竹内部会長の挨拶骨子(案)   於JNC  01.11.30 

部会竹長の竹内でございます。こんにちは。

 このセミナーが計画されていた当初は、昨日からのフル参加の予定でしたが、つい1−2月前から、急にアジアの原子力の研究開発、利用に関わる大臣級の会議で、昨日はその一部の司会役をやれと言われて、やむなく終幕直前のただ今参ったような次第で大変申し訳なくおもいます。まず色々話す前に、お礼を忘れないように先にさせていただきます。
 昨日、本日と第一回「冬のセミナー」に多くの方々がご出席、諸企画を盛り上げて頂き、厚く御礼申し上げます。また、会場の提供、便宜を頂いたサイクル機構に厚く御礼申しあげます。また、先ほど展示も見せていただきましたが、海外も含めた多くの機関からご協力いたきだき、展示にも工夫され整理されているなと、ただ今感心していた所です。

 さて私どもの部会「再処理・リサイクル部会」も3月に設立が承認され、6月4日の設立総会以来、約半年になりますが、7月にはワークショップ、9月には「海外との情報交換の準備会合」、更に札幌での秋の大会、10月末には東工大祭への参加、11月1日には米国原子力学会との情報交換覚書の締結、このフォーラムの開催など誕生直後ながらきわめて、精力的に諸行事の企画運営にあたって頂いた事に、関係された皆さん方に深甚な敬意を表します。

報告と感想

 
こんな機会に皆様にお目見えできましたので、情勢報告やら感想など一言ご挨拶させていただきます。これからは全くの私の私見であり、放言になるかもしれません。今、日本の原子力開発は曲がり角にきております。研究開発に関わる、行政、機関、当事者夫々がここで脱線して、本来の基本路線を見失わぬようにしなければならないというのが今日の話の要点です。

世界情勢、21世紀には何が起こるか? 

 今、21世紀にはこんな事すら起こるのかという新しい課題、同時テロという新たな脅威に世界中が忙殺されている。アフガンの荒野の戦況と炭ソ菌の恐怖など、春には夢想だにしなかった事に世界中の関心が集まっておりますが、いまの準戦時的な擾乱がいずれ早く収まって欲しいと願っています。かって、政治宗教の紛争は、過去に何度か中近東の嵐を呼び、オイルショックとして原油の価格高騰を起こしました。小資源の日本への影響は殊更に大きく、その都度辛酸をなめて、資源自立、セキュリチーは重要だと痛感させられました。
 この間、相対的に報道が小さくなったが、地球温暖化会議COP7がモロッコで行われ、米国抜きで且つ発展途上国の参加予定も見えぬま、先進国同志でのま京都議定書骨格の批准の道筋が確かなものになりました。いよいよCO2削減対策が現実の喫緊の問題になって来ます。原子力先進国、特に日本などは原子力がこれに最も有効との主張を続けても、世界全体の多数決的な合意の場では通じず、CDMなども先の議論に残されております。

 日本は既に原子力で発電の1/3、その使用済み燃料を全量処理する路線を取っており、ここ東海村がこの先駆的開発と実用化の誕生の地であり、今では日本原燃の六ヶ所村で実用規模の再処理工場の建設は進み、予備的な試験が始まっており、更にその先のMOX工場の計画についても、地元に対して立地協力を申し込む段階にまで至っております。
 原子力推進国の中でも「再処理・リサイクル路線」までとっているわが国は、世界的に稀有の少数派です。この道は小資源、技術立国、それに徹底平和利用の3つの柱があればこそ、世界も信じて容認される、逆に言葉を返せば国内外への透明性を示す発信がこれからも大切であるかという事になります。

 アメリカでこの5月に米国ブッシュ大統領が発表した国家エネルギーの新政策は極めて画期的であり、わが国にとっても大歓迎すべきものと捉えて、直ちに原子力委員会メッセージをだしました。
 一には「高い固有の安全性を有する先進的な炉型」や二には「核拡散しにくい平和利用を目指した先進的な核燃料サイクルと次世代技術の開発」は、皆さんも取り組んでいるわが国の路線と方向を一にします。驚きは、スリーマイル以来、アメリカで萎え続けていたか、暫く眠っていた原子力への復活宣言は目を疑う程でしたが、ニュールネッサンスであります。
 先日、先ほど紹介しましたアメリカ原子力学会の覚書締結に見えたベネデイクト博士に特別講演をお願いしましたが、開発の当事者だけにこれを裏つける開発テーマには意欲的なものが多くありました。今の米国の混乱状況で、DOEとの実施面での進捗を是非ともウオッチしたい。なにはともあれ、分離Puの蓄積には以前同様、極端に警戒していますが、リサイクル路線を拡大・進展する方向への米国の姿勢表明はわが国原子力界でも心強い限りです。

 今日は、原子力の開発・利用も半世紀をこえ、この中で1つの変喚期にさしかかっている。曲がり角、変極点、あるいは折り返し点といったほうがいいかも知れません。国内外にこれを作っている背景について、4点述べます。

原子力開発 国か民間化か?

