「電中研での研究活動と海外の状況」 小山 正史 

電中研主任研究員

 米国原子力学会会長のJames A. Lakeは学会誌5月号に掲載された講演『第4世代の原子力発電』において、今後原子力が超えるべき課題として、「経済的競争力」「安全性についての公衆の信頼」「廃棄物の管理と処分」「核拡散抵抗性」「人材育成と国際協力」の5つを上げており、これを解決しなければ原子力に明るい未来は無いと断言している。ところが、この議論は10年あまり前に当所が金属燃料・乾式リサイクルの研究に着手した理由とまさに一致しており、経済性と安全性、核拡散抵抗性に優れると期待される同サイクルが時代にさらに適合してきたものと言えるだろう。これは、欧米の最近の動きにも端的に現れている。ヨーロッパ委員会は5th Frameworkと呼ばれる2000年度からの5ヵ年のEU研究開発プログラムに、新たに「Pyrometallurgical processing research program」をもりこみ、TUI(EC)、CEA(仏)、BNFLとAEAT(英)、ENEA(英)、CIEMAT(スペイン)、NRI(チェコ)の6機関に資金配分して、欧州における乾式リサイクル技術の研究を立ち上げている。これと呼応してOECD/NEAはPyrochemistry Working Groupを立ち上げ、上記欧州の研究機関に加えて、米国(ANL/DOE)、韓国(KAERI)、日本(原研、JNC、電中研)、ロシア(RIAR:オブザーバー)が情報交換に参加している。特に米国が(クリントン時代から)積極的に参加し、EBR-II燃料処理のみならずATWSプログラムに金属燃料の乾式プロセス研究を拡大して国際協力を図っていることは興味深い。

 この欧州のプログラム中で最大のものは、TUIが電中研との共同研究で実施している乾式プロセスの実証試験である。これは高純度Ar雰囲気ホットセルを開発・設置して溶融塩電解、還元抽出、蒸留などの乾式プロセスによって実燃料や実高レベル廃液からのアクチニドの回収を実証するもので、現在設備が完成し、まず非照射金属燃料の電解精製に着手したところである。

 このような海外機関との共同研究で実感させられるのは、実験が実装置開発に直結していることで、実験者と設計者との緊密な協力によって欧米は原子力技術を(コピーでなく)ゼロから開発してきたという事実である。翻って、電中研では乾式技術開発に関し実験をベースにして中小規模の装置設計までを自らの手で実施していることが特徴である。具体的には、非放射性物質を用いた多くの実験(多くの失敗経験も含む)をベースに、放射性物質を用いた試験を実施して実証データを取得するとともに、装置のスケールアップを図ってきている。このように実験を基盤とした電中研は、現在FBRサイクル実用化戦略調査研究との強い連携のもと、次のようなテーマを設定して研究開発を展開している。即ち、A.プロセス技術開発:(1)実燃料・実廃液によるプロセス要素の実証、(2)Puを用いたプロセスの通し試験、(3)プロセス設計、プロセス技術開発。B.要素技術・工学技術開発:(1)電解精製技術の開発、(2)還酸化物元・塩素化技術の開発、(3)使用済処理技術の開発、(4)燃料製造技術の開発、である。これらの研究を原研やサイクル機構等の諸機関のご協力を仰ぎつつ実施することにより、プロセスの実証と実規模プロセスの概念設計を進め、実規模でのプロセス装置とプロセス概念を提案することにより、わが国の再処理・リサイクル開発に寄与したいと考えている。

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