降りて伝えていく場にすることは大切。
・ 原子力界は社会性が落ちているのだから、それを向上させるにはなぜここまで落ちた
かを考えることが必要。
・ 原子力は事故を起こさないと言い続けてよいのかという問題がある。ナトリウムは漏れるが、アメリカは10%までと規定し、日本では漏れないとして設計している、この違いを議論していくとおもしろい。
・ 他の部会と違って、全体を引っ張っていく役割があることを認識した方がよい。皆が広報になって、一般人ならどう考えたかを考えるとやり方が違ってくるはずだと思う。
・ 広報を10年やっているが、原子力は特殊分野、専門家集団に異質さ・違和感を感じて
いる。原子力だけが広報を持っている。原子力のリスクを受け容れてもらうために何をしていったらよいか、身近なリスクとの比較をすることがまず必要。
浜崎 原子力は必要と受け止められ、だから不安と思われるには必然性がある。
・ 広報部門に行ったらがっかりしたといわれた女性の感性はすばらしいと感じた。男性女性には技術屋と事務屋の違い以上のものがある。社会に降りるという偉い発想でなくなる必要がある。技術屋の作った法律で規制することで技術屋はそれでよいと思っている。不安の人を減らそうというのは不可能で、受け容れてもらえるかどうかが大事である。
・ 部会の意義に議論が集中しているが、座長レジュメの原子力のあり方に戻すと、長計のあり方、国の政策がほんとにこの様になっているか、国も社会とのあり方に悩んでいる情況がある。変化している社会自体の研究に向けていくことが大事で、原子力推進は旧態依然だ。
・ 原子力はなぜ社会との繋がりが少ないか、どんな繋がり、どんなメカニズムが必要か、将来起きる課題への対応をどうするか、を考える分かり易い議論が必要。
・ 日本の底流に巨大科学への不信と不安が根底にあるのでないか、ヨーロッパではどうかを教えてほしい。国会の場で議論されないので、国民的な議論にならない。それらの実状も教えてほしい。
・ 原子力屋でない人の顔が部会にあるので期待しているが、原子力屋の発言が多い。合意形成には技術のリスクを詳しく説明して選択を求めることで、人と社会との関係を作るのが本部会の役割でないか。
・ 開発側とサイレントマジョリティーとの考えが食い違っている。この部会でそれに向けて理由を明らかにするような活動をすることを期待する。
・ 原子力発電は社会に不安を与えているというが、むしろよく理解されていると言える。これ以上進めることに人々はとまどいを感じているのでないか。技術者は自信を持って、謙虚にしゃべることが大事。率直な議論をして、誤った発言は放置することをしないで、正していくべきだ。技術者が社会的にどこまで信用されるかが大事という印象的な講演を聴いた。
・ 学会で倫理綱領の検討をしているが、その過程で学会ではパネル討論をする予定である。ここでの議論と関係が深いので、出ている意見は反映したいと思っている。
・ 一般の人の認識とのずれの発言が多かったが、政策がすぐに変わること、結果をすぐに公表しないことが問題で、人々に関心がある今がコミュニケーションのチャンスでないかと思う。
・ 社会科学者を入れるのが困難なので、頼る前にわれわれが社会に入っていって話をすることが必要と感じている。原子力が原罪であるという人たちにどうコミュニケーションをとっていけばよいか悩んでいる。
・ 部会のアカデミックな貢献ということがあり、学会のパネルでは原子力学の議論があった。原子力と社会の係わりの理解は難しい。社会との関わりが強いということの形態が他と違うのであろう。他の分野との比較ではっきりさせることが必要。
・ 原子力が欠けていたことを総合的に採り上げたことがこれまでなかったのでないか。本会の進め方に関してスキームを作る必要がある。それを議論する場としていただきたい。
・ 米国ECCSの問題、薬害問題、環境と安全は国家環境政策法になった。社会がどう変わって来たかを歴史に学ぶ必要がある。
浜崎 多様な意見が出たが、より有意義なものにするよう次回につないでいただきたい。
第2回予定 (幹事より)座長は学習院大 田中靖政教授
幹事は三菱重工
テーマ:なぜ原子力はかくまで国民に受け入れられないのかーー原子力研究開発及び利用の側からの考察」
日時:12月8日(水)15:00−17:30
場所:三菱重工丸の内本社会議室
(記録:第1回幹事 傍島、大山)
注:発言者名は発言内容の本人確認ができないため、座長ほか特定の人以外は示さず。