 
日本以外の世界の原子力先進国では、開発の初期は第二次世界大戦であり、続いて米ソ対立に象徴される、対立の構図の中で原子力は軍事優先で潤沢な国家予算をつかって始められました。平和利用はAtom for Peaceからでも40年。平和利用としての原子力産業が徐々に広がった当初の暫くは、エネルギー政策も防衛(軍事)も、国是・国策としての一体感がありましたが、今はこの状況ががらりと変わっています。極度の国際緊張はデタントが進んで、昔の米ソ、大国同志の緊張時代には信じられない話ですが、今では核解体ですら、各国の得意の技術を使ってトータルの処理負担を小さくしようという相談ができる程、協力姿勢の中に功利性、効率性が入って来た。世界が変わり、民間、一般産業の感覚で原子力も扱われ、機密保持よりは国際分業、ワークシェア、低コストの考えが入って来た。
 原子力利用の先進的な国では、軍事優先が開放されと特殊産業ではなくなり、産業の民営化(すべてではない)がすすめられるにつれ、国際競争、産業創生、コスト意識という風潮が強まり、技術開発への巨額投資にも採算評価の目が入ってきて、要領よく安く開発できぬかという視点が益々強くなるのは必至です。
 こういう時代変遷の下、フランスは早くも今年、官民団結といっていいAREVA社を立ち上げ、この傘下に、炉メーカー、リサイクル産業、廃棄物処理、等を全て一元化し、コングロマリット化し、自国の原子力のみならず、世界に向け総合産業として打って出る体制を作ったのは時宜を得ているように思う。

 日本では「聖域なき構造改革」という現 小泉内閣のキャッチフレーズの下、改造路線、予算の見直し、特殊法人改革、など一連の厳しい改革が進められている。国家財政建て直しはいずれ手をつけねばならず、荒療治もある面致し方ないと思います。もう一方、現政権は政治方針の旗頭として科学技術立国を目指しており内閣府に総合科学技術会議が設けられて、科学技術関連の予算評価もこの会議での議論が加味されるようになりました。

 原子力予算は国のエネルギー・セキュリチーのため毎年の予算規模が数千億円と飛びぬけて超大型ながら、永年認められてきましたが、これからは「聖域」ではない。原子力は多技にわたる基盤技術開発とプロジェクト実証の運用経費までが絡んだ巨大な括りになっているため特に目立ち、再々議論の俎上に載りました。来年度、一般会計―15%になったが、今の財政状況からこの傾向が続く事は必至で、長期的な工夫がいる。開発テーマの戦略的絞込みが必要です。

国際交流、国益維持、日本のイニシャチブ

 最近打ち出された米国でのGENE4、IAEA、フランスでの高温ガス炉など未来志向型革新炉の開発に関する呼び声が最近世界中から上がっていること自体は原子力屋としてまことに喜ばしいが、これに参加協力する際にはわが国の立場を充分考えておく必要がある。これらは核拡散抵抗性と本質安全も含め、中小型容量という点で共通しており、開発成果品を今後導入予定が期待される国々(主にアジア)へ売り込んで自国の原子力産業の再活性化を狙ったものと見たほうがいい。原子力産業の状況が極めて深刻なわが国はどうすべきか、何を狙って行くかという国内議論と構えが先に必要である。

 研究開発の国際的ワークシェア、共同開発で費用負担を少なく事がこれから流行ると思うが、ノウハウ、工業所有権の扱いには充分検討が必要である。良いアイデア、優秀な人の参加要請という形もあるであろう。単にお呼びがかかる参加は金だけ呉れと解釈した方がいい。日本はどういう方法、目的で産業、活性化を図るか?戦略と絞込みが要る。
 フランスは高速炉の技術成果を一旦封印していながら、「もんじゅ」には興味ありと表明していますが(米国もしかり)、わが国に技術温存ないしは改良の期待があるからである。ならば「もんじゅ」で高速炉技術はわが国がトップランナーとして世界に貢献して国際分担を果たすが、このような貢献で別の炉型での技術交換(スワップ)する権利を保有するというような、考え方が国益保持の面で肝要である。これからは各国はトップランナーとして得意、特技、イニシャチブを取れる項目がないと交流の相手にされないだろう。

