「再処理開発と大学研究(開発における大学の役割と課題)」 山名 元 

京都大学原子炉実験所 バックエンド工学研究部門助教授

 1991年から2000年までの10年間に,原子力学会の春の年会および秋の大会において発表されてきた研究のうち,再処理関係(再処理,アクチノイド化学,群分離等)の発表を振り返ると,全体で約1100件弱の発表のうち大学からの発表は238件にのぼり,約20%の寄与をしていることが分かる。

 大学での研究においては,内容的には PUREX再処理関係のものが少なくなっている反面,群分離・新抽出剤などの分離化学やアクチノイド化学などで,寄与するところが大きく,さらには,乾式化学や新しい湿式再処理の研究などについても着実に成果をあげてきたということができる。

 総じて,大学での再処理研究は,基礎的な面や新しい取組という面で再処理研究開発に大きく寄与してきたものと言える。

 大学の研究者には,本来の学問領域(科学・工学)での専門性(横軸)への帰属があり,これらの専門性を原子力の種々のプロジェクト(縦軸)にも反映させてゆかねばならない。即ち、大学の研究者の立場は、横軸と縦軸からなるマトリックス構造にあると言って良い。大学研究者は,これらの横軸側の学際的な専門性に根ざした上で基礎科学あるいは基礎工学的な研究に取り組むという基本姿勢を維持しながら,再処理研究開発,廃棄物・処分研究開発,核燃料研究開発等の縦軸側(工学開発やプロジェクト開発)に対して専門性を生かし,寄与してゆくことが求められる。

 従って,大学の立場は基本的に分野開拓的,あるいは萌芽的な寄与であり,この事は大学の実験施設が小規模なRI利用や核燃料物質利用による特殊な条件での基礎実験に向いているという条件と整合する。大学研究は基礎データや理論的な支援,及びプロジェクト(縦軸)側への新しい「芽」の提案などにおいて貢献してゆけるものであり,それが役割であると言える。ここ10年の大学からの238件の研究発表が再処理研究開発全体を刺激し続けてきたという事は,その立場と役割を示しているものと考えられる。

 また,研究活動そのものに加えて,大学研究には,学生の教育などの人材育成という重要な役割がある上,プロジェクト側や社会に対してオピニオンを発信してゆくという大事な役割も存在していることを忘れてはならない。

 以上のように,国立大学を中心としての大学での研究開発には大切な役割が存在し,またそれに対する期待も大きいが,研究施設の老朽化,研究資金の制限,独立法人化のような組織的問題,文部科学省傘下での原子力研究の中での不明確な位置づけ等の課題も多く存在するため,大学への過度の期待が難しいということも否めない。

 今後,大学の研究者は,それぞれの専門性の特徴を生かしながらマトリックス構造の中で再処理研究開発に貢献するとともに,科学技術を伸ばすことにも貢献してゆかねばならない。再処理・リサイクル部会の発足が,原子力学会の中で縦軸側で区分されがちだった活動に対してより横断的な動きを進めてゆくためのきっかけとなることを期待する。

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