 再処理リサイクル部門は、商業化ないしは交流のある仏・英・日はもともと少数派系列であり、世界のシェア確保や競争よりも協調・支援路線を最初からとって(Cogeama,やBNFLの原燃の支援が実例)、再処理リサイクルの意義,効用のアッピールを優先している。目下ワンスルー路線をとっている国も、将来、廃棄物量の負荷低減もいずれ問題視され、先の米国の新政策でも検討が始まっている。テロもあり核不拡散に対する政治的配慮も入って来よう。
 しかし直近には各国は、その国の過去の実績、1/4世紀溜め続けた使用済み燃料の最終的、処分、処理という問題、過去負担を背負っており、これから開発する革新技術はこれも視野にいれたトータルの評価が必要である。これには長寿命核種の転換・消滅のような分野にも目を配るべきです。その点でわが国は全面的なMOX路線を標榜し実行中なので、使用済みMOX燃料の再処理は焦眉の急のテーマである。

電力自由化と原子力

 一方、原子力利用のエネルギー分野での太宗である電力業界では、自由化拡大を目指した制度議論が再び開始されている。地球温暖化議論、エネルギー保証の中での原子力の必要性といった超長期的視野の総論では意見の不一致はなくても、市場競争から来る電力経営者の至近の経営責任となると、次元も全く違って当たり前である。いま議論が始まったばかりで、この中で原子力は大きな論点になる事必至だが、原子力の座り方はいまいち先がまだ見えてない。
 こういう段階で、革新炉が開発された暁の筆頭需要家はやはり電力だという、今まで通りの形を取りつけるには時期が悪いと思う。なぜなら今ある実名地点での採用炉型は、ここ10年くらいは従来型(ないしは若干の改良型)で済むし、地元情勢から新型を切り出すような、よそ見する余裕はない。
 したがって、当面、革新炉の開発の方向性はより汎用性を広げ、容量は中小まで含め、構造・製造技法はモジュラー、用途・用向きも内外、発電に限らず水素製造、淡水化も含め、都市近郊立地などと幅広く検討し、この成果がわが国電力にも将来魅力があればお客になって貰う、いわば一般の商品開発の姿勢で進めたらどうかと思う。

原子力のロングレース、世代交番と意欲、魅力の維持

 原子力開発・利用は世紀世紀をまたぐロングラン・ロードレースである。往路は主に発電利用をゼッケンにつけて、40年前タート、先達は汗と苦しい息をひたすら走ってきた。21世紀、いまは折り返し点に差し掛かっている、帰路の選手、ゼッケンも再処理・リサイクルも付けたされた。選手も世代交番した若手へと代わり,繋がれるバトンと意識の伝承が必要になっている。長いレースで、リサイクルの効用、すなわちゴールの意義が充分理解されぬままに、最近数年間に起こった事故、不祥事の結果が、熱い声援をしていた応援団の中に冷ややかな声も混じるようになった。この際、このレースの意義で、リサイクルの効用をもう一度はっきりと示し、声援を求めねばならない。
 原子力の過去の実績があって、電力供給が安定し、今日の生活も文化も築かれたという説明だけではついて来ない。人間はいつも、手に入れたゲインは別枠の既成枠として忘却するから進歩してきた。しかし、環境、資源問題はこのレースの間にも、緩和して楽観論を許すどころか厳しさがより現実的になるばかりである。温暖化議定書批准は実効性あるCO2低減を迫ってくる。アジア人口爆発、多消費は化石燃料の有限性の危惧を否定していない。小資源国日本で未来への確かな一つの道、これがリサイクル路線である。
 今は折り返し点にさしかかっている。とかく冷ややかな観客のネガチブな風潮に迎合していた方が、批判の逆風に逆らうより楽だといった姿勢をとって来なかったか? リサイクルのゴールへの道は、始まったばかりの長い道だ、応援団、道沿いの観客と喜怒哀楽を同じにし(同じPerceptionで)語らねば、発電以上に理解しにくいので、クドイほど語らねば、相手に意図は伝わらぬ。漂いかけている、不要論、Nimby感覚、不安感を一掃する努力をしなければならない。再処理リサイクル部会会員の皆さんの仕事場はこれからであり、バトンは渡されたばかりだ、強く握り締めてゴールへ走り続けて欲しい。

以 上 

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